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067 VS姫咲高校 その5 ターニングポイント

 ピーッ!

 

 笛の音が響く。姫咲側からのタイムアウトだ。

 

 春高出場をかけた県最終予選は現在第2セットの真っ最中。スコアは22-20で俺達がほんの少しだけリードしている。

 ……油断したらあっという間に消し飛びはするけどな。

 

「ここが勝負どころだ。あと3点。取りに行くぞ!」

「「「はい!」」」


 佐伯監督が檄を飛ばす。

 

「優莉。最終的な判断はお前に任せるが、フローターよりスパイクサーブの方が多分決まるぞ」


 上杉コーチが自らつけていたスコアボードとにらめっこしながら俺に助言をくれた。


 ……やっぱりそうか。

 

 俺の新サーブは割とあっさり攻略された。陽菜のフローターサーブも姫咲相手だと1本もサービスエースを取れていない。相手はぶれ球にめっぽう強い。

 

 ……まあ、だったら強打には弱いのか、と言われればそんなことはなく、弱点がなさ過ぎて泣ける。一番有効なのは俺のスパイクなんだろうが、現在は俺のサーブのターン。しばらく俺が後衛になってしまうことを考えれば俺のサーブであと3点決めたいところだ。

 

「陽菜、未来。無理に後衛だからとセッターに入る必要はない。お互いに声を出し合って臨機応変にセッターは入れ替われ。

 玲子、歌織。すこしブロックが雑になってきてるぞ。左右に動いてもブロックは上に飛べ。斜めに飛ばなくていい様にあと1歩を惜しむな。明日香、さっきからスパイクの調子がいいぞ!ストレートとインナー、使い分けていけ!」

 

 先ほどの言葉通り、ここが勝負どころと見ているのだろう。タイムアウトは30秒しかないが、その間に言えることは全て言わんとばかりにあれこれ助言を続ける佐伯監督。

 

 確かにここのセットを取れるかどうかはでかい。今更ではあるがバレーボールはセット毎に双方の得点がリセットされる。極端な話、0-25で負けようが、23-25で負けようが同じ負けなのである。

 

 だが、精神的ダメージは全然違う。大差でセットを落とせば力の差を感じ、悔しいと思っても惜しいとは思わないだろう。しかし5-0と最大5点リードから始まったこのセットをここからひっくり返されたらショックはでかい。さらにセットカウントは0-2になってしまう。崖っぷちもいいところである。

 

 なんとしてもこのセットを獲り、セットカウントを1-1に持ち込みたいところだ。

 

 

 

=====

 視点変更 同時刻

  姫咲高校 女子バレーボール部 主将

  西村 沙織 視点

=====


「タイムアウト明けの5分がこの試合の勝敗を決めると言っても過言ではありません」


 5分……


 バレーボールはサーブからどちらかが得点するまで、ほとんどの場合で1分もかからない。私達がこのセットを奪うのに必要な点は5点。私達がこのセットを落とすまで後3点。崖っぷちだ。

 

 第2セットは相手の奇襲もあり、最初に5点のリードを奪われてしまった。

 

 そこからなんとか20-20で同点に追いついたけど、21点目は相手エースの強烈なスパイクで失い、続いて22点目は相手エースのあのえげつないスパイクサーブで失った。

 

 ここでタイムアウトを取ったのは監督としては立花妹(6番)の集中力を切らせたかったのだろう。願わくばここで集中力を失ってほしい。

 

立花妹(6番)だけではありません。特に村井(3番)都平(7番)も全国上位クラスのスパイカーです。彼女達も今のローテで前衛。特に都平(7番)は左利きです。

 忘れていないと思いますが、ブロックは相手の体ではなく、相手の利き腕の正面で飛ぶように。それと誰がとはあえて言いませんが、都平(7番)がスパイクを左右に打ち分けられているからと言ってバンザイブロックはしてはいけませんよ。そんなことをすればスパイクが腕の間を抜けますから」

 

 

 ぎくりとした。

 

 高さと威力から松女(相手)スパイカーではおそらく3番手になる都平(7番)だけど、普通の高校ならエースを張れるくらいのスパイカーだ。なによりスパイカーとしての技量は一番高い。

 

 特に第2セットに入ってからはスパイクを打つ際の助走が変わった。

 

 都平(7番)のようなレフトポジションはスパイクを打つ際にネットに対し多少なりとも斜めに入ってくるものだけど、彼女はネットに対し鋭角も鋭角、ほぼネットと平行に助走に入ってくるようになった。

 

 そこから左利きという利点を活かし、ブロックの内側を通り、ネットギリギリのインナースパイクを叩き込んでくる。あのボールの軌道は右利きには絶対に無理。

 かといってネット方向に手厚くブロックをしようとすると、今度はこれまたサイドラインに沿うようなキレキレのストレートスパイクを打ってくる。

 

 左利きという特徴に加え、肩がとても柔らかいのだろう。

 

 左右に打ち分けるインナースパイクとストレートスパイクを警戒するあまり、確かにブロックをする際の腕が左右に開いているような気がする。

 

 松女(相手)スパイカー陣はびっくりするくらいブロックを恐れない。正面からブロックを破壊してやるとばかりに打ち込んでくる。ここは――

 

 

「それと、そろそろ相手もスパイクにフェイントを混ぜ込んでくる可能性があります。気を付けてください」

 

 

 ………

 

 

======

 試合再開は相手からのサーブ。お決まりのルーティンから強烈なサーブが飛んできた。

 

朱里あかり!」

 

 サーブが飛んで行った先にいるチームメイトの名前を呼ぶ!

 

 なんとかレシーブは出来たが、あの軌道ではそのまま相手コートにボールが返ってしまう。

 

「チャンボ!(※チャンスボールの略)」

 

 相手コートからそんな声が聞こえるが、そんなことはさせない!

 

 走って、飛んで片手でトス!所謂ワンハンドトス。精密にトスが出来るわけじゃないけど高さならこっちの方がでる。

 

 

 何とか届いたトスをチームメイトがスパイクしてくれるが、コースが悪かった。

 

 相手リベロに拾われて――

 

「セイッ!」


 気合の言葉と共に都平(7番)が渾身のスパイクを打ちこんできた。スパイクはブロックで飛んだ私の手に当たった。ボールが当たった指が痛い。

 

 松女のスパイカーはブロックなどお構いなしにフルスイングで打ち込んでくることが多い。

 

 ブロックが怖くないのだろうか?

 

 それにさっきのスパイク、都平(7番)は確実に私の頭上、腕の間を狙ってきていた。

 

 指1本1本まで力を入れてなければ……

 あるいはタイムアウト中に監督からの助言がなければ私のブロックをすり抜けていたかもしれない強烈なスパイク。

 

 が、それは仮定の話であって、実際にはブロックは成功し、相手コートにボールは返っている。

 

 ブロックフォローをしたのは松女が誇る小さなリベロ、有村さん。

 

 ……本当にいい動きをする。敵に回すと嫌な選手だ。

 

「陽菜!もう1回!」

「陽菜!今度はセンター!」

 

 有村さんのブロックフォローのレシーブはAパスでセッター位置へ。

 

 それに対し、レフト、センターからそれぞれボールを呼ぶスパイカー。

 

 トスをあげるのは……

 

 

!!

 

 

 ここでセッターを立花姉(4番)から前島(11番)にスイッチ!!

 

 前島(11番)がセッターをするということはライトからのスパイクはないということで、でも前島(11番)は前衛のローテだから――

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 !!!





 

 

 

 

 

 ツーアタック!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツーアタックを警戒し、すぐに下がれるように意識しつつトスを――

 

 

 

 !!

 

 

 

 

 

 村井(3番)がライトに走り込んでる!前島(11番)がセッターをやったことでライトが空いている!ブロード攻撃を仕掛けるつもりか!

 

 

 

 目まぐるしく状況を変えてくる松女の面々。

 

 

 そしてわかっている。こうして攪乱されてしまうと……

 

 

「ソイヤッ!」



 結局スパイクはレフトからだった。ブロックは2枚付いていたが、そのわずかな脇をついての極上のストレートスパイク。

 

 あの軌道は左利きじゃないと打てない。ラインすれすれのスパイク。

 

 いや、いくらキレキレのストレートでも単品なら止められた。でもこっちはツーアタックやブロード攻撃に意識を向けさせられていたので初動がほんの少しだけ遅れた。その遅れはブロックで飛ぶ位置に影響した。

 

 

 20-23

 


「よーし!後2点!いけるよ!」


「明日香ナイスキー!」

「ユキ、ナイスフォロー!」

「優莉、遠慮しないでサーブであと2点取っていいんだぞ!」



 相手コートから歓声が上がる。士気がぐんぐん上がる。


 まずい。

 

「落ち着いて。まだ追い付ける。単品なら決して止められない攻撃じゃない」


 私に言われなくてもわかっていると思うけど、まだあきらめる状況じゃない。

 

 

 是が非でも1本で切りたかった立花妹(6番)のサーブはこれでこのローテ3本目。

 

 ここはなんとしてでも――

 

 

 

 

 

 飛んできたのはそんな甘い想像を粉々に吹き飛ばす雷のようなサーブ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なんなのよ。今のは……

 

 

 

 

 

 チームメイトも見送るしかなかった。それくらいの衝撃があった。

 大輝君の……

 男子のサーブどころかスパイクよりも強烈。

 


 

 

 人間である以上、毎回同じようにサーブを打つことは出来ても、全く同じというわけではない。

 

 多少の良し悪しはあるもの。

 

 

 多分、今飛んできたのは相手にとっては『良し』のサーブ。

 

 

 ……あれが彼女が打てる最高のサーブなの?あんなのどうすれば……

 

 

 20-24

 

 

「落ち着いて。今までもセットポイントを先に取られたことだってあった。でもそこから勝ったこともある。この1本、集中して!」


 あの超絶サーブにこっちの士気は瓦解寸前。でもまだ。まだ終わらない。

 

 

 

 松女の小さなエースが四たび、お決まりのルーティンに入る。4本目のサーブは……

 

 

 

 くっ……

 

 

 ここに来てフローターサーブ!

 

 こっちはさっきのサーブで脚が重くなっていた。

 

 私がファーストタッチをしてしまう。こうなるとトスは代わりにあげてもらうしかない。

 

 

「辺見先輩!」


 1年の正美が代わりにトスをあげてくれた。

 

 そしてスパイク!いいコース!



 相手リベロの有村さんはその体躯の小ささからか、守備範囲は決して広くない。

 

 ブロックをすり抜けたスパイクは有村さんも誰もいない――

 

 

 ぱすっ……

 

 

 軽い音を立てて、ボールはきれいに上に上がった。ちょっとずれていてもあれはAパスと言ってもいいレベル。



 上げたのは立花妹(6番)

 

 

 さっきまで無人の場所でレシーブしていることには驚かない。彼女は出鱈目な移動力を誇っている。

 

 でも、あんな綺麗にレシーブできるなんて……

 

 

 あぁでもそうか。彼女は素人といってももう競技歴7ヶ月。色々なことは出来るようになり始めているのか……

 

 

 立花妹(6番)が上げたボールをトスするのは立花姉(4番)

 

 

「陽菜!」

「センター!」

「アタシによこせ!このセット決める!」



 レフト、センター、ライトからトスを呼ぶ3人のスパイカー。

 

 くっ……

 

 

 スパイカーは助走に入っている。

 

 A~Dクイックどれもありうる。

 

 

 誰だ?どのスパイカーを使う?

 

 調子を上げてきているエースポジションのレフト?長身のセンター?それとも……

 

 

「しゃあああああ!!!!」



 上がったボールはバックトスでライトへ。そのボールを前島(11番)に叩き込まれて20-25。

 

 

 第2セットを私達は落とした。勝負は振り出しどころか、相手の士気を考えるとそれよりももっと悪い何かに変わってしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 春高 県最終予選 女子決勝戦


 姫咲高校 VS 松原女子高校

  第2セット

    20-25

    

  セットカウント

     1-1

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― 新着の感想 ―
[気になる点] サブタイトル。 「ターン」と漢数字の「二」は、恐らく誤字だと思います。 ※サブタイトルは誤字報告機能が対応していないので、こちらに記します。
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