051 文化祭というイベントがあったらしい
2学期はイベント盛り沢山である。
ついこの間、体育祭があったと思ったらすぐに中間テスト、その後間髪入れずに文化祭。
中間テストは……なんというか微妙なものになった。
テストがあった7教科中、6教科で陽菜に勝ったがいずれも小差であり、唯一負けた国語総合では逆に17点もの大差をつけられて敗北。
結果総合成績では陽菜に敗れて学年6位(陽菜は5位)だった。
お互いに勝った負けたを言うには中途半端で不完全燃焼。
とりあえず2人そろって
「「勝負は期末テスト」」
がきれいにはハモったあたり、やはり陽菜とは兄妹なのだろう。
続く文化祭。
中学のそれと違って飲食店を開けたり、外部から人を招いたりするそれは楽しかった。
ちなみにうちのクラスは教室でカジノ(っぽいもの)をやった。
各人がボードゲームやカードゲームを持ち寄ったり作ったりし、ゲームの勝敗に応じてポイントを付与。
集めたポイントでお菓子などの景品と交換というもの。
珍しいボードゲームで遊べるということもあり、一般公開の日にはそれなりに人気を博した。
念のために言っておこう。ポイントの換金は当然できないぞ。
一般公開と言っても学校への入場はチケットが必要となる。
だが、昔は文化祭中の学校への入場にチケットなど不要で、誰でも自由に出入り出来たらしい。
その時代に女子高生とカードゲームが出来るなんていうものがあったら大きなお友達がたくさん来ていたかもしれない。
全く昔の日本は不用心なこと極まりない。
いや現代日本が用心しなくてはいけない程、治安が悪くなっただけか?
で、その文化祭だがなんつうか生徒(の一部)が一昔前に流行ったというヤマンバギャルもかくやと言わんばかりの厚化粧で登校してきた。
もう塗り塗りの盛り盛り。なに?歌舞伎役者にでもなるの?香しいではなく正直臭いレベルで香水も使っていた。
そうでなくともみんな普段より時間をかけてメイクをしたんだろうなあって顔で登校してきた奴が多い。
当初は陽菜も登校前に気合を入れてメイクをやろうとしていた。もちろん全力で止めた。
あのなあ男の意見として言わせてもらうが、男は厚化粧した女を見ると引くんだぞ?
さらに言うなら男は美容に使う時間とか苦労とか考えない基本バカなうえに化粧前後でどれくらい変わるか知らないからか、着飾らないすっぴん状態での可愛さこそ至高って考えてんだぞ?
第一、陽菜は化粧がいらないくらい元の顔立ちが整っている。顔面偏差値の高い松女バレー部においてすら陽菜が一番可愛いんだぞ。
普段通りの格好で行けば嫌でも男から声がかかる。にーちゃんは今からお前がナンパされた時の対策で困ってるんだからバカなことはするな。
いつも言ってんだが、お前は鏡を見ろよ。
いつでも松女一の美人女子高生が鏡に写るんだからな!
俺の説得が通じたのか最後、陽菜は顔が赤くなり、口をパクパクさせた後に「優ちゃんのバカ!」というなぜか罵声を俺に放ったりはしたが、後はいつも通りの姿で登校することになった。
他にも松女の文化祭には『ミス・イケメンコンテスト』なる珍妙な大会が開かれたりもした。女子校でミスコンとか下手すれば禍根しか残らない恐ろしいものだが、それではなかった。女子高生が『男装』して男性になりきってイケメン具合を評価するコンテストなのだ。これを聞いた俺は喜び勇んでエントリーしたね。
俺の普段着のうち涼ねえ達が買ってきた衣類はフリフリのヒラヒラであり、いかにも女の子然としたものであり俺の精神衛生上よろしくないものが多い。
が、イケメンコンテスト用に買うとなれば必然的に男性用となる。一度買ったらもったいない、それを今後の普段着として使うんだ、と涼ねえ達を説得できれば俺の精神が安らぐ衣類が増えること間違いなしのイベントに変わる。
で、エントリーし、半ば悪ノリで協力してくれたクラスメイトも巻き込んで知恵の限りイケメンを目指してみたんだが、
1.華奢・小柄・撫肩の3点セット
2.何をどうやっても整った女顔
3.男性じゃ絶対出来ない癖のないストレートのロングヘア
が仇となり、当日はエントリー14人中、余裕で最下位だった。
ちなみに1位はクラスメイトに無理やり参加させられた玲子を僅差で破ったサッカー部、3年生の先輩だった。
なんでも今年でV3達成らしい。
確かにイケメンになっているが、甘い。あれは作りものだ。本物のイケメンが玉木商業高校に居るんだぞ!
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悠司・祐樹・雄太が使用している某SNSサイトより
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『――つうことがあった』
『へえ。意外。女も文化祭に来る男子目当てに化粧とかするんだ』
『女もってことは男子校でも文化祭に来る女子目当てになんかするの?』
『普段はゴミとか散らかってるところを片付けたり、漫画とかエロ本を隠したりとかな』
『それくらい普段からやっとけよ』
『後は整髪料をガチガチに塗り固めたりする奴はクラスに1人はいた。で、当日女子が来ると点数つけたりしたな』
『あ、あったあった。で、「女子力…たったの5か…ブスめ…」とかな!』
『懐かしい!』
『お前らに言っとくぞ?女子校でも裏で同じことをやられてるからな。むしろ女の集団能力舐めちゃいかんぜよ。
なんかやらかすと「こいつセクハラしてくる!」とか「ただ女を口説きに来ただけ!」とか連絡が顔写真付きで出回る』
『女って怖いなあ』
『それでも高校の頃、女子校の文化祭のチケット持っている奴はカースト上位だったよな』
『え?2人とも女子校の文化祭に行きたかったのか?』
『そりゃ行きたいだろう』
『女の園って背徳感ない?別に彼女が欲しいとか関係なく、入ってみたいじゃん』
『あ~背徳感はわかるわ。最近めっきり薄れたけど、4月の頃は俺も登校するだけでおっかなびっくりだったし』
それが今では同級生が目の前で着替えていても気にせずスルー出来るところまで来たのだ。人間、慣れって恐ろしい。
……
待てよ?
『なあ。ちょっといいか』
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文化祭も終わってついに今週から11月。
ついこの間まで生地の厚い冬服にするには残暑が厳し過ぎると嘆いたものだが、今はこの冬服がいかに暖が取れない欠陥品なのかを痛感している。スカートってなんだよ!めっちゃ寒いんだよ!
まして7時から朝練のあるバレー部としては7時前には部室で着替える必要があり、日が昇りきっていないので寒くて……
「おいコラ、ニンジャ!それはなんだ!」
未来が俺に向かってなにやら言う。はて?俺に変なところでもあるのか?
「それってなに?」
「スカートの下の奴だよ!」
「……ただのスクールタイツだけど?」
校則で無地の黒ならメーカー問わず、スクールタイツとして認められるとあった。だから校則違反ではない。
というかなぜみんな生脚なのか?寒くないのか?
「あのなあ。生脚を披露できるのは高校生のうちだけなんだぞ?」
「別にそんな期間限定特典なんていらない」
「陽菜。優ちゃんこう言ってるけど?」
「何度言っても『寒い、ヤダ』の一点張りなんだもん。諦めたよ。ちなみに今、優ちゃんが履いているのは80デニールだけど、寒くなれば240デニールとかになるよ」
「女子高生がそれってなくない?」
「優莉。80デニールで160デニール相当のタイツとかもあるぞ?」
「そんな小細工はいらない。堂々と160デニールを履く。というかそれじゃ足りない」
忌々しい。世の中にはぶ厚いタイツが存在する。俺は去年の厳冬期には裏毛羽付きの240デニールのタイツを重宝した。
だが、あれは厚く武骨な生地を少しでも女性らしくい飾るとかで無駄に刺繍があった。
スクールタイツの条件は『無地』であること。全く。女子高生の制服=スカートなどという風潮を考えた奴を殴りたい。
スカートというだけでも許しがたいが、寄りにもよって膝丈か、膝上丈なのが標準というのがさらに殺意を増させる。
「優莉。ひょっとして寒いのは苦手?」
「うん。大っ嫌い」
「だから最近、寝る時は私にピッタリくっついて朝まで離れないんだよ。ちょっと前まで暑いだの離れろだの言ってたのに……」
口では煩わしい様に言っているが、ニコニコ顔で随分うれしそうですな、陽菜さんや。
とはいえ、ここで機嫌を損ねられて今夜から1人で寝ろと言われるとちょっとは困るので黙っておく。
実際陽菜は湯たんぽとしては優秀だ。程よく暖かいうえに柔らかく、(寝る前に風呂に入っているからだが)石鹸のいい匂いもする。一緒に寝れば朝は寒さに耐えながら布団から手をのばして目覚ましを止めることなく、布団に入ったまま陽菜が起こしてくれる。着替えだって布団の中から手さえ出せば陽菜が「仕方ないなあ」と言いながら必要な分を渡してくれる。
妹の添い寝に対して思うところがないわけではないし、そもそも妹に世話をしてもらうのはどうかと思うが、寒さをしのぐ方が大切だ。
……去年の今頃は1人で早くに起きて家族全員分の朝食とかを用意してたことを考えると年齢退行していると思えるが気のせいだろう。
「夏合宿の時もそうだったけど、優莉ちゃんは今も陽菜と一緒のベッドで寝てるのね」
「学校一の美人と一緒に寝れるんだよ。羨ましいでしょ」
「優莉って本当にお姉ちゃんが大好きだよね」
「お姉ちゃんとして好きなのは涼ねえか美佳ねえで陽ねえは友達の好きに近いけど、好きなのは変わらないね」
「シスコンって奴だな」
「前にも言われたことがあるけど、姉妹仲が良いことをシスコンって言うなら私シスコンでいい」
「皮肉にも動じない……」
と、こんな会話が朝練開始前の部室で行われ、最後、部室から出る直前のことだ。
「そうだ。私、松原高校の文化祭のチケットが10人分くらい手に入りそうなんだけど、みんな興味ある?」
「はぁ?お前いきなり何言ってんの?」
「松原高校の文化祭のチケットってどうやって優莉が手に入れるの?」
「あ、ひょっとして祐樹にいか雄太にいからもらうの?」
さすが陽菜。言わずとも知ってくれている。
「うん。昨日、SNS上で男子校の文化祭を見てみたいって言ったら、10人くらいまでなら何とかなるかもって」
「ちょっと待って!優莉ちゃん!その祐樹にいと雄太にいって誰?ひょっとして優莉ちゃんの彼―」
「それは絶対にない。あいつらの彼女とか虫唾が走るってレベルじゃないから冗談でもやめて」
人として祐樹と雄太が良い奴なのは知っているが、付き合えるかどうかは別問題だ。ちなみに俺は絶対無理。
真顔で睨みつけたこともあり、愛菜がちょっと焦った風に言う。
「わ、わかった。もう言わない。でもそんなに嫌いなのに、話はするの?」
「嫌いじゃないよ。仲の良い友達。でも友達だから付き合う気はない」
「あ、祐樹にいと雄太にいは私の家の近所に住んでいるの。私達より3学年分年上で去年松原高校を卒業したお兄ちゃん達だよ。
優ちゃんが日本に来た当初、あちこち連れまわして日本の文化とか常識を教えた人でもあるね」
祐樹と雄太は実際には俺の幼馴染であり、親友なのだが女となった今の俺の経歴にはそぐわないので公にはこう言っている。
事実、お互いの受験が終わった去年の3月はあちこち遊びまわったしな。
「あぁ。男の人に日本のことを教えてもらったから一部常識が変なところがあるんだ……」
なんか知らんが変なところを納得された。
「で、どうする?松高の文化祭の一般公開日は今度の土曜日だよ」
ちなみに今度の土曜日は日曜日に練習試合を行うので代わりにバレーの練習は休みとなっている。
「土曜日ってまた随分急だな」
「優ちゃん。次の次の土曜日が春高2次予選の日だって忘れてないよね?そんな直前に遊びに行くとか、ちょっとたるんでない?」
「いくらなんでも急すぎないか」
「準備も何もできない」
「う~ん行ってみたいけど、ちょっと、ねえ」
「わかる。怖いというか、ちょっと……」
ふむ……
「そうだね。試合直前だし、悪いよね。私はお願いした手前、行くけど陽ねえはどうするの?」
「ま、お姉ちゃんは優ちゃんの保護者も兼任しているからいくよ。そうなると海の時みたいに4人だけ――」
「「「「待った!」」」」
「試合前なんだけどなあ。でも主将として変なことしないか確認しないといけないし」
「ちっ。仕方ねえな。そこまで言うなら一緒に行ってやるよ感謝しな」
等々……
女ってめんどくさい……