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閑話 板垣 恵理子

 私、板垣 恵理子はかつてない事態に困っている。

 

 人の普段とは違う一面を見るとびっくりするよね?今、私の目の前でキャラ崩壊を起こしているのが2名。

 

 

「ご、ごめんなさい。ごめんなさい……。せ、先輩達最後じゃなかったのに最後に……」


 1人は玲子。もう試合が終わって10分以上経っているけど、未だに両目から大粒の涙を流して謝り続けている。

 

 いやさ、玲子そんなキャラじゃないじゃん。いつだってドストイックに練習してて、つらい練習でも優莉と2人で軽々とこなしているクールガールじゃん。ジャパニーズサムライガールじゃん。

 

 この前、部室棟の給湯室から黒いアイツが出た時だって、みんなが悲鳴を上げて逃げる中、優莉と2人して淡々と処理しちゃうし……

 

 そんな子が感情も露わにわんわん泣かれると対処に困るって!

 

 

「ね、大丈夫だから。優ちゃん頑張ったし」

「……」


 もう1人豪快にキャラブレイクしているのが優莉。さっきから何も言わないし、俯いたまま頭からタオルをかぶってる。それで先ほどから陽菜(お姉さん)が大きな胸で優莉の頭を包み込むように抱きしめて慰め続けているから表情は見えない。


 けど、握りしめた両手は震えている。

 

 

 いやだからさ、おかしいって!優莉は自分のバストサイズがアルファベット2文字目なのがコンプレックスで、あんなふうに顔をおっぱいに挟まれようものなら

 

「陽ねえなんてもげちゃえ!うわーん!!」


 とか言って私か唯に泣きついてくるのが普段の光景のはずだ。

 

 ……私か、唯に来るのはそれだけ後輩から慕われている先輩であることの証明であって、それ以外の何物でもないはずだ。美穂のところに行かないのはきっと美穂の好感度が足りないだけ。うんきっとそう。

 

 

 とにかく、普段冷静な玲子が泣き、おっぱいコンプレックスの優莉が陽菜(お姉さん)のけしからん胸でダンマリという異常事態に私をはじめ、全員が戸惑っていた。

 

 

 ……原因はわかっている。ついさっきまでのバレーの試合だ。

 

 姫咲高校は徹底して優莉と玲子を狙ってきた。もうえげつないレベルでだ。結果、2人を起因とした失点は2セット合わせて30点くらいはあったと思う。

 

 で、反対に攻撃は前の玉木商業以上に封じられた。特に第2セット、玲子は完璧に近いレベルで封じられた。

 

 優莉はともかく、玲子の高さは非常識、というレベルじゃない。これまでは相手に長身のブロッカーがいなかったり、技量面で未熟だったりしたけど、今日の相手は県下最強と名高い姫咲高校。当然のように180cm以上で技術も全国クラスのミドルブロッカーがいた。


 結果、普段なら20点近く取る玲子のスパイクは今日はたったの12点。第2セットだけに限って言うなら3点だ。

 

 

 全体的に基礎力の違いを見せつけられた。


 バレーボールは自分達のミスも相手の得点となる。例えば、サーブがネットを超えなかった、スパイクがサイドラインを超えた、も相手の得点となる。この不用意な失点を姫咲高校は2セット通じてたった3点に抑えてきた。

 

 3点だよ?ありえない。


 ちなみに私達はサーブミスやネットタッチやらで10点以上は相手に献上しちゃっている。


 プロの試合だってこうした自爆系の点は発生する。厳しいところを狙おうとすれば当然発生することだから仕方がない。でもそれを3点に抑えたのは思い通りの場所にボールを運ぶ練習を姫咲高校はたくさんした結果だ。


 

 結果論だけど、姫咲高校は奇策・珍策の類は一切使用しなかった。


 相手の弱点を突く。ボールはセッターへ返す。スパイクは高い打点で打つ、レシーブは体の外ではなく、中で行う等々。教科書通りのお手本を丁寧に練習で磨き上げたプレイ。

 

 

 

 

 王道を往く、王者の戦いだった。

 

 

 

 

 それと玲子と優莉は責任を感じる必要はない。さっきの試合、2セットで積み上げた得点は50点。うち3点は相手のミスによるものだったから47点が私達が実力で取った点だ。


 ではこの47点は誰が取ったかというと、12点が玲子のスパイク、35点が優莉のサーブとスパイクによるものだ。

 

 ……そのほかの私や、唯、明日香や陽菜のスパイクやツーアタックは簡単に拾われてしまい、点には結びつかなった。


 

 つまり2人は失点以上に得点を稼いでいるし、負けた原因は私達にもある。多少の失点は覚悟のうえで先に25点取るチーム。なのにその攻撃をバレー暦2ヶ月……そろそろ3ヶ月って言った方がいいかもしれないけど、とにかくそんな経験の浅い2人に丸投げして、私達の攻撃は通じないという事実。



 

 もっとしっかり、初心者2人をフォローしなければいけなかった。



 そもそも2セットをとるために必要な50点は取っている。もっと失点を抑えていれば勝てた。


 

 あそこでミスをしなければ勝てた、こうすればよかった、そんなものがたくさん積みあがる。


 バレーは1点を積み上げていく球技。それを実感させられちゃう。 

 

 周りを見れば部員達が私を見ている。キャプテンなんだからこの事態をなんとかしろ、と。

 

 いやいやいや。無理だって!絶対に無理!そもそも私がキャプテンなのも消去法でなっているようなものなんだって!小中学校時代には部長とか、生徒会長とかそういった(おさ)とは無縁だったんだって!

 

 

 正直、1年生の明日香の方が……

 

 

 ……いた。もう1人、普段と別人になっている人が。

 

 明日香はバレー部で一番元気で一番明るくてみんなを引っ張って行動する子だ。ベクトルは違うけど、この辺はやっぱり都平先輩の妹だ。

 

 

 その明日香がずっと黙っている。姫咲との試合では明日香も何本かスパイクを打った。そしてその全てをAパスでセッターに返されてしまった。


 よほど悔しかったのか、こっちも下を向いて震えている。明日香の足元の床がちょっと濡れているのは汗だと思っておこう。

 

 バレー部で一番元気な子がサイレントモード。


 陽菜と優莉はセットになるとにぎやかだけど、この双方向シスコン姉妹は片方が落ち込んでいるともう片方はフォローに回るから陽菜は優莉の相手で手一杯。


 泣いている玲子を慰めるのに玲子本人が出来るわけもない。


 ユキは話しかければ会話が発生するけど、自分から話しかけるようなタイプじゃない。

 

 唯と美穂は私の方を見ている。


 

 ……ツンデル

 


 

 だいたい、なんて声をかければいいの?


 

「2人とももっと練習しましょう」

 どの面下げて言うんだか。2人が悪いわけじゃない。2人で負けたわけじゃない。松原女子高校バレーボール部というチームが負けたんだよ。

 


「2人が悪いわけじゃないよ」

 これも違う。そもそも2人しか得点出来ていない。でもやっぱりもっと失点を抑えていれば……

 


 

 





「優莉、玲子。2人とも顔をあげて。泣いても結果は変わらないわ。午後にはもう1試合。3位決定戦があるの、忘れた?その試合が3年生最後の試合。もし、後ろめたい気持ちがあるのなら、思い出に3位のメダルを私達にちょうだいな」


 

 2人がこっちを見てくれた。私はそれににっこり笑って答えて見せた。

 

 

 うん。泣いても笑っても次で最後だ。

 


 

 

 ……最後にしていいのかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インターハイ県予選 

 

 最終順位発表

 

 

 優勝  姫咲高校 (インターハイ 県代表決定)

 準優勝 陽紅高校 

 3位  松原女子高校

 4位  東豆涼高校

 

 

 個人賞

  新人賞    有村 雪子 (松原女子高校1年)

  リベロ賞   有村 雪子 (松原女子高校1年)

 

  ※この他の個人賞は姫咲高校が独占

優莉が個人賞に選ばれていないのは単純に「20点取っても20点失点する選手は微妙」という評価を下されたからです。相対的に「未熟な優莉の代わりに本来は優莉のボールも取ってチームを支えた」雪子の評価が上がり、新人賞に選ばれています。


次回は日曜日に投稿できればいいなあ

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[気になる点] ℚ:優莉や玲子同様にジョージさんに恐れる事なく立ち向かう勇者な新一年生は?
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