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028 インターハイ 県予選 最終日

 玉木商業との激戦からさらに1週間後。


 インターハイ県予選最終日。午前に1試合、午後に1試合勝てば晴れて県代表の資格を得られる。

 

 ちなみに、先週の阿呆スケジュールが非難轟々だったためか、再び試合会場は男女混合である。

 

 ちなみに先々週の痴態(男子生徒から女子生徒()への痴漢行為)を受けて2度目の間違いなど起こせるわけがないと大会組織委員会(?)かどうかはわからんがすでに試合会場前に腕章をつけたそれっぽい人が周囲に目を光らせてる。

 俺の周りには松女バレー部の面々が揃っているが、佐伯先生というか男女バレーボール部の監督は全員集められて改めて注意がされているという。

 

 

 正直すまんかった……

 

 

 にしても……

 

「なんだか、今までよりも人が多くない?」

 思わず思ったことを口にしてしまう。

 

 

「そりゃ今日でインターハイの県代表が決まるんだもん。単純に男女計8チーム分だけじゃなくて、雑誌やテレビの取材目的で来てる人もいるね。それに他所だと試合が日曜だったり平日だったりで今日が試合じゃないとこもあるから近隣県から偵察に来ている強豪校もあるかも」


「えっ!テレビ取材があるの!?」


「テレビって言っても優ちゃんが想像しているようなキー局じゃなくてローカル局か、あるいは独立局だけどね。ちなみに私達が全国に知られるような超強豪校だったなら初戦からでもワンマン取材はあったかも」


「へえぇ」


「ちなみに今日の試合は勝っても負けても全国紙だと地方欄、地方紙だともしかしたら写真付きで結果が掲載されるね」


「それはすごい!」


「このほか――」

「未来の後輩を探しに大学からスカウトに来るパターンもあるぞ」


 背後からよく知る、若い女の声。振り返ればそこには……

 

「「美佳ねえ」」


 俺と陽菜の声がハモる。


「よう!久しぶりだな優!陽菜!」

 美佳ねえが両手を広げる。陽菜がさっと離れる。離れるついでに俺を美佳ねえの方に突き飛ばしやがった!


 結果、俺は立花家次女の豊かな胸元に頭から突っ込むことになった。


「優。久しぶりだな。元気にしてたか?」

「バレーが出来るくらいに元気だよ!だから離して!」

「なんだよ優。久しぶりに会ったんだから遠慮なんかしなくていいんだぞ?」

「遠慮じゃなくて暑苦しいの!」


 美佳ねえはわりとスキンシップが激しい。さっきから人の頭をわしゃわしゃしてる。ちょ、ほんとにやめろって!ベリーショートの美佳ねえと違ってこっちは折角編み込んで結った髪を一回ほどいてその後に髪を梳いてもう一回おさげを作んなきゃいけないんだよ!

 

 陽菜はこの展開を見越して俺だけ突き飛ばしたというわけだ。いや、お前の方が髪短いだろ!こっちはぐしゃぐしゃになったら元に戻すのが大変なんだぞ!

 

 しかもだ、1人が2人の頭をわしゃわしゃするのには両手が必要だが、1人の頭をわしゃわしゃするのには片手で足りる。じゃあ余った片手は何をするかというとがっちり俺をヘッドロックするのに使うわけだ。逃げられない。 

 さらにヘッドロックをされていることもあって俺の顔にあたるのだ。美佳ねえの柔らかくて巨大で不愉快になる塊が。


 おかしい。

 長女(涼ねえ)次女(美佳ねえ)三女(陽菜)もでかいのになぜ俺だけ小さいのか。これは絶対におかしい。

 

 ついでに言えば1年以上前は大きい方が好きだったのに今は……。これもおかしい。なぜだろう。


「美佳ねえ!いい加減離してよ!」

「なんだよ。こっちは寮生活でたまにしか会えないっていうのに……」


 と言いつつ、力を緩める美佳ねえ。すかさず脱出する俺。

 

「ばーか。ばーか。美佳ねえなんかもげちゃえ!うわーん!」


 俺は癒しを求めて近くにいたエリ先輩に泣きつく。癒される。俺は決して貧しくなんかない。あくまで普通なのだ。

 

「で、美佳ねえ。何しに来たの?優ちゃんをからかうため?」

「うんや。さっき言ったろ『未来の後輩を探しに大学からスカウトに来る』って」

「え?」

「監督。こっちです。このちっこいのが妹の優莉です」


 そういうと俺をエリ先輩から引き離し(美佳ねえは女にしては力が強い!)、再び俺を美佳ねえの前に立たせる。


 !!だから!人の頭にその物体を押し付けるのはやめろ!!


 俺と向かい会うのは背の高いスーツを着たおっさん……多分アラフォーといったところか?

 「初めまして。立花 優莉君。私は天馬大学女子バレー部監督の大貫(おおぬき) (ただし)だ。君がもし2年後もバレーボールを続けていて、進路に迷うことがあるならぜひ私か天馬大学に連絡を入れて欲しい」


 そう言って俺に名刺を渡す大貫監督


「初めまして。立花 美佳の妹の優莉です。……これはスカウトということでしょうか?」

「スカウトというには少し早いかな。君の試合動画を見たが、もう少しバレーボーラーらしい動きが出来るようになってほしい。今は君の可能性に期待する、ただのバレーボールが好きなおじさんだ」

 俺の問いには苦笑で返された。まあ、俺未だにスパイクとサーブだけだし、そのスパイクもオープントス限定だしなあ。

 

「優ちゃんすごい!もう美佳ねえと同じ大学からスカウトが来るなんて!」

 いや陽菜よ。聞いていたのか?スカウトじゃねえよ。ただの顔見せってさっきいってただろ。

 

「優ちゃんすごいね!天馬大学って去年は東日本インカレで優勝。全日本でも準優勝だった名門だよ!」

 そりゃ美佳ねえがいるんだから強いだろうさ。というか明日香ってどこでそんな情報仕入れてくるんだ?

 

「お前ら、何をしているんだ?」

 あ。佐伯先生が戻ってきた。

 

「顧問の先生ですか。ご挨拶が遅れました。私は天馬大学女子バレー部監督の大貫と申します。よろしくお願いいたします」

「えっ?あ、私は松原女子高校バレー部顧問の佐伯です。こちらこそよろしくお願いします」


 あ、これ大人同士のめんどくさい話になるパターンだ。

 

 俺達はその場をそそくさと離れた。

 


======

 視点変更

 優莉&陽菜の実姉 兼 姫咲高校OG

  立花 美佳 視点 

======

 

 監督からの依頼で悠……じゃなかった優と監督を引き合わせてからしばし。インターハイ県予選 準決勝 松原女子高校と姫咲高校の試合が始まった。

 

 この試合は非常に応援しにくい。片方は妹達のいるチーム、もう片方は自分の出身校でお世話になった恩師やコーチ達は未だに残っているチーム。どっちにも勝ってほしい。でも勝ち抜けるのは1チームだけ。

 

 そんな試合は姫咲高校のサーブから始まった。

 

 ……松原女子高校のリベロはレベルが高い。優狙いのサーブを代わりにレシーブ。それを陽菜があげて……

 

 うひゃー

 

 高いなあ

 

 初めて生で優のスパイクを見たけど、打点がとんでもなく高い。高校男子どころか男子のプロ級かもしれない高さだ

 

 

 さらに試合が動く。

 ……あれ?松女は戦略をかえてきたか。優をセンターエースに据えている。男子ならともかく、女子でセンターエースを置くのは初めて見た。

 

 

 けど、理にかなってるかな。優は腕をひねって振り切るのがまだ苦手だからスパイクのコースわけが苦手だ。それに対し、センターから打つのなら助走は一緒、最後にジャンプするときにちょっと腕を左右に調整するだけで簡単にコース分けできる。助走経路でコースがバレたりもしない。ブロックだって優を中心にした方が高さも出るし。


 




「で、監督。うちの妹はどうですか?」

「すごいな!見ろ!立花!あの高さを!そしてあの威力!試合前は努力を促すためにああいったが、本音は今すぐにでも特待生枠で欲しいくらいだ」

 そりゃそうだ。あの高さ+威力。女子バレーの常識を根本的に破壊するすごさがある。

 

「監督。うちの後輩達はどうですか?」

「……さすが赤井監督だ。全員最低限以上の水準の技術を持ち、そのうえで各人が何かしらの武器を持っている。仮に今年の3年生が赤井監督の推薦状付きで天馬大学を指名するならスポーツ推薦枠を空けないこともない」

 

 優は無条件で特待生。後輩達は条件付きで推薦入学を認めないこともない、という状態。

 

 ……残念ながらこれが現実。今年の姫咲高校3年生達は悪い言い方になるけど『谷間の世代』と言われている。

 もちろん普通の高校だったらレギュラーをとれるんだけど、姫咲のレギュラー枠はそんなに甘くない。彼女達は過去2年間、公式戦には出ていない。3年になってようやく数名が出るようになったけど、その起用方法は下級生と併用という扱いだ。


 今年の3年生達は決して天才ではない。秀才ですらない。愚直に努力を重ねた凡人達だ。バレーボールの才能は優はもちろん、陽菜にだって劣るだろう。

 

 

 

 

 

 

 でね、優、陽菜。覚えておいて欲しいんだ。










 松原女子高校 VS 姫咲高校

  第1セット 

       31-33

       

  第2セット 

       19-25

       

  セットカウント

        0-2


 姫咲高校 インターハイ県予選 決勝進出



 バレーボールは強力なスパイクを打てるチームが勝つわけじゃないってことを。


次は13時ごろ投稿予定

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