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023 VS玉木商業 その7

例によって続きは次の土曜日までお待ちください。

最近の執筆ペースは

月から金で1話。土曜日で1話。日曜日で1話です。

 第2セットは勝ってる。俺が主たる得点源ではないけど、このセットは多分取れる。現在玲子が前衛中。そのためローテ上、対角にいる俺は出番をユキに譲ってコート外にいる。


 その玲子が凄い。スパイクはクロスとストレートを使いこなしている。まあ、ストレートの方はクロスほどキレていないが、高い打点はクロスと相違なく、ボールも普通の女子高生バレーの水準ではない速さだ。


 元々跳躍が得意であり、空中での一瞬の判断でブロックを避けられる方へスパイクを打てる判断能力は今の俺にはない能力だ。というか、あんだけ高く飛んでるんだから、レシーバーの開いてるところくらい瞬時に判断しろよ、俺。


「こんな試合もある。玲子はお前がサーブ練習している間もスパイク練習をしていたんだ。技量に差が出て当然だ」


 先ほどから(鏡を見てないから断言できないけど)暗い表情を浮かべているだろう俺を、佐伯先生が慰めてくれている。いや、でもその慰めは勘違いですわ。別に誰が点を取っても構わない。バレーはチームスポーツだから俺の活躍よりチームの勝利の方が大事。俺が1セット25点取る必要なんてない。俺は俺の役目を果たせばいい。

 

「・・・大丈夫だ。バレーボールは軽い。現に自分で歩いてコートを出て行った。あのくらいで何かあったら今頃サッカーではヘディングが禁止になっているはずだ」


 正解。


 体こそ正真正銘女になっているが、心は男のつもりである。不可抗力とはいえさすがに女性の顔面にボールを当ててしまったことに対し、何も思わない程、腐っているわけではない。さらにそれで病院行きになったらと思うと・・・

 いや、それくらいならまだしも例えば脳震盪とか・・・

 

 それに試合としても申し訳ない。俺がスパイクをぶつけた選手は向こうのエース格の選手だった。攻撃の要を失った玉木商業は第1セット程多彩なコンビネーションを見せていない。そも選手が4人も変わっている。大会パンフを見るに2年生のようだ。


 多分あの連携は同じ練習を複数年に渡ってやっている同学年だからこそできるものなのだろう。第1セットなら拾えたボール、強打に出来たはずのボールが第2セットでは鳴りを潜めた。

 

 わざとではないが、こういう勝ち方をしたかったわけではない。

 

 ・・・ん?

 

 

 先ほど俺がボールを当ててしまった選手が戻ってきた。

 

 なにやら向こうの監督と話している。

 

 あ、メンバー交代。さっそくコートに入るようだ。

 

 試合に出れるってことは何ともなかった、ということか。まずは一安心。第2セットを壊したことは申し訳ないが・・・

 

 

 

 

 

 ほえ????


 なんだ?今のスパイクは?


 イケメン先輩のあげたトスを帰ってきたイケメン…ややこしいな、イケメン先輩2号と呼ぼう。とにかくイケメン先輩2号がコートに戻ってくるなり、さっそくスパイク。そのスパイクがなんか速い?


 Aクイックなのは間違いないし、スパイクそのものはそうでもないのかもしれないけど、間というかタイミングが速い?助走するタイミングが今までのファースト・テンポよりさらに速い。


 ファーストタッチをした直後にはもうスパイクの助走を始めていたし、セッターのイケメン先輩にボールが届いたときにはもうジャンプ寸前だった。そこを中央からのAクイックだったんだが、なんか変?


「先生!今のは何ですか?」

「あれはマイナス・テンポでAクイックを使ったんだ。優莉もバレーを始めて2ヶ月経ったからわかってきたと思うが、バレーボールは“間”があるスポーツだ。相手がレシーブして、トスをあげて、アタック。この間は自分達は相手からの攻撃に備える時間になるんだ。この時間が短いと攻撃に備える時間が短くなるわけだ。当然さっきみたく間を外されると守備が出来ずに失点につながることがある。…やられたな。あっちはあんなことも出来たのか」


「なんで第1セットはやってこなかったんでしょうか?」


「単純に条件が揃わなかったんだろう。あれ、難しいぞ。セッターとスパイカーの位置、レシーバーの返球方向に助走経路が揃ってないとできない。それにブロックのシフトをスプレッド・シフトにしたのも悪い方向に作用したな。今は中央が一人しかないから、そこを突かれた感じだ。第1セットは中央には3人ブロッカーが待機してただろう?3人のうちだれか1人でもブロックに飛べていたら、高さでは上のこちらが有利だ。それを嫌がって第1セットは使わなかった。第2セットは中央に1人しかないから仕掛けた、だと思うな。」

 

 んじゃブロックのシフトを変えたのが失敗だったのか?いやいや。そうでもないとあっちのスパイカー複数体制での速攻攻撃に対応できない。ブロックのシフトはスプレッド・シフトの方がベストではないかもしれないがベターのはずだ。


 

 


 

 続く玉木商業の攻撃。

 またイケメン先輩2号は妙なスパイクを打った。なんだろう。軌道が変だ。ブロックの内側を通るようなスパイクだ。


「あれは腕をひねって打つインナースパイクだな」

「インナースパイクって、こう、ネットに対し、もっと鋭角で走り込んで打つスパイクですよね?」

「普通はな。あれは手のひらにボールが当たって本来はまっすぐ振り下ろすところを外側にひねって打っているんだ」


「私にもできますか?」

「まずやってみろ」


 さっそく試してみる。イケメン先輩2号のように右手を上げて本来はまっすぐ振り下ろすところを右側にひねって・・・

 

「あいた!!」

「と、普通はそうなる。よほど肩の柔軟性がないとあんなスパイクは出来ない。だが優莉。お前は覚える必要はない」

「?なんでですか?」

「あれはブロックを避ける技の一つだ。ブロックより高く飛べるお前には不要。そもそも先に覚えるべきことがたくさんある。そして覚えるべきことを覚えてしまえばどんなブロックもレシーブもお前を止められない。だから小細工は不要だ」

 

 ・・・そんなものだろうか?とりあえず俺はうなずいておく。正しいか、間違っているか判断できないし、言われた通り、俺には先に覚えるべきことがたくさんある。

 

「これもあの選手にブロックが1枚ではなく3枚だったらブロック出来たな。ブロック1枚ならともかく、ブロック3枚の内側をインナースパイクで打ち抜けるとは思えん」


 ですよね。

 これもブロックのシフトを変えたことによる弊害だ。

 

 しかしなぜ、玉木商業はこのタイミングで新技を見せてきたのだろうか?第2セットは現在23-15。ここから逆転は難しいはず。だったら切り替えて第3セットまで新技披露は待って、そこで披露したほうが効果的……


 

 



 もしかして、そういうことなのか?

 

 

ちょいと真面目なバレーボール解説


☆マイナス・テンポ

 某週刊誌に連載中の漫画「ハイ○ュー!!」では誤用されていますが、本来のマイナス・テンポはトスより前に助走が『完了』している状態、ジャンプする直前/直後くらいでトスをあげることです(漫画ではジャンプが完了し、腕をフルスイングしているところにパスをぶち込むというトンデモ技です)。

 それなりに難しい技ではありますが、小学生でも使うところは使います。というかリアル小学生だった当時の私が所属するチームの対戦相手に使われました。なお、相手は全小に出るチームでした。

 マイナス・テンポ自体はネットで調べるとすぐに出てくるはず。見たことない人は調べて欲しいです。女子チームが使っているシーンなんて見当たりません(笑)

 つまり玉木商業もフィジカル面で大概おかしなチームです。現実世界のタグを外したほうがいいか迷ってます・・・



☆スパイク時、腕をひねるのは正義か?

 自分で書いてて疑問なのがこれ。私がバレーをやっていたのは公式球が真っ白けな時代だったわけですが、その時にスパイクは真っすぐ打つものだと教わっています。曰く「小手先の小細工をするな」と。

 で、プロの試合とかでも腕をひねってスパイクコースを変えるケースって見かけません。相撲の猫騙しや変化のようなものなのでしょうか?ただ、有効なのは間違いないので、本作では使用してみました。

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