054 突撃!隣の文化祭 後編
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松原高校 文化祭中
第2体育館
バスケ部員 兎川 視点
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「じゃ、俺達が勝ったら俺以外のこっちの子にご飯を奢るってことで」
「ま、それくらいの罰ゲームは受け入れますよ」
真田部長と佐藤前々部長の勝手な話し合いの結果、3ON3で俺達が負けるとあっちの女子高生たちに一食奢ることになった。
罰ゲーム?むしろそれを口実に後日も会えることを考えればご褒美だ。いっそのことわざと負けてしまおうか?
「おい。兎川。舐めてると怪我するぞ!手加減せずにこいや!」
そうは言うがな、前島。悪いが男と女の間には残酷なまでに体力に差が出るんだ。お前だって知ってんだろ。だからこのゲームは勝負にならない。
3ON3は先に21点取った方が勝ち。
なんだが、今日は回転率を上げるためにも15点先に取った方が勝ちとしている。制限時間はこれまた短く10分。
先攻は相手に譲った。まあだからといってどうということはない。
試合開始と共に佐藤先輩がゴールに向かってボールを投げた。
が、どう見ても入らない。シュートではない。
ガンッ!!!!
……は????
パスでもないと思ったボールを空中で外国人ちゃんがキャッチ。そのままボールをゴールに叩き込んでいた。
「よ~し。まずは1点、じゃなかった2点か」
「お~い。後輩達。あんまし俺達に花持たせなくていいぞ?」
にやつく前島と佐藤先輩。
いやいや!今何が起きた?
あの外国人ちゃんは精々160cmないくらい。それがどうして305cmの高さにあるバスケのゴールにアリウープなんて出来るんだよ!
177cmの男の俺ですらジャンプしてゴールリングに触れることはできてもダンクは出来ない。リングよりもっと上の位置まで手が届かなかったらダンクは出来ない。
それがどうして筋力で劣る女の、しかも背丈だって20cmくらい低い彼女が出来る????
続けて俺達の攻撃。
落ち着け。まず相手より上回っている背丈を活かして高い位置でのパス回しを――
「!!真田先輩!」
遅かった。真田先輩が不用意に出したパスはさっきまで違うところにいた外国人ちゃんにパスカットされてしまった。
なんなんだ?彼女は?異常ともいえるほど速いし、ジャンプ力がある。
「お~い兎川!うちのニンジャな、実は競技歴半年未満でも身体能力だけでバレーボールの女子日本代表に呼ばれるくらいの身体能力怪物だぞ?」
それを先に言えよ!!!!
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奇襲には驚いたが、慣れてしまえばどうということはない。
「むっ……くっ!!!」
この子はジャンプ力が高いし、速いし、身体能力そのものは凄い。が、どんなに足搔こうと小柄で華奢なバスケ素人という点は変わらない。
この外国人ちゃんが出来るのはゴールに近づいてレイアップかダンクシュートのどちらか。だったらゴール下に寄らせなければいい。
少々大人げないが、こうして体を張ればこの外国人ちゃんは簡単に止まった。
華奢な彼女は俺に何度か体当たりをしてくるが、柳に風。この程度の衝撃でポジションを明け渡したりなどしない。
……止めるたびに外国人ちゃんからいい匂いだったり、柔らかい感触だったりが飛んでくるのでこれはこれで大変なんだが……
とにかく、彼女がファウルにならず強引に突破するには体重が軽すぎて出来ず、技術で抜くには圧倒的に練習と経験が足りてない。
おや?ここを抜くのは無理だと判断した外国人ちゃんは一時離脱。すぐさまそこに佐藤先輩からのパスが飛んできた。
阿吽の呼吸という奴だ。素直にこれは凄い。2人の並々ならぬ絆の深さを感じる。さすが恋人同士と言ったところか。そこからシュートがいいんだろうが、ダメだろうな……
それなりに様になっている外国人ちゃんからのワンハンドシュートはしかしというかやっぱりというか、ゴールリングにあたるだけで入りはしなかった。
う~ん。
多分だけど、あのシュートはもっと彼女の背丈が高くないと、具体的には俺達と同じくらいの背丈がないとダメだろう。おそらく佐藤先輩のシュートフォームを真似てやったものなのだろうが、骨格レベルで別人のフォームを真似てもダメだ。
この手のフォームは基本はあっても最終的には個人ごとにベストなフォームを見つけていくしかないと思っている。
それは何百、何千、何万とシュート練習をすることでようやく見つけることが出来る。
とにかく、この外国人ちゃんを止めるには1人がつきっきりで体を張ってゴール下に入れないことだ。
ただし、つきっきりになるのでボールは追えない。だから試合の行方はその他の2人に任せることにした。
前島が女子にしては鋭いドライブからのレイアップシュートを仕掛けるが、所詮は女子。
空中で簡単に叩き落された。
……前島にも外国人ちゃんにも言えることだが、もう少しガタイが良ければさっきの様なレイアップは強引にシュートコースを開けたはずなんだが、体格差という無情な壁に阻まれて得点を逃している。
佐藤先輩は去年の部長ということもあり、それなりに巧いが、ブランクはぬぐえない。
バスケのシュートというのは厄介で習得するのには時間がかかるくせに忘れるのはあっという間だ。1日サボると取り戻すのには2日かかるというのもあながち嘘ではあるまい。
ということで決して佐藤先輩のシュートは精密なわけではない。
油断していい相手ではないが、油断しなければいいだけの話。
……あっ!!
ピッーー!!
「クッソー負けた!!」
「優莉のことを知らないうちに奇襲、ってところまでは良かったんだけどなあ」
「ごめん。シュート外しまくった……」
やっちまった……
15-13
真面目にやらないと負けるからってつい本気になって勝っちった……
というか食事を奢るに見せかけたデート計画がああああああ
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視点変更
立花 優莉 視点
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さすが現役高校男子バスケ部。
俺がちょっとくらい凄い身体能力だからって驚いたのは最初の方だけですぐに対策を打たれて無力化されてしまった。地力では圧倒的にあちら有利。最後は奮戦むなしく負けたわけだが……
「兎川!おめーやっぱすげえな。というかもうアタシとじゃあ勝負になんねえな!」
「俺がやってたのってそっちの外国人ちゃんを止めてただけじゃねえか。第一、前島は負けたのになんでそんなにうれしそうなんだよ」
「負けたのは癪だけど、全力でバスケすんのは久しぶりだしな!それに小学校の頃はてんで雑魚だったお前がこんなに巧くなるなんてなあ」
「お前、小学校の頃ってもう4年も前だっつうの!」
……未来はとても楽しそうだ。
なんとなくだが……
「明日香」
「言わなくてもわかってる。……私さ、今だけじゃなくて、来年も再来年も未来にはバレー部にいて欲しい。戦力って意味だけじゃなくてね。でも……」
明日香はその先を言わない。でもわかる。
未来はやっぱり今年限定の助っ人なんだなって。
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かつての第2次世界大戦中、ドイツ軍に捕らえられたフランス人捕虜の一部が悲惨な捕虜生活のストレスから捕虜全員で脳内共同ガールフレンドを作り出したという。
日本でもかつて厳しい武士教育、特に男女の交わりは不浄とされていたためか、代わりに目麗しい美少年を女装させて――という文化が薩摩にあったという。
何が言いたいかというと男女問わず、性欲旺盛な高校生にとってその対象がいないとそれを妄想をしてでも作り出すものらしい。
松女でいうならミスイケメンコンテストが開かれた。
そして松高では『ドキッ!男だらけのミスコンテスト』なる大会が開かれていた。
しかも祐樹や雄太に聞くと毎年文化祭の締めはこれらしい。
大丈夫なのか?松高?
とは言えないんだよなあ。松女も最後はイケメンコンテストだったし。
……真っ当な共学校はどうなるのだろうか?
「よっしゃ!メイクは任せろ!」
「お化粧するにしても、基本くらいお母さんとかから聞いてからにしてよ……」
「誰か!悪いけど近くのコンビニまでファンデーションを買ってきて!」
そんな不毛なミスコン(?)に俺達も巻き込まれて参加することになった。
歌織の中学時代の同級生だという少年は線が細く、色白であえなくこのコンテストに強制エントリーされたのだという。
しかし、所詮は男子高校生。はっきり言って化粧が下手。女になった直後の俺と同等だろう。そんな現場を目撃してしまった俺達は流れでこの少年の女装を手伝うことになった。
あのなあ、かつら被ってスカート穿いてお終いじゃねえんだよ。
体ごと女装している女装のプロたる俺からするとこんなのは女装じゃねえ!
が、一方で明日香達は明日香達でわかっていない。これはあくまで男子高校生に向けたコンテスト。厳しい現実なんて関係ない。こう、男受けするメイク、恰好が大事なのだ。
「え~。なんかわざとらし過ぎない?」
「少なくともクラスにこんな奴がいたら総スカンだな」
「そもそもこんな格好をする女子なんてないと思うけど……」
明日香・未来・歌織からは不評だが、これでいい。
媚媚であざとかろうが何だろうが、これが男子校では正義なのだ!
こうして俺達の努力(?)もあって歌織の同級生の少年は見事ミスコンで優勝した。
が、自分達の仕上げた力作が優勝し、意気揚々と会場となった体育館を去ろうとしたところでその異変に気が付いた。
「あれ、中身男なんだよな?」
「いやでも可愛いし……」
「変なのに目覚めたかも……」
……そんな不吉なセリフが聞こえたような気もしたがきっと気のせいだ。うん。