001 ニュージェネレーション! ―雨宮 結花―
2年生編 スタートです
まずは新一年生の紹介を計3話ほど予定
私――雨宮 結花の家から少し離れたところには大きな市営体育館がある。
その人に出会ったのは私が小学生4年生の春。
体育館に隣接されている広場で友達とサッカーをしているとボールが広場の外の道路へ蹴りだされてしまった。それを追いかける私。お約束のようにやってくる自動車。気がついたら自動車は目の前で、そして――
「ダメだよ。道路に急に飛び出ちゃいけないって小学校で習ったろ?」
横から私をさらってまるでドラマかアニメのように助けてくれた綺麗なお姉さん。
そのお姉さんは私と一緒になって自動車を運転していたおじさんに謝ってくれて、そのまま立ち去ってしまった。お姉さんはその後、揃いのジャージの集団に合流していったからきっと市営体育館で試合か何かがあったのだろう。
ドキドキしてお礼も言えなかったすごく綺麗な名前も知らないお姉さん。
でもジャージの背中に書いてある文字は鮮明に覚えている。
姫咲高等学校 女子バレーボール部
私はこの時からバレーボールを始めた。
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次にそのお姉さんの姿を見かけたのは5年生の時だった。
『信じられません!高校生が大学生もプロも押しのけての優勝です!』
『姫咲高校の女子バレーボール部は実質U-19の代表チームといっても過言ではない程のチームなので普通の高校生ではありませんが、それでもこれは凄いですね』
――見かけたといってもTVの向こう側で、だけど。
とあるニュース番組のスポーツコーナーで姫咲高校の女子バレーボール部が取り上げられていた。なんと高校生がプロも参加する天皇杯・皇后杯で優勝してしまったのだ。これはとても凄い事でその前のベスト8進出辺りから連日ニュースで取り上げられていた。
よく取り上げられていたのはエースの重野さんという人だったけど、私は1人だけ違う色のユニフォームを着た選手に魅入ってしまった。
――あの時のお姉さん!!――
お姉さんはチームでは1人だけシュッとした体型でなく、ユニフォーム越しにもわかるくらい凹凸の激しいスタイルで顔だちも含めて1人だけまるでモデルみたいでとても綺麗だった。小学生用のバレーボールにはリベロがないからなぜ1人だけ違う色なのかわからなかった。
だから――
(きっとお姉さんは特別凄い選手なんだ)
なんて誤解もした。
『――優勝したことについては嬉しい気持ちと悲しい気持ちが半々です。私達は高校生ですから大学生やプロチームには力の差を見せつけられてコテンパンにやられなくてはいけなかったのです。
――優勝の立役者ですか?それはもちろんチーム全員です。誰一人欠けてもこの結果は得られなかったと思います。
――あえて1人選ぶとしたらですか?そうですね。皆さんここで重野 由美さんの名前をあげて欲しいのだと思いますが、私はリベロの立花 美佳さんの名をあげます』
!!
姫咲高校の監督がインタビューで優勝の立役者として名をあげるとその選手がTVにアップで映し出された。
あの時の綺麗なお姉さん!
そうか。このお姉さんは立花 美佳さんって名前なんだ!
私はこの時はじめて憧れのお姉さんの名前を知った。
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それから中学生になっても私はバレーボールを続けた。
最初は美佳さんと同じリベロを志望したけど、先生から「最初からリベロを選ぶな。まずはバレーの動きを全部覚えてからだ」と言われてしまい、中学生のバレーから採用されるポジションのローテーションに慣れてきたころには「雨宮は背が高いからそれを活かそう」と言われてウイングスパイカーになった。
……白状するとレシーブだってそんなに巧くないから背丈関係なくリベロは厳しかったけどね。
私が中学生の間にも美佳さんはどんどん活躍していった。大学に入っても名プレイヤーなのは変わらず、U-19やU-23でレギュラーに選ばれていた。
そんな美佳さんに憧れ、高校は同じ姫咲高校に進学しようとしたんだけど……
「はあぁ?お前、バレーボールをやりに姫咲高校に入りたいのか?」
現実を知ったのは中学3年生の4月。学校の先生から進路希望を聞かれ、姫咲高校に行ってバレーボールをやりたいと答えたら驚かれた。
「なあ雨宮。姫咲みたいなスポーツの強い高校の強い部ってのは誰もかれも部員を受け入れてはくれないんだ。お前、今までに姫咲高校から『うちに来てください』って誘いがあったか?そこまでではなくてもせめて『見学しに来てください』は欲しいところだぞ?」
……そんな誘いは当然私にはない。
「……それでも姫咲でバレーをやりたいと。う~ん。教師の立場上、そう言われると後押しをせざるを得ないが、正直非常に厳しいぞ?とりあえず、4月末から5月上旬の連休は空いているか?
姫咲の運動部はその連休中のどこかで毎年中学3年生向けにセレクションを開催している。そこで合格すれば中学時代に無名だろうが何だろうが希望する運動部へ入部できる可能性が出る」
先生には厳しいと言われていたが、正直私には自信があった。担任の先生は社会の担当教師で部活も文化部を受け持っているから私がどれくらい運動ができるか知らない。それに私は身長が164cmもあって背が高い。
うちの中学はそんなに運動部が盛んじゃなくて、いつも公式戦は1~2回戦で負けてたから姫咲高校のスカウトの目に留まらなかっただけ。運動神経も良くて高身長が有利のバレーボールで自分が選ばれないはずがないって考えてたのよね。
……現実はとんでもなく厳しかったんだけど。
姫咲のセレクションに集まった子はほとんどが170cmを超えていた。超えてない子は超えてない子でびっくりするくらいバレーが巧かった。本当はわかっていた。私は普通の公立中学校なら運動が出来る方ってだけで特別にすごくないってこと。背だって平均より高いけど、バレーボールのトップレベルの選手と比べると低いこと。
それだけじゃない。
近づくとわかるんだけど、セレクションに来た他の子は同じ中学3年生とは思えないくらい身体が厚い。太っている、じゃなくて鍛えている。普通の中学でのほほんとしていた私とは身体の作りからして違う。十分に実力差を味わって、後日届いた通知にはやんわりとお断りのメッセージがつづられていた。
そうだよねぇ……
中学生最後の大会も早々に負けてバレー部は引退。そして志望高校がなくなって進路が見えなくなった6月。
高校はどこに行こうか。仲の良い友達と一緒の高校?でも先生は「友達と一緒じゃなくて自分にあった高校を選べ」って言うしなぁ……
頭の中がモヤモヤしてまとまらなくて、気晴らしに外に出ると近所の体育館の方がちょっとだけ騒がしい。近くまで行って確認してみると、どうやらバレーボールのインターハイ県予選最終予選が行われているみたい。
あっ!!
薄紫の半そでブラウスにチェックのスカート!
あれは姫咲高校の制服!
こう見えても姫咲高校に進学したかったから、制服は調べ済み。やっぱり可愛い制服。楽器を持っているから姫咲高校の吹奏楽部だ!きっと!
そうだよね。姫咲高校ならバレーボールの県最終予選に残るよね。私は誘われるようにそのまま体育館に入っていった。
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ちょっと前までTVに出てくるプロスポーツ選手の凄さに実感がわかなかった。ずっとずっと遠くの世界の話だと思っていた。だけど気が付けばもう中学3年生。ずっとお兄ちゃんだと思っていた夏の甲子園球児は来年から同級生になるし、小学生の時にあこがれた美佳さん達の高校バレーの世界に来年から私も入ることになる。
そしてその後に高校卒業と共にプロ入りする選手もいる。でも高校生の間のたった3年でそこまで成長するわけじゃない。
この前の姫咲高校のセレクションで思い知らされた。上に行く人たちはもうとっくの昔から私なんか想像もできないくらい練習をして、しかもそんな人は大勢いて、激しい競争をずっと前からしているんだって。そして私はそっち側の人間じゃないって。
はぁ……
漫画とかだと高校入学と同時に素人が運動部に誘われて一躍全国区の選手に成長するなんてざらじゃん。けど現実ってそうじゃない。少なくとも一ヶ月前の姫咲高校のセレクションで感じたのは高校スタートのド素人がいきなり活躍できるなんてそんな甘い世界なんかじゃないってこと。
さっき、ロビーでちょっとだけ見かけたけど、姫咲高校女子バレーボール部の青を基調としたジャージとユニフォームはかっこいい。制服は可愛いのに試合の時はかっこいいんだからすごい。
でも本当にすごいのはそれを着ている中身の人。ずっと遠くの存在だと思っていた高校生に来年から私もなる。でもTVの向こうに見てた高校生と私とは違う。
姫咲高校のセレクションに参加した中学3年生はみんな背が高いだけじゃなく、堂々たる体躯だった。それは単純な身体能力に現れて、例えば単純なコート走では私は全く追い付けなかった。そしてそんなセレクションに参加してた私達よりさらに上の次元の身体能力を姫咲高校の女子バレーボール部員は持っていた。
だから知ることができた。これが高校トップレベルの、セミプロレベルの、本気の本気でやるバレーのレベルなんだって。
そりゃ自信にあふれた堂々とした姿のはずだよ。練習に裏打ちされた実力って奴が違う。
入部はできないけど、せめて最後に姫咲高校の雄姿だけは見て受験勉強に励もう。でも高校はどこに行くかな……
私が観客席から悶々としながら待っていると試合前の公式ウォームアップが始まる時間になった。
颯爽と現れる姫咲高校。対戦相手は……
なにあれ?
第一印象からツッコミどころが多すぎる……
えっと、とりあえず人数少なくない???
いち、に、さん、しい……
全員で8人???
嘘でしょ?高校バレーって10人も登録できないの?
体育館の入り口で配布していた大会要項に記述されている出場選手の項目を確認すると、他の高校はどこも通常選手14名+リベロ2名を登録していた。
デスヨネー
部員が10人もいないってよく最終予選まで勝ち残れたなあ……
おまけにあの背丈。
たぶん170cmを超えているのは3人か4人。164cmより低い選手だっている。まあ女子の平均身長は高校生でも160cmないくらいだから私より低い女子高生がいるのはおかしくないんだけど、バレーボールじゃあ絶対に不利。けどパンフレットにあの高校は『県立松原女子高等学校』って書いてるから仕方がない。
高校でバレーを本気でやろうと思ったらバレーに特化したカリキュラムをしっかり組める私立高校でないと厳しい。県立高校は大抵数年で顧問となる教師は異動してしまう。予算だって限りがある。対して私立高校は授業を受け持つ教師以外に部活用に専任の監督やコーチを雇っているケースもあるし、公立校より高い学費から予算を組んで用具だって揃えられる。
で、その松原女子高校の選手の髪型。
もう半分以上の選手はバレーボールをなめているとしか思えない。バレーボールは跳んで走る動きの激しい競技なのにあれじゃあちょっとまとめている髪がほつれれば絶対に前髪が目に入って邪魔だし、ほつれなくても動くたびに髪が当たって鬱陶しいはず。
体型だって酷い。
……ある意味では酷いじゃなくて当然というかむしろ羨望のまなざしで見られるほど全員が姫咲の選手と比べて華奢。スタイルだってアスリートの体格の姫咲に対して、なんというか中学生とは違う少女ではなく女性らしい体格の選手がいる。
……なんか腹立ってきた。姫咲高校にはボッコボコにしてほしいと思う。
ユニフォームだって言っちゃ悪いけどダサい。
昭和、とまでは言わないけど平成初期~中期って感じ。かといって伝統校ほどの重みを感じるものでもない。
外国人が1人いるけど、あれはバレー傭兵じゃなくて本当にただの留学生で確定。中学生並みの背丈だし。
2階の観客席からだと顔が良く見えないけど、よくよく見れば顔だちが整った美人ばっか……
!!!!
似てる!すっごく似てる!整った顔だちもそうだし、高校生とは思えないスタイルだってすっごく似てる。慌てて大会要項のパンフレットを見る。個人情報がうるさく言われていてもユニフォームの番号と名前、学年くらいは書いてある。
そしてそこには予想通り……
4番 立花 陽菜 (1年)
間違いない!きっと美佳さんの妹だ!!
……その後の試合も印象的だった。松原女子高校は準決勝で姫咲高校相手に負けて3位決定戦では東豆涼高校に勝って県3位。はっきり言ってバレーボールという競技の技術ならインターハイ出場の姫咲高校はもちろん、4位になった東豆涼高校相手にだって大きく負けている。でもあの小さな外国人が台風みたいに暴れまわって力づくで得点を強奪していくスタイル。
だからこそ――
(あの中なら私だって混ざれる!)
って思った。
だってそんなにバレーボール自体は巧くない。背丈だって私の方が高いくらい。あの中ならわたしだって問題なくバレーボールが出来る!
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「はぁあ?第一志望校は松原女子高校???」
1学期の期末テストも終わった7月中旬。担任の先生から希望進路を聞かれたので松原女子に行きたいと言ったらまた驚かれた。
「あ~そう言えば雨宮は高校に行ってもバレーボールをやりたいんだったな。確かあそこはこの前のインターハイ予選で県3位だったか。まあ気持ちはわかる。で、雨宮は松原女子に合格できるって思ってんのか?」
それはわからない。松原女子高校の偏差値は63くらいらしいんだけど、私は自分の偏差値を知らない。
「雨宮。この前の期末テスト、国語、英語、数学、理科、社会の五教科で合計何点だった?言わなくていいぞ。俺は担任だからな。お前の点数位把握している。
で、松原女子に合格したかったらうちの学校の五教科合計で最低でも400点、できるなら410点欲しいな。毎回420点以上取れる奴ならまず合格できる」
……ちなみに私はこの前の期末テストで五教科の合計は384点。ちょっと足りない……
「どうやら現実が見えてきたみたいだな。で?どうする?」
?どうするって、無理って話でしょ?
「いつぞやの姫咲高校のバレー部に行きたいってのは無理な話だ。が、お前が松原女子高校に行くってのは大変だが無理な話じゃない。
試験まで後半年以上あるんだ。俺の、雨宮が生きてきたより長い教師歴の経験からしてもお前が本気で努力すれば余裕で合格できるって保証してやる」
!!
「簡単なことだ。雨宮は今までずっとバレー部で頑張ってきただろ?これからはバレーボールにあてていた時間を全部受験勉強にあててみろ。
後は夏休みだな。これも学校に行っていると思って平日の普段学校にいる時間は頑張って受験勉強に当ててみろ。びっくりするくらい学力が伸びるぞ。
お前の場合、苦手教科がないのもいい。松原女子クラスの高校に行くんならなにか1教科でも苦手な教科があると受験がつらいし、受かった後の高校生活だって辛くなる」
先生は自信満々に言う。でもそれって厳しくない?
「あぁ。知っている。こんなのは理想論だ。が、この理想論が出来れば、誘惑に勝てるだけの意思を持てば必ず合格できる。どうだ?」
私は――
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8月
初めて受けた全国模試
そこで突き付けられたのは松原女子高校合格率30%という数字
10月
中間テストの結果は五教科で411点
2回目の全国模試では合格率が60%まで上がった
12月
期末テストは五教科で426点
同時期に受けた全国模試での松原女子高校合格率は90%
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「雨宮。よく頑張ってるな」
期末テストも終わり、2学期も終了間際の12月中旬。
進路調査の名目で私は担任の先生と二者面談をしていた。
「これも先生のおかげです」
「いいや。一番はお前の努力あってのものだ。俺はな、なにもお前だけに頑張れって言ったわけじゃないんだ。でもクラスどころか3年生全体でも2学期のうちにお前程伸びた奴はいない。
お前は『やれば出来る子』じゃないんだ。『やって出来る子』なんだ。そんな奴は少ない。胸をはっていいんだぞ」
先生にそう言われると嬉しくなる。ここまで決して楽な道のりじゃなかった。友達は遊んでいる中、勉強した。中間テストで全教科80点を超えた時はもういいんじゃないかなんて思ったりもした。6月の大会で見た立花 陽菜という人物は立花 美佳さんとは全くの赤の他人かもしれないという疑念にもかられた。
でも頑張った。諦めなかった。
そしていいこともあった。ある意味では悲しいことだけど……
立花 美佳さんの母校、姫咲高校が春高の県予選決勝で負けた。その代わりに松原女子高校がその姫咲相手に勝って春高に進むのだ。しかも松原女子高校が雑誌に取り上げられたことで分かったんだけど、やっぱり立花 陽菜さんは美佳さんの妹だった。ちょっと意外だったのはあの小さな外国人もまた美佳さんの妹だということ。
見た目からして違うけど、何かの事情があるのだろう。だけどそれは些事(最近覚えた!なんでも取るに足らない小さい事って意味らしい!)。大切なのは美佳さんの妹が2人も松原女子高校にいるってこと。
紹介とかしてもらえないかな?
「ところで雨宮。過去問には手を付けているか?」
「つけてます。大体8割は解けてます」
松原女子高校に受かるには試験に出る五教科合計で500点満点中400点がボーダーラインとされている。つまり去年までの実績を考えると今すぐ入試を受けたって大体合格できる計算になる。
なるんだけど……
「雨宮。もうちょっと頑張ってみよう。出来れば9割弱解けるようにしておきたい」
「???どうしてですか?」
例年なら8割取れれば合格できる。あれかな?本番で緊張して実力が発揮できなかった場合とかを心配されてるのかな?
「ほれ、松原女子高校は来月の春高に出るんだろ?これは強いところでバレーをやりたい雨宮にはある意味では悲報なんだ。
もう10年以上前になるんだが、俺が教師になって初めて3年生を受け持った時に北山高校って県立高校の野球部が県予選を勝ち抜いて甲子園まで行ったんだ。
それ自体はすごい事で偉業なんだが、その年の2月には『甲子園に行った高校で野球をやりたい』って奴が大勢出て例年より多くの願書が出されたんだ」
えっ……
「もう何が言いたいかわかったな。松原女子の倍率は例年だと1.1~1.2倍くらいだが、俺の予想では今年は1.5倍はすると思う」
げっ……
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嫌な予感は的中する。
松原女子高校は春高で準優勝した。県立高校、一時は廃部寸前まで追い込まれてからの大躍進。話題性に富んでいたため一時期は連日TVのスポーツコーナーに取り上げられるほど盛り上がりを見せた。その結果……
「4.58倍????」
一般入試の前に行われる推薦入試。
こっちは筆記試験がない代わりに面接試験と中学3年間の内申点を総合して評価される試験で例年なら精々2.9倍、3倍を超えることがないはずなのに今年は4倍を超えている……
「推薦入試の倍率は気にするな。推薦入試は失敗しても一般入試があるからダメもとで受ける奴もいる。本番は一般入試だ」
……私はその『ダメもと』で受けられる推薦入試すら「3年の1学期までの成績が悪いから無理」って言われているんですけど……
「俺の言葉は全部信じなくていい。でもここまで頑張った雨宮自身は信じてやれ。大丈夫。今のお前が実力を発揮すればきっと合格できる。必勝法も教えてやっただろ?」
……
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さらに2週間後。県立高校の入学願書受付が終了する。その結果、松原女子高校は定員216人に対し、351人が願書を提出。一般入試での倍率は1.625倍になった。
つまりそれは例年より競争相手が増えるということで……
「なあに。この程度なら問題ない。雨宮がちゃんと実力を発揮すれば問題ない」
例年より厳しいはずなのに自信満々の先生。そして迎えた試験本番。私は先生の授けてくれた必勝法を頼りに挑む。
必勝法
それは確かに県立高校対策としては有効な作戦……のように思える。
『いいか雨宮。松原女子高校に合格したかったら1点でも失点を少なくするのが合格への近道だ』
え?1点でも多く点を取るんじゃないの?
『そりゃ普通の試験ならそうだろうな。だがな、公立高校入試問題は偏差値の高低に依存しないで同じ問題が出る。わかるか?偏差値が70を超えるような宮園高校だって、反対にちょっと勉強が苦手な奴が行く高校だって同じ問題が出るんだ。当然、それらの高校の学力にあわせた問題が出る。
松原女子高校に合格するような連中にあわせて言えば全体のうち、1割程度は絶対に解けないというか解けなくても仕方がない問題が出る。反対に8割は確実に正解しないといけない。
だから、入試は20秒考えてわからなければとばせ。他の問題に時間を使え。最後まで行ったらとばした問題より先に解けた問題をもう一度見直せ。
満点は必要ない。確実に失点を防ぎ、着実に点を取る。これが必勝法だ』
とにかく出来る問題を確実に解いていく。一部出来ない問題とか自信がない問題は「これは頭のいい高校用の問題」と思って割り切る。
その結果……
(110、114、117……118!あった!!)
合格発表当日。
私の受験番号118番は張り出された合格者一覧にちゃんとのっていた!
私はなんとか合格することができたのだ!
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「おめでとう。雨宮。まあ正直1月下旬のお前を見てる限り天変地異でも起きない限り合格だろうとは思っていたから驚きはせんよ」
合格したことを担任の先生に伝えると当然だろうと言われてしまった。
……もうちょっと褒めてくれてもいいと思うんだけど……
「雨宮。大切なことだ。大切なのは志望校に合格することじゃない。いかに実りある高校生活を送るか、だ。それを忘れるなよ」
わかってますよ~だ。
さて、入学まであと一ヶ月。高校に入ってバレー部の練習について行けるよう、身体を鍛えなおしますか。
松原女子高校 新1年生
雨宮 結花
身長:164.5cm
志望ポジション:ウイングスパイカー
ポジション才能:高校生の世界で全国上位を狙えるレベル
結花はSRPGに例えると「最初からいて、初期ステータスは平凡たけど成長率が良く、最後まで使える1軍にいるユニット」になります。某手強いシミュレーションの最新作で例えるとイングリットあたり。
Q1.高校生が黒鷲旗GETとかヤバすぎない?
A1.ヤバすぎですね。反省も自重もしませんが。ほ、ほら。サッカーでも漫画の世界なら世界一になってたりしますからこれくらいセーフですよ。
Q2.優莉ちゃんはよ!
A2.いきなり優莉達を描写すると1年生が空気でしたのでまずは1年生の紹介を入れさせてください
Q3.あれ?婚約破棄物は?
A3.すいません。あっちも書くつもりはあるんですが、筆が進まない……
テンプレものだから楽勝だろうと思ったら全然書けません。テンプレを自分なりに消化して昇華出来る他の作家さんは凄いと改めて実感しています。