053 突撃!隣の文化祭 中編
元は1本のはずが、2本に分かれ、最終的に3本にお話が分かれました……
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松原高校 文化祭中
第2体育館
とある男子高校生視点
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「おい。去年卒業した佐藤先輩が松女の女の子を連れて来てるんだってさ!」
「佐藤先輩って誰っすか?」
「3年の大石先輩の前にバスケ部の部長やってた人だよ」
「そんな人がなんで女連れまわしてここにくるんすか?」
そんな会話が聞こえる。
松高に入学して8ヶ月目に突入。男子高ならではのノリは楽しいが、やっぱり青春の彩りは欲しい……
ぶっちゃけ彼女が欲しい。最近女に飢え過ぎて可愛いの基準が大きく下がってきているのを実感する。電車通学するときにすれ違う女子高生がみんな可愛く見えてくる。俺も彼女が欲しいなあ。
その佐藤先輩とやらが連れてきた可愛い女の子(だと信じたい)と知り合いになるにはどうしたらいいだろうか?
そうだ!ここに来るってことはバスケをやってるところを見せられるわけで、そこでかっこいいところを見せてから話しかければ――
いやいや、声をかけようにも切実な話、女子とは何を話していいのかわからん。最近妹の女友達ですら話すのに緊張する。いやでも出会いがないと彩りは作れないわけで……
1人離れたところで悶々としていると夏から部長となった先輩に声をかけられた。
「おいおい。何1人で格好つけてんだ?1人でクールキャラ気取んなよ」
「そうじゃないですよ。その、佐藤先輩っていうのを俺は知りませんけど、たぶん彼女自慢で連れて来てるんでしょ?なんか惨めになるだけじゃないっすか」
「いや、それがなんと!今回連れてきた女は全員フリーらしいぜ!しかも全員可愛い!先輩の連れてきた女に入場チケットを渡した相沢の情報だ。信じてもいいと思うぜ」
「え?本当ですか?いやでも俺……」
「なんだよ。お前実は男色家か?」
「いや、女子と何話せばいいかわからないっていうか、この前中学2年の妹が友達を家に連れてきたんですけど、その時も何にも話せなくて……」
「あっはっは。そりゃ随分なヘタレ野郎だな!」
女子と隔離された空間で生活していると本当に何を話していいのかわからなくなる。
……この病状は俺だけなのか??
なんて話をしていると噂の佐藤先輩が4人の女子高生をつれてやってきた。
ぱっと見て目立つのは東欧人とみられる小さい美少女と反対に俺と同じくらい背が高いモデルみたいなスラっとした体型の美女。
すげえぇ。
レベルが高い。
残り2人も……って!おい!!!
「んでここがバスケの部紹介ブース」
「あ、あれ?なんで運動部のブースがあるんですか?」
「そりゃ来年の新入生を勧誘するためだ。松高の文化祭は学区内の中学校ならチケット代わりに中学の生徒手帳でも入場できるしね。
そうなると文化部だけ新入生にアピールできるのはずるい、って話が何年も前に出て、以来運動部も希望があればこうしてブースが貰えることになった」
「ぐわぁあ。入学前から青田買いしてるんですか!松女バスケ部もやればよかった!」
「来年はバレー部もやろうね!優ちゃん!」
「え~面倒くさい……」
ななな!
なんであいつらがここに――
「お、兎川じゃん!」
「あ、本当だ。兎川君久しぶり!兎川君は松高だったんだね」
「お、おう。久しぶり。中学以来だな。お前らは松女か」
前島と都平。小学校からの知り――
「おい。トガ。知り合いか?」
「あ、はい。2人とは小中と同じ学校で特に小学校の頃は地元のミニバスケとバレーボールのクラブで一緒でした」
まあ男女でチームは別だったからチームメイトってわけじゃないが、よく練習試合はしたもんだ。小5の頃まではバスケもバレーも負け続けたが、小6になって反対に勝てるようになったんだよなあ。それでなんとなく男女の違いを察するようになったんだ。
それにしても小6はたった4年前の話なんだが随分昔の話に思える。
……兎川君か。久しぶりに聞いたな。俺のことをそう呼ぶのは都平だけだ。
「真田。久しぶり。今はお前が部長なんだってな。てっきり明石がやるもんだとおもったんだけどな」
「俺が部長なのは佐藤先輩と同じく『調整』が出来るからですよ」
「そっか。つらいぞ~。上手くもない奴が部長をやると部員に示しがつかないし、色々プレッシャーになる。俺が言うんだ。間違いない」
「だから俺は自信をもってできますよ。俺も佐藤先輩みたいに部で一番バスケが上手くないかもしれませんけど、佐藤先輩みたいに一番真摯にバスケをやれば部員はついてくるって知ってますから」
「持ち上げたってなんもでないぞ?」
「いやいや。こうして女子高生を連れて来てくれただけでも大感謝ですよ」
「それにしても3年は誰も残らなかったのか」
「そりゃうちは普通の公立高校ですから――」
2年の真田部長は佐藤先輩と部の近況を話している。さて――
「なあ兎川。ここでお前らバスケ部はなにやってんだ?」
「3ON3のゲームだな。見ての通り学校から借りれたスペースはコート1面分はないけど、3ON3が出来るくらいにはある。
んで文化祭に飽きたり、気分転換しにきた在校生相手に戦う。けどメインは見学に来た中学生相手に3ON3でボコって高校生の威信を見せつけることだな」
「大人げねえなあ」
「ほっとけ。こっちにも年長者ってプライド背負ってんだ。それに負けたら俺達が相当格好悪い。俺達もプレッシャーの中、戦うんだよ」
「――兎川はバスケ続けられてんのか。羨ましいなあ」
「あ?前島バスケ辞めたの?」
「……松女でバスケ部続けるには部員が足りねえんだよ。んで仕方ないから今はバレー部にも籍を置いてる。書類上は兼部で、バスケ部自体は休部中って扱いになってる」
「なにその漫画的展開。なにがあったんだよ」
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女子とは会話できないもんだと思ったが、前島は別だな。小学校が同じ幼馴染とか関係ない。現にさっきちょっと都平とも話したけど、
『うんそうだね』『へ~そうなんだ』とかそんなやり取りで全然話にならなかった。
だからだろう。つい調子に乗ってこんなことを言ってしまった。
「なんだ。前島バスケしばらくやってねえのか。どうだ?俺でよければ相手になるぞ?」
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視点変更
立花 優莉 視点
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「お前ら、喜べ!松高のバスケ部と3ON3で勝負することになったぞ!」
OK。
まずはどうしてそうなったか言え。
「ん?あ~あっちにいる兎川って奴と話してたらバスケで勝負することになった」
OK。
ノリでバスケをすることになったんだな。でもみんなスカートなんだが?
「実はアタシの鞄の中には体育着のショートパンツが1着だけ入ってる」
……さしずめバレーの練習で使ったのを鞄の中にいれっぱなしとかそんなもんだろう。
ちなみに今更だが、俺達の足元は革靴ではなく、ごく一般的な上履きだ。元々松高の文化祭自体室内履き持参を推奨しており、俺達は文化祭に来るにあたって上履きを持参している。
相手はバッシュ、こっちは上履きとか勝負にならないが、そもそも男子高校生と女子高校生という致命的な差の前には誤差みたいなもんだろう。
「それじゃ未来は問題ないとして、あと2人は?」
「佐藤さん。元バスケ部部長ってことはバスケ出来るんですよね?」
「大学に入ってロクに運動してないから期待されると辛いけど、まあちょっとくらいなら」
「うし。これであと1人」
雄太は小学校の頃からバスケが(俺から見て)上手かった。が、今アイツのズボンはチノパンだ。動きにくくはないが、かといってハードな運動に向いているものでもない。靴も普段大学の体育で使っているという普通の体育館履き。まあ経験者の若い男という時点で未来よりは戦力になると期待する。
「アタシ以外にスカートの下に穿くもん持ってきてはいないよな?ちょっと待ってろ。お~い兎川。バスケ部のユニフォームじゃなくて、普段体育で使ってるジャージとかあんだろ?それ貸せ」
えっ?
女子じゃなくて普段男が使ってるジャージ穿くの?
しかも知らない他人とか……
いや、俺は正直気にしないけど、他の奴は気にすると思うんだが、どうなんだ?
というのも3ON3をやるにはあと1人必要だが、順当にいけばバスケ経験者の明日香か歌織だ。身体能力が高くともバスケ技術が一番低い俺が出ることは――
「おい。ニンジャ。これ穿いて出ろや」
と未来は自身の鞄の中から松女指定の体育着のショートパンツを俺に投げつけてきた。
「え?私が出るの?というか未来はスカートのまま出るの?」
「んなわけないだろ。何でパンチラ大サービスしなきゃなんねえんだ?アタシはさっき巻き上げた松高指定ジャージをスカートの下に穿いて出る」
「あ、自分の体育着で出るわけじゃないんだ」
「あったり前だろ。知ってる奴のジャージならともかく、いきなり知らない男のジャージとかお前着れるのか?
アタシは無理だぞ。それに借りたジャージは洗って返すが、ニンジャは兎川の家を知らないだろ?
あいつん家はアタシの近所なんだ。明日の朝に洗濯して夕方に返すさ」
「で、なんで私?明日香か歌織の方がバスケは巧いよ?」
「お前以外いないだろ。歌織とアタシじゃ背丈が違うからアタシのショートパンツじゃサイズが合わない。明日香も背丈はともかくケツがでかいから下手すればしゃがんだ時に破かれ――」
「誰のお尻が大きいのよ!誰の!私が未来のパンツを穿いたからって破けるわけないでしょ!」
女になって不思議なことが1つ。女同士で胸が大きいというのは誉め言葉になることもあるが、尻が大きいは総じて貶し言葉になる。不思議だ。
「つうわけで消去法でお前だ。というか男子の高さに対抗するにはお前しかいない」
「まあ俺も悠…莉の方が気軽にバスケが出来るからありがたい」
「そう言われれば出るけど、私技術的にはへたくそだよ?」
「わかってるって。お~い。兎川!ハンデくれよ。こっちのちっこい外人はバスケのド素人なんだ」
お前、自分から挑んどいてハンデを要求すんのかよ。
「真田。現役の高校男子バスケ部員が女子高生相手にガチンコ勝負とか言わないよな?」
わお。雄太は後輩イビリをしてますよ。
「佐藤先輩。それ脅迫っすよ。ま、そうっすね。女子は得点を2倍とかどうっすか?」
「うし。それで」
雄太もえげつない。俺はこんななりだが、ダンクが出来る。それを相手は知らない。こっちは知ってる。雄太は昔から時たまこっそり悪意をぶっこんでくるから油断がならない。
とは言っても男子相手にバスケはきついか。俺は身体能力こそ高いが、それでも体が小さく軽いという事実は変わらない。それが何を生むかというと、意外なほど接触のあるスポーツだと活躍できなくなる。
例えば体育でやるサッカー。
1学期の頃はまだしもお上品だった松女生も2学期となるとアタリが強くなり、授業で俺は割と簡単に吹っ飛ばされていた。
今日の相手は女子高生じゃなく、男子高生。しかもバスケ部。となると相手が油断しているうちに点を稼いで逃げ切る、と言ったところだろう。
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松原高校 文化祭中
第2体育館
とあるバスケ部員視点
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どうしてだか大学生×1+女子高生×2と3ON3をすることになった。
どう考えても勝負にならない。
女子高生のうちの1人、前島は経験者だし、小中でバスケをやっていたからまだ出場はわかる。
が、もう1人の外国人ちゃんはどう考えても不向き。
身も蓋もないことを言えばバスケは体格がものを言うスポーツだ。
こっちは俺を含めて3人とも180cm前後。ガタイだってスポーツをやっている男子のそれだ。3人とも腹筋は6つに割れている。格好も見学に来た中学生に紹介する目的もあってバスケ部のユニフォームにバッシュという完全武装だ。
対して向こうは去年の卒業生、佐藤先輩はまあいいとして、精々160cmそこそこの女子高生、前島。いかに運動を日頃からしているとはいえ、所詮は女だ。どうしたって体格は華奢だし、身体能力では俺達に大きく劣る。
その前島以上に向いてないのが外国人ちゃんだ。前島より低い、おそらく150cm半ばほどの背丈。黒いタイツに包まれている細い脚は下手すれば俺達の腕程の太さではないかと錯覚するほどひょろい。肩幅もたぶん俺達の半分くらい。
……これ、うっかりチャージングしたらふっとんで骨折とかの大けがをするんじゃないだろうか?
そういう意味でもまだ外国人ちゃんより頑丈そうな都平と代わって欲しい。
多分だが、この外国人ちゃんは佐藤先輩の彼女なのだろう。10年来の親友とかそのレベルの親しさでなければあり得ないほど、お互いのパーソナルスペースが近い。男女であそこまで近づけるのが彼氏、彼女の関係でなくて何なのだろう。
彼女に良いところを見せたいという先輩の意思は尊重するが、その恰好はなあ……
普段着っぽい佐藤先輩も大概だが、前島と外国人ちゃんは松女の制服からブレザーだけ脱いで、代わりにスカートの下にズボンを穿いたような恰好。
足元は上履きだからバッシュよりは滑るだろうし、滑るということは踏み込めないからジャンプ力だって期待できない。
「――えっと、私と未来がシュートを決めたら2倍になるんだよね?ということは普通にやれば4点、スリーポイントなら6点ってこと?」
「いいや。3ON3は普通は1点、スリーポイントラインから得点をしても2点だ」
「ショットクロックが12秒しかないからボール取ったらすぐに攻めなきゃだめだぞ?」
「あ~それなんすけどね、そっちのお嬢ちゃんはバスケの素人なんですよね?だったら佐藤先輩のチームはシュートまでの制限時間は無しでいいですよ」
……ひょっとしてそういうことか?
漏れ聞いた話ではそもそも佐藤先輩は日本の高校の文化祭を知らない外国人ちゃんに松高の文化祭を見せるために来ているらしい。
これも勝ちに来たとかじゃなくて、外国人ちゃんに日本を紹介するためのものと思えば選手選出にも納得ができる。
ふむ……
この後にお話するためにも最初は接待プレイで気持ちよくバスケをしてもらうか。
何なら最初は勝たせて、中盤に追い込む。最後は相手に逆転勝利をさせるというシナリオも悪くないだろう。
どうせ松高生の大半と外部から来た中学生は今、第1体育館でやっているであろうライブに夢中のはずだ。
……これが大間違いだったと思い知るのはわずか数分後のことである。