028 熱狂の裏側で
遅くなりました。
実は少しの間、入院してました。
(世間を騒がせているコロナではありません)
ちなみに、病院食ってすごくおいしくないことがわかりました……
世界選手権で破竹の連勝を続けるバレーボール 女子日本代表
ついには第2次ラウンドも全勝、しかも毎試合セットカウント3-0で突破したことで、日本中が熱狂しもはや彼女達がTV、新聞、ネットニュースで登場しない日はないと言っていいほどだ。
対して、ほんの少し前、9月に行われた男子のバレーボール世界選手の日本代表は殆ど話題になることなく大会を終えている。
この違いはどこから来ているのか。
なるほど、確かに女子代表は個性的で魅力的な選手がいる。
一番の点取り屋で、反面守備は全くせず、なぜと聞かれれば本人も監督もチームメイトも守備が下手だからと答え、チームで最も背が低く、最も若く、アスリートらしからぬプロポーションと整ったルックスの立花 優莉は特に目立つ。
その立花の姉で反対にチームで一番レシーブが巧く、これも妹とは正反対に守備の要とも守護神とも言われ、背丈は177cmとリベロとは思えない程高く、一方で妹と同じように整ったルックスとアスリートとは思えぬほど起伏にとんだプロポーションを誇る立花 美佳。
母親がオランダ人でアジア人にはない染めていない自然な赤毛と白い肌、チーム随一の高身長に見目麗しい津金澤 杏奈などにも人気が集まっている。
しかし、男子代表にも個性的な選手はいた。
父親は元バレーボール日本代表、母親は元バレーボールブラジル代表というバレーボール界のサラブレッドにして高身長、イケメン、スポーツマンの三拍子そろった日本の若きエース近藤 巴羽露。
甘いマスクのエースとは反対にいかつい風貌にゴツイ体格、それに反して笑うと途端に人の好い愛嬌のある顔になる本橋 幸太。
高校卒業後、南米に渡りそのまま現地のプロリーグで正セッターの座まで射止めた西川 文明。
他にも多くの魅力あふれる選手がいた。
しかし、男子は盛り上がりに欠けたまま終わった。
なぜか。
ひとえに男子は弱く、女子は強いからである。
男子は1次ラウンドを3勝2敗で何とか突破したが、2次ラウンドは全敗で敗退。残念ながらまず強くなければ人気が出ないのだ。
さて、そんな強さで日本中を興奮させるバレーボール 女子日本代表の試合を大河 奈央はこれまでとは違った視点で見ていた。
バレーボールを始める今年の4月前まで、彼女にとってバレーボールとはよくわからない競技でしかなかった。たま〜〜〜〜に放映される日本代表の試合を見ても最初になぜか男性アイドルグループが歌って踊ってそれから試合をする珍妙な競技、程度の認識だった。
それが今年は違う。
ルールを知り、戦略を知り、選手とボールの動き、その1つ1つの意図目的を理解したうえで観るバレーボールは最高に面白いスポーツへと変わった。
そして思った。
世界最高レベルのバレーボールは凄い。
同時に思った。
いつかあの場所に自分も立ちたい。
(そういえばお正月とかオリンピック中だとかで親戚が集まる場所でよく体操の世界大会を見て自分も出たいと思った、なぁんて話がよく出てたけど、それってこういうことかぁ……)
奈央は今更ながら親戚の気持ちがわかった。
(でも、私があそこに立つには足りないものが多すぎる……)
だからこそ、奈央は試合を観る。世界最高のその技術を少しでも会得するために。その中であることに気が付いた。
(それにしても優莉先輩、高校にいる時と全然違うなぁ)
奈央は普段一緒にバレーボールをする時と、日本代表としてバレーボールをする時とでは異なるプレースタイルを見せる先輩に驚いた。
なぜここでまで違うプレースタイルなのかと高校に残った他の先輩達に聞けば、「優莉抜きで守備が出来るならむしろあのプレースタイルが正解」と苦笑しながら回答された。
TVの向こうの優莉先輩は守備をしない。びっくりするくらい守備をしない。日本の監督はこの件で質問を受けた際、「妹の立花は守備が下手だからさせない」と回答している。確かに一部真実かもしれないが、全てではないことくらい今の奈央にもわかる。
(優莉先輩は攻撃のことしか考えてない。どうやって攻めるか、相手コートのどこに隙があるのかをずっとうかがっている……)
女子日本代表のユニフォームを着た優莉先輩は松原女子高校のユニフォームを着ていた時なら率先して追っていたルーズボールを追わない。松女なら一番運動能力に優れる優莉先輩がボールを追った方が拾える可能性が高い。
だが女子日本代表の選手としてなら他のチームメイトもボールを追える。
そして追って拾ってもらったボールを優莉先輩が決めた方が得点につながる。多分それがチーム戦術なのだろう……ということが読み取れるくらいには奈央もバレーボールを理解するようになっている。
適当なマスコミはその辺を全く考慮せずに『スーパーアスリートの立花 優莉も守備は苦手』というのを大々的に報じていたりしているが。
今年の4月以前の奈央なら無責任で適当なマスコミの報道を真に受けていたと思われるが、今の奈央は試合での立花優莉の動きを見てマスコミの報道には騙されなかった。
また、味方はもちろんだが、相手コートの選手もまた立花優莉が虎視眈々と攻撃の機会をうかがっているのを警戒しているのが見て取れる。
直接ボールを触らずともこうした動きによる駆け引きもバレーボールにはあるのだ。
他にもサーブを変えている。
4月頃にネットで『男子』トッププロ (この時点でツッコミどころ満載だが、『優莉ちゃん (優莉先輩)だしねぇ』で済ませるのが松女バレー部暗黙のルールだと奈央も知っている)のスーパーサーブを見て真似してみようと始めた新サーブ。
サーブトス時にわざとボールに緩い縦回転をつけてこれまでより多くの助走をつけて高く跳び、体重も乗せて放つ超サーブ。
そりゃもうもの凄い。なんせボールがあるところでぐにゃっと物理法則を無視してるんじゃないかってくらい急速に落ちる。ただ、それは悉くラインアウトのところで落ちるから意味がない。
中々完成度が上がらず、インターハイ予選の時でも練習では精々成功率半々程度。当然、インターハイ予選では使わなかった。否。使えなかった。
そんなことをしなくても普通のスパイクサーブで決まる。インターハイ予選敗退後に再度封印を解いて練習を重ねたがそれでも成功率は6割程度。
(松原女子でバレーボールをやる時は優莉先輩のサーブローテが一番の得点源だしねえ。でも日本代表では優莉先輩が前衛にいる時こそ得点のチャンス。だから優莉先輩がサーブをミスったってそんなに影響がないんだ)
それもあってか優莉先輩が慎重にサーブを打つ必要もなく、新サーブ――メディアに魔球サーブと名付けられている――を主に打っている。9月の最終合宿でバレーボール専門コーチからなにかアドバイスを貰ったのか夏合宿の時より多少は成功率が上がっているがそれでも3、4本に1本はサーブミスをしている。ただ、その反面サービスエース率は非常に高く、『入れば強烈な魔球』と一部では大盛り上がりしている。
これらを見て奈央はまた1つバレーボールの魅力に気が付いた。
(そっかぁ。バレーボールって別に全部が出来なくてもいいんだ。なにか1つの武器があれば試合に出れるんだ)
これは奈央にとっては驚きだった。
奈央が中学生まで取り組んでいた体操は個人技を競う。確かに団体種目もあるが、それは各人がそれぞれ単独で演技を行い、その合計点で競うので根本的には個人技のままである。
それに対し、バレーボールはチームスポーツである。
確かに選手1人1人がサーブ、レシーブ、トス、スパイク、ブロックといったあらゆる技術レベルが満点で、さらに高身長で身体能力も高ければそれは最高だろう。
だが、そんな選手はまずいない。
だから満点とは言わずとも全てが70〜80点以上の選手を揃えるのが事実上の最強チームになると考えていた。
が、そうではないことをTVの向こうの日本代表が証明している。
実際、彼女達を率いる田代監督は「何でもできる選手を集めて組織力で勝負するバレーボールをしても前任の鍋島監督以上のチームを作れる自信がありません。私は欠点がない選手ではなく、なにか不得手なことがあっても誰にも負けない長所を持つ選手を欲しています。そんな選手を代表に呼びます」と以前公言していた。
連日特集が組まれる女子日本代表の放送は奈央のバレーボールへの向上心を大いに刺激した。
そして強く思った。
試合に出たい!
一番近くの大会は11月の春高予選。その試合に出たい。6月のインターハイ予選の時はずっとベンチだった。今度は選手として出たい。
しかしそれが難しいこともまた知っている。
中学まで取り組んでいた体操は基本的に個人競技であり、本人が希望さえすればどんなに下手でも公式試合には出れた。一方、バレーボールで試合に出るためにはまずチーム内での競争を勝ち抜かなければならない。だが、4月からバレーボールを始めた奈央は他の部員に比べ経験値で圧倒的に劣り、ほぼ全ての技能で部内で下位争いするほど低い。
加えて立花優莉ほど飛び抜けた武器があるわけでもない。
更にはポジション。
奈央のポジションはセッター対角のウィングスパイカー。
部内で同じポジションは他に1人だけだが、ライトから打つことに拘りがなければウィングスパイカー自体は部内で合計8人いる。
さらに日頃の練習でもウィングスパイカー陣はライトから打つことも練習メニューに取り入れているのでレフトから打つ方が得意だという部員はいるが、ライトからスパイクを打つことに苦手意識を持っている部員はいない。
となるとセッター対角という枠組みではなくウィングスパイカーという枠組みでポジション争いを考える必要がある。
枠はレフト2名、ライト1名の計3名。
この3名枠は日本のエース立花優莉、競技歴1年でU-19にも選ばれるほどの天才村井玲子、主将で経験値が一番多いチームの大黒柱都平明日香がまず選ばれる。
この3人以外にも今の大河奈央よりも試合で活躍できる選手が大勢いる。
一方で絶対に試合に出れないか、と言われればそうではない。
何か1つ武器があればバレーボールでは試合に出られる。その武器を大河奈央は持っている。
ネットインサーブ
流石にバレー暦が半年を超えてくるとネットインサーブが強力な武器であると気が付いている。自分が試合に出るとしたらピンチサーバー。強烈なサーブで名をはせる松原女子高校でもこれは有効。
ただし、ウィングスパイカー枠にほぼ当確している前述の3人については元々強力なスパイクサーブの使い手なので彼女達の代わりにサーブを打つことはまずない。
セッターの代わりにサーブを打ってしまうとその間はセッター無しで試合をすることになるのでこれもない。
狙いどころは同じ一年生が担うミドルブロッカー2名がサーブを打つ時。それならピンチサーバーとして試合に出られる。
(よし、試合に出るためにもサーブを磨こう!)
(まったく。もう春高2次予選まで一ヶ月もないのに部活動を中止するなんてどうかしてるよね。でもこういう時に自主練習をするとライバルと差をつけられるんだよね)
こうして大河奈央は近所の市営体育館へサーブの練習のために向かった。なお、松原女子高校では一週間後に中間テストがあり、そのため現在は部活動停止期間中である。
また、バレー部では1教科でも40点未満があれば試合には出さないというルールがあるが、勿論そんなことは奈央の頭の外にしかない。
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奈央の実家から自転車で10分もかからないところには市営の体育館がある。もっとも、大きさの割に体操用の器具は一切ないので中学までは無価値な場所と奈央は認識していた。
それがバレーを始めた今は違う。
(あの体育館にはメインが1つにサブは2つ。いきなり行ってもどっかのアリーナは空いてるよね)
10月も折り返しを過ぎた日の土曜日。奈央はそんなことを考えながら自転車をこぎつつ市営体育館を目指した。
目指したが――
「え?事前予約が必要なんですか?」
体育館の受付で確認するとアリーナの使用には遅くとも前日までに事前予約が必要だった。ダメもとでサブアリーナは空いているのだから使わせてくれと頼んでみるも、ルールは変更できないと断られる。仕方ない出直すかとロビー入り口に向かうと思わぬ人物から声をかけられる。
「あれ?奈央?どうしたの?」
「え?結花?何でここに?」
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「いやぁ、助かった!持つべきものは近所に住む同じ部活の子だね!」
「それはいいけど、使用料金は割り勘だからね」
中間テスト直前の部活動停止期間中にもバレーの練習をしたいと思ったのは何も奈央だけではなかった。同じく松原女子高校バレーボール部の結花もまた日夜報道される女子日本代表に触発された一人だった。また、結花は奈央とは違い事前に体育館の使用条件を調べて予約するくらいの計画性を持ち合わせていた。
余談だが、2人とも市営体育館近くに家があるが、場所は体育館を挟んでそれぞれ反対側。小学校、中学校の学区も体育館を境に分かれていたためにお互いに面識がなかったが、実は結構なご近所同士であることが判明した。
「ところで奈央。呑気にバレーの練習なんてしてていいの?もうすぐ始まる中間テストのコミュニケーション英語と英語表現、どっちか片方でも40点未満ならそもそも試合出れないんだよ?」
「平気平気。何とかなるって。私、一夜漬け得意だし!」
「……あっそ。どうなっても知らないからね」
奈央は英語が苦手である。どれくらい苦手かというと高校1年生の1学期にしてすでに英語2教科で赤点を取るレベルであり、はやくも卒業どころか進級すら危ぶまれているほどである。にもかかわらず、英語を必死になって勉強しようとはしていない。夏休みに出た英語の宿題も適当に埋めて提出しようとさえしていた。
それは流石にまずいと夏休み最後の2日間は松原女子高校に近い立花姉妹宅にて強制英語合宿が開催された。その結果、面倒見の良い立花姉妹をして「これはダメかもしれない」と匙を投げられてしまったわけだが……
「それに今回は秘策があるの!2学期に入ってからずっと毎日優莉先輩から借りたBDで英語を学んでるし!」
奈央が言っている『優莉先輩から借りたBD』とは日本では6年程前に流行ったとあるアニメのBDのことである。そのアニメは如何にも思春期の男の子が好きそうな中二センスあふれるダークファンタジーであり、当時の中高生男子(と大きなお友達)のハートを掴み、深夜アニメにもかかわらず記録的な大ヒットとなった。
あまりのヒットぶりに海外のアニメファンからも自国で放送してくれと要望が集まり、日本に少し遅れて世界展開、今では英訳版をはじめとする他言語版も世に出回ることとなった。
ちなみに女性にはさっぱり受けなかったアニメでもある。
奈央が知っているのは現在大学1年生、アニメ放送当時中学1年生の兄が録画されたそれを熱心に見ていた隣で視聴していたからであり、本来の持ち主である優莉も「き、近所の大学生のお兄ちゃんが絶対に面白いからって薦められて……」との助言を受けて買ったとのことだ。
ともあれ、そのBDのアニメを繰り返し見るうちに何となく英語がわかってきた、と大河奈央は思っている。それが英語のテストに役立つかは未知数である。
「中間テストが終わって11月になったら試合だよね。はやく11月にならないかなあ……」
「奈央、自分が試合に出れると思ってるの?」
目前にせまった中間テストなど度外視し、まだ3週間程先の春高予選に思いをはせる奈央にツッコミを入れる結花。
(まあ、奈央はまだ素人だしどうやったら試合にで「出れるんじゃない?英ちゃんか貴ちゃんのところのサーブローテでピンチサーバーとして」
!!
結花は驚いた。
てっきり考えもなく試合に出たいと言っていると思った奈央だが、現実的にあり得る可能性を導き出していた。漫然とピンチサーバーとしてなら出れる、ではなく松女の中で奈央よりサーブの弱いところを把握しているのだ。
「あれ?私、何か変なこと言った?」
「あ〜変なことは言ってないよ。ただ、あの奈央がたった半年でそんなことまで考えられるようなったんだなあと思ったの」
「え〜ひっどい!私、こう見えても運動神経良い方なんだけど?」
(良い方どころかとても優れている部類だと思うんだけど……)
と内心思いつつ、せっかくだから次の春高予選に向けて気になっていたことを聞いてみることにした。
「ところでさ、奈央じゃなくて私は試合に出れると思う?」
「陽菜先輩に何かあれば出れる。何もなければ絶対に出れない」
「デスヨネー」
次の春高予選、雨宮結花が出場できる可能性は本人の頑張りより他人の出来に依存してしまう。松原女子高校バレーボール部の正セッターは1学年先輩の立花 陽菜が任されている。
彼女は小学生の頃にバレーボールをやっていたが、中学では別の運動部に所属していたため、バレーボールの絶対的な経験値は小学生から高校生の今までバレーボールを続けている結花の方が豊富ではある。だが、ことセッター経験については5ヶ月前に始めた結花と小学生のころからセッターであった陽菜とではむしろ負けている、と言っていい。
更にあちらは身長174cmと男子並みに背が高く、去年一年間、松原女子高校バレーボール部の筋トレを続けたこともあって単純な身体能力ではどう考えても結花に勝ち目はない。
さらに世界を相手に無双の活躍を続ける立花優莉からも信頼されている。
それを証明するある逸話が先日マスコミをにぎわせた。
盛んに報道されるバレーボール 女子日本代表。盛んに報道されれば多くの人が取材に訪れ、中には質の悪い質問をする記者も現れる。
丁度、第1次ラウンド最終戦で負傷交代した正セッターの川村選手の代わりに第2次ラウンドでは飛田選手がセッターとして出場した。副セッターと侮るなかれ。第2次ラウンドはセッターの大役を女子日本代表首脳陣の想定以上に務め上げた。
それだけならよかったのだが、飛田選手は自分が代役だというつもりはまるでなく、第2次ラウンド終了時には「いい機会をいただきました。この先も私がセッターを務めます」などと公言してしまったのだ。
これに飛びついたのが前述の質の悪い記者たちだった。
“順風満帆に見えた日本代表に亀裂か!”
と面白おかしい記事を書くべく、選手や首脳陣に取材を敢行してしまう。
その中で、やはり立花優莉の意見は重要だろうと、質問や回答の内容によってはチーム内に亀裂が走るにも関わらず川村選手と飛田選手のどちらが良いか聞こうとした。
が、質問の仕方が悪かった。
「(川村選手と飛田選手の)どちらのトスが打ちやすいか」と聞けば望みの回答が得られたのかもしれないが、「誰のトスが打ちやすいのか」と聞いてしまったのだ。
そうなると松原女子のバレーボール関係者なら誰でも知っているシスコンの出した回答は当然、川村選手でも飛田選手でもなく
「お姉ちゃんのトスが一番打ちやすいです」
であった。
想定外の回答に目が点になる記者。だが、詳しく話を聞くとなんと立花美佳–優莉姉妹の間にはもう1人、陽菜という女子高生がいることがわかった。
これはこれで面白い記事が書けると喜ぶ記者。その回答しているところをTV越しに見た当の陽菜本人は「あのバカァ!!!」と絶叫し頭を抱えた。
ともかく、世界最強エースから日本代表クラスのセッターよりいい、とまで言われる陽菜を押しのけて結花が試合に出ることなどまずない。
また、奈央のようにピンチサーバーとして出番があるかと言われても、結花のサーブは高校入学時から鍛えているが松原女子の選手としては平均レベル。セッターというポジションの特殊性から複数名コートに入れるようなこともない。つまり、現正セッターの陽菜がいる限り結花が試合に出場することはないのだ。
「はぁ……。わかってたけど、やっぱりそうだよね。私が出れるなんてまずないよね」
「うん。下手に慰めても意味がないから言うけど、結花が試合に出れる可能性は低いよ。出たかったら陽菜先輩にない、結花だけの武器がないと」
「武器って言ってもねえ……。あーあ。春高予選で姫咲にお返ししたかったのに……」
「それはまぁ、ドンマイだね」
どんよりとしながら支柱を立て、ネットの準備をする結花。
奈央からすれば、このまま練習するとなるとこちらまで憂鬱になりそうなので、思いついたことを口にしてみたにすぎない。
「そういえばさ、せっかく2人いるんだし、結花はセッターでしょ?あとでボールを上げてよ。ちょっとスパイクの練習もしたい」
それは本当に偶然。ただの思い付き。
しかし――
「そういえば、奈央は万能型のオポジットをやるんだよね」
「そうだよ」
「だったら、奈央。私も奈央にトスを上げるから、奈央も私にトスを上げてよ」
事態は思わぬ方向に進んだ。