040 優莉 浜辺で女性をひっかける
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立花 優莉 視点
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俺のすぐ隣でアホ2人がアホなことを考えてる。10年以上の付き合いだ。それくらいわかる。
最初は水着に着替えた俺を見るなり2人とも絶句した。きっと2人とも俺の寸胴を見て言葉を失ったのだろう。正直すまんかった。だが、陽菜を見るなり元気になった。
俺も元は男だ。否定はすまい。大きいことはいいことだ。
それはさておき、さっきからやたらと視線が多い。ここは日本の浜辺。そこに俺みたいな東欧人的容姿はよく目立つ。俺もたまに街中で見かける外国人を目でおってしまうし、仕方あるまい。見られることにも慣れたもんだ。
その視線は女より男の方が多い。そっちは近くにいる陽菜のせいだろう。まず俺に注目してしまい、近くにいる陽菜に視線を奪われるというコンボだ。
しっかし、普段風呂で見慣れているとはいえ、やっぱり16歳かよってくらい陽菜はすごい。
ただ、兄としては心配事がある。陽菜は男に対してとにかく無防備だ。
おそらく俺が2年強もの間、家を空けてしまったことに原因があるのだろう。
我が立花家は両親がほぼ不在である。
住んでいるのは涼ねえ、俺、陽菜の3人。美佳ねえは高校までは家から通っていたが、大学に入ってからは寮生活でたまにしか戻ってこない。
つまり女だらけの家なのである。
それでも3年ほど前の陽菜は小学生ながらも一丁前にきちんと俺というか男と節度を持った距離を保っていた。
が、2年間、俺が不在の間に男との距離の取り方を忘れてしまったようだ。
元々立花家に男は俺しかいなかった。その俺が女になったことで生物学上の話ではあるが女しか立花家にはいなくなってしまった。
この前もスカートなのに足を開いて座っていたので
「陽ねえ。パンツ見えてるよ」
と指摘してやったのだが、
「可愛いでしょ。優ちゃんも欲しい?」
などと言って足を閉じるどころか、スカートたくし上げて俺に下着を見せる始末。
ちょっと真面目に叱ろうかと思って
「陽菜。はしたない真似はやめろ。俺だって心は男なんだぞ?襲い掛かったらどうするんだ?というかそんなんだと襲い掛かるぞ!」
と脅してみたら反対に服を脱ぎだす始末。
慌てて止めてわけを聞くと
「え?だって襲うんでしょ?この服、高いから破かれる前に自分から脱いでおこうと思って」
などという末期状態。
叩きはしなかったが、その場ですぐに服を着るように厳命し、かつ陽菜に正座をさせてとくと叱った。あんまり聞いてくれてはいなかったが……
おそらく陽菜は大人な体と違い、中身は高校生どころか小学生並みなのだろう。ここで万が一、陽菜が変な男に引っかかったとしよう。陽菜はあまりにも男に対しての警戒心が薄すぎる。そこから導きだされる結論は……
「陽ねえ!!!今すぐこれ着て!!!」
俺は自分が着ていたパーカーを陽菜に押し付ける。
よくよく見れば陽菜は上下ビキニだけだ!これではアホ共が勘違いしかねない!
「優ちゃん、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないの!いいから早く着て!」
やっぱり事態を把握していない陽菜は俺から受け取ったパーカーを羽織ってはくれた。いや、前もしっかり閉めろよ。その谷間で勘違いするバカが出るんだって!
「いい?陽ねえ!男は狼!はい、復唱!」
「優ちゃん、さっきからどうしたの?」
「いいから復唱!男は狼!」
「えっと男は狼?」
「そう!男は狼なの!陽ねえ美人なのにボーっとしているし、抜けてるし、危ないの!いい?今日はそこにいる雄太と祐樹以外の男と話しちゃダメ!そういうのは全部私がやるから!」
元々今日は彼女のいない祐樹と雄太の2人のために彼女を見つけるために来ている。
俺と陽菜は相手方の女性に雄太と祐樹は女を漁りに来たんじゃなくて、近所の女の子を海に遊びに連れて行ってくれる気さくなお兄さんという設定を信じさせるために来ているに過ぎない。
従って、祐樹達に良縁があれば俺達は不要となる。そうなったらさっくりと浜辺から離れよう。俺はともかく陽菜が危ない。
俺がそう決心を固めると同時期になぜか陽菜がため息をついた。
?????
「あぁ。うん、そうだね。男の子は狼かもしれないね。雄太にい。ごめん。そのパーカー貸して。優ちゃん。ごめんね。これは優ちゃんが着て。お姉ちゃん、おデブさんだから優ちゃんのだと前が閉められないの」
ため息の理由と、陽菜や祐樹達が残念な子を見る目で俺を見るのが若干気になるが、陽菜が男に気を付けてくれるのならそれでいい。
それにしても迂闊だったな。確かに俺用のSサイズのパーカーでは陽菜は前を閉められない。
やっぱりもげろ。
雄太からパーカーを借りた陽菜は俺のアドバイス通り前をきっちり閉めてくれた
「これでよし。こんな、いかにも男物のパーカーを羽織ってる女の子なんて彼氏持ちだと思われるから――」
「雄太てめえ!!!陽菜はやらんぞ!どうしても欲しければ俺を倒してからにしろ!」
ガンッ!
痛い。陽菜よ。宣言無しでの拳骨はやめて欲しい。
「優ちゃん。恥かしいからちょっと黙ってて。で、さっきの続き。えっと、お姉ちゃんが無防備に見えるから優ちゃんが守ってくれるでいいんだよね?」
「そう!」
「じゃ、今日はお姉ちゃんとずっと手をつないでいようね。それならお姉ちゃんのそばを守りやすいでしょ?」
むっ……
手をつなぐ=片手を塞ぐわけだが、陽菜にどこか行かれるよりマシか。うむ。陽菜にしてはいい案だ。採用してやろう。
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視点変更
立花 悠司の親友その2
澤田 祐樹 視点
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俺の小学生以来の友人、立花悠司を4文字で表すなら【シスコン】、9文字であらわすなら【ざんねんなイケメン】と言ったところか。
勉強もスポーツもなんでもそこそこ以上に出来るんだが、如何せん中身が残念な奴だ。
おまけに中学生の頃はそれは酷い中二病にも罹患していた。
よく言えば愛すべきバカなのだろう。普通に言えばただのバカなんだが。
そのバカのバカぶりは今日もいかんなく発揮されている。陽菜ちゃん(と呼ぶには色々育ちすぎてるが)に近づく男がいようものなら
「陽ねえから離れろ!」
と誰彼構わず追い払う始末。その様子はお姉ちゃんに近づく悪い虫を追い払う妹といった風に見えてというかそうとしか見えず、傍から見ると微笑ましい。事実、先ほどからどことなく優しい視線も周囲から感じていた。
問題はその妹に見える悠司も相当レベルが高いということだ。にも拘わらず、自分にかけられる声には無頓着だ。
こちらは先ほどから陽菜ちゃんが「ごめんなさい。妹は今日、私と遊びに来ていますから」といって断っている。
まったく。本当にあのバカの目には何が入ってんだ?ビー玉か?
ちなみに2人まとめて誘おうとするやつには俺と雄太でブロックする。
ここにきてわかった。確かに悠司の言った通り、筋肉をつけてきたのは正解だ。
見た目がたくましく見えるし、ああいったナンパ野郎を追っ払うにはちょいと筋肉を見せつけつつ「俺達の連れに何の用?」って言えば追い払えた。
けどな、男じゃなくて女に注目されたいんですけど……
で、そんな風に浜辺を歩いていると、突如外国人(しかも結構な美人組!)から英語で話しかけられた。たぶん悠司が外国人っぽい容姿をしているから話しかけてきたんだろう。恥ずかしながら俺は英語がさっぱり。雄太の奴は英語が出来たはずなんだが……
「俺が出来るのは座学の英語。ああいった生きた英会話は無理」
おいおい。国立の難関大学を現役で受かった大学生がそんな泣き言言うなよ。一応念のために聞いておこう。陽菜ちゃん、英会話は?
「無理です……。単語は何とかわかるんですが、あんなふうに早口で話されると……」
だよなあ。俺も単語単語はわかるんだよ。でもあんなふうにしゃべられると理解できん。
で、俺達4人のうち、最後の1人は英会話が出来る。現にさっきから外国人相手にマシンガントークを繰り広げてる。時々、HAHAHAと海外ドラマに出てきそうな笑い方までしてる。
つーかアイツさっき、こっちを指さして
「He is cool guy!」
とか適当なことぬかしやがったぞ!
なおも少しすると
「お~い。お前ら。この人達を紹介するよ。右からキャナルさんとマリーさん。雄太と同じ栄明大学の1年生で、学部は国際文化部なんだと。せっかくだから今日1日一緒に遊ぼうってさ!」
……はぁあ???
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視点変更
立花 優莉 視点
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我ながらいい仕事をした。
さっきたまたま着替えとか財布とかの荷物の置き場所に困っていた外国人2人組と遭遇。そんな場合は有償ではあるが海の家に預けるといい、現に自分達はそうしているとアドバイスを送った。
なんでもこの2人ははるばるアメリカから日本に留学しに来た大学生で、大学は雄太と同じ栄明大学。日本の伝統文化に興味があるらしく、ここ日本まで来た人たちだ。
だが、興味があるといっても栄明大学の国際文化学部は結構難しかったはずだ。そこを外国籍の人が受かるなんてすごいな。
ちなみに先ほどは英語で話したが、日本語もゆっくり話せば日常会話レベルは話せる。まあそんな情報はどうでもいい。
重要なのは乳サイズ。
さすが白人。サイズが日本人とは違う。推定Eカップとみた!これならおっぱい星人である祐樹と雄太も満足するだろう。
容姿も陽菜ほどではないが整っている。日本人からみれば金髪碧眼の外国人補正がかかりさぞ美人に見えるだろう。
一緒に遊ぶついでに祐樹と雄太がいかに友情に篤い良い奴であるかを吹き込んでおいた。今後のことを考えても雄太とは同じ大学の同じキャンパスに通う仲。恋仲になってもおかしくない。祐樹だって来年は受かればだが大学生だ。こちらも出会いとしては悪くないだろう。
いやあ。いい仕事をした。
祐樹達の夏の思い出としても、チビジャリの俺と妹みたいな陽菜とだけでは敗北感一杯だろうが、正式な外国人美女2人が加われば何の問題もあるまい。
本当にいい仕事をした。後でこいつらにはなんかおごってもらおう。回らない寿司とか食べ放題でない焼肉とかどうだろうか。
……と思ったが、行き帰りの運転はこいつら。ガス代もこいつら持ちだし、この程度はやらないとむしろダメだったか。
で、自己紹介をしながらキャナルさん達の荷物を海の家に預けに向かう途中、奇妙なのぼりを見つけた。
「ビーチバレー大会?」
「あ、すごい。参加費無料で優勝したら海の家で使える5000円分の商品券に地元の名産をプレゼントだって」
ただ、このビーチバレーは下心が透けて見える。出場条件は2人一組で1人は女性の参加であることが参加条件だ。
「ミナサン、デキマスカ?ワタシ、ヤッテミタイデス」
「ワタシモヤリタイデス」
ほうほう。キャナルさんとマリーさんは乗り気のようだ。ならば助け船を出してやるか。
「だったら祐樹と雄太のどっちかとキャナルさんとマリーさんのどっちかとで組んで男女混合で出なよ。私は陽ねえと出るから!これなら全員出れるでしょ!」
必殺強制的にカップルにして男女の仲を深める作戦!
「そ、そういうことなら俺もやってみます!」
「じゃあ、チーム決めは……」
お前ら。俺のキラーパスをスルーすんなよ?ちゃんと彼女を作れるように動くんだぞ?
「で、陽ねえ!私達は――」
「ご、ごめん。お姉ちゃん、今バレーをするのはちょっと無理かなって……」
見れば陽菜は顔を赤くして胸を抑えていた。
あぁ。そうか。
普段は1枚5380円という高いが高性能なスポーツブラでガチガチに固めているので気にならないはずだが、今日はホールド力の弱そうなビキニ。その状態で飛んだり跳ねたりしたらなあ。
キャナルさんとマリーさんも立派なものをお持ちなので飛んだら痛いはずだが、あっちは乗り気。
見た感じ、あっちはそれなりにかっちり胸を固定する水着のようだ。この辺、巨乳慣れしている。陽菜よ。ああしたところを見習えよ。
とはいえ、陽菜に今の状態で無理に参加しろとは言えない。俺とて慎ましいながらも今は持つ身。陽菜の悩みは想像できる。仕方ない。俺達は見学でも――
「よかったら私と組まない?立花 優莉さん?」
そんなセリフを言ったのは……
「誰?」
「どちら様?」
俺にも陽菜にも覚えがないらしい。
たぶん年は20歳前、女子高生かな?容姿は可もなく不可もなく。顔面偏差値52ってところ。特別可愛いわけでもなく、さりてとブスでもなく。
特筆すべきはその体か。ちょっと前まで参加していた全日本女子バレーボール合宿に選ばれた面々とそう大差ないレベルで鍛えられた手足。うっすらとではあるが、腹筋も割れている。背丈は陽菜並みに高い。胸部は飛んでも跳ねても影響はなさそうだ。まさにアスリート体型。
ちなみに俺達のどちら様発言を受けて顔を引きつらせている。
「金豊山学園高校の飛田 舞って言えばわかるかしら?」
俺と陽菜は顔を見あって……
「「えっと、どこかでお会いしたことはありましたか?」」
飛田 舞さんという人は俺達の発言を受けて絶句してしまった。