閑話 他所から見た松原女子高校バレーボール部 その2
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松原高校
とある1年生男子生徒 視点
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「左肩を下げるな!高さを意識しろ!」
中学の頃、俺達が練習する隣で、監督から怒鳴られながらつまらなそうにバレーをやらされているのが印象的だった。
やめようにも俺達の中学は部活動参加が必須でやめるにもやめられない。
そんなんじゃ長続きしないと思ってたところ、やっぱりというか定員割れが判明した直後に
「試合が出来ないんじゃあ、バレー部にいても意味がありません。私は背も高いですし、出場機会を求めてバスケ部に行きます」
なんてもっともらしい理由をつけてまでバレーを辞めた奴が高校に入ったらバレーをやっているという。
だから気になってしまったというか……
(応援に来てと言われたから来た。どこもおかしくないな)
適当な言い訳を考えつつ、午後にその体育館に着いた。
(なんだこりゃ?めっちゃめちゃ人がいるじゃん)
その試合会場となっている体育館は想像以上に人がいた。もちろん人がすれ違えない程混んでいるわけではないが、たかが一地方の県予選とは思えない程の黒山の人だかりだ。
アリーナの観客席に着くと、思わず吹き出してしまう。
どうやら午前の試合が終わり、昼休憩を挟んだ午後の試合が始まろうとしているところだが、観客はコートの半分側、女子の試合が行われる方だけが埋まっていた。
(鍋川の奴がそこら中に声をかけた、というわけじゃなさそうだな)
不思議に思っていると声をかけられた。
「おい。山口。おまえこんなところでなにやってんだ?」
クラスは違うが体育で顔くらい見たことがある。確か名前は――
「よう兎川。こんなところで会うとは奇遇だな。なにやってるかって?先週文化祭に来た中学の時の同級生に応援に来てくれって言われたから来たんだよ。そっちは?」
正確に言えば鍋川から直接言われたわけじゃなくて一緒いた子に言われたからなんだが、まあ細かな違いだ。
「俺もだよ。……ちなみに勝ったからよかったが、松女の連中が午前中に負けてたらお前完全に無駄足だったからな」
「うげ……その可能性は考えてなかった。……ん?お前は午前中からいたのか?」
「はぁ……俺の同級生はお前んところほど寛大でなくてな。朝から来いって言われて、まあ来たわけだ」
「尻に敷かれてるのか?そのレベルで無茶言ってくる仲ってひょっとして彼女?」
「それはない。面だけならまあいいほうだが、性格が漢前すぎる。俺は女の子らしい清楚な子が好きなんだ」
「逆に会ってみたいな。その子。どんな子なんだ?」
「そろそろ公式ウォームアップだからアリーナに――お!来た!お~い前島!都平!頑張れよ!」
兎川が声をかけたのはまあいいほうどころではない可愛い子だった。――松女のバレー部全員レベル高くね?相手チームと比べると顔面偏差値の高さが浮き彫りになる。そしてその可愛い子が2人律儀に答えてくれた。
「おう。これも勝つから応援よろしくな」
「兎川君、午後も応援ありがとう~」
随分仲がよさそうだ。うらやましい。あれか?2人と同時に付き合っているのか?リア充なのか?
と、当然だがあいつもいた。
「鍋川!頑張れよ~」
すると奴は手をあげてこっちに応えてくれた。
応えてくれたんだよな?
試合前の公式ウォームアップが始まる。なんとなく俺は流れで兎川と一緒に応援することになった。
「でさ、松女の連中って強いの?」
「強い弱いの前に山口はバレーのルール知ってるのか?」
「――中学3年間はバレー部だったからルールはわかるつもりだ」
「じゃ、小学生の時だけバレーやってた俺より詳しそうだな。……そうだな見てればわかると思うが、松原女子高のバレー部はRPGに例えると『ステータスを攻撃力に極振りして防御力はおざなり』って感じだな」
「なんだそりゃ?」
「ウォームアップのスパイク練習を見てればわかるさ」
ほどなくして――
「……おい。兎川。さっきのはなんだ?あの外国人はなんでワイヤーアクションなんてやってんだ?」
「山口。それ現実だから。ワイヤーなし。素のジャンプ力」
「ねーよ」
目の前で松原女子の外国人が目算で150cmくらいは飛んだ。
ありえん
重力は仕事しろよ。ここはいつから月面になったんだよ。
んでスパイク。
これもねーよ。
「なんなんだよ。あの外国人。バケモンじゃねえか」
「ちなみにあの外国人は競技歴半年未満にもかかわらず身体能力だけでバレーボールの女子日本代表に呼ばれたらしいぞ。この会場にやたらと人がいるのも、TV局が取材に来てるのも、み~んなあの外国人が理由らしい。先週の文化祭でも俺達バスケ部と3ON3やったんだが、その時にあの身長でダンクをしやがった」
すごいな。漫画とかだと県外の有力チームが偵察に来る、なんてシーンはお決まりだけど実際にそれをさせる奴が身近にいるなんて思わなかった。
というかあの身長でダンクかよ。高さが絶対的なアドバンテージになるバレーではとても有利になるジャンプ力だ。
「こりゃ松女の圧勝で終わるんじゃねえの?」
「試合を見ればわかると思うが、そうはならない」
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試合が始まると兎川の言ったことがすぐに分かった。
松原女子高校が終始優勢ではあるが、相手も得点している。
何で相手に得点を許しているのか、それは下手だからなのか、と言われるとそうではなく……
「単純に練習不足や」
俺が言いたかったことを後ろに座っている声のデカい関西弁のおっさんが代弁してくれた。
そうなんだよ。
縦横無尽に暴れまわっているちっちゃい外国人は別としても、鍋川は中学時代に女子の中ではトップクラスに運動神経が良く、体育の授業でも種目問わず活躍出来ていた。他のチームメイトも運動が出来ないようには見えない。そんな奴らがバレーの守備だけ出来ないなんてありえない。
ちなみにうしろのおっさんは一緒にいるおっさんとなおも話を続けていた。
「そらぁ、スパイクはかっこえぇ。特にクイックやコンビネーション攻撃がビシッと決まれば嬉しいやろうなぁ。けどな、楽しいを求めて基礎を疎かにしてええ理由にはならへん」
「試合の様子を見る限り、レシーブの練習をしていないわけではないようですが、優先度は低いようですね。おそらく基礎体力作りとサーブを最優先で練習し、続いてスパイク。レシーブはその次でしょう」
「体が出来てない1年が筋トレを優先するのはええ。サーブはバレーの基本やし、半分素人集団が実技の中では最優先するのも納得できる。せやけど――」
後ろのおっさん達はお互いを監督と呼び合っているからどこかのバレーチームの監督なのだろう。話半分に聞く限り、わざわざ偵察に来ているようだ。
ここでも漫画の世界だ。わざわざ他県から偵察が来るなんてすご――っ!!
コートでは丁度相手からのスパイクを松女がブロックしたものの、そのままボールは明後日の方向に高く飛んでいった。
普通なら誰も追いつけない、そのまま壁にあたって失点となるはずのボールだが、なんと松女の外国人はそれに猛然と走って近づき、ボールが壁にぶつかる前に自身が壁に対し三角飛びで跳躍。
そのまま空中でボールをレシーブし、コートへ押し返した。
いや、ねーよ。さっき、4m以上の高さにあったボールをレシーブしたよな?いったいお前本当に人類かよ?
その様はまさにニンジャ。
忍者ではない。
アメコミに出てくるような外国人が想像して勘違いされたジャパニーズ・ニンジャだ。
「うっは!!!今の見ましたか!大貫監督!凄いですな!!あの優莉ちゃん、やっぱり運動神経だけやのうて運動センスもありますわ」
「えぇ!あれは自分の体の動かし方を知っている者の動きですよ。あんな練習は普通しませんしね」
「いやあ。優莉ちゃんの試合は見ているだけでおもろいですな。まあ今のは……」
ピーッ!!
鋭い笛の音が響く。
「えー!!!なんで相手の得点になるの?私、ボールを相手コートに返したよ?」
「おい明日香。お前主将だろ?このニンジャにバレーのルールくらい教えとけよ」
「優ちゃん。他人とか壁とかを使ってボールを捕球してもアシステッド・ヒットっていう反則になるの」
「そらあ反則になりますわな。それでもあの圧倒的運動量。惚れてしまいますわ。……大貫監督が相手チームの監督やとしたら松女はどう攻めまっか?」
「そうですね。まずはなんと言ってもサーブを重視します。松女は――」
さっきの大ジャンプは反則になった。だが、あの物理法則を無視したかのような運動量。容姿だけでなくプレイ内容でも周りを魅了している。
改めてすごいな。
なるほど。中学3年間だけバレーをかじった俺でもわかる。魅せられるプレイ。たった1時間もない試合だったし、決して全方向に巧いわけではないのにすっかり魅了された。そりゃ日本代表に呼ばれるプレイヤーだわ。
その後、試合は松原女子高校が勝利し、春高の3次予選へ勝ち進んだ。
……次の試合は来週の土曜日に準決勝、日曜日に決勝か。
なんとなくだが、来週も応援に行こうと決めた。
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春高 県2次予選結果及び3次予選の対戦表
準決勝 第1試合
姫咲高校(Aブロック1位通過) VS 玉木商業高校(Dブロック1位通過)
準決勝 第2試合
陽紅高校(Bブロック1位通過) VS 松原女子高校(Cブロック1位通過)
決勝
準決勝 第1試合 勝利校 VS 準決勝 第2試合 勝利校




