049 体育祭 準備編
2学期が始まった。なんというか学期の始まりから色々ありすぎた。
第一はやたらとお姉ちゃん風を吹かしてくる陽菜だろう。もう近づくだけでびゅーびゅーと音が聞こえるんじゃないかというレベルだ。いや、正確には2学期からというより玉木商業での合宿以降か?
とにかくあれ以降、俺のやることなすことに一々口を出してきてうざい。まあどうせすぐ飽きるんだろうし、それまで気の向いた範囲で付き合ってやってもいいがうざい。
というか、人の下着まで口出してくんなよ。
「でも優ちゃん、大きくしたいんでしょ?ここは経験者の意見を素直に聞いた方がいいと思うんだけど?」
と、どことは言わんが俺に圧倒的質量を見せつけながら言う陽菜。
………
ま、まあ妹のおままごとにつきあってやるのも兄貴の器の示しどころだ。うん。大きいことはいいことだしな!
ちなみに、いつか陽菜と同じサイズのパンツを穿けるようになる!と口に出して言ったら陽菜にぶん殴られた。解せぬ……
解せぬと言えば2学期が始まってすぐの実力テストだ。出題範囲は1学期に習った範囲。教科は国語・数学(ⅠとAまとめて1つ)・英語(コミュ英と英語表現まとめて1つ)の3科目。
そして俺は偶然、ほんと偶然だよ?実力じゃない。あれだちょっと運が悪かった系。そうなんだよ。実力じゃないんだよ!!!!
で学年順位は5位。いや、正直順位なんて5位でも3位でも50位でも100位でも割とどうでもいい。肝心なのは
陽菜は学年順位4位
あんのクソ野郎……じゃなかった陽菜は女だからクソアマ、なにが「え~これくらい出来て当然だし」だよ!めっちゃどや顔じゃねえか!
畜生。こんなのは練習試合だ。本番は10月の中間テスト。見てやがれよ!!!!
ちなみにバレー部で1番良かったのはなんとユキ。学年順位2位。
なんでやん!お前さん、期末テストボコボコだったでしょうが!
「初めてテスト勉強というのを真面目にやったら出来た。一夜漬けってやっぱりよくない。日頃の積み重ねって大事」
とはユキの弁。何でも彼女は中学どころか高校1年1学期まで学校でだけ勉強して家では教科書を開くようなことはしていなかったらしい。それでは不味いと1学期の中間と期末で思い知り、夏休み中は毎日、基礎からまじめに勉強し直したら学年2位だと。
いるんだよなあ。授業受けただけでテストの点が取れる奴。ユキはそこまでではないものの、ちゃんと勉強すれば出来る子だった。
ちなみに愛菜は7位。一気にバレー部内4位に転落してショックを受けていた。
他にも俺が夏休み中に全日本の合宿に呼ばれたり、野良ビーチバレーで元日本代表に勝ったことが評価されたのか、なんと放課後の練習では平日の放課後、毎日第一体育館のバレーコート2面分を使っていいことになった!
8人にコート2面は勿体ない気もするが、片面でサーブ練習をしつつ、もう片面でスパイク練習とかできるようになるので2面使える方が確かにありがたい。この辺は学校に多謝だ。
まあそんな2学期だ。2学期はイベントが多い。その1つが9月末の体育祭だ。さっそくホームルームで体育祭の出場選手を決めることになった。
「はいは~い。それじゃ個人種目の出場選手を決めるわよ」
んで選手決めをするために黒板の前に立ったのはクラス委員の佳代。あれ?体育祭だから体育委員の俺が仕切らなくていいの?
なんて思っていたら右隣の席の陽菜から補足が入った。
「優ちゃん、黒板の一番上に届かないでしょ?だから代わりに佳代がやってくれてるんじゃないの?」
なめんなよ。陽菜。俺だって黒板の上に手くら――
「もちろん、ジャンプしちゃダメだよ」
……
俺の身長は156cmである。女子高生というか成人女性の平均身長は159cmであり、俺は決してチビではない。3cmなんて誤差だ。
佳代だって俺よりちょっとだけ背が高いが160cmくらいと俺と変わらん。
その佳代が座席が後ろでも見えるように背伸びをして黒板上部から文字を書いているがこれは単純に黒板の位置が高くに設置されているという構造上の欠点ではないのか!
いくら女性に比べ背丈の高い男性の教師が多いからと言ってもここが女子校である以上、生徒への配慮が足りないと言わざるを得ない。
従って俺が小さいわけではなく、黒板の設置位置が悪いだけである!
余談だが、なぜ陽菜が右隣にいるかというと、ついこの間の席替えの結果だ。俺のクラス1年2組では新学期開始時と中間テスト終了後にそれぞれ席替えをする。
席の並びが陽菜・俺・明日香となっていたのは5月までの話でそれ以降は3人ともばらばらの席になった。んで新学期の9月にまた席替えをしたらたまたま陽菜が俺の席の右隣になったという寸法だ。
夏休み明けの実力テストの順位が煩悩と同じだった奴は窓際の一番後ろの席だ。
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配られた体育祭のしおり(?)のようなものを読む。そこには当日の競技一覧が記載されていた。松原女子高校の体育祭は一般的な中学のそれとは違い、事前に時間を取って綿密な練習とかはしないらしい。そもそも種目からして割とガチなものが多い。
・100m走 計4名
・100mH走 計2名
・200m走 計4名
・400m走 計1名
・1マイル走 計1名
・障害物競走 計4名
・スウェーデンリレー 計4名
・クラス選抜対抗リレー 計20名
補足
たとえ参加人数の多い100m走であっても予選・決勝というのはなく、各種目純然たるタイムで競う
1マイル走は厳密には1マイルではなく1600m走
スウェーデンリレーは公式の半分の距離、50m→100m→150m→200mで合計500m走
障害物は平均台の上を走ったり、ネットをくぐったりする100m走
クラス選抜リレーは1人当たり100m走る
以上が体育祭の個人種目だ。この個人種目は全学年で同じ競技をするようだ。
それにしてもクラス選抜対抗リレーの適当ぶりがひどい。なんとしてでも1人1種目は個人種目に出させる気だ。1人最大2種目まではエントリーできるが3種目はダメらしい。
ちなみに個人種目に必要な延べ人数は40人。1クラスあたり36人しかいないので4人は2種目に出なくてはいけない。
1クラスあたり36人って決まってるのだから延べ人数36人になるようにすればいいのにと思ったが、文理+特進でクラス分けが発生する2年以降は1クラスあたり37人以上になる場合があったり、1年でも転校だとかで人数が増えても全員1種目は出れるようにしている学校側の配慮らしい。
イラン配慮だ。
また、学年別クラス対抗種目となるともっとツッコミどころが満載だ。
1年:綱引き
2年:騎馬戦
3年:棒倒し
……
ちなみにこれは松原『女子』高校の体育祭の種目である。
いやさ、女子校なんだし、団体種目は大玉運びとか玉入れとかそういったのじゃん。普通。
なんだよ。この凶暴な種目は。しかもルールで
騎馬戦:噛みつき禁止
棒倒し:腰から上へはタックル禁止
……
ガチ系の奴じゃないですか!やだー!
俺が内心ドン引きしてると右隣の席の陽菜が
「今年は綱引きかあ……。騎馬戦は来年、棒倒しは再来年のお楽しみだね」
なんてのたまっていた。
え?お前、騎馬戦とか棒倒しをやりたいの?
「あのね、普通女の子は騎馬戦も棒倒しもやったことないんだよ。だからやってみたいの」
……なるほど。俺はどちらも中学時代に体験しているが確かにあの時も女子は玉入れだとか別の競技をやっていたな。
まあ中学生の時点で男女に明確な体力差が生まれるから合同ではできんし、(綱引きはともかく)騎馬戦も棒倒しも押したりつぶれたりする競技だから普通女子にはやらせんわな。
女子が怪我したら面倒だし。
え?松女?
女子だとかというカテゴリの前に野生児ってくくりになるから(擦り傷とか打撲くらいの)怪我ならOK!……多分だけど。
「まあ、元気のいる種目だから男の子いる前だとちょっとやりにくいけど、ここは女子校だしね」
ほれ、陽菜だってこう言っている。
しかし、そうか。みんなやったことがないから騎馬戦とかやってみたいのか。
あれは上が重要と見せかけて実は馬の方が重要なんだぞ。その時が来たら教えてやろう。
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おまけ
夏休み明けの実力テスト 学年順位
2位 有村 雪子
「……ぶい」
4位 立花 陽菜
「え~別に普通だし」
5位 立花 優莉
「……ツキヨバカリトオモウナヨ」
7位 白鷺 愛菜
「え?そりゃ30位以内なら特進クラス狙えるからいいけど、え?なんで??」
54位 鍋川 歌織
「まあ夏休み中にも普通に勉強したし」
58位 村井 玲子
「なんだかんだバレー合宿中も勉強したのが大きかったな」
102位 前島 未来
「あっぶね。7点差で部内最下位を免れた!」
108位 都平 明日香
「わ、私だって3教科全部平均点前後なのに!」
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