表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/208

020 VS玉木商業 その4

======

玉木商業高校サイド

 市川 真貴子 視点 

   

======


 現在23-22

 あと2点で第1セットをとれる。

 

 でもここで相手のサーブは1番。

 

 あの子のサーブは苦手だ。怪物ちゃんみたいに派手さはないけど、ここにだけは来てほしくない、というところに的確に打ってくる。

 

 ・・・私達の表情でもみて判断しているのかしら?

 

 

 

 ピッーーーー!!

 

 サーブが飛んでくる。

 

 って!!!

 

 えっーーーーーー!!!

 

 ここにきてネット際狙うの?

 

 さっきまでずっと選手の間とか、コートの端っことか狙ってたじゃない!第一、ネット際って下手をすればネット超えなくて失点になるのよ?そうなると私達、セットポイントになるのよ?

 

 信じられない。なんという強心臓。多分飛びぬけて図太い性格をしているのね。

 

 千晶が駆け出してオーバーハンドトスで受ける。1番のサーブはフローターサーブという厄介な変化サーブだ。2本の腕で受け取るアンダーハンドレシーブより10本の指で受け止めるオーバーハンドトスの方が安定する……


 

 って!!!私、セッター!!!!!

 

 そっちに私いないよ!

 

 千晶のファーストタッチは微妙に乱れて飛んでった。ちなみに私と逆方向。千晶ぃ……

 

「マッキー!」

 

 おぉ!真理ちゃんが代わりにトスをあげてくれるようだ。で、ハンドサイン……

 真理ちゃんは鬼だった。

 

======

 視点変更 松原女子高校サイド

   立花 優莉 視点 

 

======

 

 エリ先輩のサーブは相手コートのネット付近に飛んでった。ちょっとでも飛距離が足りないと失点、ネットで止まるかもしれないのにそこを狙う豪胆さ。攻めるなあ、と思ったが後で聞いたら実は奥を狙おうとしたらサーブトスに失敗して無理くり打ったらあそこに飛んでったらしい。

 

 そこで「狙ったのよ」ドヤァとしないで正直に言ってしまうのがエリ先輩なんだよなあ。


 そんなキワキワサーブは相手の守備陣を乱した。

 

「マッキー!」

 

 マッキー=真貴子=イケメン先輩のことだよな?

 

 あの呼びかけはどんな意味だったのか。セッターであるイケメン先輩に「私がボールをとる」ということを知らせるものだったのか。あるいは「私がトスをあげるからアタックをして」という意味だったのか。

 

 たぶん後者。勘に頼ったものではない。さっきハンドサインが一瞬見えた。

 

 バレーボールにおいてクイック攻撃やブロード攻撃といった連携を必要とされる技はなにも都度いきなり繰り出しているわけではない。普通はサーブが飛んでくる前にセッターが相手から見えないようにハンドサインを出して攻撃方法を決めている。

 

 相手セッターはイケメン先輩であるはずなので、本来は彼女が指示を出してそれに従い動くはずだが、レシーブを乱されたことで作戦を変える必要が出たのであろう。

 

 さらに言えば向こうの前衛はイケメン先輩、トスをあげる選手、ファーストタッチをした選手の3人。うち、ファーストタッチをした選手は助走距離を確保出来ていない。


 だから多分飛ばない。トスをあげる選手は当然スパイクを打てない。まあ、前衛だからツーアタックは警戒しないといけないけど。また、バックアタックのために走っているスパイカーはいない。故にスパイクはイケメン先輩が打つ。

 

 もちろんブラフである可能性は否定できないが、この緊急事態にそこまでやられたらお手上げだ。

 

 まずはレシーブカバー、ボール、イケメン先輩の3つを注視する。(当たり前だけど、相手コートの全ての物体に注視するなんてできない。怪しいものをより深く観察しないとブロックは成功しない)

 

 ここまでさんざんやられた中で見てきたものもある。いかに玉木商業といえどもスパイクされる時にきっちり体の正面(正確には利き腕)でコースを塞げばブロックは成功する、というのは原則変わらない。そりゃ腕や手をひねったりでコースを変えられるが、発射点となる腕は1つ。そこさえ押さえればブロックは成功する。派手だからと見間違う必要はない。

 

 また、走ってくる方向に飛ぶということも変わらない。特に囮が多いからって右に飛んだものが左に飛ぶわけでもないし、中央から左右に駆け抜けて飛ぶブロード攻撃も結局のところ走って移動しているに過ぎない。

 

 だから大切なのはスパイカーの助走する経路。どこを走ってどこで飛ぶか。それさえ見極めて相手の正面でこちらも飛べばブロックは成功する。

 

 また、俺限定の話をするなら、なにもスパイクを打つ時のように全力で飛ぶ必要はない。本気でジャンプすれば余裕で顔までネットから出るが、ブロックするときは真上に伸ばした腕の肘から上が出るくらいで十分だ。

 

 ……最初の頃は闇雲に飛んでたけど、ブロックって本来こうやっていろいろ考えて飛ばなきゃダメなんだろうなあ。

 

 イケメン先輩が走り込んでくる。多分これはAクイックって奴だ!

 

 イケメン先輩が飛ぶ!俺達も合わせて…って!

 

 なんじゃそりゃ!!!

 

 イケメン先輩は斜めに飛んだ。相手のセッター代理もバックトスでそれに答える!

 

 後で陽菜に教えてもらったが、これはAクイックと見せかけてCクイックで攻撃するエアフェイクという技だ!


 くっ。間違った方向に飛んだが、まだだ。まだ終わらん。小さくジャンプしたのが功を奏した。着地と同時に俺もイケメン先輩のスパイクをブロックすべく、斜めにフルジャンプ!


 スパイクのコースに左腕だけが無理やり押し込めた!これならワンタッチ―――

 

 トスッ・・・

 

 相手からすれば突如ブロッカーが現れたはずなのにイケメン先輩は表情一つ変えない。こうなることを読んでいたかのようだ。

 現にこっちのブロックを見透かしていたかのように右手首でだけで強打ではなく小さく山になるような軌道でボールを押し込んできた。

 

 普段のように正面からブロックできていればこの程度の山なり軌道は弾き返せていたが、今は左腕一本、それが肘から先がちょっとネットから出ているくらいで―――

 

 気が付いた陽菜とユキが慌ててボールに飛びつこうとするが、触る前にボールはコートに落ちた。

 

 22-24

 

 相手のセットポイントだ。

 

「ナイスジャンプ。すごいね。君」

 

 イケメン先輩は俺のジャンプを褒めているようだ。だが、言外には――でもまだまだだね――と言われているのを感じた。


 この人、あの一瞬で強打から軟打に変えるとかどれだけこっちのコートを見てるんだ?


 

======

 視点変更 玉木商業高校サイド

  市川 真貴子 視点 

   ほんの少し前

======

 真理ちゃんからはエアフェイクしろという鬼みたいな指令が飛んできた。

 

 これ、クッソ難しくてしかもめちゃめちゃジャンプしないといけないからしんどくて嫌い・・・

 

 でも愚痴ったからって点には結びつかない。単純にCクイック仕掛けたところで怪物ちゃん達にブロックされちゃうしね。

 

 でいざ本番。怪物ちゃん達は見事に引っかかった!

 

 ブロック引きはがした!ブロックはなし!視界良好!これで――――

 

 

 

 !!!!!

 

 

 目の前に突如白くて細い腕が生えた!

 

 怪物ちゃん!!!

 

 え?フェイクに引っかかった後、助走なしのその場からのフルジャンプでここまで飛べるの?というか、たぶん着地後、すぐにジャンプしてるよね?

 いや、怪物ちゃんの背丈で斜めにジャンプしてここまで腕が出せるものなの?


 ただ身体能力が高いだけの素人じゃない。どうすれば攻撃を防げるかを瞬時に考えて、行動できる判断力も持っている。

 

 動揺した。表情筋が死んでるから顔には出てないと思うけど、怪物ちゃんの驚異的なジャンプ力、判断力に動揺してしまった。

 

 で、スパイクって空中でほんの一瞬でもずれるとうまくいかない。

 

 動揺したせいでそのずれを作ってしまった。いけない。このままだと空ぶっちゃう。私は何とか右手首だけでボールを押し込む。

 

 結果的にはこれが良かった。もし動揺せずそのままスパイクしていたら怪物ちゃんの腕に当たっていたかもしれない。でも、結果はフェイントっぽく決まった。

 

 24-22

 

 私達のセットポイントだ。でも薄氷を踏むようなギリギリのところで加点しているところもある。

 

 怪物ちゃん。君、バレー暦たったの2ヶ月なんだよね?それでここまでできるの?

 

「ナイスジャンプ。すごいね。君」

 

 私は気が付けば敵チームの怪物ちゃんに心からの称賛を送っていた。



======

 視点変更 松原女子高校サイド

   立花 優莉 視点 

 

======


 現在スコアは22-24

 あと1点とられたらこのセットは取られてしまう。俺がバレーを始めて相手がセットポイントになるのは初だ。1ミスで相手の失点になるバレーボールが怖くなる時だ。

 

「みんな。私、いつも通りスパイクするから外したり、ネットに引っかかったらごめんね」


 大会前、アグレッシブなミスはOKと言われている。縮こまって失敗するより派手にやらかして失敗したほうが後悔がない。だからあらかじめ自分で宣言する。チームメイトにも向けてだが、本命は自分自身。己を鼓舞する。

 

「あと2点取ればデュースに持ち込める。まだ負けてないよ!」

 

 エリ先輩も俺達を鼓舞する。

 

 ピッーーーー!!

 

 相手からのサーブが飛んでくる。やっぱりコート外に逃げる俺。


 多彩な攻撃方法を持つ玉木商業だが、ことサーブに関して言うと強烈なサーブを打ってくる選手はいない。全員コントロール重視、みたいな感じ。多分、俺達程サーブを重視していなくて代わりに連係プレイに時間を多く割いているのだろう。


 今回もいいところに飛んできたが、ユキがきれいにセッターに返した。

 

「優ちゃん!」

 

 陽菜が見本のようなオープントスをあげてくれる。

 

 キュッキュッダン!!

 

 バレーシューズがコートと音を奏でる。


 俺はいつも通り飛んでスパイクを――不味いかもしれない!

 

 

 バン!

 

 俺のスパイクは相手選手の頭、たぶん額を直撃した。

 

 普通のスパイクなら気にしないけど、俺のスパイクは速い。速いということはエネルギーもあるわけで……

 

 

「優莉!押し込んで!」「優ちゃん!ボール見て!」


 味方からの声に


「マッキー押し込め!」「マキ、私は平気だから押し込んで!」


 相手からの声も交じる。


 相手選手の頭にあたったボールはそのまま宙を舞い、ネット上空へ。位置的にこっちは俺、向こうはイケメン先輩が一番近い。

 

 押し合いだ。

 

 いろいろ気になるが、俺があててしまった選手をチラ見すると動いているし、声も出しているからきっと平気なのだろう。

 

 悪いが、点を取らせてもらう。ネット上空での押し合いには小細工は通用しない。俺はイケメン先輩より高く飛べるし、力だって負けない。

 

 

 こうなったら俺の勝ちだ!

 

======

 視点変更 玉木商業高校サイド

  市川 真貴子 視点 

   ほんの少し前

======

 

 怪物ちゃんのスパイクから放たれたボールはやっちんの頭でなんかものすごくいい音を立て再び宙を舞った。

 

 「マキ、私は平気だから押し込んで!」

 

 本人もああいってるし、きっと平気だろう。バレーボールは軽いし。

 

 ・・・大丈夫だよね?

 

 ネット際の押し合い。相手は怪物ちゃんのようだ。

 

 私と怪物ちゃんが飛ぶ。

 

 だがボールへの手の位置取りは違った。

 

 身長は私の方が10cmくらい高いはずなのに私はボールを下から押し、怪物ちゃんは上から押す形になっている。

 

 力のかけ方からして上から押す怪物ちゃんの方が有利。加えて元々の力もあっちの方が上。

 

 きっと怪物ちゃんはネット際の押し合いはボールを(出来れば)上から押さえつけて制す、って教わったのだろう。

 

 それは教科書通りの正解で、常識の正解。

 

 でもね、実践だとこんなこともあるんだよ?

 

 

 私はわざと一瞬力を抜く。力を入れていた怪物ちゃんはいなされて体勢を崩す。さらに腕が伸び切ってしまった。それじゃ力をかけられないよね?

 

 私は怪物ちゃんからの力がなくなったボールを左にそらして押し込む。

 

 

 怪物ちゃん。君は本当にすごいよ。


 ただ単純に身体能力が優れているだけじゃない。反射神経、判断力、センス。どれも優れている。


 今のいなしだって次には通用しないかもね。

 


 1プレイ1プレイごとに君は巧くなっていく。そう遠くない将来、君は私なんか相手にならない選手になれるよ。

 




 ただ、それは今じゃない。

 

 


 

 

 玉木商業高校 VS 松原女子高校

  第1セット 

       25-22

次話更新はまた土曜日です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ