表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/208

033 大黒柱不在

 ふぅ……

 

 またボールがこちらのコートに落ちた。思わず天井を見上げてしまう。

 

 屋内高度がとんでもなく高い。間違ってもどこにでもいる高校生の県予選をやる様な会場じゃないな……

 

 と、現実逃避をしても仕方ない。これで10連続失点で5-14。

 

 1セット目の最初に俺のサーブで稼いだ貯金なんぞ、とうに食いつぶして絶賛負け越し中(借金生活)だ。確かに姫咲は強いがここまで圧倒的な差をつけられるほどの実力差はない……と思う。

 

 原因はこちら。

 

 なんというか凄くちぐはぐ。


 さっきの失点にしても玲子と愛菜の間に飛んできたボールをお互いに見合ってしまい、落としてしまった。擁護すると2人ともボールが飛んできた時点で「私が取る」「任せて」と声を上げてはいた。上げてはいたが、玲子から見れば愛菜が、愛菜から見れば玲子も声を上げたことでこれは相手のボールだと認識してしまい、その結果、足を止めてお互いにボールを見あってしまったわけだ。バレーボールあるあるだが、先週の2次予選から続けてこの手の失点が多い。

 

 やはり明日香の不在は非常に大きい……

 

 

=======

 視点変更

  実況席より

=======


『あっと。円城寺のサーブはラインオーバー。松原女子高校。せっかく得たサーブ権をまたも自ら手放す形となってしまいました』


『悪い流れですね。松原女子はこれで4本連続でサーブミスです。これでは流れを掴めません』


『松原女子高校ですが、先ほどから小さなミスが目立ちますね』


『今の松原女子の選手の心境と内々の事情を考えれば仕方のない面もありますが、切り替えて欲しいですね』


『それはどういうことでしょうか』


『まず松原女子の心境ですけど、先ほどから失点は強烈なスパイクやサーブで相手にしてやられた!って失点ではなく連係ミスだったり、ラインオーバーだったり、ネットタッチだったりと自殺点が目立ちますよね。これは本当にもったいない。それは誰よりも松原女子の選手が一番感じていることなんです。ちゃんとやれば戦える。まずは失点を取り返そう、と思って普段よりほんの少し余計な力が入っているんですよ。だからサーブがラインを越えたりするんです。

 もう負のスパイラルですね。つまらない失点をする、取り返そうとする、余計な力が入ってかえってうまくいかなくて失点を重ねる。これの繰り返しです』

 

『なるほど』


『続いて内々の事情ですが、これは優——立花選手から』


『立花さん、先ほどから言いにくそうですし、妹さんは普段通りの呼び方で問題ないと思いますよ』


『——それではお言葉に甘えまして、優や陽菜から聞いているんですが、松原女子ではポジションが決まったのがなんと夏休み終了間際なんです。

 それからたったの2ヶ月、しかもその2ヶ月の間、優はずっと女子日本代表として召集されていたので、正式なポジションでのコート内動線を絡めた全体練習が殆ど出来ていません。選手間同士の衝突やお見合いが発生してしまっているのもチーム練習が足りないからこそ、発生してしまっているんです』


『そんな事情があったんですね。なにか解決策はないのでしょうか?』


『まず平常心を取り戻し、練習通りのプレーをすること。公式ウォームアップでも松原女子の選手は全員いいサーブを打っていました。松原女子の本来の形であるサーブで強襲し、甘く返ってきたボールを優と村井選手の2枚エースで確実にしとめる、この形に持って行くことです。

 それが出来るだけの——あ、これです。今の形。ちゃんとAパスでセッターにボールを返せば優の攻撃はまず止められません。世界にだっていないんです。高校生に止められるわけがない。この形に持って行くことです』


『コート内では久々に点を取り返した松原女子ですが7-22と点差は15点。非常に厳しい戦いを強いられています。失点をした姫咲には松原女子、そして日本のエース立花 優莉からの強烈なスパイクを貰ったにも関わらず動揺が見られず、淡々としています』

 

『当然ですね。姫咲は松原女子とは反対に去年の秋から基本はずっと今のチームでチーム作りをしています。去年の今と比較すれば、当時の2年生、今の3年生を押しのけてレギュラーをつかみ取った今の2年生が2名いますし、4月には1年生が新たな戦力として加わってはいますが、それはチーム内のポジション争いの勝ち負けにすぎません。松原女子のように9月になってようやくポジションが決まったところとは違います。なのでまずチームとしての安定感が違います。加えて、去年優が登場してから姫咲は優のスパイクを知っていますから、驚きがないんですよ』


『なにか姫咲は立花 優莉のスパイク対策をしているのか聞いていますか』


『はい。聞いています。優本人のスパイクはどうしようもないと割り切っています。なにせまともにトスが上がった時のスパイク成功率は世界選手権でも9割近くですよ?

 そんな攻撃を高校生が防ぐことなんてできません。ですからその前、陽菜(セッター)を徹底的に左右に走らせ良いトスを上げさせず、消耗させる。

 そのために松原女子の各選手に苦手なところめがけて攻撃を仕掛ける、です。先ほどのようにそれに失敗したら『今のは優のスパイクを拾えなかったことではなく、その前の攻撃が中途半端だった』とすぐに原因を突き止め、反省し、次に活かすよう姫咲の選手は動きます』

 

『まるで試合をコントロールできるかの様な言い方ですね』


『実際に試合をコントロールできるように戦うんです。一つ一つのプレーには意味があり、相手のコートにボールがある時も自分達の思うようにボールを『運ばせる』。

 姫咲ではこれを『試合を作る』とか『試合を支配する』なんて言います。この点は、入学以前からバレー経験があり、入学してからは個人技だけでなく組織力にも力を入れている姫咲の方が一枚も二枚も上手でしょう』

 

『これに松原女子が対するためには先ほど立花さんが仰った平常心を取り戻す必要があるのですが、何か策はないのでしょうか』


『策というか、本当はこうした場面で平常心を取り戻させることのできる選手が松原女子にはいるんです』


『ひょっとしてそれは主将の都平でしょうか』


『はい。そうです。妹達から聞いたのですが、松原女子は良い意味でも悪い意味でも先輩後輩の上下関係が希薄で現2年生も主将の都平選手とリベロの有村選手以外はバレー経験という意味では1年生よりも短いためか、遠慮してしまい、こうした場面で積極的にチームを鼓舞して引っ張る選手が都平選手だけなんです。

 つまらない連係ミスも都平がコート内にいて一言あげれば誰のボールか決められるはずなんですが……』

 

『その主将の都平は準決勝に続き、今も体調不良でベンチのまま。立花さん、都平は試合に出れない程、酷い症状なのでしょうか』


『エー、部ノ規定デ試合ニ出レナイ状態ト聞イテイマス』


『大黒柱を欠いた松原女子、試合はエース立花 優莉のサーブですからここで少しでも盛り返したいところ——』



=======

 視点変更

  立花 優莉 視点

=======


 いや、参ったな。

 

 先週や午前の玉木商業戦はなんとかごまかしきれたけど、姫咲相手だとシャレにならない。的確にこっちの攻撃をして欲しくないところを攻撃してくる。

 

 連係ミスも酷い。

 

 これは翼ちゃんと英子ちゃんを本格的にミドルブロッカーとして採用してからのチーム練習に俺が参加していないのが主要因だが、明日香不在も痛い。

 

 マジで明日香(あのアンポンタン)を出してくれないと負ける……

 

 

 

 

 

 春高 県最終予選 女子決勝戦


 松原女子高校 VS 姫咲高校


  第1セット

    12-25

出場選手を記述するタイミングがなかったのでここで捕捉。

松原女子の出場選手は以下の通りです。


ウイングスパイカー:優莉&玲子

ミドルブロッカー:翼&英子

セッター:陽菜

セッター対角のオポジット:愛菜

リベロ(ミドルブロッカー後衛時に入替):ユキ


ベンチウォーマー:明日香

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
見返してたら誤字発見したけどあとがきだと誤字報告出来ないので ×:ウイニングスパイカー:優莉&玲子 ○:ウイングスパイカー:優莉&玲子
[良い点] …こ、これは一年生覚醒のフラグだから…(汗 [一言] タイムアウトとってベンチウォーマーさんに皆を奮い立たせる一言を言ってもらいたいですね。「明日香を甲子園に連れてって」(違
[気になる点] 日本の学生スポーツとして考えると、佐伯先生の様に学業と両立させないと試合に出さない、という指導が正しいんだと思うけれど、日本の学生スポーツの風潮からして、「なぜ立花優莉がいて勝てないの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ