044 月刊誌Vボールの春高特集 ~2年生視点~
本当は2年生 (というか優莉視点)、1年生視点 (というか笑留ちゃん視点)、新ライバル視点の3話同時にアップしたかったのですが、それぞれの話が長すぎていつまでも完成しないんで、まずは2年生視点から公開します。
2学期の期末テストも終わった12月上旬。残る2学期学校主催のイベントはマラソン大会と終業式くらいなものとなった。
期末テスト結果は全教科ではないが、大半が返ってきた。俺のテスト結果はクラス十傑をなんとか維持、といったところ。
で、聞いたところでは今のところ明日香は返却された全教科で48点以下41点以上という絶妙なラインの点を叩き出し続けている。ちなみに鬼門の数学はⅡが45点、Bが46点と赤点を回避している。明日香のクラスでテストが返却されていないのは古典Bと日本史B、そして保健の3科目だ。
明日香は数学が苦手だから、という消極的な理由で文系クラスを選んでいるのであって決して文系科目が得意なわけではない。あとは大丈夫だと思うが保健でまさかの赤点、というのも可能性としてはゼロじゃない。
まあ他人のテストの点なんて気にするようなもんじゃない。
先ほど残る『2学期学校主催のイベントは』という表現を使った。逆を言えば『2学期学校主催』という学校のくくりの外ではイベントがある。
たとえば、俺の鞄の中にもある今月号のバレーボール専門雑誌、月刊Vボールがそれにあたる。ちょっと前までは校内で定期購読しているのは明日香くらいなものだったが、ここ数ヶ月は校内購読者が激増している。
なんせ今日発売の12月号で4ヶ月連続俺が表紙を飾っていることもあって学校の知人・友人が買っているからだ。
ちなみに過去3ヶ月分を振り返るとこんな感じだった。
9月号は(男子の成績が思わしくなかったので早々に)世界選手権へ挑む女子日本代表特集が組まれ、
監督の田代監督、チームの顔の荒巻さん、それに容姿で選ばれた (としか思えない)美佳ねえ+杏奈さん+俺の5人が表紙を飾った。
一応、言い訳なのかもしれないが、雑誌側の見解としては美佳ねえ、杏奈さん、俺の3人が表紙を飾ったのは田代監督体制を象徴する異色の選手だから、ということらしい。
田代監督の選手選考はこれまでの万能型の選手中心ではなく、特化型の選手が多く選出され、全方向に巧い美佳ねえはともかく、レシーブ技術の低い杏奈さんや俺は今までなら呼ばれない可能性が高かった、なんて記事になっていた。この他、女子代表の平均年齢が大幅に若返ったことに対しての特集や有識者からの意見が掲載された。
今振り返ると面白いのが選手選考については挑戦的だとする意見が多く、田代監督も立場上、口では優勝を目標としているが、心のうちでは本命はあくまで五輪であり、世界選手権は今回初選出した若い選手に経験を積ませるのが目的だ、とまで書かれていた。
10月号は世界選手権で勝ちまくっていた時期でホテル住まいだった俺は全く知らなかったが、連日メディアをにぎわせ続けた時に発売されたものだけあって、当然のように常勝の女子代表を取り上げてる。表紙は俺がスパイクを打っているシーン。
このころの時期は田代監督の選手選出眼が凄いとかそんなのが記事になっていた。先月号で田代監督の選出眼を疑問視していた有識者のごめんなさいも掲載されていた。
11月号は世界選手権で優勝した後なので感動をありがとう的な記事で大会前の選手選出から大会での奮闘ぶりを振り返る記事だった。
表紙は女子日本代表の選手だけでなく監督、コーチ含め勢揃いしてメダルやらトロフィーをかかげている全員集合の写真だった。
で、12月号は春高特集でおそらく有力校のエース格が表紙になっているんだろう。
女子では去年試合をしたから覚えている金豊山やら龍閃山のユニフォーム姿の選手、男子の方もなんとなく前の春高で見覚えがあるユニフォーム姿の選手が表紙を飾っていた。
俺が連続で表紙に、しかも一番大きな写真で掲載されていることは仕方なし、とは思っている。
この月刊誌だって商業誌であるし、そうなるとどうしても見た目は重要だ。自分で言うのもあれだが、そりゃあ涼ねえはもちろん、数ランク下の陽菜レベルと比べても格が落ちるが、俺だってそれなりに容姿は整っている。
言っちゃ悪いが、見た目の良い人物とそうでない人物のどちらが表紙となっているものが売れるかと言われれば前者だ。
実際、月刊Vボールの人も世間のバレーボール人気もあってここのところの売り上げは非常に好調で臨時ボーナスまで出たと言っていた。通学途中にあるコンビニもちょっと前までは扱っていなかったのだが、世界選手権での活躍があり、今売れている雑誌ということもあって扱うようにしたところ、すぐに売り切れると言っていた。
俺の鞄の中にある今月号は朝、コンビニに寄って買ったものである。
……自分が表紙の雑誌を買うのはだいぶ恥かしいので正確には陽菜に買ってもらったんだが……
そのまま開くことなく朝練へ。授業中はもとより、授業の合間の休み時間だってじっくり開く時間はなかったので、昼食を食べ終わった今、ようやく開こうってところだ。
……ところだったんだが、買ったのは俺だけではなく、ユキ達も買っていたのでそちらをみんなで見ることになった。
ちなみに昼食はクラスで仲のいい連中で固まって食べるのが流れとなっているので、周りには陽菜の他にユキと愛菜がいる。想像しやすいと思うが、1つの机を4人で囲っての昼食だった。そのまま空になった弁当箱を片付けて4人で囲むように一冊の雑誌を読んでも良かったんだが、横からならともかく上下逆さまじゃあ読みにくいってことで俺、陽菜、愛菜の3人は座ったままのユキの背後やら横から立ちながら雑誌を覗き見ることになった。
ユキが雑誌を開いているのは、まああれだ。ユキはどうしたって背が平均よりほんの少しだけ低い。うん。ほんの少しだ。でもやっぱり低いのでどうしたって座高も低い。なのでユキの背後から雑誌を見るのはそんなに難しくないし、反対に座った陽菜の後ろからユキが雑誌を覗き見るとしたら台座が必要だろう。
「去年もだけど、自分が受けた取材がどんな記事になるのかって楽しみだよね」
「優莉は何か月も連続で特集を組まれているから何とも思わないかもしれないけど、私達にとっては1年ぶりだし」
「いやいや。私だって松原女子の選手として記事になるのは久しぶりだから楽しみだし、ドキドキするよ」
「へえ。意外」
なんて言いながらユキがページをめくる。なになに……
春高特集と銘打った見開きページによると男子は本命不在の群雄割拠、女子は有力校の四強に他校がどこまで食い下がれるか、といった分析をしていた。
「女子は四強ってなってるけど、どこ?」
「明日香じゃないからわからないなあ……」
「えっと……『女子の本命筆頭は松原女子』って私達?!」
「本命扱いなんだ。他には金豊山と龍閃山、あとは桜山??どこ?そこ?」
「あ~。この外国人っぽい人がいるところだね。ほら。胸元に桜山って書いてある」
「……ひょっとしてこの子が近藤さんの言っていた妹ちゃんなのかも?」
「優ちゃん、近藤さんって誰?この子知ってるの?」
俺の近藤さんと言う発言に誰それ?と聞いてくる陽菜。
「この子は知らないけど、バレーボール男子日本代表の近藤 巴羽露さんって知ってる?今月号のVボールでも『春高に挑む選手へ現役日本代表選手からのエール』って特集で出てくるんだけど?」
「そうなの?ちょっと待って」
そう言うなりページをめくっていくユキ。
「あった。ここね」
「……美佳ねえはわかるけど、なんで優ちゃんもいるの?」
「だから特集の最初を見てよ。『って私は応援される側!』って言ってるから」
「あ、本当だ」
「近藤選手って確かブラジル人とのハーフよね」
「そうだよ」
「女子からは優莉ちゃんとそのお姉さん。男子からは近藤選手とこの人は長尾選手だっけ?どういう人選なんだろ?」
「そりゃ見た目が良い人を選んだんでしょ」
愛菜の疑問を陽菜がバッサリ切り捨てた。
うん。近藤さんと長尾さんは男子代表で一番と二番のイケメンだし、美佳ねえは美女、俺も美佳ねえには負けるが平均よりは上の美少女に分類される容姿だと思っている。
そうでなければ人選としておかしい。
4人とも代表のレギュラーではあったが、普通に考えればまずは代表の主将を呼ぶべきだろう。が、俺達4人はそれに該当しない。
とは言え……
「陽ねえ。一応ここに人選理由があるから」
俺は苦笑しながら記事のある部分を指す。
そこには雑誌側の人選理由があり、春高に対する異なる思いを持つ4人を選んだとあった。
高校3年間、毎年優勝大本命とされて見事三連覇を達成した美佳ねえ。
高校3年間、毎年夏のインターハイは制したが、春高での栄冠は後一歩で逃し続けた近藤さん。
高校3年生時、大会前の下馬評は決して高くなかったが、優勝した長尾さん。
昨年、ほぼ無名の状態から優勝こそ逃したが、一大旋風を巻き起こした俺。
それぞれの視点で春高を語るとあった。
いや、立花優莉は今回も出るんだって、というツッコミをまずは入れたい。記事の内容は読まずとも一緒に取材を受けたから知っている。
大本命とされていたことによる周囲からの期待とライバル高からの徹底した研究の前に敗れた悔しさを語る近藤さん。
『疲労とかマークとか関係ありません。それでも勝たないといけなかったんです。それがエースの役目です。春高ではエースになり切れなかった。それが今でも悔しい』
高校3年間、IHも国体も春高も無縁だったが、最後の最後、3年生の春だけは進むことが出来、決勝で優勝候補最有力だった当時1年生の近藤さんを擁する時雨高校に勝ち、高校としても初優勝を飾ることが出来た長尾さん。
『僕達は最初からラッキー枠での出場だったので敵も僕達自身も相手より格下って認識がありました。だから逆に負けて元々っていうのがあって、それがいい意味で緊張しないことにつながって全試合実力以上の力を出せたのだと思います』
高校最強の名をほしいままにしていた美佳ねえ達は相手より味方の方が恐ろしかったという。
『公式戦の前は試合に選手として出れるかがいつも怖かったですよ。周りからはレギュラーは固定されていると思われているのは知っています。でもそんなことはありませんでした。いつもギリギリでほんの紙一重のところで選ばれて試合に出てました。反対に試合はその分余裕というか安心感がありましたね。私に万が一があっても控えには頼もしい仲間がいるって思えましたから』
そんな中、俺は適当に去年の感想を言った。
『去年は何もわからないまま試合に出てました。正気になったのは多分、準決勝からですね。もう本当に相手が強くてあれ?これ勝負にならないってなってようやく現実を見せつけられたというか。それまでが無我夢中だったというか。だから去年の試合をほとんど覚えていないんです。今年は地に足をつけて戦いたいです』
と、それぞれの春高の感想とそれを受けてのアドバイス。互いの感想に対して意見を交換して、最後は――
『春高は大人になってもいつまでも覚えています。だから皆さんも少しでも悔いなく戦えるよう頑張ってください』
『ちょっとまって。だから私、頑張る方!』
と最後に俺が喚いて〆ている。
「へえ。こんな取材、いつ受けたの?」
「陽ねえは知ってると思うけど、今でも週末にテレビとか雑誌とかの取材があるんだよね。ちなみに春最終県予選は土曜日だったでしょ?この記事はその次の日の日曜日に取材を受けたの。で、取材自体は前から決まってたから県予選で敗退してても取材は予定されてたんだよ」
「うわぁあ……それは負けなくてよかったね」
そりゃそうだ。負けて出れなかった大会に応援メッセージを出すとか何のいじめだよって感じだ。
「それでこの男子代表でエースの近藤さんから妹も出場するって聞いていたのね。高校名は聞いてないの?」
「聞いてない。妹が出るってしか聞いてない。でも近藤さん、お父さんが元バレーボール日本代表でお母さんが元バレーボールブラジル代表だよ?妹だってきっともの凄い選手だから出れば優勝候補になるって」
「その可能性はある。なんにせよ、特集を見たらわかるから」
そう言ってユキはさらにページをめくる。
まずは有力男子校の特集。女子はその次のようだ。
……細かくてみみっちいことだけど、なんでこういう時には男子、女子って順番なんだろうな。
元男は気になるけど、生粋の女はそんなものでしょ、と気にしたことがないそうだ。むむむ。
男子の有力校を数校紹介し、いよいよ女子の――
!!
お、落ち着け、落ち着くんだ。
「?優ちゃん?どうしたの?」
思わず雑誌から目をそらし、後ろに下がってしまった俺を不審に思った陽菜が声をかけてくる。
そう、実物はコレだぞ?
「陽ねえ。ちょっといい?」
「どうしたの?」
陽菜の肩を掴んで真正面から陽菜を見る。
うむ。
安定と信頼の間抜け面……
・
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・
・
……あれ?陽菜、よくよく見ると結構どころかかなり――じゃ、すまないレベルで相当可愛い???
いやいや。本当に落ち着くんだ。陽菜の顔 (だけ)が良いことは前から知っていたはずだ。だがそれを内から出る残念さが台無しにしているのが陽菜のはずなんだが……
むむむ。
「優ちゃん?」
「優莉?」
「優莉ちゃん、どうしたの??」
俺の行動を疑問に思ったのか陽菜達が声をかけてきた。
「いやあ。見開きの松女の特集のここに写ってる陽ねえ、めっちゃ可愛すぎない?私、びっくりしちゃった」
「「「……」」」
正直に事実を告げただけなんだが、なんかビミョーな雰囲気が漂ってしまった。
「……確かに陽菜は優莉が言う通り可愛い」
「……まあ、うん。安定の優莉ちゃん、ってところかしら」
ユキと愛菜が呆れながらそんなことを言う。何で俺が変なこと言っている雰囲気になってるのさ?
「――でもどうせ可愛いなんて言いながらも涼ねえの方が美人っていうんでしょ」
陽菜は陽菜でやさぐれながら当たり前のことを言う。
……本当にそれが当たり前というか常識というか当然なんだが……
「……写真写りもあるんだけど、この一枚は涼ねえレベルかも……」
「え?そ、そう?涼ねえと同じなの?」
「う~む。むしろこれは涼ねえどころかそれ以上かも……」
「え、え~~~。そ、そんなことないんじゃないかな?でも涼ねえ以上かぁ。えへへ」
よくわからんがなぜか溶けかけている陽菜を無視して雑誌の見開きを改めて見る。優勝候補ということもあって松原女子は特集が組まれている。その中で知名度もあって一番大きく写っているのは俺だが、二番目は陽菜だろう。丁度トスを上げているところが写り、これがとても可愛くて美しい。これは……
「――さすがプロのカメラマン。陽ねえの内面の残念さを出さずに上っ面の可愛さだけを写真にしてる」
「そこは!素直に!陽ねえって可愛い!だけで!よかったと!思うんだけど!」
「ちょ、陽ねえ!いきなりなにするのさ!」
陽菜が何故かいきなりヘッドロックを仕掛けてくる。が、はっきり言って全然痛くない。ビックリするくらいロックできていない。これは陽菜の腕力の問題ではなく、陽菜の体格の問題である。だからさ、お前、自分の胸部サイズを考えて行動しろっての!
もちろん腕力で俺が陽菜に負ける要素はないので簡単に振りほどける。ったく。
「陽ねえ。春高に行ったらとにかく周りに気を付けてね」
「気を付けるって何を?」
……本当にコイツ自覚ないな。共学校なら連日野郎から告白されていても仕方ないレベルで(見た目だけなら) 可愛いのに。
「仮にも全国紙の雑誌でこんなに可愛く写ってるんだよ?春高は男女共同で行われる大会だから男子もいるんだよ?陽ねえには入れ食い状態で声がかかるだろうけど、安易にほいほいついて行ったらダメだからね。男は狼。忘れないでね」
「「「……」」」
あれ?
陽菜達から何言ってんだ?こいつ?的な空気を感じる。
!!
そうか!!
陽菜の奴、自分がどれだけ魅力的なのかやっぱりわかってないんだ。だから俺の言ったことが理解できてないのだ。
……こればっかりは生活環境によるところも大きいだろう。
なんせ平日は高校と家の往復。高校は女子校だし、自転車で通学できるので通学中の出会いもない。朝は朝練で早くに登校するし、部活がある日は帰りも遅い。休日は陽菜も遊びに出かけることはあるが、大抵は女友達と出かけるばかり。陽菜にはびっくりするくらい男の影がない。だからこいつはどれだけ (見た目だけで評価するなら)男にモテるのがわからないのだ。
ユキや愛菜にしても女子校で普段すごしているから陽菜が可愛いことはわかってもどれだけモテるのかまでは想像できないのだろう。
「……優莉のこれはもはや習性みたいなものだから仕方がない」
「陽菜。大変だけど、優莉ちゃん、こういう子だから」
「わかってる。はぁあ……」
いやだからなんで陽菜じゃなくて俺が残念な雰囲気なんだって!
「――で、雑誌にはなんて書いてあるの?というか明日香がどんな風に書かれているのか凄く気になってる」
「あの取材で明日香のことはどうなったんだろう?気になる」
「私も!」
なんか強引に話題を変えられた。釈然としないが3対1で口喧嘩に勝てるとは思えないので俺も記事をのぞき読んでみる。なになに――
『春の頂へ 日本のエースが高校日本一に挑む』
キャッチコピーはこれだが……
挑むのは俺だけじゃないんだぞ?
で、記事の内容は――
――優勝の大本命は日本のエース 立花優莉を擁する松原女子高校だ。最高到達点393cmは男子も含め世界一。圧倒的高さから繰り出されるスパイクは強烈で――
と最初の方は俺への提灯記事かと思ったが、早々にチームのことを書くようになっている。
――そのエースから絶大な信頼を寄せられているのが姉でチームの司令塔、セッターを任されている立花 陽菜だ。174cmの長身を活かした堅実なプレイは安定感があり――
――また、エースの対角の村井 玲子もUー19で選抜されるほどの選手で――
――と総じて立花 優莉だけが突出しているワンマンチームではない。県予選では夏のIHを制した姫咲高校を破って勝ち進んでいることからも十分に春高で優勝するだけの戦力を有している。――
――チーム率いる佐伯監督の「私達はサーブを語源通りのボールを与えるとか、配給すると言った意味では扱わず、最初の攻撃であると位置付けています。だから一番力を入れています」という言葉の通り、控えの選手も含め全員がビッグサーバーと言える強力なサーバーであり――
とこんな感じだ。
で、明日香のことは懸念とともに書かれている。
――一方で選手層の薄さが懸念点である。特にチームの柱であり、佐伯監督からも「代わりのいない、出てもらわないと困る選手」と言われるほどでありながらコンディション不良で県予選を全て回避した主将の都平 明日香の復活が春高での優勝には必要不可欠だ。11月時点では「100点満点で37点」
「満点とは言わないのでせめて50点くらいの出来になって欲しい」と佐伯監督から評されるほど厳しいコンディションであり――
……現時点ですでに『せめて50点』を確保できている科目が1科目も無いのが泣ける。
「……明日香のこと、これって本当に体のどこかが悪いって思われている感じの記事だよね」
「陽ねえ。あえて言うけど、明日香がどこか悪いのは事実だよ。ただそれがバレーボールに関係のないところってだけだから」
「……今、気が付いた。取材の時は時間が限られていたからごまかしきれたけど、春高の時は長期間拘束されるよね?そんな中で明日香のことを聞かれたらなんて答えよう?去年を思い出せば今年も1試合ごとに取材の記者が来るはず」
「……選手として出場出来ても出来なくても難しい問題ね。本当にどうしよう」
……いやもうそれ俺達4人だけの問題じゃないから部として答えを考えるしかないな。後の部活の時に相談しよう。
この他に松女の記事で気になるところだと戦力分析という欄があり、サーブ、レシーブ、スパイク、ブロック、タクティクス(戦略)の5項目を10点満点で評価し、それを五角形で表しているのだが、これがバグってる。
サーブ、スパイク共に13点と欄外まで伸びている。これは別に誤表記というわけではなく、『高校レベルでは収まらない規格外レベルのサーブとスパイクは他校にとっては脅威』と書かれている。半面、最も低く評価されているのがタクティクスで、これはたったの3点。こちらは『エース2枚に絶対的な自信を持つがゆえに攻撃はレフト一辺倒の単調な攻撃になりがちだ』と書かれているのでこれが原因だろう。
あとは……
「あ、注目選手ってところだけど、優ちゃんが紹介されてなくて私と明日香になってる」
その注目の選手には陽菜のことは170cmを超える長身を活かしつつも基本に忠実で安定感のあるプレーが魅力的であると書かれている。明日香のことは攻守を兼ね備えたチームの大黒柱であり、本選での復活が望まれると書かれている。……復活できるのかな?
「ここって去年は優莉ちゃんとユキが紹介されていたところよね」
「そう。確か去年は低身長組ってくくりで紹介されていた。今年は陽菜と優莉の姉妹ってくくりで紹介されると思った」
それは俺も思った。現に2人並んで写真とその下には『今大会注目の立花姉妹』という文字まである。
「ん~。それなんだけど、もしかしたら、私の特集が他にもあるからじゃない?ほら、さっきみんなで見たでしょ?『日本代表選手からのエール』って奴。あれ以外にも実は『日本のエースが挑む春高への思い』って特集が組まれているはずで、他にも『有力選手が注目』っていう特集でも記事になっているから」
『日本のエースが挑む春高への思い』というのは例の『日本代表選手からのエール』の取材を受けた同日に取材を受け、俺だけ単独で記者からの質問に答える形で春高への思いを語った記事だ。あらかじめ教えてもらったから知っているが、写真上ではろくろを回すポーズを決めながら春高への思いを語っているはず。
『有力選手が注目』っていうのは有力校のエースもしくは中心選手1名が逆に注目している他校の選手を答える記事だ。なお、俺は注目する他校の選手は誰、という質問に対し龍閃山の奏ちゃんだと即答している。
「なるほど。優ちゃんは他にも特集が組まれているから松女の紹介欄だと控えめになっているのね」
「そうしないと松原女子高校の記事じゃなくて立花優莉の記事になっちゃうしね」
個人的には逆に他に特集記事があるから松原女子高校を扱う記事ではそれほど扱っていないだけと思うし、結局俺個人の特集を他で組まれるので俺の記事ばっかり、ってことになる気もする。
さらに言ってしまえば本来公平中立であるべき学生スポーツで露骨に俺を贔屓するのはどうなんだと思わないでもないがそこは言わないでおいた。
「で、私達が優勝候補っていうのも長所がサーブとスパイクだっていうのも明日香が前から言ってたけど、本当にその通りの記事だね」
「どうしてあのバレーボールの分析の才能が勉強に活かせないんだろう……」
あれは2週間くらい前だったか?
学校の図書室でバレー部とバスケ部の面々が偶然そろって勉強していた時の雑談で、明日香は春高では松女が優勝候補筆頭だと即答していた。
あの日はバスケ部の連中、もっと言えば未来も図書室にいた。
それが災いし、テスト勉強そっちのけで言い争いを始めてしまった。始めてしまったのだが、ある違和感に気が付いたのだ。
お互いの部活のことをやんやいう割にはどっちがウインターカップや春高でいい成績を残すか、という話はしていない。これを聞くと他でもない負けず嫌いの未来自身から『アタシらはウインターカップに行けたのが奇跡みたいなもんで勝ち抜くのは無理。まあいいとこ初戦に勝てたら凄いな、くらいだぞ』と白旗宣言。
これに対し、明日香は前述の通り松原女子高校が優勝最有力と答えていた。
その可能性も高く、曰く
『仮に全チームがベストメンバーで春高に挑めて、抽選から決勝戦まで100回繰り返したら半分の50回は無理だけど、45~48回くらいは優勝するんじゃないかな?それくらいの大本命だよ』
とのことだ。
ちなみにここの松原女子高校特集に書いてある通り、長所はサーブとスパイク、短所は選手層の薄さ、というのもあの時言っていた。
この分析能力を学業に活かせていれば中間だって違った結果になっただろうに……
おまけ
陽菜にとって子どもの頃からずっと比較されてきた姉、特に涼香と比べて可愛いと言われたことはとても嬉しかった。最後にケチをつけらた上に、姉に言えばハレーションが起きることは承知していたが、それでも姉に自慢したかった。
――その日の夜――
「――ってことがあってね、優ちゃん、私のことは見た目だけって言ったんだよ」
一見、怒り顔ながらもニコニコの陽菜。
それを聞いた涼香はニコニコ顔ながらも圧を出していた。
「優莉。本当にそんなことを言ったの?」
「言ったよ。この写真写り、凄くいいよね、さすがプロ。見た目だけなら涼ねえ以上に見える」
「……へぇえ」
依然としてニコニコの涼香。しかし何かを感じ、こっそり退避する陽菜。動かざること山の如しの優莉。
「陽菜のどこが私より良く見えるの?」
「おっぱい。陽菜、涼ねえはGでしょ?陽菜は今Iだよ。というか高校でIとか凄いよね。高校生の時の涼ねえのサイズは知らないけど、当時の涼ねえより今の陽菜の方が大きいよね」
最低極まる回答をする優莉。呆れつつ、ため息をつきつつ、優莉には話してなかったことを話す。
「2人とも共学校でなくてよかったわね。あなた達は女子校だから気にしないでしょうけど、共学校だったら男子からのからかわれるし、女子からは妬まれるしで大変だったわよ。だから高校生の時はわざわざ胸が小さく見えるブラをつけてたくらいなのよ」
「へえ。共学校って大変なんだ」
――暗に高校生の時はもっと大きかったという涼香。聴勁で人の考えは読めても空気が読めない優莉はもちろん暗に言われたことには気が付ない。
「……ところで優莉。今年1年で随分体型変わったから、去年の冬服はもう着れないでしょ?今度の休みに服を買いに行きましょう」
「着れないけど、涼ねえ達の古「行きましょうね」はい。行きます」
空気は読めなくても長女には逆らってはいけないと骨身に染み込まれている優莉はもちろん了承した。
そして後日――
朝から長女に拉致されるように連れていかれた兄はいまごろ、自身の趣味に合わない可愛い系の服を長女に買い与えられているのだろうと陽菜は思っていたのだが……
帰ってきた兄はなぜかニコニコ、涼香は呆れた顔で元長男を見ていた。
「陽ねえ!見て!服を買ってきた!」
そう言って兄が見せてくる服はクラシックで落ち着いたデザインの品のある、一方でどう考えても女子高生が着る様なデザインではない服がたくさん。
これは――
「なんかいかにも涼ねえが着そうな服なんだけど?」
陽菜の当然の疑問に答えたのは涼香。
「はぁ……私は反対したのよ?もっと高校生らしい服にしなさいって。でも優莉が『涼ねえと一緒じゃなきゃヤダ』って店先で駄々こねるのよ?それだけなら無視しても良かったんだけど、優莉って今、ちょっと有名でしょ?大事になる前に私が折れたわ」
呆れた口調だが、どこか嬉しそうな涼香。どうせ兄が『涼ねえは世界一の美人で、私も涼ねえと一緒が良い!』とか言ったのだろう、結局涼ねえが一番なんだとと容易に想像がついた陽菜。
そんな中、優莉は涼香と似たような衣服を手に入れることが出来てテンションが上がっていた。