032 春高最終予選
いつも思います。
なぜ金豊山学園高校を関西の高校にしてしまったのか。
なぜ大友監督を関西弁キャラにしてしまったのか。
関西弁について、おかしなところはこっそり誤字修正機能で指摘ください。
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11月上旬
第三者視点
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春芽市立体育館
時にバスケットボールや卓球、バレーボールといった屋内プロスポーツが行われることもある、県内で最も立派で設備の整っている体育館で春高本選出場をかけた女子の最終予選が行われることとなった。
本来ならこれはあり得ないことである。
しかし出場選手の一人に10月の世界選手権で日本中を沸かせ、その後は学業を優先したためにメディアへの露出が極端に少ない立花 優莉がいることであり得ないことが起きた。
出場選手校関係者、遠方から訪れるファン、有力校を偵察に来た他県の強豪校の偵察部等々……
これらを収容するには昨年まで使用していた市営体育館では対応しきれない。また、日程も最終予選は土曜日に準決勝戦、翌日曜日に決勝戦が行われるのが常であったが、今年に限り午前に準決勝戦、午後に決勝戦が行われる運びとなった。
なお、この日程は女子のみに適用され、同県の春高最終予選であっても男子は例年通りの体育館で例年通り2日に分かれて試合が行われている。
そして午前の準決勝2試合はいずれも本命の2校が勝ち上がり、勝った方が春高本選への出場を決める決勝戦が始まろうとしていた。
公式ウォームアップの場に現れた立花優莉の姿を見て歓声が観客席から上がる。さらにアップの際に一際高い打点からスパイクを打つ彼女に一般観客からの歓声はさらに大きくなった。
そんな中、多くの観客の注目を集める立花優莉ではなく、別の人物を注視する男性が2名。
「都平は準決勝と同じジャージ姿のまんま。決勝戦も出えへんのか?」
「おそらく」
国体の女王、金豊山学園高校の大友監督と偵察・折衝部門の責任者、沼田の2名である。
「松原女子の監督さんは勝つつもり、ないんか?あの子がおらんと試合にならんで?
少なくとも夏までの試合をみた限り都平がチームの中心や。なんぼエースが凄おてもチームとして機能せえへんかったら意味があらへん。
食事で例えたら都平は白米や。すき焼き、お造り、ウナギと派手で見た目のえぇご馳走はいっくらでもある。そんでも基本があらへんと箸が進まん。
博かてご飯無しにお好み焼きを食え、言われてもしんどいやろ?」
「私は関西人ではないのでお好み焼きは単独でも食べれます」
「あ~。そやったな。まぁとにかく、都平のおれへん松原女子はチームとしては半壊状態や。なんで出さへんのや?」
「……大友監督もお気づきでは?」
「怪我、やろうな。多分脚の」
「えぇ。おそらく」
松原女子の主将、都平 明日香が先週の春高2次予選、今日の春高最終予選でアリーナに姿を見せてもジャージ姿のままである理由を怪我によるものだと2人は推測した。
バレーボールは短時間でコート内を跳んで走るスポーツである。そのためどうしても脚の怪我とは無縁ではいられない。筋肉を鍛えるというのは一度壊れるまで酷使し、その回復時には前より強くなる、というのを繰り返して行われる。誤解を招く表現を使うならアスリートは身体を壊しながら身体を鍛えていることになる。
当然壊れるほどの負荷をかければ筋肉以外にも壊れる箇所は出てくる。そのギリギリを見定められればいいのだが、そう都合よくはいかないので、怪我というのは生まれる。
「ボール出しもしとるし、声も出とる。けど、小走り程度ならともかく、本気のダッシュはしとらん」
「先週も彼女はスパイク練習に混ざることなく、コート外でもジャンプしている様子はありませんでしたので軽度の膝蓋腱炎なのでしょう」
観察した結果からそう結論づけた。
なお、それらは偶然であり真相は……
「松原女子の指導者は若いのにたいしたもんや」
大友監督は皮肉のない賛辞を松原女子の佐伯監督に送る。春高で日本一となれば自身に転がり込んでくる名声はとてつもないことになる。一方で日本のエースで世間からこれほど期待されている立花優莉を擁しながら県予選で敗退となればバッシングは相当な規模になるだろう。
それを分かったうえで、チームの柱といえども、怪我人の都平を外す。歩けるのなら無理をさせれば万全とはいかずともそれなりのプレーで出場させることは可能にもかかわらずだ。
「ほんま、エラいもんや。……なあ博。7年前にあぁいう決断がワイらに出来とったら足立はまだバレー続けとったと思うか?」
「監督。過ぎたことです。死んだ子の年を数えても仕方ありません」
「それ、不謹慎やろ。足立はまだ生きとるで」
――バレー選手としては死んでもうたけどな――
小声でそう聞こえた様な気もしたが、沼田は何も言わなかった。
遡ること7年前。
金豊山学園高校女子バレーボール部に超大型新人が入部した。彼女は体躯だけでなくバレーセンスも飛び抜けていたが、身体は脆かった。
指導者たる大友監督をはじめ、彼女の身体には注意を払っていたが、今ほどトレーニングメニューが洗練されておらず、大型選手の身体に与える影響がつかみ切れていなかったこと、彼女自身が痛みを隠して練習を続けてしまったことが重なり、在学中に膝を壊してアスリートとしての人生を終えてしまった。
こうしたことは珍しいことではない。
金豊山学園高校はバレーのみならず、スポーツの名門校である。
以前、大友監督の同僚でありコーチ時代を含めれば春夏合わせて計7度甲子園の優勝経験をもつ野球部の監督からこんな話を聞いた。
「才能だけなら原田以上の打者、藤中以上の投手っていうのは何人も見てきました。しかし、怪我に泣いたり、あるいは才能に胡坐をかいて努力を怠るなどして、消えてきました。無事之名馬という格言がありますが、まさにその通りです」
原田も藤中も日本人なら誰でも知っている野球選手である。原田は高卒1年目の5月にプロ野球の1軍に滑り込み、4年目の昨シーズンには通算100号のホームランを打った大打者。藤中に至ってはメジャーでその年の最も優秀な先発投手に与えられるサイヤング賞を受賞したほどの野球選手だ。
それを上回る才能など最初は何の冗談かと思ったが、年々実感する。天才はいる。ただ、その才能が開花するかは別問題だと。
指導者としては勝たせてやりたいし、選手本人も日ごろ鍛えた成果を見せることなく終わりたくはない、というのは本音だろう。まして、代わりの選手は代役を務められないのだ。
だが、それでも松原女子の監督は都平を出さない、という選択を採った。中々出来ることではない。大友監督は若いながらも英断を下せる松原女子の佐伯監督を高く評価することとなった。
なお、真相は……
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視点変更
立花 優莉 視点
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「「「お願いしまーす!!!」」」
ネットを挟んで松女と姫咲の選手がそれぞれのコード自陣のエンドラインに立ち、挨拶。その後、ネットまで駆け寄り、握手をして春高最終予選、勝った方が春高本選に出れる決勝戦の開始だ。
「明日香がベンチのままだけど、どうしたの?」
うっ!
痛いところを握手相手の知佳ちゃんに突かれた。
「知佳止めなって。ここまでくればわかるでしょ。明日香はどこか悪いんでしょ」
はい、そーなんです。明日香はアタマが悪いんです……
などとは言えず、苦笑いに留めておいた。
「本当は万全の松女に勝ちたかったんだけど、怪我は仕方ないわよね。防げない場合だってあるし」
「……明日香にも、優莉ちゃんにも悪いけど、手加減なんてしないし、そんな器用な真似もできないから全力で行くよ!覚悟してね」
あぁ。眩しい。
正統派スポコンに生きる彼女達にうちの主将は中間テストで赤点だったので罰として出れないんです、なんて言えない……
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視点変更
同時刻
実況席より
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『春高本選への切符はたったの1枚。その1枚の切符を巡る決勝戦が間もなく開始されます。1校はIHに日本一となった姫咲高校。対するは10月の世界選手権で日本と世界を驚かせたスーパーエース、立花 優莉擁する松原女子高校。どちらも全国に相応しい実力を持ちますが、出場できるのはたったの1校。どうして切符は1枚しかないのか。どうしてこの2校は同じ県なのか。
実況は一坂 直樹、ゲスト解説は両校に縁のある、凄い方に来ていただきました。姫咲高校女子バレーボール部のOGで松原女子高校バレーボール部の立花姉妹のお姉さん。バレーボール女子日本代表の守護神。立花 美佳さんです!』
『よろしくお願いします』
『まず最初に、よくこの依頼を受けていただきました』
『もともとこの試合は会場で観戦するつもりでしたのでオファーは逆にありがたかったですね』
『意地悪な質問をしてしまいますが立花さんは両校に縁があります。どちらを応援していますか』
『あ、それは困りますね。どちらも応援してます、で逃げます。妹達が松原女子に入学してからこの両校の対決は本当に困っています。どちらにも勝ってほしいですから』
『縁の深さからなにか両校から聞いていますか?』
『はい。色々聞いています。勝敗に関わらない当たり障りのない内容なら回答できますよ』
『そうですか。それではさっそく、松原女子は準決勝に続き、決勝も主将の都平がベンチスタートのようです。こちらは何か聞いていますか?』
『エ~、妹カラハ身体ノ一部ガ悪クテ出レナイト聞イテイマス。ハイ』
『怪我、ということですね。これは松原女子高校にとっては痛い欠員ですね』
『誤解をされると困りますし、厳しいことを言いますが、大会本番に向けて体調管理をするのは当然のことです。万全の体調で大会を迎えられなかったのは松原女子としての失敗ですね。加えていってしまいますが、実は姫咲高校も全員が全員万全というわけでもありません。どうしても日々の練習は厳しいですし、それによる怪我や疲労とは無縁ではいられません。それらを含めて大会に臨むの――』
補足
問.明日香ってバカなの?
解.学校の勉強は本来相当できます。中学のテストでは主要五教科全てで1教科あたり80点を下回ったことはありません。しかも碌に勉強もしないで、です。ですが、それもあって中学校で勉強が出来た奴しか入学できない松原女子高校でもあまり自主勉強をしないので授業に置いて行かれているだけです。『才能に胡坐をかいて努力を怠るなどして、消えてきました』はスポーツの世界だけで起きる事象ではありません。




