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034 疑問

【注意】当人達は極めて真面目に考えています。

=======

 春高 県最終予選 女子決勝戦

  第1セット終了直後

  姫咲高校 視点

=====


 予想外に簡単に第1セットを取った姫咲高校。しかしここで油断してはならない。

 

 赤井監督は驕ることなく第2セットに向かうようにと口を開きかけ——


「ラッキー、ラッキー。でも忘れて」


「まだ3つ取んなきゃいけないうちの1つだけだからね」


「1年は知らないと思うけど、去年の春高予選も松女相手に第1セットは取ったけど最後は負けてるから油断とか無しね」


 先に自らを戒める言葉が選手から出たことで口を閉じた。

 

(今年もようやく良いチームになりましたね……)


 教え子のチームとしての成長を実感するとともに今年もまた惜しくなる日が来た。学生スポーツであるために選手は毎年入れ替わりが発生する。4月に新1年生が入部し、1年も経たず3年生が抜ける。それの繰り返し。個人としての技量は3年間積み重ねられてもチームとしての経験は毎年積み直し。

 

 ようやくチームとして完成したように見えても負ければ今日、勝って勝ち続けても3ヶ月後には解散となる。

 



 だからこそ、長く、少しでも長くこのチームでやりたい。



 

「上級生が良いことを言いました。まだ1セットを取っただけです。ここからです。さぁ第2セット、皆さんはどう戦いますか?」


 赤井監督の方針として、普段の練習中はあれこれ口を出しても試合中は非公式戦を含め、極力選手自身に考えさせ、意見を言わせるようにしている。なぜなら試合中に監督が直接選手に考えを伝えることが出来る機会が限られているからだ。その限られた機会は勝負所で使いたい。そのためにも普段から自身の考え、戦略、理想の戦い方を練習を通して伝え、練習試合で選手間で確認させる練習をし、公式戦()を迎えているのだ。

 

 

「松原女子は明らかにチーム練習が欠けてるよね」


「欠けてるっていうよりは想定してなかったって感じかな?」

  

「まあ中心選手が抜けちゃってチームが崩壊するっていうのはあるけど、それなら普通は先週の2次予選で(もっと前に)負けちゃうんだけどねぇ」


「流石日本のエース様がいるチームは違うね」


「で、第2セットはどう攻める?」


「向こうが対策してくるまでは第1セットと同じで良いんじゃないの?」


「でも、第1セットの終盤あたりから間をついても動きの良い村井(3番)とかには拾われ始めたよ?」


「それでいい。動きの良い村井(3番)優莉(4番)には動いてもらう。あの2人は体力も規格外にあるからフルセットまで持ち込んでも体力切れは期待できないけど、庇われた側はドンドン委縮して動きが悪くなる」

 

円城寺(13番)とかわかりやすく遠慮しだしたよね」


「まあ円城寺(13番)は1年だしね。先輩がボール拾ってくれるなら、って遠慮しちゃうのかも。本当はそれじゃいけないんだけど」


「その点、相手の金森(1番)はうまく溶け込んでるね」


「流石砂中の金森。去年の県中学生No1は伊達じゃないわねえ」


「あと、松女はセッターも地味にいい。本当に地味で目立たないんだけど、凄い」


「あ、わかる!なんていうか、派手なことはしないんだけど、基本がしっかりしてるから普通に巧い」


「そりゃ174cmの長身に実姉はあの立花先輩だよ?バスケ部とか陸上部の豪脚自慢を追い抜いて未だにシャトルラン女子姫咲歴代記録保持者なんだよ!」


「あ〜確か立花先輩ってスポーツテストの時に走り幅跳びで5m以上跳んじゃったから陸上部から猛勧誘受けたって伝説があるんだっけ?」


「それ、マジらしいよ」


「うわ〜〜」


「お姉さんがそれで、妹なんか陸上の世界記録保持者でしょ?そりゃ本人だってフィジカルモンスターだわ」


「あの細い腕で私より力持ちとか反則だわ〜」


「その恵まれた身体能力で普通にバレーボールをやると普通に巧くて、おまけに弱点もないのよね。なにせ奇策はなくて普通のバレーボールなんだから」


「向こうのエースがお姉さんのボールが一番打ちやすいっていうのもわかるわね。基本に忠実で奇抜じゃないから、素直なボールなのよ。一部の天才様がやる変態トスじゃないんだからそりゃ打ちやすいわよ」


「で、そうやってあの姉妹に速攻を使われるとどうしようもない、と」


「そりゃあの速攻をどうこうできるんだったら世界選手権は私達が選ばれてるっつうの!」


「じゃ、やっぱりトスの前のレシーブを崩すところだね」




 教え子の話はおおむね自分の考えと同じ。時々脱線し、冗談も出てくるが、それは緊張を紛らわす良い材料。

 

 

(良い雰囲気ね)


 だか、そんな教え子達にもわからない、決めかねている事項があった。

 

「——それで、第2セットは向こうの都平(7番)、出てくると思う?」


「……」


 それまですらすらと続いていた会話が止まった。

 

「……第1セットの後半から松女の選手はチラチラベンチを見てましたし、出てくるんじゃないでしょうか?」


「私も小春に1票。仕切り直しで第2セットはアタマから出てくると思う」


「どうかな?多分、向こうの主将、脚が悪いんでしょ?」


「多分ね。でも脚を引きずったり、歩きがおかしかったりじゃないから軽傷なんだと思う」


「いやいや靭帯をやっているのかも?断裂だったら歩けないけど損傷くらいなら我慢すれば跳べるし!」


「流石靭帯をやってる女は違うわね」




(やはりね……)


 今の教え子達よりも長いバレーボール指導歴を持つ赤井監督をしても松原女子の主将、都平の状態は掴みかねていた。

 

(声は出ているから風邪の類ではない。ボールだし、簡単な打ち込みもしていることから上半身も問題ない。ジャンプはしていないからおそらく下半身、それも脚だとは思うけど、どこかしら?膝?足首?そもそも怪我の程度は?

 松原女子の選手の身体能力は通常の女子高生バレーボーラーの平均を遥かに超えている。つまりそれだけの厳しい練習をしているということ。怪我自体はおかしなことではない。それでも例え6月から技術的な積み上げがなかったとしてもコートに入れるべき選手を外すほどの怪我はどの程度なのかしら?まだ様子見なのかしら?

 決勝は3セット先取。仮に2セット取られても、とは考えることは出来るけど、後のない状態から3セット連続で取るのは精神的プレッシャーも大きい。7年前は現役でバレーボールをやっていた松原女子の監督がその程度のことを考えらえないとも思えない。ならば——)

 

 

「——監督はどう思われますか?」


 珍しく選手から意見を求められた。彼女達も都平(7番)の存在が不思議なのだ。

 

 ここで赤井監督の出した答えは——

 

「そうですね。私も相手の都平(7番)がどの程度の負傷なのかはわかりません。ですが、これだけは言えます。都平(7番)はまだ準備運動すらしていない」



「「「「「あっ!!」」」」」



「身体を暖めることなくいきなり試合に臨むことなどあり得ません。逆を言ってしまえば都平(7番)が準備運動をし始めたら試合に出てくるということです。

 相手の怪我の程度がそこまで酷いのか、それとも都平(7番)抜きで私達に勝てると思われているのかは不明ですが、まずは今コートに出ている選手のことに集中しましょう。

 所詮コート外の選手はボールを触れません。気にすることなどないのです。さぁ後2セットです。連取し、春高に行きますよ!」


 都平(7番)が試合に出るのであれば必ず準備運動(予備動作)があるはずだと読んだ。

 

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

 都平(7番)が出てくる前には必ず前振りがあるのだと納得のいく理由を教えられた姫咲の選手は少しだけ浮かんでいた疑問が払しょくされ、再びコートに向かった。

 

 なお、真相は……



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― 新着の感想 ―
[気になる点] これ、他所の人が真相にたどり着けない最大の原因は春高前に受けた取材にあるようなw 確か嘘にはならない様にしながらも成績も優秀って見えるような受け答えしてたから・・・ で、他校の人は万が…
[一言] まぁ、真面目に考えればそうなるよね。
[一言] でもさー、全国行けるかどうかなんだよ? それを「体の怪我」ならともかく、「頭の病気」で捨てることのできる監督、いないよね? スポーツも教育の一環なら、教育の成果を発表する場を監督の一存で奪う…
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