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018 VS玉木商業 その2

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 インターハイ県予選3回戦 終了後 

 玉木商業高校サイド

   横田 彩夏 視点

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 3回戦、勝つには勝ったけど先輩たちの表情は暗い。あのクールな市川先輩すら暗い表情をしているように見える。


 ……見えるだけだと信じたい。


「横田。松女の6番……立花 優莉さんだったかしら?彼女と知り合いだよね?どんな子?いったいどうして外国人留学生がただの県立高校にいるの?」

 市川先輩は優莉ちゃんを誤解している。気持ちはわかるけど……

 

「優莉ちゃん……松女の6番はバレーボールのために来た外国人じゃありません。戦災孤児だったのを海外出張中の松女の4番の親が見つけて養女にしたそうです」

 本当はもっといろいろあるが、それは他人の私が軽々しく言っていいことじゃない。 


「そう。悪いことをきいたわね……」

 誤解は解けたが、空気はさらに重くなった……


 一度、汗を拭きに更衣室へ戻り、そのあとで監督の下へ。



 ……うちの監督、熊田先生はなんというか悪役中年体育教師のテンプレみたいな容貌をしている。


 

 白髪交じりの角刈りに日に焼けた黒い肌。いかつい顔に学生時代に柔道で鍛えたというごつい体(今はけっこうな比率で筋肉が脂肪に変わっている)。


 それに年中ジャージ姿。始業終業式程度の式典なら余裕でジャージ。



 でも担当教科は数学。なんでだ!




 

 その熊田先生が不敵に笑っている。 

「ククク。やってくれんじゃねえか。こりゃ止めらんねえわな」

「……監督。何が面白いんですか?」

 

 市川先輩が当然のツッコミを入れる。

 

「おう市川。面白いモンが見れんぞ!」

 熊田先生は持っていたスマートフォンを渡す。横からチラ見する限り、動画の内容は先ほど隣で行われていた松原女子の試合の動画のようだ。

 

 動画を見始めた市川先輩はほどなく小さく笑い始めた。

 

「お、はえぇな。さすが市川。もう気が付いたか」

「はい。横田がヒントをくれましたから」

 

 わけがわからない。私が何をしたのだろう。

 

「みんな。よく聞いて。次の試合、勝ち筋が見えた。はっきり言いましょう。向こうの3番と6番は素人よ」

 

 !!

 

「マキ。でもあんな強力なスパイクを打てる3番と6番が素人とはとても……」


 八巻先輩が市川先輩の言葉を否定する。

 

「やっちん。逆よ。相手はスパイクとサーブしかできない素人。これを見て」


 市川先輩が見せたのはスマートフォンで撮った松女のフォーメーション。それを次々と見せる。

 

「3番と6番はずっと守備をしていない。精々ブロックの時に飛ぶくらい。男子のスーパーエースなら守備をしないで攻撃に専念することもあるし、事実、3番と6番はそう名乗ってもおかしくない破壊力を持ったスパイカーよ。でもね」


 さらに動画から優莉ちゃん達が失敗しているシーンを見せつける。


「これを見て。ボールへの反応がまるで素人。さっき横田に聞いたんだけど、特に6番は別にバレーのために日本に来たわけじゃないそうよ。おそらく高校に入ってからバレーを始めた」


 優莉ちゃんがバレーをやってたなんて聞いたことがないから多分そうなんだろうけど……


「で、でも6番のスパイクが凄いのは事実ですよね?」

「えぇ。彼女のスパイクとサーブは凄いわね。しかもあれがバレー暦2ヶ月で出来るんですもの。天才って奴かもしれないわね。けど、天才でも秀才でも凡人でも『時間』は平等に与えられているのよ。

 素人がたった2ヶ月であそこまでのスパイクを打つのに何を犠牲にしたのかしら?少なくとも彼女はレシーブとトスは捨てた。後何を捨てればここまでのレベルにたどり着くと思う?」

 

 次に、市川先輩は動画の中から優莉ちゃんと3番のスパイクシーンだけを抜粋して見せる。

 

「気が付かない?彼女達は『高く上がったボール』だけをスパイクしている。つまりオープントスじゃなきゃスパイクできないのよ。さらに打った時の方向。レフトから打つ際はクロス方向のみ。クロス方向でなら多少打ち分けは出来るみたいだけど。ストレートにもインナーにも打ち分けられない」

 

 あ・・・

 

「速攻もないからトスが上がってから迎撃態勢をこちらは整えられる。しかも相手のスパイクはクロスだけ。だったらストレート方向に人を割かず、守備をすればいい」


「あの、でもスパイクしてくる方向がわかっても絶対にスパイクが止められるわけじゃないですよね?」


「そうね。多分3番のスパイクは3本に1本、6番のスパイクなんか5本に1本止められればいい方でしょうね、でも無策で行けば5本中5本決まっていたスパイクがすこしでも拾えるなら戦い方が違ってくる。

相手だってミスしないわけじゃない。付け入るスキはある。例えば――」


 ここからの市川先輩は凄かった。動画をたった1度しか見ていないはずなのに次々と相手の弱点を指摘する。その説明。なんだか―――

 

「で、どう?まだ勝てないって思う?」


 不思議と勝てる気がしてきた。

 

「お、ようやくお前らもいい面になったな」


 ここでようやく監督が口を開いた。


「いつも言っていることだが、必要以上に相手にビビる必要なんざねえ。『臆病者には、敵が常に大軍に見える』って格言を知ってっか?相手を実力以上に大きく評価する必要はない。

 そりゃ、あちらさんのスパイクはすげえさ。あんなもん100%止める方法なんてプロでもねえだろうな。だが、攻略法はある。相手は同じ高校生だ。思考を止めず、勝ち方を考えれば必ず勝てる。さっき市川が言ってないことで俺が気づいたことだが―――」

 

 

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 視点変更 

 インターハイ県予選4回戦

  玉木商業高校サイド  

   市川 真貴子 視点 

 優莉がスパイクを打った直後

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 天使ちゃんあらため怪物ちゃんのスパイクは偶然、私の腕に当たった。


 うん。偶然以外の何物でもない。スパイクの方向が読めたってあんな速いスパイクを打たれてから反応して、的確な位置まで移動してレシーブなんて芸当は私にはできない。

 というか、間近でみたそれは想像以上に速かった。豪速スパイクが来るって知らなかったら私も腕を伸ばせなかったはずだ。


 で、私の腕にあたったボールはこれまた偶然天を舞った。

 正直、上にあがれば良し、としていたボールはライト方向に高く上がっている。あのままだと右のサイドラインを超えたところに落ちるかな。

 

 チャンスだ。

 

八巻やっちん!」

 

 私が言う前から八巻やっちんは駆け出している。

 

 右のサイドラインからさらに右側に落ちてくるボールを八巻やっちんがネットの白帯より上を平行に走るようなトスをあげてくれた!

 

 さっすが相棒!欲しいトスをわかってる!

 

 山なりではなく、横一直線に飛んでくるボールに対し、コート中央でスパイクすべく、千賀まりちゃんが飛ぶ!

 

 これに対し、怪物ちゃんはじめ松女のブロック陣も飛ぶ。

 

 千賀まりちゃんの身長は162cm。相手の3枚のブロッカーはジャンプ力を考慮すれば実質身長170cm後半と言ってもいい。

 

 特に真ん中を飛ぶ怪物ちゃんと3番は実質身長190cmクラスの高さをもって立ちはだかる。ブロックを女子には珍しい3枚体制にするのも納得できる。あの高さなら女子高生のスパイクなら大抵止められるはずだ。

 

 でもごめんね。

 

 

 

 

 

 

 千賀まりちゃんは囮なんだ。

 

 

 

 

 

 

 千賀まりちゃんはいかにも打つ気満々で飛び、実際にスパイクする寸前までいったが、あえて空中で手を止めた。

 

 当然ボールはそのまま右から左へ高度を落としながら飛んでいき、レフトへ。あらかじめレフトで打つべく駆け込んでいた私は軽くジャンプし、ネットよりほんのちょっとだけ高いところで右手の指の腹で軽く相手コートへ押し込んだ。

 

 そのまま落ちるボール。気が付いた相手のリベロの小さい子が何とか拾おうと手を伸ばすけど、届かない。

 

 ピッ!!

 

 私達の点が1点加算された。

 






 

 

 怪物ちゃん。君のスパイクはすごいよ。


 

 でもね、バレーボールで点を取るのに必ずしも『高さ』と『力』が必要なわけじゃないんだ。

 

 

 

 

 


  松原女子高校 VS 玉木商業高校

  第1セット 途中経過

       0-2

補足:「臆病者~」は織田信長の発言です。


市川商業の面々

八巻やまき かえで 3年生

千賀ちが 真理恵まりえ 3年生



【重要】

次回更新は次の土曜日までお待ち願います(書き溜がないです)

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