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042 第二次夏合宿 初日 その1

昨日は2本投稿しています。読んでいない方はぜひ。


====

 玉木商業高校 女子バレー部 元主将

  市川 真貴子 視点

====

 

 8月も後半。私の受験勉強は恐ろしいほどはかどっていない。


 今更だけど商業高校に進学したのは失敗だったかもしれない。

 

 なにせ一般的な4年制大学の入試に必要な科目をそもそも習っていない場合も多い。なので過去問を見てもそもそも習っていないのでなんじゃこりゃ?から始まってしまう。

 

 そんな暗い気持ちを吹き飛ばすためにも気分転換だ!玉木商業女子バレー部はこの時期、近隣の公立高校を招いて合同合宿を行っている。そして毎年、引退した3年生が補助として手伝いに来てくれていた。

 私も1、2年の頃は当時の3年生の先輩達にあれこれ助けてもらった。なので母親を説得し、本当に高校生活最後となる部活に向かった。

 

 

 

 夏休み中なので久しぶりに袖を通す夏のセーラー服。玉木商業高校は未だに女子の制服はセーラー服なのだ。セーラー服って昭和の時代でしょ?

 

 このだっさい制服も着るのはあと少し。夏服に限って言えば9月までだ。

 

 ……友達と話すたびに可愛くないだの古臭いだの言ってた制服(これ)もなぜか今更惜しくなってくる……

 

 アンニュイな気持ちのまま部室についた。もうとっくに部員の集合時間は過ぎているが、私達補助員は午後から来るように言われているのでこれでいいはず。

 

 近くの植木鉢の下に隠されている部室のカギで部室の扉を開けていつものようにロッカーに……

 

「あっ……」


 私のロッカー『だった』ところには別の部員の荷物が置いてあった。

 

 女子バレー部では部員全員分のロッカーはない。個人ロッカーを与えられるのはユニフォーム組だけだ。私も1年の夏までは荷物は部室の床に直置き。制服だけは皺にならないように共有ロッカーに入れていたものだ。そこから先はレギュラーをとれたので2年近くずっとロッカー有の生活だった。

 

 そっか。私もう引退したんだった。

 

 私はなぜか今朝になって急に愛着がわいた制服を皺がつかないよう丁寧に部外者用の共有ロッカーに入れて体育館に向かった。

 

 なーんか調子狂うなあ。

 

 いけない。これじゃいけない。私は元とはいえ主将。明るくいかないとみんなが暗くなる。さっき制服を入れたロッカーにはほかにも2着のセーラー服があった。きっとやっちんと真理ちゃんだ。

 

 そういえば2人と会うのも久しぶりだ。バレーをやってた頃はほとんど毎日顔を合わせていたのに。そう思うと少し楽しくなってきた。あのむさくるしいだけの体育館も2人と会えると思うと気分が高揚してくる。

 

「お願いしまーす!」


 いつかと同じように挨拶をして体育館に入る。

 

 が――

 

「お疲れ様です」


 ぺこり

 

 とっても可愛い天使の声&お辞儀。 

 

 

 玉木商業高校の体育館は私の知らない間に天使がいる天界になっていた。



=====


「おはようございます」

「おう。市川か。久しぶりだな。お前も真面目だなあ。人が欲しいのは午後からの練習試合だ。八巻も千賀もだが、午前中から来てもらう必要はねえんだぞ?」


 熊田先生は相変わらず人相の悪い顔をしている。でもいい先生であることは変わりない。


「私達が1年生、2年生の頃、当時の先輩たちは午前から協力いただきましたし、ボール拾いやドリンク作り、他校の生徒は建物の構造は知りませんから道案内も必要です。やることはたくさんあります」

「真面目だねえ。市川。ちゃんと息抜きしねえと詰まっちまうぞ?」

「ですから息抜きをしにここに来たんですよ」


 息抜きというよりは現実逃避が正しいんだけど、それは言わないで置いた。


=====

「やっちん!真理ちゃん!」

「うーす」

「マキ、久しぶり」


 体育館の端っこには予想通りやっちんと真理ちゃんがいた。


「どう?後輩たちの様子は?」

「様子も何もまだ試合してないし、練習も準備運動中だからなあ」

「レギュラーはまだ決めてないってさっき熊田先生が言ってたよ」


 私達の後輩は非常に惜しい特徴を持っている。


 なんと170cm後半の子が1、2年合わせて6人もいるのだ!が、惜しいのは6人とも技術的にはへたくそ。だからレギュラーはもちろん、ベンチに入れたのさえ6人中たった1人、横田だけだった。

 とはいえ、2年の2人はいいところまでいってたし、1年の横田以外の3人も私達のいなかった7、8月でどこまで成長したかの成長具合で面白くなってくる。6人のうち、3人がレギュラーになれるくらい巧くなればすごく強くなるはずだ。

 

「他校で来てるのは、おなじみの吉屋高校。黒椿は去年からだよね。で、今年は新たに松女を加えたの?」

「そうみたい」

「……みっともない嫉妬だってわかってるけど、松女の子達ってものすごく可愛い子しかいないよね?」

「さっき私も楓と『どこのアイドルユニットなんだよ!』ってツッコミを入れたよ」


 今年の合同合宿には天使ちゃんがいる松原女子高校が加わっていた。それだけで体育館が天界に様変わりしたように見える。

 

 その天使ちゃんがいる松女だけど、3人入れ替わっていた。


 確か、松女には3年生が3人いたからその子たちが引退、代わりに3人入部したってところなんだろうけど、その3人『も』可愛い子だった。

 

 具体的には松女の子で一番可愛くない子でも私達の常識で言えば「クラスで1番可愛い子」より可愛い。

 

 松原女子高校の学力偏差値は確か60ちょいだったと思うけど、顔面偏差値も60以上じゃないと入学できないとかのルールでもあったの?

 

 

 あっ……


 はやくも周りの高校からやっかみ感情の視線を受けてる……


 こりゃ午後の試合、荒れるかもしれない……



=====

 と思ったけど、それは杞憂に終わった。可愛いくてそれに気取っている子だったら荒れてたんだろうけど……


「うおっしゃああああ」

「だあああ!!!未来に負けたぁああ」

「優莉!相変わらず速いな!ちっとも追いつける気がしない!」

「手を抜いたら玲子に負けちゃうからね」


 たかが準備運動のダッシュ。

 人によっては軽く流すそれを全力で駆け抜ける松女の面々。声だって一番出してる。なんというか松女の子達は元気いっぱいだった。ありていにいうとまるで男子高校生みたい。

 

=====


「えぇ!!!玉木商業の人達って練習帰りにラーメン屋に寄らないの?」

 

 さらに準備運動が進み、ちょっとした空き時間で天使ちゃんと横田が話しているところを盗み聞きするとなにやら残念な会話が聞こえた。

 

「え?なに?優莉ちゃん達って練習終わった後にラーメン屋に寄るの?女子高生(バレー部員)だけで?」

「彩ねえ達は寄らないの?」


 横田は横田で信じられないという顔をしているし、天使ちゃんは天使ちゃんで信じれられないという顔をしている


「待て。忍者。こいつらの最寄り駅、玉木駅周辺を見たか?駅周辺には芳野屋、杉屋、ぎゅう屋の3つ全部あるんだぞ?」


「!!ということは玉木商業の人達はラーメン派じゃなくてドンブリ派!」


「うむ。きっとそういうことだろう」


「あぁ!そっちか!そっちなら仕方ない!お米と牛肉の暴力の前には確かにラーメンでは分が悪いかもしれない!あ、でも私、松女近くの風竜好きだよ!あそこ制服で行くと替え玉1玉無料だし!」


「え~でもやっぱりお米だよ。全く。なんで松原駅周辺には大手牛丼チェーンが1店もないのさ!」


「それを言い出すなら私は駅前にカレー屋がないのが不満だ。カレー一番のチェーン店を出してほしい」


「カレー一番ならカレーじゃなくてハヤシライスがいい」


「なんで松原駅周辺にはご飯系のチェーン店がないんだろうね?」


「みんな知らないと思うけど、実は松高の近くの商店街にはあるよ。芳野屋とカレー一番。ただ、あそこは松高生で席が埋まるらしいけど」




 ……話を聞いていると、どうやら彼女達は月2~3くらいのペースで帰りに部員揃ってラーメンを食べて帰ることがあるらしい。女子高生8人でラーメン屋って……

 

 ちなみにおしゃれなカフェとかは「あんなしゃらくさいものじゃお腹が膨れないし、高いからいかない」だそうだ。

 

 前言撤回。男子高校生みたいじゃない。野生児みたいな子達だった。

 

 

 

  

 この他、暑いからって上着をめくってパタパタと――――って!!

 

 

「お前ら!ここは女子校(松女)じゃねえんだぞ!みっともない真似すんな!」


 あっちの高校の副顧問だという男性教師に松女の子が怒られてる。

 

「あー俺も他校の先生にこんなことを言いたくはないんですけどね。佐伯先生。生徒には節度をもって行動するよう指導するのが俺達教師の―――」

 

 他所では熊田先生が松女の顧問の先生にガチ説教している。

 

 が、当の本人達は「ブラが見えるかも、で実際に見えるわけじゃないんだし何でこんなに怒られんだ?」って顔をしている。

 

 ……なんていうか、せっかくの可愛い外見なのになんでそんなにどぶに捨てるような言動に走るのか……


 きっと女子校で長い事、男子が周りにいない環境で生活してるものだから慎みとか恥じらいがどこかに行って野生化しているのだろう。


 気がつけば周りの高校からの松女の子へ向ける視線は柔らかくなっていた……


====

 視点変更

  立花 優莉 視点

====


 俺達は今日から玉木商業高校で6泊7日の合同合宿を行うことになっている。この合宿は特に練習試合を主にするもので試合経験の少ない俺達にとってありがたい合宿だ。

 

 最初はなにやら刺すような視線を他校から感じていたが、徐々に視線が柔らかくなり、昼ご飯を一緒に食べるころにはそんなものがなくなっていた。

 

 まあ、ほぼ初対面の高校の連中と仲良くは出来ないから最初に視線がきつかったのは当然だろう。その後、徐々に視線が柔らかくなっていったのは同じバレーボール仲間として認めてもらえたからか?

 

 さて、その合宿も初日の午後を迎えた。

 

 ここからが本番らしい。午後はひたすら練習試合。

 

 いくつかルールを変えていて、まず試合は1セットだけ。選手交代は何回でもしていい。1試合は最長でも35分。そして俺達には関係ないが、部員が大勢いる高校は複数チームを出していい。

 

 実際に今回集まった高校では

 

 松原女子高校 1チーム

 玉木商業高校 2チーム

 吉屋高校   3チーム

 黒椿高校   1チーム

 

 の計7チームが参加することになっている。この7チームが総当たり戦で1時から6時半まで途中僅かな休憩だけ挟んで延々と試合を続ける。

 

 ……すっげぇ疲れそう……

 

 参加チーム数が奇数なので試合がないタイミングもあるが、その間は線審やスコア係となる。


 ちなみに玉木商業のイケメン先輩たちは引退した身分なのにわざわざボランティアで手伝いに参加してくれ、主審なんかもやってくれるらしい。

 

 で、俺達の初戦は玉木商業のAチーム、要するにレギュラーチームだ。

 

 その印象だが、高い!

 

 イケメン先輩たちがいた頃の玉木商業は背がそんなに高くないイメージだったが、今の玉木商業には玲子クラスの背丈の選手が4人。うち1人は彩夏だ。

 

 一方、こちらのスタメンはこんな感じだ。

 

 FL:明日香

 FC:玲子

 FR:陽菜

 BR:俺

 BC:歌織

 BL:未来


 L:雪子

  → 玲子か歌織が後衛時に出場


      ネット     

  ――――――――――

   FL FC FR 


   BL BC BR 

  ――――――――――

    エンドライン

    


 ちなみにこれはこっちからサーブの場合で、相手からのサーブだった場合はローテを一回分戻してスタートする。要するに俺からサーブが始まるようにしている。


 これぞ俺達が考えた新戦術!さて、これがどこまで通じるか、試していこう!


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― 新着の感想 ―
うーんセーラー服かぁ、セーラー服はコスプレでなら好きですね、彼女にセーラー服着せたかった。全力で拒否されたけど、もちろん本物の女子高生は眺めるだけですよ。何かしたら犯罪ですものね。
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