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055 春の高校バレー 県2次予選

 松高の文化祭があったのが土曜日。その次の月曜日から日本各地に一足早い寒波が襲い掛かった。

 

 12月下旬並みの寒さ。

 

 女になって良かったと思うことなど殆どないが、数少ない良かったことの1つは寒い日の夜に陽菜(人間湯たんぽ)を遠慮なく使えることだろう。


 そんな11月の第2土曜日。この日は俺達にとって6月以来の公式戦となる春高の2次県予選が開かれる。

 

 今更だが春高の県予選について説明したいと思う。

 

 春の高校バレー、通称春高、正式名称:全日本バレーボール高等学校選手権大会は選抜大会である。

 

 県予選の仕組みは各都道府県に応じて多少異なるが、原則その年のインターハイ県予選で成績上位校が優遇される。

 

 それはうちの県でも同様だ。


 具体的にはインターハイ県予選でベスト8以上まで勝ち抜いた高校は1次予選が免除となり、2次予選から始まる。俺達が免除された春高の1次予選は8月の終わりから9月にかけて行われ、勝ち抜けは合計16校。続けて11月に行われる2次予選もインターハイ県予選の結果によって待遇が異なる。

 

 2次予選はA~Dブロックに分かれ、各ブロックは4校によるトーナメント戦で1位の高校のみ3次予選(最終予選)に進める。インターハイ県予選でベスト4以上まで勝ち抜いた高校はその3次予選まで互いに当たらぬよう各ブロックに1校割り振られる。

 

 具体的には以下のようになっている。

 

 Aブロック:姫咲高校   (インターハイ県予選1位)

 Bブロック:陽紅高校   (インターハイ県予選2位)

 Cブロック:松原女子高校 (インターハイ県予選3位)

 Dブロック:東豆涼高校  (インターハイ県予選4位)

 

 続いて玉木商業高校のようなインターハイ県予選でベスト8まで残った高校がくじでA~Dブロックに1校割り振られる。そして各ブロックのトーナメント表も贔屓の塊だ。

 

 まず松女(俺達)のようにベスト4以上に勝ち残った高校がトーナメントの右端、玉木商業高校の様なベスト8まで勝ち残った高校が左端に配置される。

 

 残りの真ん中2校分×4ブロック分の計8校分が1次予選通過高校に割り当てられる。


 

 わかるだろうか。

 

 

 順当に考えれば1次予選勝ち抜き組が2次予選を通過するには夏のインターハイ県予選でベスト4とベスト8まで勝ち残った2校に勝たなければならない。

 

 反対に俺達は初戦は1次予選勝ち抜け組、2戦目でベスト8まで勝ち残った高校と戦うことになる。

 


 

 

 ちなみにこの依怙贔屓は3次予選でも適用される。



 

 3次予選は各ブロックを勝ち抜いた1校×4ブロック分の4校のこれまたトーナメント戦なんだが、どこのブロックを勝ち抜いた高校同士が戦うかは決まっている。

 

 これまた順当にインターハイ県予選でベスト4以上に勝ち残った高校が勝ちあがったとしよう。

 

 すると

 

 第1試合は姫咲高校(県予選1位)VS東豆涼高校(県予選4位)

 

 第2試合は陽紅高校(県予選2位)VS松原女子高校(県予選3位)


 第3試合(決勝)は第1、第2の勝者同士

 

 となっている。

 

 清々しいまでにインターハイで全国に行ったチームが優遇されている。



 が、インターハイ県予選でいい成績を残した高校がそのまま春高でも通じるかというとそうではない。

 

 まず俺達のように3年生が引退し、戦力ダウンする高校があるだろう。反対に6月の時点では高校生というより中学生に近かった1年生が11月には高校生並みの体力を得て強くなる高校もあるだろう。そもそも勝負とは巡り合わせであり、ひょんなことから思わぬ高校が勝ち抜くかもしれない。



 とそんな春高の県2次予選だが、会場までの移動はこれまでと異なり上杉先生が学校から借りてくれたマイクロバスでの移動となった。もちろん、ボールだとかもバスでまとめて輸送だ。俺達は人数が少ないので必然的に1人当たりが持つ用具の量が増えていたが、もう電車やバスの中で大荷物をかかえて移動をしなくてよくなった。


 しかもそれだけでなく――


「先生!荷物くらい私達が持ちますよ!」

「上杉先生。教師に用具を持たせるなんてできませんよ」

「いいからこれくらいは持たせろ。教師と生徒って関係以前に男と女だ。お前らみたいな小娘に大荷物を持たせるほど年を取った覚えはない」


 上杉先生は用具のうち、特に重たいものを率先して会場まで運んでくれる。

 

 まあ文字通り小娘である俺達よりは体力に自信があるのだろう。30歳と若いとは言えないけどな!


 それにしても……

 

「なんだか人が多くない?」

「あ、私もそう思った」

「やっぱりそうなの?高校バレーの会場って初めてきたからこれくらいいるのかなって思ったけど、違うのね」


 夏のインターハイの県予選決勝並みかそれ以上の人がいるように思える。なんでだ?まあ春高は高校バレーの一大イベントだからそれなりに人が集まるのは納得できるが、言っちゃなんだが今日のこれは一地方の県予選なんだが……

 

「あ、すごい。徳治に、元修院。律楠第一までいる」


「明日香。それ何の呪文?」

 

「呪文じゃなくて女子バレーの強豪高校名」

「ユキ。いつの間に明日香みたいなバレーマニアになったの?」

「逆。マニアじゃなくて、ちょっとバレーをやったことがある人なら知っているレベルで有名な高校名だから知っている。でも全部他所の県の強豪校。なんでいるんだろう?」

「――多分私達の偵察だな」


 横から現れたのは顧問の佐伯先生。ちなみに今日は大会の申請手続きだとかで俺達より一足先に会場入りしていた。


「こっちに来る途中で、テレビ局から取材の申し入れがあったよ。なんでも今日の試合が終わったら時間を少し欲しいようだ。どうやらこぞって優莉のことを知りたいらしい」

 

 佐伯先生から話を聞くに、8月にちょろっと出た全日本合宿や野良ビーチバレーの件で思った以上に俺はバレー関係者の間で有名になっているそうだ。


「優莉が注目されるということはチームとしても注目されるということだ。戦い方も当然観察され、研究されるだろう。夏のインターハイ予選では我々は研究する側だったが、今回は研究される側になったということだ」

 

「……ということは今までとは違った戦い方をしないといけないんですね」


「いいや。そんなことはない。私もな、こうなることを予想はしてたんだ。で、対策を考えたんだが……

 正直、優莉のスパイクは対策をしようがしまいが意味がないんだ。誰もブロックできないし、レシーブも難しい。

 それよりも見られることで守備を乱すことの方が問題だ。いつも言っているが、練習もしてないことを本番でいきなりできるようになったりしない。落ち着いて私達のバレーをしよう」


 ふむ……

 

 要するに「松女は注目を集めているからたくさん見られるけど、気にしないでいつも通りのバレーをやろう」ってところなんだろう。

 

 さて、それじゃ平常心で戦いますか。

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