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046 第二次夏合宿 2日目 その3

 女性は群れる性質を持つと言われている。

 

 大昔、男性は住処を離れ、狩りで獲物を捕らえる。その間、女性は住処の安全を守る。そんな役割分担が存在していた。

 住処の安全を守るには1人より2人、2人より3人といった具合にある程度以上大人数で役割を決めて守った方が何かと都合がいい。だから女性達は徒党を組んだ。

 狩りの時代が終わり、農耕の時代になっても女性は家庭にあって家を守る立場にあった。そこでも彼女達は共同体を作り、その中で生きていった。

 

 つまり、女性が群れるのは遺伝子に刻まれた太古からの本能に従っているためなので、別に不思議なことではない。また、この群れるという点だが、常に誰にでも開かれているものではなく、共同体を維持できるのに適切な人数を得られればそれ以降は不必要に仲間に入れたりはしない。

 

 当然であろう。

 

 人をまとめるのは大変だ。船頭多くして船山に上るという諺があるように、数が多くなればその分まとめるのも大変だ。

 

 つまり何が言いたいかというと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハブられました……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 合同合宿2日目の19時前。予定されていた練習は全て終わっている。昨日のこの時間帯は早々に着替えて夕食を食べていた頃だ。で、そのまま人の少ない風呂を満喫して、という流れだった。

 

 しかし今日は佐伯・上杉両先生から「勉強は後でもできる。合宿でしか出来ないことをした方がいい」というアドバイスを受けて、さてじゃあ自主練習に混ぜてもらおうかとしたが……

 

 

 どこもがっつり練習相手を見つけて練習してました。なんか入るスキなんてありません……

 

 というか組み合わせなんて昨日の時点で出来上がってるので今更入れません……


 なお、昨日同じく勉強仲間だったユキと愛菜はそれぞれ別のところで練習している。一体いつ誘われたんだよ。というか俺ってどこからも誘われていないような……

 



 いっつも隣に陽菜がいるから気にならなかったが、ひょっとして俺、友達いないのか?

 

 待て、んなこたあねえ。よく4月から7月までの高校生活を思い出すんだ。俺の女子高生ライフがどんなものだったかを!

 


 俺の高校生活は陽菜とずっと一緒でした……

 

 なんならずっと陽菜の後ろにいました……

 

 ほとんど陽菜と一緒。そこにクラスのイベントなら明日香と佳代、部活ならバレー部の連中が混ざるくらい。友達、って言える連中はバレー部の連中を入れても多分10人いるかどうか……

 

 いやいや待てよ。俺が男だった時ってもっと交友範囲広かったぞ?何でこうなってんだ?

  

 思い返してみると大体陽菜以外は陽菜を介して俺に話しかけてくることが多い。

 

 これは俺の見た目が東欧人風(こんな風)だから仕方あるまい。パっと見た限り日本語が通じるか怪しいし、生活習慣とか常識とか違うかもって思われても仕方あるまい。

 

 実際問題“女子高生としての常識”とやらにはとんと疎くてよく陽菜にかばってもらってたし。

 

 だから陽菜というクッションを挟んで会話をするのはおかしくなくて、でもそうか、俺ボッチだったのか……

 

 

 

 

「優ちゃんどうしたの?」

 

 俺が内心ショックを受けて黙りこくっていると陽菜から声をかけられた。

 

「陽ねえ。ひょっとして私、嫌われてる?誰も私を自主練習に誘ってこないし……」


「嫌われているかどうかはわからないけど、誘いにくいことは確かだね」


「なんで?」


「そうだね。例えばここにいるのが女子バレー部員じゃなくて全員が高校球児だったとします。みんな春の選抜出場を目指して練習をしています。

 そこに1人だけ高校生ながらプロ野球選手と一緒に日本代表合宿に参加した高校球児がいたとします。さてここで問題です。春の選抜出場を目指している大勢の球児たちは、プロ野球選手と一緒に合宿しちゃうなんていう、どう考えても格上の球児を気軽に誘えると思う?」

 

 ……あぁそりゃ無理だ。一緒に練習してもレベルが違い過ぎる、そのプロと一緒に合宿できる球児の足を引っ張るだけだろうって周りの球児は思うわな。


 

「でも私、そんなにうまくないし……。陽ねえ、私達もどこかに混ぜてもらう?」


「う~ん。そもそも優ちゃんはどんな練習がしたい?それによって声をかけるところが違ってくると思うけど?」


 どんな練習ねえ……

 

 足りない技術はたくさんあるだろうけど、やりたい練習といえばだ、

 

「こう、必殺技の練習がしたい!前に言ってたエア……なんだっけ?」

「エアフェイク、ね。う~ん。確かにコースの打ち分けは出来るようになってきたし、そろそろ落ちてくるボールじゃなくて、空間を漂うボール、つまりインダイレクトデリバリーで上がったボールを打つ練習を本格的にしようか。学校の部活だとオープントスばっかりだったしね。それが出来たらクイックの練習。エアフェイクはその先だね」

 

 おぉ!ついに俺も必殺技の習得が許されたか!実は最近、物覚えの良い玲子の方はもっと別のスパイク練習してんだよなあ。明日香に言わせると「優ちゃんと違って玲ちゃんには小細工が必要だし」なんて言われている。どう考えても気遣われてるよなあ。

 

「!!じゃあやろう。トスしてスパイクだけなら陽ねえと私だけでもできるね。ちょっとネットの空いてるところ探してくる!」

「あ、ちょっと待って。優ちゃん、聞いておいて悪いけど、優ちゃんに相応しい練習はクイックの練習じゃないかもしれない……」

「?どういうこと?」

「私もあってる自信はないけど、優ちゃんの武器ってスパイクの威力が高いこと、じゃなくて男子でもブロックできないくらい高い打点でしょ?クイックって結局のところブロックを躱すための手段の1つだから、ブロックを無効化できる優ちゃんには相応しくないかも。

 それより、ブロックの練習とか、同じスパイク練習でも全国の強豪相手にバックアタックでもブロック出来ないくらいもっと高く飛んだり、あるいは確実に相手の守備の隙間をつけるよう正確にコースの打ち分けをできるようになったりするような練習の方がいいかも……」

 

 なるほど。一理ある。

 

「じゃあ私にクイックはいらないってこと?」

「そうとは言わないけど、優先度は低いんじゃないかな?優ちゃんがクイック攻撃をしてもオープン攻撃と怖さは変わらないような気が――」

「そんなことないわよ。優莉ちゃんがクイック攻撃を覚えたら怖いもの」


 俺と陽菜の作戦会議に口を挟んだのはイケメン先輩だった。

 

「こんばんは。お邪魔だったかしら?でも元敵将として正直に言うけど、優莉ちゃんがクイック攻撃を覚えたら相当にやっかいよ」


「本当に私がクイック攻撃を覚えたら役に立つんですか?さっき陽ね……姉が言っていたように私のスパイクってブロックより高い位置で打ってます。現に先輩と戦った時もブロックはされませんでしたし」

 

「そうね。私達と戦った時を言うなら、優莉ちゃんは私達にスパイクを打つ時、どんな感想を持った?」


「コースを読まれていて、スパイクを打つ前に打とうとする場所にレシーバーがいました」


「それ。なんで君のスパイクしようとした場所にレシーバーがいたと思う?」


「?コースが読まれていたから?」


「半分正解。残り半分は君の攻撃がオープン攻撃限定だったから。君がスパイクをする時は必ず、ボールが高く上がって、落ちてくるまでの時間があった。そこに私達が守備位置に移動できるだけの時間があったの」


「あっ……」


「バレーにおいて速い攻撃っていうのはスパイクが速い、でもトスが速いでもないの。トスからスパイクまでの“間”がどれだけ短いか、になるの。

 そういった意味では優ちゃんの攻撃はスパイクは速くても遅い攻撃なの。遅い攻撃しかできない君が速い攻撃を習得する。

 もしそうなったら私達がやったみたいにスパイクを打たれる前に守備体制を整えるなんてできないでしょうね。そうなれば君のスパイクの決定率はもっと良くなる」

 

 正直なところ、俺は相手レシーバーがいようとスパイクを決められる自信がちょっと前まであった。だが、世の中には美佳ねえみたいなレシーバーがいる。

 美佳ねえにはコースを読まれてレシーブされた。だが、もし美佳ねえに考える時間も与えずにスパイクをできたら?そうなればきっと――

 

「それともう一つ。君には君にしかできない技がある。優莉ちゃんの武器は高い打点であることは周知の事実だけど、これを逆手にとってあえて打点を下げてみる。

 そうだね、普通の女子高生バレーくらいの270cmくらいまで下げてみようか。当たり前だけどボールは3mのところから落とすより、2mのところから落とした方が早く落ちる。

 さっきの速い攻撃とは矛盾しちゃうし、時間にしてコンマ数秒の世界だけど、高く飛んだ時より確実に早くボールが落ちるのはわかるよね?」

 

「でも打点を下げちゃうとブロックに……あっ!!」

 

 そうか。そういうことか!見上げるとイケメン先輩はにやりと笑っていた。


「気がついた?そう。ブロックにつかまっちゃうかもしれないね。でもそれこそが罠なんだよ。優莉ちゃんのスパイクは打点がブロックできないくらい高い。だからみんなブロックを諦めちゃう。

 そして最初からブロックを諦めて6人全員がレシーバーに回っちゃう。でももし、打点が低かったら?優莉ちゃんの強力なスパイクをブロックすべくブロッカーに何人か割くんじゃないかな?

 レシーバーを減らしてでも。何も1試合中ずっと低く飛べ、なんて言わないよ。むしろ1試合に2回か3回程度混ぜるだけでいい。それだけで相手ブロッカーをつり出せるかもしれない。そうなればその分フロアディフェンスは弱体化するのはわかるよね?」


 今までずっと、高く飛べばいいと思っていた。でもそうじゃない。

 

 

「優莉ちゃんの場合は、コートのどこで飛ぶとか、どこにスパイクを打つとかの他にもう1つ、高低っていうオプションまであるの。もっともそうなるとこれだけのスパイクを打ち分けるのは大変だし、君だけじゃなくてセッターの負荷もものすごいことになるから出来るかどうかわからないけど」

 

 まあな。ぶっちゃけて言えばスパイカーはトスをあげられない。受動的な立場だ。そして俺限定で言うならトスをあげる方向、トスの出し方の他にトスの高低っていう種類も増えてセッターの負荷が半端じゃないことになる。が、確信を持って言える。

 

 

「セッターなら大丈夫です。私のお姉ちゃん、陽ねえはすごい努力家のセッターだからきっとできます」

 

 こいつはこと努力という点においては俺の何倍もすごい、決して折れない諦めない鋼の精神を持つ妹だ。だから他の奴なら知らんが陽菜なら最後には絶対に出来る。出来るまで努力を続けられる。

 

 

 それくらいわかる。

 

 伊達にこいつのにーちゃんを16年もやってないのだ。

※インダイレクトデリバリーについて

 スパイクを打つ付近でボールが最高高度になるようにあげられたトスのことです。緩く山を描くトスで作中では空間を漂うと表現しています。

 優莉はこれまで基本的に高く上げられたボールが落ちてくるところを見計らってスパイクをする“オープン攻撃”しかしていません。

 そのオープン攻撃と比べるとスパイカーもセッターも技量を必要とするトスとスパイクになります。


 優莉のバレー選手としての育ち方はかなりとんがっていて、スパイクはオープン攻撃しか出来ない、その代わりコートのどこからであろうと(それこそバックアタックになるアタックラインより後方からだろうと)オープン攻撃が出来るというものです。

 そこに最近ではコースの打ち分けが出来るようになった程度です。競技歴5ヶ月目ですのでこれが普通というか、むしろ良くやっている方です。

 が、すでに玲子は技術面においてすでに何歩か優莉の先を進んでいます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 先輩塩送りまくりですよ塩分過多です。 [気になる点] ~「本当に私がクイック攻撃を覚えたら本当に役に立つんですか?~ 本当にが繰り返しになっているので、 意図的に繰り返しているのでなければ…
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