003 ニュージェネレーション! ―大河 奈央―
私の名前は大河 奈央
大河って書いて『おおかわ』じゃなくて『たいが』ってところからひょっとしてと思う人がいると思うの。
ムカつくことにそれは正解。
日本体操界の父なんて呼ばれている大河 龍平は私のひいおじいちゃん。
世界を相手に二度の五輪を含む6年間無敗を誇った大河 信弘は私の従兄弟違。
床・跳馬・段違い平行棒・平均台の女子4種目で当時の世界記録を大きく塗り替えてミス・パーフェクトの異名で呼ばれた大河 康代は私の叔母。
体操のどの種目にだって『タイガ』って名前のついている技がある。海外だと『TAIGA』じゃなくて『TIGER』って呼ばれてるけどそれはもう体操界のお約束になっている。その他、『体操 大河』で検索すれば山ほど選手がヒットする体操一家ならぬ体操一族。
私のお父さんも学生時代は良いところまで行ったらしく、補欠として五輪に選ばれたこともあるらしい。
あ、お母さんは体操選手じゃないよ。ただ、柔道の一番軽い階級で高校王者だったらしい。お母さん本人はたまたま自分の前後の学年に強い選手がいなかっただけって言ってるし、事実主要な大会で優勝できたのは高校生のうちだけだったけど。
で、そんな呪われた体操一族に生まれた私の好きなことは『食べること』。
嫌いなものはもちろん『体操』
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腐っても大河一族は体操一族って呼ばれるだけあって本当に小さい頃から体操を学ぶ機会がある……
というよりやらされる。
私が小学校に入学する前から体操は始めてたし、その練習量も多い。それこそ遊ぶ時間をたっくさん犠牲にして体操をやらされていた。小学校の頃は一応全国体操小学生大会まで勝ち残って銀賞までもらったこともある。
けど名門一族の子供だけあって親戚一同からは「もっとできるはずだ」とかの声。
おかしくない?
私はお父さん達の人形じゃないんだよ?
小学生の頃まで我慢して体操を続けていたけど、中学に入って早々に爆発した。
「体操なんて辞めてやる!」
で、家出した。
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「んで、来たのが俺んところか。はっはっは!!」
家出の事情を話すと何がおかしいのかおなかをかかえて大笑いする恭平兄ちゃん。恭平兄ちゃんは私のひいおじいちゃんの弟のひ孫。私とは確か再従兄妹の関係になるはず。
「でもよくここまで来たもんだ。ただの中学生の家出にしちゃ随分気合い入れたな」
「ここ、そんなに遠くないじゃん」
私の家から恭平兄ちゃんの家までは電車で3駅分、車を使えば30分くらいかかる距離が離れている。ちなみに恭平兄ちゃんはもう大人で今は家を出て1人暮らし。
「で、来たとこ悪いが帰れ」
「やだ」
「……だよなあ。とりあえず学校は?」
「恭平兄ちゃん、今は8月だよ?夏休みに決まってるじゃん」
「あ~いいな、学生は。こちとら久しく長期休暇なんて取ってないぞ?」
「兄ちゃん社畜なの?」
「どこでそんな言葉覚えた?別に社畜ってわけじゃないぞ?スポーツジムのインストラクターも契約社員で兼任してはいるけどな。休日だってちゃんとある。まあ土日は稼ぎ時だから休みは平日だけどな。おかげで大学時代のダチとは呑みに行くこともできん」
「土日が休めないなんてやっぱり社畜じゃん」
「こんなのは社畜のうちに入らん」
ぎゃーすかぎゃーすか
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恭平兄ちゃんはなんだかんだ言って私にもの凄く甘い。この時も散々口では反対したくせに最後は折れてくれた。
だから大好き!
言葉にしたらへそを曲げるから言わないけど。
「わかった。とりあえず、奈央の父親と奈央の母親には俺から言っておく」
ほらね!
さっそく私の家に電話をしてあれこれ説得してくれたのは良かった。
「奈央の父親と奈央の母親から条件付きで外泊の許可は出たぞ」
うん。まあなんかの条件はつくよね。
「で、その条件だが、まず俺からの条件。見ての通りここは俺が1人暮らしで借りている部屋だ。家事全般を俺がやっている。これを奈央ちゃんも手伝え」
それは仕方ないよね。もとより最低限、洗濯だけは自分でやるつもりだったし。というかいくら親戚でも下着を洗ってもらうのは乙女としてちょっと……
でも、この後がいただけない。
「次に奈央の父親達からの条件。俺の教えている体操教室で体操をやれ」
なっ!
「それじゃ意味な「飯はいくら食ってもいいぞ」」
へ???
「カロリー計算だとか体重だとかややこしいことは言わない。体操さえ真面目にやるのなら飯はいくら食ってもいい。あと、俺の教えている体操教室は奈央ちゃんが通っていたところと比べるとレベルが低い。だから怪我を防止する意味も込めて高度なことはやらなくていい。まあ適度に運動して腹を空かせるために体操をやると思えばいい」
……
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「俺の親戚の奈央だ。とりあえず8月の間はここで一緒に練習することになるぞ。みんなよろしく!」
次の日。
背に腹は代えられない。それに恭平兄ちゃんのところの体操教室は1回2時間で土日は片方だけやる仕組み。祝日は基本的にお休み。これは私が通ってたところよりずっと短いし、練習日も少ない。ちょっとだけ我慢すればいい。
「大河 奈央です。中学1年生です。よろしくお願いします」
恭平兄ちゃんの体操教室の中学生用教室で練習前に他の練習生の前で自己紹介をする。あぁでもやだなあ。また『大河』だからって期待され――
「よろしく!大河さんは中学校はどこなの?」
「へ?あ、えっと牧原東中学……」
「それどこにあるの?」
「桜座市の真ん中らへんにある」
「桜座市!?あそこから来てんの?ということは親の車でここまで来てんの?」
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あれ?誰も私が『大河』って気にしない????
気になって恭平兄ちゃんの方を向くとこんなことを言ってきた。
「奈央ちゃん。マリオ・テッサリって知ってる?」
???
「誰?それ?」
「え~お前知らねえのかよ!超有名なサッカー選手じゃん!」
私が知らないというと体操教室の男子がみんな驚いていた。
「たとえばジェフ・グラディとかベルナルダンとかも奈央ちゃん知らないだろ?」
誰???
「マジかよ!お前サッカー嫌いなの?」
次々と同じ体操教室の男子が私を囃し立てる。
「ちょっと、やめなさいよ。大河さん困っているでしょ?」
「ごめんなさいね。男子っていっつもこうだから」
それに対して体操教室の女子組は庇ってくれた。でも肝心なのはそうじゃなくて――
「奈央ちゃん。世の中そんなもんだ。おそらく世界で一番金が動くであろうプロスポーツのサッカーですら奈央ちゃんみたいに知らない人は知らない。まして体操なんてそんなに顔の広いスポーツなんかじゃない。奈央ちゃんの見てきた世界なんてほんの小さなところでしかないんだぞ?」
……
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恭平兄ちゃんの体操教室は恭平兄ちゃんが自分で言っていたようにそんなにレベルは高くなかった。私が通っていたところと比べるとあっちの教室の一番へたくそな子がこっちの教室だと一番上手い子くらいの差がある。だから私がいつも通りの技を一寸披露するとみんなして大騒ぎになった。
でも一番違うな、って思ったところはみんな楽しそうにやっていることだった。ふざけているわけではないし、真面目にやっているけどそれでも笑い声が絶えない。それが私には衝撃だった。
「奈央ちゃん。どうだい?ここの体操教室は?」
休憩時間中、恭平兄ちゃん――じゃない。大河監督が私に聞いてきた。
「この教室って何のためにあるんですか?なんかみんな余裕ありそうな感じですし。もっと追い込んだ練習をしないと大会で勝てませんよ?」
我ながら嫌なことを聞いたと思う。けど、大河監督は笑って答えた。
「そりゃ体操をやるための体操教室だ。まあ確かにここの連中は一生懸命やってるが、奈央ちゃんの行ってた教室と違って良くて県で1位、全国は出場がやっとってところだろうな。
でも別に全国大会で金賞を貰うことだけが全部じゃないだろ?例えば、後方転回――あえて俗っぽい言い方をすればバク転をしたいとかそんなんで体操やってもいいわけだろ?」
「え~!!やるなら中途半端はよくないよ」
「だったら例えば学校でサッカーでもバスケでもソフトボールでも何でもいい。スポーツをやる時は全員が全員、プロを目指して一心不乱に取り組んでんのか?
んなわけないだろ。中には本気になってプロを目指す奴もいるだろうが、楽しむためにスポーツをやる奴だっているはずだ」
……まあ確かにそうだけど……
「この教室はな、『楽しい体操』ってのを指標にしてんだ。嫌だろ?しかめっ面しながら体操すんのは。あれこれ強制はしなくやってそのうえで上を目指す。矛盾しているが俺はそれを目指している」
大河監督は決め顔でそんなことを言ってきた。ちょっとウザい。
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んで、自分でも嫌になるんだけど、まんまと恭平兄ちゃんの策に嵌ってしまった。ここの体操教室はレベルが低い。だから私がちょっと大技を披露するたびに「大河 (さん)は天才だ」なんて声が上がる。
褒められれば嬉しいし、嬉しければもっと凄いのをみせてやるって気になっちゃって、結局練習に励んでしまった。
御飯も、恭平兄ちゃんのところはおかずの数は少ないけどいくら食べても食べ過ぎだ、って怒られないからたくさん食べれた。食べたら力になってたくさん練習できた。
そんなこんなで気が付けば夏休みも終わる8月の最終週。
「奈央!」
げっ……
恭平兄ちゃん――大河監督の体操教室に私のお父さんが見学に来てしまっていた……
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結局、私が家出だと思っていた一ヶ月弱は恭平兄ちゃんの手厚い保護の下、環境を変えて体操に向き合う期間だった。もちろん、お父さんもお母さんも後付けだけど公認。
で、そんなこんなを話し合うことになった。
なんでもお父さんはまだ幼稚園児かその頃の私にもの凄い体操の才能を感じたらしい。だから期待を込めてあれこれ私に言ったそうだ。それが逆に原因でだんだん私は体操で笑わなくなって不貞腐れた。お父さんは私になんとかやる気を出させようとあれこれやって、けどうまくいかなくて今に至る。
「――奈央があんないい表情して体操をやってるなんてな。娘は俺の願望をかなえる道具じゃないってことを恭平君には教えられたよ」
「でも奈央の父親が悪いわけじゃないと思いますよ。奈央ちゃんは子供だからわからないと思うけど、俺達の親戚ってのはどうもね……」
恭平兄ちゃん曰く、才能のありそうな子の親に対しては親戚一同からの無言の圧力がすっごいらしい。特に同じく見どころがあったらしい3歳年上の征一お兄ちゃんが小学4年生の時にお母さんと同じ柔道の道を進んだことで、なんとしても私には体操を続けて欲しいとあの手この手を使ってきたとのこと。
ホント、呪われた体操一族だと思う。
「奈央。今まで悪かったな。俺は今でもお前には俺よりも凄い体操の才能にあふれていると思う。でもこの先、体操をやるかどうかはお前が決めていい」
なにかお父さんは憑き物でも落ちたようなすっきりした顔でそんな今更なことを私に言ってきた。本当に今更だと思う。
けど、それを踏まえたうえで、私は両親から大切に育てられていると思う。
例えば私の家ではいつもおかずが5品は出てた。それが当たり前だったから気が付かなかったけど、この一ヶ月弱、恭平兄ちゃんのところでお世話になっているとそれがどれだけ大変なことか身に染みてわかる。
片道に結構な時間がかかる体操教室にだって毎回送り迎えしてくれた。
体操についてはあれこれ言われたけど、他では結構甘かったし、緩かった。クリスマスとか誕生日とかは両親とも張り切って準備してくれるし、家族旅行だって他の友達の家よりもずっと多い。
だから――
「ん。じゃ、親戚内で肩身の狭い思いをしなくていい様に中学生の間は体操を続ける。でも恭平兄ちゃんのところだからね。その先は後で考える」
私はもう少しだけ親孝行の一種だと思って体操を続けることにした。
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私はここで中学1年生の夏から3年生の夏まで体操をやった。お父さんは私には凄い才能があるって言ってたけど、それはどうかなって思う。
確かに私は自分で言うのもなんだけど、要領がよくてちょっとしたことならすぐに出来た。でもそれが続かない。これも自分で言うと情けないけど根気がないし、1人で黙々とやれるタイプじゃないから誰か引っ張ってくれる人か環境がないと追い込んだ練習が『出来ない』。
そのくせ始末が悪いことに負けず嫌いだから負けると直後は反省して猛練習をするくせに少し経つとその反動で怠ける。
小学生の頃にそれなりに出来たのはあの昭和の軍隊か!ってくらい厳しい体操教室だったからこそ。でもあの環境でストレスを受けながら、それこそ食べる物すら一々文句を言ってくるところで体操をやりたいとは思えない。かといって恭平兄ちゃんが開いているぬるい体操教室では自分を磨ききれない。
本当に私はダメな奴だと思う。
多分天才っていうのは持って生まれたセンスに努力を長く続けられる才能を併せ持った人に与えられる称号なんだと思う。
そんな私の最高成績は中学2年生の時に全中での総合6位という成績。実は種目別だと全部8位以下だったんだけど、跳馬、段違い平行棒、平均台、床の女子4種目全てにおいて苦手も得意もない所謂オールラウンダーだった私は総合力で全国の中学生の中で6位というところまで勝ち抜けた。
中学3年生の時は去年を超えようと張り切って張り切り過ぎて一番最初に演技をした平均台で台から落ちて、その時に足首をねんざ。結局平均台を含む全種目を棄権。
あの時は悔しいのと情けないのとで泣いたなあ……
ともあれ、私の体操人生はそこで終わり。
うるさい親戚?
実は3つ上のお兄ちゃんが柔道の60キロ以下級で高校生王者になっちゃったことで私が体操は中学でやめるって言っても特に何も言われなくなった。
見栄っ張りでほんっとうにどうしようもない親戚だと思う。
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「――っていうわけなんですよ。だからもう体操はしません」
『そうか。奈央は才能があると思うから勿体ないと思うが、自分で決めたのなら仕方ない』
そんなこんなで体操に見切りをつけた中学3年生の11月。進路というか進学先の高校をいい加減に決めろと担任の先生にどやされる毎日。両親からは「体操をやってもやらなくてもいい。高校も自分で選びなさい。強いていうなら学費の安い公立高校に進学してくれ」と言われている。
でもさ、高校生のイメージがわかないんだよね。わかないから高校がどんなところか恭平兄ちゃんの体操教室で1学年上の先輩だった村井さんに高校がどんなところか電話で聞いてみることにした。
ちなみにこの村井さん、本当にすごい人だった。
練習の鬼。
加えて運動センスもすごくいい。
惜しいことは女子にしては大食いの私以上に食べることだと思う。
まあ食べた分だけ運動するから太ることはなかったけど、背はどんどん伸びて最終的には170cmを超えて体操選手としては終わってしまった人。
あと余談だけど、私が小学5年生の時、当時小学6年生の村井さんと2人で県の表彰台のワンツーフィニッシュを取ったことがある。で、冷たい話だけど、当時は全く別の体操教室に通っていたから、その場ではあいさつ程度しかしてないし、2年後に会った時にはお互いにお互いのことを忘れてて、「初めまして」「こちらこそ」なんて挨拶をしてしまって、後日お互いに酷いよねえと笑いあったこともある。
「――でも奈央の活躍を知ると私に体操の才能がないことと、背が高くても体操は出来るということを思い知るよ」
「いやいや私、168cmですから。170cm超えてたら無理ですって」
村井さんはしきりに私を「背が高いのに体操が出来たすごい人」って評価する。けど、170cmの壁は大きいと思うんだけどなあ。
「で、私の話じゃなくて、今は村井さんの話ですよ。高校ってどんな感じですか?」
なんだかんだ中学生まで体操中心だった。これからは高校に入ったら体操を辞めるからその時間で、放課後に遊んだり、アルバイトをしたり、はたまたかっこいい人と付き合ったり!
そんなバラ色の高校生活って良いよね!
「中学生の頃とあまり変わらないな。勉強は難しくなったけど、それは学年が上がれば中学校もそうだったし。私の高校は女子校だから浮いた話はまずでない」
……なんか予想と違う答え。こういうのじゃなくてもっと夢と希望が持てる回答が欲しいんだけど。かといって村井さん以外の先輩となると体操の先輩ばっかりになるから、私の知りたい「体操が関わらない」学校生活を調査できない。
「でも、村井さんも体操を辞めたんですよね?その時間は何をやってるんですか?」
「あぁ。その時間は全部バレーボールにあててる。今ではすっかりはまってしまったよ」
バレーボール?
あの体育の授業でちょっとやった???
「よくスポーツ物の部活選びましたね。村井さん、たくさん食べるから体重制限とか大変でしょうに……」
「……何か勘違いしているようだが、世間一般のスポーツの大半は逆に体重制限はないし、身体は大きい方が有利になるんだぞ?」
「え~!でも体操は背が低くて軽い人が有利だし、柔道だって体格をよくしちゃうと階級を上げなきゃいけないから、身長体重どっちも実質制限があるんですよ?」
「……それは奈央が身長体重に関係のあるスポーツを選んでいるだけだぞ?バレーボールはもちろん、サッカー、バスケットボール、競泳、陸上競技全般、テニス。どれも大きい方が有利なスポーツなんだぞ?」
えっ!
スポーツをやるのにいくら食べてもいいものってあるの???
そこからおよそ1時間にわたってバレーボールの魅力を説明してもらった私はすっかりバレーボールをやる気で高校に進学することに決めた。せっかくやるなら試合に出たいけど、ド素人の私がいきなり試合には出れないはず。はずなんだけど、村井さんの通っている松原女子高校は部員が少ないこともあって、バレーボール歴1年未満の選手が2人もいるらしい。
私はこれだと思った。ここしかない。だから高校は松原女子高校だ!
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「いや、お前何言ってんの?無理に決まってんだろ……」
翌日。
担任の先生に「高校は松原女子高校に進学します!」って報告したら全否定だった。
「なんでですか!」
「お前、自分の学力把握してるのか?松原女子高校は偏差値60~65位の子が受ける高校だぞ?
うちの中学で例えると国語・英語・数学・理科・社会の五教科全部80点以上取る様な子が受ける高校だ」
……
「え、え~っと。私もそのうち四教科は80点以上取れるわけで……」
4/5は達成しているというものの、先生の目が冷たい……
「まあ、確かに苦手教科を得意教科で補うという手法は受験の常套手段ではあるが、大河の場合は無理だ。補いきれん。仮に高校に受かっても絶対に苦労する」
ちなみに、私。中学1年生3学期の期末テスト以降、英語のテストで50点を超えたことがない……
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だからといって諦めては女が廃る。
私はやると決めたらやる女なのだ!!!
が、気合だけではどうしようもならず、時間も足りない。だから、ちょっとだけ諦めようとしたけど、あの映像を見て絶対に松原女子高校に行こうって決めた。
村井さん達はなんとバレーボールの全国選抜大会、春高バレーに出場できていたのだ。県立高校っていう逆境をはねのけたとかで1月の上旬は連日TV放送されるほどだった。
正直、バレーボールは体育の授業以上のことは知らないけど、それでもTVの向こうで何かの冗談みたいに跳ぶ外国人の女の子に魅せられた。
……一個上の先輩だから女の子って表現は失礼だし、そもそも帰化しているから外国人じゃないけど。もちろん、村井さん達も素人ながら凄いな、くらいはわかった。その素人目からは相手の方が巧いように見えたんだけどね。
とにかく英語だ。英語を何とかしないと、松原女子高校に行けない!
過去問を解く限り、英語以外はまず80点以上を取れる。松原女子高校に合格するには1科目辺り80点、五教科合計で400点が目安らしい。
私の場合、英語が苦手だから70点も取れればいい方で、その場合他の教科で……
あれ?
あれれ???
これはひょっとして……
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そして迎えた県立高校共通受験日。私は必勝を編み出して試験に臨んだ。
その結果……
「先生!どうですか!私、ちゃんと合格しましたよ!」
「ウッソだろ?」
先生が口をあんぐりして驚いている。失礼な担任だ。
「いやいや本当に大河。どうやったんだ?カンニングとかはいかんぞ?」
「なんでそうなるんですか!」
「いやだって、お前。3学期の期末テストも英語はボロボロだっただろ!」
その通り。しかし!受験に英語など不要なのだ!
「先生。自己採点結果ですが、入試の時の英語は多分40点取っているかどうかです」
「それで合格でき「でも国語、数学、理科、社会は全部95点は確実です。自己採点だと合計で421点取りました!」」
これが必勝法。要するに合計で400点取ればいいんだから、英語なんて捨てちゃえばいいのだ!
「は?いやいや。お前、バカじゃないの?やめとけって。高校入ってから絶対に苦労するから。な、先生の言うこと聞こうぜ。悪いこと言わないから!」
自分の指導方法に沿っていなかったからか、なぜかせっかく合格した松原女子高校じゃなくて滑り止めに受けた高校に行けという先生。
往生際が悪いなあ。
私は松原女子高校に行くと決めたんだからお祝いしてくれればいいのに。
松原女子高校 新1年生
大河 奈央
身長:168.2cm
志望ポジション:??よくわかんない
ポジション才能:実はあるポジションにおいて日本代表レベルの才能を持つ
補足
新1年生の実力は
入学時点:翼>結花>(経験者と素人の壁)>奈央
仮に高校3年間、真面目にバレーボールに取り組んだ場合:
翼=結花=奈央
仮に生まれ持ったポテンシャルが開花した場合
奈央>(国家代表の壁)>結花>(プロの壁)>翼
くらいになります。
奈央はクソガキ感を出したくて、失敗したような・・・