025 VS玉木商業 その9
バレーボールという球技には一度のプレイで複数の点が入るようなルールはない。
野球のように1度に4点入ることはないし、アメフトのようにタッチダウンなら6点、キックなら3点といった具合もない。
1点1点の積み重ねで点を取っていくしかない。
そしてその1点の積み重ねはなにも自分たちのプレイだけで生まれるわけではない。相手のミスからだって生まれる。
サッカーのPKでゴールの枠外にボールを蹴っても相手の得点にはならない。バスケでフリースローを外したからといって、相手の得点とはならない。
しかしバレーボールでは相手のコート外にスパイクを打てば相手の点になるし、山なりのチャンスボールでも落としてしまえば相手の点となる。
現在21-21 なんとか追いついた。あと4点。 このセットをとった方が来週のインターハイ県予選 準決勝に進める。
玲子のサーブ。玲子も玲子で女子には珍しいジャンプサーブだ。俺ほどめいいっぱい飛んで、腕もスパイクの様に振り下ろして打つわけではないが、高い打点からのサーブは強力だ。それがいいところに飛んだ。
が、敵もさるもの。そのボールをあげてこちらにスパイクの構えだ。
まだ飛ばない。もう何度も引っかかった。セッターがトスを――
ツーアタック!
相手セッターが右手で押し込んだところを反対に押し返してやった。初めてツーアタックを防げたぞ!・・・まあここまでに玉木商業相手だけでも5回以上ツーアタックを許しているわけで、偉そうに言えないが。
これで22-21! 逆転だ!
続けて玲子のサーブは・・・惜しくも相手コードのエンドラインを超えてしまった。
「ドンマイ、ドンマイ。いいサーブだったよ!さ、切り替えて!」
エリ先輩が声をだす。うん。実際いいサーブだった。気にするようなものではない。攻めなきゃこっちは勝てない。
22-22 再度同点
今度は相手からのサーブ。威力はさほどではないが俺を狙ってきた。高さはオーバーにするには低く、アンダーにするには少し高い。俺はどちらかと言えば(本当にどちらかと言えばの世界)オーバーの方が得意なので、慌てず、騒がず2歩前に出てオーバーで・・・
あっ・・・
すんません。取ろうとしたら、後ろに流れまし――
「カバー!!」
エリ先輩が叫ぶ
「優ちゃん、ラストお願い!」
俺の後ろにいた明日香がフォローをしてくれた。ボールは高くネットの中央ほどの位置へ。なお、この後ろからくるトスを2段トスというが、俺はこれがあまり苦にならない。スパイカーによっては苦手とする人もいて、うちだと明日香が好きじゃないと明言してる。
まあ、俺の場合、「レシーブはさておき、コートのどこであれ、どこからであれ、高く上がったボールをスパイクする」だけに特化した練習をしてるからなあ。俺が明日香に勝ってるわけじゃない。俺は俺だし、明日香は明日香でいい。
俺の失敗を明日香がカバーし、それを俺がスパイク。どうでもいいけどコート中央からのスパイクは打ちやすいな!コースのうちわけだってターン(左にスパイクを打つこと)とクロス(右にスパイクを打つこと)の使い分けがレフトからスパイクを打つよりずっとしやすい。
レフトからコースを打ち分けるには助走のコースを変えたり、腕や体を変にひねらなきゃできないし・・・
俺だけがおかしいのか?あとで陽菜に相談してみよう。
ともかく、このスパイクが決まった。これで23-22!
再度サーブ権はこちらに。ここで待ってました!エリ先輩のサーブだ!
エリ先輩は相変わらず嫌らしい(って言ったら怒られるけど)場所に打っている。今回はイケメン先輩のちょっと前。ここに打つと、セッターであるイケメン先輩がレシーバーになる。
普通のチームだったらセッターがファーストタッチをするとトスが単純になり、攻撃が単調になる。選手の多能工化が進んでいる玉木商業と言えども多少は攻撃が緩くなる!
やっぱりエリ先輩のサーブは外道だな。
案の定、イケメン先輩がファーストタッチ。いいレシーブだが、これでトスは出来ない。代わりのセッターがトスをあげるようだ。と、そこにイケメン先輩2号が駆け込む。スパイカーか?
タイミング的にマイナステンポ。
!イケメン先輩がトス役じゃなくてもマイナステンポでスパイクできるのか!
イケメン先輩2号が駆け込む。俺も合わせて――
って!!!
トスは平行に飛んでった!トスの先には別のスパイカー!マイナステンポのAクイックと見せかけてファースト・テンポのBクイックだったのかよ!
ギリギリまで飛ばなくてよかった。すぐさまボールの方へ走り出し、ブロック!何とか触れた!
けど、シャットアウトじゃない。ワンタッチしたボールは俺のすぐそばを落下している。俺が拾わ――
「優莉!私が取るから、助走距離の確保に動いて!」
そこでフォローしに来てくれたのは美穂先輩だった。先輩の助言に従い、助走距離確保に動く。
「陽菜!」
美穂先輩が落ちかけたボールを救い、陽菜へつなぐ。軌道は低いが、陽菜ならきっと――
「陽ねえ!」「優ちゃん!」
陽菜がアンダーハンドレシーブで高いトスをあげてくれる。美穂先輩の機転で助走距離も取れた。これなら!!
俺のスパイクが決まり、24-22!あと1点!
けれどもそこは県下最強の公立高校と名高い玉木商業。簡単に折れてはくれなかった。
続くエリ先輩のサーブをAパスでセッターに返すと、なんとここで、レフト、センター、ライトからの囮2枚を組み合わせたファースト・テンポの速攻を仕掛けてきた!
3枚スパイカーの本命を見抜けず、ボールも落とし、これで24-23。
バレーボールという球技には一度のプレイで複数の点が入るようなルールはない。
野球のように1度に4点入ることはないし、アメフトのようにタッチダウンなら6点、キックなら3点といった具合もない。
1点1点の積み重ねで点を取っていくしかない。
そしてその1点の積み重ねはなにも自分たちのプレイだけで生まれるわけではない。相手のミスからだって生まれる。
サッカーのPKでゴールの枠外にボールを蹴っても相手の得点にはならない。バスケでフリースローを外したからといって、相手の得点とはならない。
しかしバレーボールでは相手のコート外にスパイクを打てば相手の点になるし、山なりのチャンスボールでも落としてしまえば相手の点となる。
漫画とか、ドラマだとかだとここで新技を閃いて勝敗が決まったりするんだろうけど、現実はそんなこともなく、もっとショボいもので決まったりする。
何がいいたいかというと――
ピッピーーー!!
24-23になっての相手からのサーブ。が、このサーブはネットに阻まれ、俺達のコートに届かなかった。
松原女子高校 VS 玉木商業高校
第3セット
25-23
セットカウント
2-1
松原女子高校 インターハイ県予選 準決勝進出