027 男子校の常識、女子校の常識、共学校の非常識
ギャグ回というか箸休め回
時系列は玉木商業戦の翌日日曜日
俺はとある事情があっておおよそ1年前に突如として女になってしまった。しかもだ、男だった時の身長は180cm越え。対して女になった当初は150cmもなかった。
現代医学で身長を手術跡も残さず30cmも縮めるのは不可能であろう。遺伝子検査とやらもやってみたが男の時とは完全に別人。
これじゃあ日本で生活できないので、出生をでっちあげたりなんなりで今年の4月からはれて女子高生として人生をやり直しているわけだ(ちなみに、本来であれば去年高校を卒業しているはずであったが、これまた事情があって高校は男だった時でも1年の6月上旬までしか通えていない)。
で、この辺りを一々公表していると説明が大変だし混乱させるだけなので、詳細を知っているのは俺の家族とプラスαくらいだ。
ピンポーン
家のチャイムが鳴る。
「よう、待ってたぜ」
「おう」
「久しぶり」
玉木商業との激戦の翌日、日曜日。立花家に詳細を知るプラスαの二人が遊びに来た。
澤田 祐樹
佐藤 雄太
面と向かっては言わないが俺の親友。小学生1年の時にたまたま同じクラスであったことから始まった腐れ縁は中学3年まで続き、何と高校も同じ高校を選んでいた。
といっても前述のとおり、俺は1年の時の6月から高校には行けなかったのでこいつらとの高校の思い出はほぼない。
今となっては俺が男だったと知る家族以外の人間で性別が変わっても親友と呼べる唯一…じゃねえや唯二の存在だ。
そんな友人だが、こいつらといざ会って遊ぼうと思うとなかなか難しい。祐樹は浪人生、雄太は大学生、俺は女子高生。いや、俺童顔で寸胴、おまけに平均以下の身長だし、下手すると中学生に見られるかも?
でだ、そんな男2人+女1人が一緒になって外で遊んでたら悪目立ちする。男1人+女1人だったら(大変遺憾ながら)カップルにみられるだろうから問題ないんだろうけど。
そうなると色々めんどくさそうなので、外に遊びに行くのはダメ。だったらインドアならとおもうが、相手の家に行くのもダメだろう。女子高生が軽々しく大学生相当の男の家に遊びに行くとか、どう考えても犯罪臭しかしない。祐樹や雄太の家に上がり込んでおばさんたちに通じる言い訳が全く思いつかん。
そんな事情もあり、俺達があって遊ぶとなると我が立花家となるのである。今日のお題はこの前の木曜日に発売されたとあるパーティーゲームの新作だ。
「んで雄太。大学ってどんなもん?」
「ん~なんというか自由な感じ?」
「祐樹、浪人生はどんなもん?」
「廃人プレイが捗る」
「…お前、もう1年浪人する気か?」
「悠司、女子高生ライフってどんなもんだ?」
「俺も聞きたい。しかも行ってるのが女子校だろ?すっげー羨ましい」
「…なんというか獣とおっさんの巣窟?」
「「なにそれ」」
…聞いたら女子高のイメージがぶっ飛ぶぞ。あいつら、慎みと恥じらいって単語が頭から抜け落ちてやがる。
「それにしてもお前、休日だってのにスカートなんだな」
「今日は暑いからな。こっちの方が涼しい」
「そういう問題か?」
「言いたいことはわかるが、あれだ。もう慣れた」
「…慣れるもんなのか」
「あぁ。慣れる。ついでに慣れるとこの解放感はいい。例えるなら今までずっとブリーフだった奴がトランクスに変えると最初は頼りないけど、慣れると解放感のあるトランクスの方がいい、に近い」
「え?そんなもんなの?」
「おう。そんなもんだ。」
なんて話してると俺の部屋に到着。別に豪邸ってわけでもないしな。
「あ、入る前に行っとくぞ。一応片づけてあるが、部屋荒らしはすんなよ」
「ん?なんか見られちゃまずいもんでもあんの?」
「生理用品とか見ても固まらない自信があるなら荒らしてもいいぞ」
「…」
ほら言わんこっちゃない。俺だって『生理用品』って単語を素面で緊張もせずに言えるようになるのに時間がかかったんだぞ。
ガチャッ
「いつも通り、適当にくつろいでくれ」
「う~ん。女になっても見た目とか基本的なところは変わんねえな」
「そりゃそうだろう。俺は俺なんだし」
「模様替えくらいしないの?」
「するだけ面倒」
「でもそれっぽい小物はあるんだな」
「たま~に松女の連中が遊びに来るんでな。その時用のカモフラージュ」
「でもなんかいい匂いしなくね?」
「おぉ!鋭い!いい感想だぞ!祐樹!実はな、男と女とでは体臭が違うんだよ。男の体臭にはアンドロステノンつう物質が――」
最初は気が付かなったが、男と女では体臭が違うし、においの感じ方も違う。さらに俺限定で言えば、男女の違いを自己体験で学んでいる。
いつぞやだったか、バレーの練習で汗だくになってつい、男だった時の癖で着ているシャツを引っ張って(これをやると下着が見える、だとかで陽菜にすごい怒られる)顔をぬぐうとなんというか汗以外に甘いにおいがするのだ。
最初は気のせいかと思ったが、これは科学的に証明された事象であることが調べてわかった。人体とは実に不思議なものである。祐樹が感じ取ったのは俺の女としての体臭の残滓だろう。別に変なことではない。人間生きていれば汗をかくし、どんなに頑張ろうと絨毯やベッド、毛布には体臭が染みつく。
で、この感動を分かち合うべく、俺は人体の不思議講演をしていると二人から残念な子を見るような目を向けられた。
「やっぱお前って悠司なんだな」
「あぁ。この残念ぶり。見た目は違うが間違いなく悠司だな」
いやなんで俺が残念な子扱いなんだよ!
がちゃがちゃとゲームの配線を行い、ソフトを入れて電源オン。
ちなみに3人ともゲームをするときの姿勢がある。祐樹は俺のベッドに座り、雄太は寝転がってやる。俺はクッションの上に胡坐だ。
「ってちょっと待て。おい、悠司。スカートで胡坐なんぞすんな」
「あ?別にいいだろ」
「いや、よくはないだろ」
「あぁ。パンチラを気にしてんのか。安心しろ、スカートの下は丈の短いスパッツだ」
証拠とばかりにスカートをまくって見せてやる。これでゲームに集中でき――
「陽菜ちゃん、陽菜ちゃーん!大至急悠司の部屋に来て!」
おぃいいい!!なんでそこで陽菜召喚になるんだよ!
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「だからさ、いつも言ってるよね。優ちゃんはもう女の子なんだからみっともないことしちゃダメだって!」
「いたた。陽菜、痛いって!」
「陽菜、じゃなくて陽菜お姉ちゃん!」
あの後、雄太の声で召喚された陽菜は、召喚された理由を聞くとなぜが激怒。現在俺を折檻中である。解せぬ…
「ま、待てよ…じゃない、待ってよ、陽ねえ。私ちゃんと下にスパッツ履いているから別に下着が見えるわけじゃないんだよ」
俺の弁明はなぜか耳を引っ張る陽菜の腕の力を強めるだけだった。
「今、優ちゃんが着てるそれは見せるものじゃなくて、万が一、見られた時のためのものなの!自分から緊急事態を招いちゃだめなの!わかった?」
「おぉー。話には聞いてたけど、本当に悠司って今は陽菜ちゃんの妹やってんだんだな」
「あー、ほら、戸籍上は俺の方が誕生日が遅いし、俺の方がどう見てもガキンチョだからって陽菜、本当に痛いって!」
「だ・か・ら!陽菜お姉ちゃん!」
「ねえ、陽菜ちゃん。悠司ってそんななりでも前より力が強いんだろ?ということは悠司が本気になれば陽菜ちゃんなんて簡単に抑え込むことが出来るはずだよね?それでも陽菜ちゃんにいい様にやられてるってことはそれなりに反省してるってことだと思うから、その辺で許してあげれば?」
雄太の言葉に渋々手を離す陽菜。あー痛かった。
「けどさ、こんなんで悠司は女子校で女子高生やっていけんの?」
「うっ…それが、女子校だからやっていけてるというか…」
「さっき言ったろ。あそこは獣とおっさんの巣窟だ。例えば、今、もう6月も後半で暑いだろ?そうなると教室中で、『あ゛つ゛い゛~』とかいってスカートであおぎだす。もちろん、下にスパッツだとかブルマだとかは履いてない。パンチラを超えたパンモロの世界だ」
「「えっ?」」
「あと、あれだ。体育がひどい。俺はてっきり女子って体育の授業は大人しいもんだと思っていたが、あれは野郎の視線があったからなんだと実感してる。サッカーとか咆哮あげながら突っ込んでくるからめっちゃ怖い」
「うそだろ?」
「いや、マジ。そうだよな…じゃないや。そうだよね。陽ねえ!」
「そうなんだけどさ、もうちょっとオブラートに包むとか…」
包んでるだろ。スカートの中をうちわであおぐとか、授業中でも腕の毛を抜くとかは言ってねーし!
「そこいくと、俺なんかマシな方だ。このクソ暑い中でもブラが透けるのはみっともないって思うから授業中でもベストをちゃんと着込んでるぞ。ところが周りの連中はベストを着ないどころか、ブラウスのボタンだって人によっては上3つもあけるもんだから、思いっきりブラが見える」
「ま、まって。まってよ。祐樹にい、雄太にい。確かにそういう子もいるけど、全員が全員そんな子じゃないからね!」
「陽菜はどっちか―――痛い痛い!引っ張るなって!」
「ふ、2人とも誤解しないでね。女子校だからってみんなそんな子なわけじゃないからね」
そうだな、そんな子ばかりではないが、慎みをもって行動しているのは圧倒的にマイノリティだな。
「ま、まあ、異性の視線がないとフリーダムになるよな」
「そうそう、俺達も大概だったし」
祐樹と雄太、ついでに男だった時の俺はこの辺にある松原高校という男子校に通っていた。
「思い返せばあっちも大概だったよなあ。この時期になるとシャツのボタンなんて全開だったし・・・」
懐かしいな。もう3年前の出来事なんだよあ。
だが、ここで俺の思い出話に追加攻撃が加わった。
「…そうか。そういえば悠司のいた頃はまだ大人しかったからそんなもんだったよな」
「1年の6月だからな。2ヶ月じゃまだまだ男子校の真実は見れてないよな」
「ん?じゃあ真実はどうなるんだ?ひょっとして上半身裸とか?」
「パンイチ」
なぜかサムズアップ+ドヤ顔の祐樹。
そうか、パンツ一枚か
「へ、変態!!」
これは予想外。陽菜の顔が真っ赤になった。あれれ?こんなに下ネタ耐性低かったか?いや、そもそも下ネタっていうレベルですらないぞ?
「陽菜。俺達だって上半身ブラ一枚でうろつく奴がいるんだ。そんな奴は男子高生から見れば痴女と思われかねん行動だぞ」
「そ、そんな局所的例を出して比較しないで!」
「俺達のキャストオフも全員がやってるわけじゃなかったが・・・」
「まあ半分くらいはやってたよな。俺はやってないけど、祐樹はやってた」
「てめえ!何自分だけいい子ちゃんになってんだよ!」
「事実だろ。でも悠司ならわかってくれると思うけど、夏服でもスラックスって結構暑いというか鬱陶しいんだよね。だから祐樹たちの気持ちはよくわかる。俺だってみっともないと思ったけど、スラックスの裾をまくってたし」
「だよなあ。スラックスって汗をかくと引っ付いて結構うざいんだよな。その点、スカートはいいぞ!涼しい!…まあ難点をあげるなら常に脚が見えるからムダ毛の処理が面倒、ってところだな」
「ムダ毛って、あぁ。前にSNSで言ってた奴か。女って大変だな」
「ところでさ、俺達は男子校、陽菜ちゃんは女子校に行ってるわけだけど、共学校ってどうやって涼をとるんだ?あれか?誰も脱がないのか?」
「なんで脱ぐって発想になるんだよ!」
「聞いてみるのが一番じゃね。ちょっと涼ねえ呼んでくるわ」
涼ねえとは俺達姉妹の長女にして長子。昨年大学院を卒業し、今年25歳になる才媛だ。おまけに(身内のひいき目もあるだろうが)美人で性格も温厚というスーパー超人。
……運動神経だけは並み以下だけど。
「……私の知ってる高校生の姿ではないわね」
で、呼び出した涼ねえに男子/女子校の涼の取り方を伝えたところ、あきれ果てた顔でこう言われた。
「じゃあ、涼ねえの知っている高校生の涼の取り方ってどんなのさ?」
俺達のききたかったことを代表して陽菜が聞いてくれた。
「そうね。私の通っていた宮園高校の話で、もう7年以上昔の話になるけど、その頃は扇子で涼をとっていたわね」
へ?SENSU???
「下敷きだとみっともないし、うちわだと薄いけど横幅自体はそれなりのスペースをとるじゃない?その点、扇子だとたたむと小さくなるしで男女問わず、流行ったわね」
なにそれ優雅。というか、パンツ一枚とか、スカートの下からうちわであおぐとかの世界と違い過ぎる・・・
「そうそう、流行ったと言えば扇子も親骨・仲骨に香木を使用したものが流行ったわね。あおぐたびに香木から――」
「「「「嘘だ!!!」」」」
俺達4人の魂の叫びがハモった。
「なんですか!それ。男子校と共学ってそんなに違うんですか!」
「涼香お姉さん、それ、話盛ってないですよね?俺達と共学って何が違うんですか!!!」
「あれか、偏差値か?偏差値なのか?」
「そうかも……。祐樹にい達の松高も私達の松女も偏差値62~66くらい。涼ねえの宮高は確か75くらいだったから……」
「ぐはっ……。頭がいいと涼の取り方にまで教養があるってことかよ!」
「ひどい……。同じ高校生なのに何が違うんですか!扇子なんて高尚なものを使う高校生がなんで現代日本に存在するんですか!」
「サンプルを間違えたんだよ!共学とか女子校以前に、涼ねえの高校はエリート校だから参考にならないんだよ!美佳ねえ!美佳ねえに聞こう!」
「ちょっとまって、俺、美佳ねえに連絡してみる」
「……あなた達、くだらないことで美佳を呼び出しちゃダメよ」
その後も俺達はゲームそっちのけで男子校/女子校の生態と共学校出身の涼ねえからツッコミで大いに盛り上がった。
悪いとは思ったが、一番爆笑したのは松高にもあったバレンタインのイベントだ。
男同士で既製品のチョコを持ち合い、みなで食い友情を深めるイベントらしいが、もうそれって彼女がいないからやけくそで開いているイベントだよな?
次回投稿は月曜日ですね