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012 初めての壁ドンにやっちまう

次からは週1~2回の投稿になりそう……

 女になって変わったことと変わらなかったことがいくつもある。

 変わらなかったものの代表格は食べ物の好き嫌い。揚げたての春巻は世界で一番美味い食べ物だと思うし、唐揚げにレモンをしぼる奴は銃殺刑にするべきだという主張は男だった時から変わらない。

 

 一方、変わったものの代表格は自分の身だしなみだ。男だった時は衣服にこだわりがなかったが、今はかなりある。

 非常に残念ながら、周囲が俺に期待する着てほしいと思う服と俺が着たいと思う服にギャップはあるが、とにかく今の俺は身だしなみについて男の頃とは比べ物にならない程うるさい。

 なにも服だけではない。髪もそうだし、スキンケアだってそれなり、少なくとも女性暦の大先輩である俺の姉×3にも合格点をもらうくらいには毎日やってる。あと、ムダ毛の処理もな。

 

 そうした身だしなみの中で、今俺が一番気になるのはにおい。汗くさくないかなあ?

 

 今日は午前中1試合、お昼ご飯を挟んで午後に1試合、計2試合を行った。1試合目は第1セットだけ出場して、第2セットはベンチで見学。


 あれですよね?佐伯先生からの『優莉、お前はもっとバレーボールを学べ』って無言の脅迫ですよね?よくスパイクを打つ時に位置を考えろって怒られるし。


 はたから見るバレーボールはなかなかためになった。いままでユキってなんであんなにレシーブできるんだろ?って思ってたけど、位置取りが上手いからだな。(多分だけど)スパイカーの飛ぶ位置、手の向きからボールが飛んでくる方向を予測している。腰も低くしてボールに備えている。踵も浮いて、いつボールが来ても素早く対応できるようにしている。


 反対に悪いのが玲子。腰の位置が高い。踵もべったり地面についてる。レシーブはボールの下に素早く入るのが大切だとあれほどユキに教わったというのに……。

 たぶん俺も出来てないんだろうなあ。それに腰の位置が高くなるのも仕方がないことなんだよ。バレーボールってボールをコートに落とさない競技なんだからどうやったって視線が上向くわけだし。


 これまでも美佳ねえの試合を何度も見てたはずだけど、ルールとか怪しかったし、なによりバレーのプレイがどれくらい難しいか知らなかったからなあ。

 今見ると違う感想が出るのだろうか?


 ともかく、初のバレーの公式戦を終えて陽菜と共同作品の手作り弁当(同じ家にいる姉妹なんだから必然的にこうなる)を食べて2試合目。

 

 めちゃんこ酷使された。

 「1試合目、半分しか出てないし、体力的に余裕だよね」

 とか言われて、俺にばっかトスが飛んできた。

 

 そりゃ体力は余裕あるさ。でもさ、ひどくね?俺が前衛にいると全部俺にトスをあげてますよね?まあそんなことがあった2試合目。こっちもセットカウント2-0で勝てた。まずは初日突破。次は来週。

 

 ともかく1日にバレーの試合を2試合、特に2試合目なんか飛び跳ねまくったわけで汗もたくさんかいたわけですよ。こまめに汗は拭いてたし、試合が終わったので汗を吸ったユニフォームから制服に着替えているけど、シャワーを浴びたわけではないし。


 くすん。汗くさくないかな。


 こうゆうのは忌憚のない意見を聞ける身内に聞くのが一番だ。




「ねえ。陽ねえ。私、汗くさくない?」

「ん~。大丈夫。優ちゃん可愛いよ」


 この返事である。適当にあしらい過ぎだろう。だったらこっちにも考えがあるぞ。


「ねえ。陽ねえったら」

 陽菜に抱きつく。俺が男だったら大問題だが、女になって以降、陽菜だって俺によく抱きつくのだから問題ないだろう。


「あーはいはい。……大丈夫。石鹸のにおいがするかな?くらいだよ」

 抱きついても陽菜だって気にした様子はない。それどころか俺の背中に手を回して軽くホールドするくらいだ。

 

 ちなみにここは、試合会場となった体育館のエントランスホールの出入り口付近。試合は全部終わったので続々と各校が帰り支度を行っている。


「ところで優ちゃん。ベストを着てるけど、暑くないの?」

「暑いけど、透けるよりマシかなーって」

「優ちゃん気にしすぎ~」


 今は6月なので衣替え済み。松原女子高校の夏服は下はスカート、上は半そでブラウスに学年別で色の違うリボン。そして義務ではないがベスト。


 なぜベストがあるかというとまあ、あれだ。透け対策。

 それに俺の場合、スカートベルトを隠す意味でもベストが欲しい。


 ちなみにブラウスはそこそこ厚い生地で、雨にでも降られるか汗だくにでもならない限り、俺のサイズで透けるということはない。

 ただし、内側から押し出すものが大きければ大きいほどブラウスの生地が伸びてしまい、生地がうすくなってしまう。

 そうなると相対的に透けやすくなるわけで、俺以外にもこの暑い中、ベストを着てるやつが一人いる。


 この中で一番背の低い彼女に聞いてみよう。暑くないのか?

「暑い寒いじゃなくて、エチケットの問題だから」

 なんて言っていた。やっぱり巨乳はもげるべきだと思う。



「ところでエリ先輩。今更ですけど、何で私達は制服なんですか?他の高校はジャージなんですけど?」

 あ、俺も聞きたかった。他校はジャージ。にも拘らず、俺達はエリ先輩が制服で集合、と言われたので制服で来ている。


「別にジャージでもよかったんだけど……」

 エリ先輩はスカートのすそをほんのちょっぴり持ち上げて笑いながら

「こっちの方が涼しいでしょ♪」


 納得。圧倒的納得感。ジャージというものは長袖長ズボン。加えて冬に暖を取れるものなので夏場に着るとすっごい暑い。


 現に周りにいるジャージ姿の高校生は男女問わず腕まくりをしてる。

 ……男子高生の一部に至ってはズボンまでまくってる。あれ、男だった時にやったことあるけど、はたから見るとかっこ悪いなあ。


 対してこちらは半そでブラウスにスカート。こっちの方が涼しい。

 


「おーい。お前ら。そろそろ帰るぞ。忘れ物はないか?ちゃんとチェックしろよ」

「「「「「「「「ハイッ!」」」」」」」」


 顧問の佐伯先生の号令で最後の荷物確認……って

「あれ?ボールバッグ、一つ足りなくない?」

「どこ置いてきちゃったんだろ?お昼には全部あったよね?」

「第2試合開始前の公式ウォームアップの時にはボールが全部ありましたから、その後だと思ます」

「あ、私、ちょっと見てきます!ほかで見つかったら連絡ください」

 こういうのは1年が探しに行くべきだろう。俺はスマホ片手にもと居た場所を探すことにした。

 

 

 

 

 

 

 先ほどから視線を集めているのを感じる。これは俺がハーフであることもそうだが、今日の試合も関係しているだろう。あれだけ派手に活躍すれば嫌でも目立つ。今頃どこかのSNSサイトに情報があがっていることだろう。


 ぶっちゃけ今日の試合を軽々勝てたのは俺と玲子の前情報がなかったことが大きい。言ってしまえば奇襲のようなものだ。

 知られていたら何らかの対策をたてられていただろう。少なくとも心構えはされていたはずだ。


 って、こっちをスマホで撮ってるやつもいる。試合中ならともかく、今の俺を撮っても利益にはならないと思うが……

 あ、こいつに気をつけろって警告には使えるか。

 

 とやっていると壁際に1つだけポツンと取り残されたままのボールバッグを見つけた。ちゃんとマジックで『県立松原女子高等学校バレーボール部』と書かれている。ったく。ボール6個入りのこんなでかいもの忘れるなよ。俺達。


 スマホで連絡。『ボールバッグ見つけました。今から戻ります』っと。


 

「ねえそこの君。ちょっといい?」

 男からの声だ。周りを見渡す。誰もいない。俺のことか?

「そこのハーフの子。君だよ。さっきの試合みたよ。すごかったね」

 やっぱり俺のことか。ここでようやく声の主の方を見る……


 でかい!!玲子よりでかいな。まあここには他校の男子バレー部員もいることだし、となるとことさらでかい奴がいても不思議ではない。……180cm後半かな?近くにはもう二人、背の高いのがいる。こっちは二人とも多分180cm前後位。


「あ、見てくださったんですね。ありがとうございます」

 じゃ、っと立ち去ろうとしたら進行先を腕でふさがれた。今俺はでかい男と壁に挟まれている。おぉ!人生初の壁ドンだ!嬉しくないけど。


「びっくりしたよ。その身長で俺と同じくらいまで飛ぶんだもん。普段どんな練習してるの?」

 おや?ナンパかと思ったけど真面目に聞きたい系?だったらこっちも真面目に答えるか。

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

「へえ。松女じゃそんな練習してるのか。お互いの練習メニューを組み合わせたらもっと強くなれると思わない?だからさ、連絡先を教えてよ」

 すんません。ただのナンパでした。マジか。俺もチョロいなあ。こんなのに引っかかるとは。みんなのところへ帰るか。

「あの、私みんな待ってますので失礼します」

「いいじゃんちょっとくら――――」




「あの、私の妹に何か用ですか?」

 不機嫌な声とともに現れたのは、これまた不機嫌な顔をした陽菜。せっかくの美人さんが台無しである。

「はぁぁぁぁあ。ったく。戻りますって連絡来てからなっかなか戻ってこないと思ったらこんなところで油を売っちゃって。ほら、帰るよ優ちゃん」


 陽菜は右手を差し出す。俺はそれを握る。

「失礼しました」

 陽菜はナンパ男達に(一応)一礼し、俺の手を引っ張る。――小さい子供じゃないんだから引っ張るなよ。


「ちょ、ちょっと待ってよ。お姉さん。え?君達姉妹なの?」

 と言いながら陽菜の腰に―――

 

 !!!

 

「陽ねえから手を放せ!」

 気が付けば左手(右手は陽菜と手をつないでいるからな)でフルスイング。見事、相手の下あごを打ち抜いてしまった。

 …俺の膂力は見た目に反して男性並みにある。それで全力で平手打ちをすればどうなるか。やっちまった。ナンパ男は見事に失神してしまった。

 

 

 この後は結構大変だった。まず、失神した男性を運ぶべく救急車が呼ばれ、原因となった俺達が大会のお偉いさん達から事情聴取され、俺が


「相手の男性がお姉ちゃんのおしりを触ろうとしたのでやっちゃいました」


 というと何とも言えない雰囲気になり、喧嘩両成敗(相手も悪いが、失神させるほど強くひっぱたいたのも悪い)、双方注意で終わると思いきや、俺達以外の証言や証拠(たまたまスマホで様子を撮っていた人がいた)から俺がセクハラの被害者になっていた。なんでやねん。

 

 

「ほら、ここ。相手が優ちゃんのおしりを触ってる!」

「触ってるっていうより、かすってる、じゃん。こんなの一々セクハラにしてたらキリがないよ」

「だー!!!いつも言っているでしょ!優ちゃんは女の子なの!もっと自分を大事にして!さっき、お姉ちゃんにはちゃんと未遂で怒ったでしょ!あれを自分にも適用するの!!」

「優莉。確認するがお前はちゃんと断ったんだよな?」

「動画にもあるように最初に去ろうとしたら手で道をふさがれました。あと、最後にはみんなのところへ戻りますっていいました」


 現在、証拠のスマホ動画を陽菜(関係者扱い)、佐伯先生(バレー部の顧問ということで巻き込まれた)、その他で確認中である。

 

「うちの優莉は物怖じしない性格です。が、一般論として身長160cmもない女性が180cmを超える男性3人に囲まれれば強くは出れません」


 佐伯先生が相手高校の監督に苦情を入れる。


「いや、まさにその通りです。今回の一件は私の監督不行き届きです。松原女子高校の生徒のお二人には大変申し訳なく――」

 その相手高校の監督だという人は先ほどから平謝り状態だ。俺こそ申し訳ない。だってこれ俺が男なら相手を失神させたから傷害事件だぜ?

 それが女だと「か弱い女の子が男三人に威圧的に接されて怖気づいていたところに姉が登場。姉にも危害が加わると思った女の子が姉を守るために勇気を出して男に平手打ちをした」って話になってる。世の中不思議だ。


 この後も騒動はなかなか収まらなかった。まず、ナンパ男の高校(どうでもいいが南波(なんば)高校というらしい)。すでにIH予選敗退が決定していたが、さらに半年間公式戦を自主的に辞退するらしい。

 これは(なぜか)被害者になっている俺が取り下げてくれと頼んだので無しになった。いや、だから俺が男だったらどう考えても俺が加害者になるんだって。寝覚めが悪くなるんだよ!

 

 続いて試合会場。今回の一件を受けて男女で試合会場を分けることになった。といっても実際に会場ごと分けるのは来々週からで、来週の会場は予約が間に合わないので時間帯を分けることになった。

 

 具体的には

 

  午前 第1試合目 男子の試合

  午前 第2試合目 女子の試合

       昼休憩

  午後 第3試合目 男子の試合

  午後 第4試合目 女子の試合


 だったものが、

 

  午前 第1試合目 男子の試合

  午前 第2試合目 男子の試合

   昼休憩(この間に男子は解散)

  午後 第3試合目 女子の試合

  午後 第4試合目 女子の試合

 

 といった具合。

 

 つまり、俺のせいで男子なら午前中に連戦、女子なら午後に連戦、となるわけだ。

 そして『男女で試合開始時間を分ける』がIH県予選の行方を変えると知るのは来週のことである。



Q.男女で時間分けるって、例えば男子バレー部の女子マネとか応援とかはどうすんの?

A.あくまで男子バレーの予選と女子バレーの予選で開催時間を分けるだけです。


Q.対策が適当すぎてザルすぎる

A.その通りですが、男子高校生が日本に来て1年もたたない帰化女子高生に対し、セクハラ行為をしても何も対策しません、ではすまないのです。

  適当だろうとなんだろうと『今回の件を真摯に反省し、対策を講じました』という形にしなければなりません。


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― 新着の感想 ―
女性を3人がかりで絡んでひっぱたかれ気絶…ダサ過ぎて残りの学生生活が楽しみですね~(笑)
[気になる点] 男だったら絡まれることもなかったから、男だったら加害者の仮定の意味あるかな?
[気になる点] もし男だったら傷害罪って考えは意味わからん。現時点で女なんだから男だったらもなにもないでしょ。普通にこの男は退部どころか退学が妥当。立派な性犯罪
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