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037 第4セットの攻防

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 春高 県最終予選 女子決勝戦

  第4セット 終盤

   実況席より

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『ここで伝家の宝刀、立花姉妹の速攻。これで23-20。後がない松原女子高校、突き放しにかかります!……あっとここで姫咲高校からのタイムアウトのようです』


『嫌な流れですからね。せっかく先に20点台に乗せたのにその後に村井選手のサーブからの攻撃で5連続失点。姫咲高校が反対に追い込まれてしまいました。姫咲高校は1本取り返すためにも、村井選手の集中力を削ぎたいところでしょう』


『妹の立花選手に隠れてしまいますが村井選手もU-19のメンバーに選ばれる程の選手です。姫咲高校の選手にはここで第4セットを落としても次があるとは思わず、なんとか村井選手のサーブをしのいでこのセットを取る気構えが欲しいですね』

 

『実際、姫咲高校はここで第4セットを落とすととても不利になります。第5セットは25点ではなく15点先取したチームの勝ちです。妹の優のサーブローテで1回あたり5~6点の失点は覚悟しないといけません。そうなると25点中の5点と15点中の5点では重さが異なります』


『ということはここが天下分け目の大一番。天王山ともいうべき第4セットを取るのははたしてどちらの高校でしょうか!』



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 視点変更

  立花 優莉 視点

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 ふうぅ……

 

 相変わらず姫咲高校は簡単に勝たせてくれない。

 

 24-23でこちらのセットポイント。

 

 後1点取れば第4セットはこちらのもの。第5セットに持ち込むことが出来るんだが、楽にはやらせてくれない。

 

 

 ピーッ!

 

 笛がなる。こちらのサーブ。サーバーはジャンプフローターサーブを打つ愛菜だ。

 

 ボールは……

 

 良いところに飛んでった!

 

 相手前衛レフト、主将でUー16とかU-19に選ばれたこともある長谷川先輩のちょっと前。ジャンプフローター(ジャンフロ)の嫌なところは軌道が突然ぐにゃりと曲がるところだ。だから正面でレシーブをしようとしてもうまくできないことがある。

 俺達よりずっとレシーブが巧いだろう姫咲の主将も目の前で突然曲がるそれに苦戦し、体勢を崩してのレシーブとなった。

 

 ……まあそれでもセッターへのAパスとなっているのは流石だろう。

 

 さて、俺は現在前衛でここからどこにブロックをするべきか考える。相手レフトは愛菜のサーブで姿勢を崩した。ここから立ち上がって助走距離を確保してスパイクは出来ないだろうから除外。さらに相手セッターの知佳ちゃんは前衛でツーアタックは警戒しないといけないが、代わりに対角に位置するエースの正美ちゃんは後衛。

 つまり相手前衛スパイカーはレフトとセンターのみでそのレフトが助走距離を確保できない状態。となると王道はセンターからの速攻……と考えるのだろう。正美ちゃんのバックアタックもあるかもだけど。

 

 

 しかし!

 

 

 聴勁(インチキ)を使えば予測ではなく、確実に相手スパイカーの思考を読み取り、どこから攻撃が来るのか予測できる!出来るのだが……

 

 

 相手センターは中央に走り込んでくると見せかけてライト方向 (俺達から見ればレフトだけど)に急遽方向転換しジャンプ。そしてそこに切り裂く様な速いトス。

 

 これは俗に言うブロード攻撃ってやつだ。うん。俺以外の味方ブロッカーは置いてけぼりを食らった。つまりブロックは俺1枚。相手のジャンプにあわせて俺も跳ぶ。スパイクコースは最大限塞いでいる。塞いでいるのだが……

 

 この世界での俺のなんちゃって聴勁は対象者がよほど強い意志で考えていない限り、一言一句ではなく、なんとなく考えていることを読み取れるというものだ。そして今、聴勁を使ってみると相手のスパイカーからは動揺は感じられない。相手からすればつられずに、突然かつスパイクコースを塞ぐ壁が現れたにもかからず、だ。聴勁を使わずとも相手の表情から焦りは感じられない。

 

 

 パスッ……

 

 

 ボールからは強打の轟音ではなくフェイントの軽い音が鳴る。相手スパイカーが放ったフェイントは伸ばした俺の腕のほんの少し上を通って俺達のコートへ。

 


 ……ちょっと前まで、なんならこの試合が始まる前までは俺の聴勁(インチキ)ブロックはスパイカーと1対1になれば最強無敵の必殺技だと思っていた。

 

 確かに正確に相手の考えを読み取れるわけではないが、なんとなくはわかるのだ。その方向を塞いでしまえばドシャットは無理でもワンタッチは確実に取れる。

 

 

 ……取れると思っていた。

 


 しかし現実はこれだ。

 


 最初から今のボールの軌道を描くと判明していればジャンプで届く高さだ。しかしそうはならない。正美ちゃんをはじめ、姫咲のスパイカーは俺がブロックにつくと全員俺を見てからスパイクコースを決めている。

 

 

 考えてみればおかしな話ではない。

 


 現に俺だってスパイクを打つ時には相手コートを見渡して最も守備の薄いところを狙って打っている。一流のスパイカーならブロッカーの様子を見てからコースを打ち分けるなど簡単なことなのだろう。相手がフェイントを使ってくると読んだところで、それが空中にいる今の状態ではこれ以上高く跳ぶことは出来ないので意味がない。

 

 今回は違うが例えスパイクコースを読み取ったところで手の届かないところに打たれたらどうしようもない。

 

 初めて聴勁(インチキ)ブロックを使ったのは1年くらい前の春高の金豊山との試合の時であの時は良く相手スパイクを止められた。

 

 今年の5月の姫咲との練習試合の時も6月のインターハイ予選の時もドシャットまでは至らずとも確実にワンタッチは取れていた。

 

 だが、春高予選の今は違う。姫咲は対策をしてきた。今更だけど、1月の春高、5月の練習試合、6月の予選を全て糧にして対策を練ってきたのだ。

 


 この試合、姫咲は俺とスパイカーが1対1になりそうなときはわざとトスをネットから少し離して上げるようになっている。こうすることでスパイクを左右に打ち分ける際の角度がほんの少し広角になる。

 

 このほんの少し広角になったことが致命的に俺に都合が悪かった。

 

 自分で言うのもあれだが、今の俺の手足はすらりと長い方だと思う。だが、三国志にでてくる劉備のように膝まで垂れる長い手なんてしていない。なので手の届く範囲は限られている。すでにブロックのために跳んだ後なので手の届く範囲は限られている。

 

 それを確認してからスパイクを広角に打ち分ける、つまり俺の手が届かないところに打たれると流石にどうしようもない。

 

 

 ……多分だけど、春高の時にあれだけ金豊山の攻撃をブロックできたのは初見であり、びっくりしていたからであって冷静になってガッツリ対策を取られてしまうとそうはならなかったんだろうなあ。

 

 

 などと分析している間にも俺の背後でボールはコートに落ちようとしている。

 


「フェイント!」「カバー!」

 


 声が乱れ飛ぶ。

 

 

 反応の良い玲子が気が付いてボールに飛びつくが、何とか打ち上げたボールはコート外へ飛んで行ってしまう。陽菜と愛菜が追いかける。俺も……

 


「優ちゃんストップ!2人を信じて戻ってきたボールを打ち返すことを考えて!」



 ベンチからの明日香(バレーバカ)の声を受けてコート内で待ち構える。陽菜と愛菜がフライングレシーブ中にぶつかりながらもボールは高く戻ってきた。

 

 2段トスと言われる奴だが返球位置、高さ、どちらもいい。これなら!

 

 助走をつけて高く跳び、姫咲のコートを高い位置から俯瞰し、誰も触れないところを目掛けてスパイクを放つ。

 

 

 これが決まり、25-23。

 

 いやあ。なんとか首の皮一枚で第4セットが取れた。これで第5セットまで持ち込んだ。次を取った方が春高だ。

 


 歓声と悲鳴が響く体育館だが、まずは先ほどのプレーの称賛をすべきだろう。

 


「陽ねえ、愛菜。どっちが取ったのかはわからないけど、ナイスカバー。で、ぶつかったみたいだけど大丈夫?」


 まあ、口では心配するが、あの程度の激突、バレーをやっていればよくあるーー



 

「ごめん。優ちゃん。やっちゃった」



 ゑ?

 

 

 

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 視点変更

  松原女子高校 視点

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 辛くも第4セットを取った松原女子高校だが、その際の最後のプレーで問題が発生した。

 

 コート外に飛んで行ったボールをレシーブするために駆けていった陽菜と愛菜だが、フライングレシーブの際に陽菜は横から飛んできた愛菜と激突、左手首をひねってしまった。愛菜もまたコート外を仕切る間仕切りとぶつかり、何かの拍子に足首を捻挫してしまった。

 

 どちらも軽症でありそうだが、そのままバレーができるかと言われればできない、と答えざるを得ない。

 

 佐伯監督は決断した。

 

「都平。2人を医務室へ連れていってくれ。第5セットは他の選手に出てもらう。セッターは雨宮!」


「しゃい!任せてください!」


 監督からの指示に威勢よく返事をしたのは1年生セッター雨宮。やる気はあるが緊張している様子はない。

 

「そして白鷺の代わりにセッターの対角に入ってもらうのはーー」


 

 佐伯監督は内心困っていた。

 

 確かにウイングスパイカーの選手は他にもいるが本職はレフト。セッターの対角はライトに入ってもらうので若干役割が違う。そう言った意味では本職とは言い難い選手ばかり。

 

 加えて普段の練習を思い返してみるとそこまで極端に優劣をつけられるような差はない。誰を出しても変わらない気がするが、少しでも良い選択をしたい。

 

(とはいうものの、春高がかかった最終セットにいきなり代役で出ろ、と言われれば緊張もする。それでプレーが硬くなっても困る)


 誰かを選ばなくてはいけない。幸い、攻撃はレフト2枚の大砲で何とかなる以上、本命は背丈は低いがレシーブが他の選手と比べて巧い村重か。

 

 そんなことを思いながら控えの選手達を見渡す。

 

 立花陽菜に何かあれば代わりに出場することが決まっていた雨宮と違い、万が一の際に出場するかどうかがわからない状態だったので心の準備が出来ておらず一様に緊張している。

 

 

 

   ワタシヲエランデ

 

 

 

 その中で1人だけ爛々と瞳を輝かせる例外がいた。その輝きに佐伯監督は応えることにした。

 

 

「セッターの対角に入ってもらうのは大河だ。大河、いけるか?」


「もちろんです!任せてください!」




 春高 県最終予選 女子決勝戦

  松原女子高校 VS 姫咲高校

       12-25

       25-18

       25-27

       25-23

    

      セットカウント

        2-2

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― 新着の感想 ―
[一言] そういや、この1年2人って、なんか妙な技を練習してたような…。
[一言] 大河だけに Eye of the tiger が聞こえてきそう。
[一言] このタイミングで1年生に出番が回るとは熱いぜ
感想一覧
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