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エピローグその2 わけあってTSした少年 2年生になってもバレーボールを続けてます

 4月某日

 

 

 この日は松原女子高校2、3年生の始業式があり、多くの学校もそうであろうがクラス替え発表の日でもある。まあ俺と陽菜(俺達)には正直これはあまり関係のないイベントである。

 

 

 

 

「おっはよー。優莉久しぶり!相変わらず可愛いね!」


 バレー部の朝練が終わり、教室で陽菜達と話しながら朝のショートホームルームを待っていると今年もクラスメイトになる佳代がやってきた。

 

「佳代。おはよう。今年もよろしく」

「今年どころか来年の卒業まで多分一緒だけどね」

「まーね」


 

 俺と佳代、ついでに陽菜はもう1年の3学期の時点で2年生時は2年1組だと知っていた。

 

 それはなぜか。

 

 松原女子高校にはちょっと変わったクラス分けがある。1年生から2年生への進級時に文理分けをするのは一般的だと思うが、松女の場合、これとは別に1年生時に優秀な成績を修めた者で希望者は特別進学クラスへ進級できる。

 この特別進学クラスは文系科目も理系科目もがっちり学ぶ面倒なものではあるが、反面有名国立大学進学を考えるのならうってつけのクラスでもある。それが2年と3年ではそれぞれ1組に割り当てられている。

 おわかりいただけただろうか。1年の終わりに成績優秀者だった俺には特別進学クラスへの進級が打診された。しかも当時は調査という名の拉致監禁されていたわけであったが、施設までその連絡がきた。後で聞けば陽菜は当時の担任の榊原先生から個別に呼び出されて打診されたらしい。きっと佳代もそうだし、今この2年1組にいる連中全員にもあったことだろう。

 つまり俺含む彼女達は1年の終わりに特別進学クラスを選んだ時点で2年生時は1組であることが確定しているし、特別進学クラスから文系理系クラスへの都落ちはめったになく、制度としてはできなくもないがまずやらない。反対の文系理系クラスからの昇格は制度にない以上、3年生時には自動で2年1組の面々がそのまま繰り上がりで3年1組を形成することになる。

 

 また、女子高生の情報網は半端ではなく、すでに3月の時点で誰が特別進学クラスに進級するかは(俺は拉致監禁中で知らなかったけど)学年中に出回っていた。

 

 つまり今、2年1組になっている連中は始業式前からクラスを知っていて、特に驚きも感動もなく今日のクラス替えを迎えたわけである。

 

 

 なお、2年1組最初の座席順はお約束の『あかさたな』からなる出席番号順。で我らが2年1組の場合は

 

 

 15番 瀬田(『せ』た) 佳代(かよ)

 16番 立花(『た』ちばな) 陽菜(『は』るな)

 17番 立花(『た』ちばな) 優莉(『ゆ』うり)

 

 となっている。

 

 余談だが2年1組の出席番号1番は有村(『あ』りむら) 雪子(ゆきこ)であり、14番は白鷺(『し』らさぎ) 愛菜(まな)だったりする。

 

 

 そして言うまでもないと思うが、明日香は当然このクラスにはいない。というかあのスーパーアンポンタンは近々に試合がなく、かつ1、2学期の成績から進級だけなら保証されていたためか、テスト勉強に力をあまり入れず4教科で40点以下を叩き出して親から大目玉を食らったらしい。


 

 

 

「ところで優莉。その……」

「?あ、私のこと?体育の授業で何回か会って話してると思うけど改めて、初めまして。元1年1組の白鷺 愛菜よ。卒業までよろしくね」


「えぇ、その……よろしく。……陽菜、優莉」


「諦めて。愛菜ってこういう子だから」


「少なくとも私は慣れた」




 現在の俺達の位置だが、俺は自分の席に一応座っている。出席番号が俺より1番分若い陽菜は椅子だけ向きを180度回転させて俺の席の机を挟んで向かい合う形で座っている。

 

 で、肝心の愛菜だが……

 

 俺の背後にピッタリ密着し、後ろから俺に抱きつく形で座っている。つまり俺の席の椅子に2人座っている状態だ。色々なところが当たっているし、愛菜の手は俺の胸の上に置かれている。愛菜が男で俺が女だったら100%セクハラで愛菜が捕まる。

 俺にも限度というものがあり、愛菜にはおっぱいに関して『触るまでは良いけど手を動かしたら怒る』と言っている。まあお触りまでなら女同士のじゃれ合いの範囲だろう。多分。

 

 

「あ、そう……

 あら?優莉、そのブラウス、サイズあってないわよ。陽菜のと間違えたの?」

 

 

 一瞬佳代の目からハイライトさんが消えたが、すぐに立ち直り、そして俺が着ているブラウスがおかしいと気が付いたようだ。おそらくブラウスの袖山が俺の肩の位置ではなく二の腕の位置にあることでサイズがあっていないと気が付いたのだろう。全く、女という生物は本当に他人の姿格好をよく見ている。元男の俺にはわからない感覚だ。


 ちなみにブレザーは脱いで背もたれにかけている。4月上旬にしては暖かく、なにより愛菜がべったりくっついていて着たままだと暑苦しいからだ。

 

 

「うん。間違えたわけじゃないんだけど、今着てるのは陽ねえのブラウスだよ。朝起きて一ヶ月ぶりに学校のブラウスを着ようとしたら胸が大きくなり「なんですって!」」


 びっくり!

 朝一は笑顔、愛菜の痴態を見ることで無表情になり、再び笑顔になった佳代の表情が今は般若のようだ。

 

「え?なに?優莉ひょっとしておっぱいが大きくなったからブラウスのボタンが留められないとかふざけたことを言うつもり?」


「ふざけてないけどそうだよ」


「……優莉どうやらあなたとの友情もここまでのようね!」


 ……おっぱいが大きくなると女の友情は失われるらしい。解せぬ……

 

「佳代。私なんて陽ねえに比べたらまだまだだよ。それに大きいと困ることばっかりだよ。陽ねえ曰く、

 例えば服は肩巾でも袖丈でも背丈でもウエストでもなくバストが入るかどうかで選ばないといけないし、そういう服は大抵他は余っちゃうからデザインが崩れるし……」


 今の俺がまさにいい例だろう。たぶん俺の肩幅や着丈はSサイズで丁度いいはずだが、それでは胸が入らない。では胸にあわせるとどうなるかというと今度は胸以外がおかしくなる。

 

 ……今にして思えば去年末辺りから背は伸びてないくせに服のサイズはSじゃなくてMサイズにしてたな。

 

 陽菜曰く


「もう優ちゃんはこれから、ずっと、一生、永遠に2サイズ以上上の服を着ることになるんだからね!ざまぁ!!」


 だ、そうだ。いや、お前も胸が入るかどうかで服を選んでるじゃん。

 

 ちなみに今着ているブラウスは本来陽菜用のブラウスである。そのサイズ、なんと3L!

 

 なので袖は異常なくらい余っているし、スカートを一寸めくられればブラウスの裾が見られることだろう。陽菜の名誉 (?)のために補足してやると、陽菜だって3Lサイズのブラウスを着れば裾だとか袖は持て余している。

 だが、先日17歳になったばかりだというのに恐るべき発育の暴力で上も下も90を超えている陽菜は3Lサイズでないと心もとないのだ。

 

 なんせ俺達は家族で日々出す洗濯物でお互いの衣類を知れてしまうのだ。そして去年の秋ごろまで陽菜が着ていた2Lサイズのブラウスは全部胸元のボタンがほつれかけてダメになったのを俺は知っている。胸のせいで衣類がダメになるのは、これからの俺にも関係があるらしく、陽菜曰く

 

「優ちゃん。これからは私服でもう前にボタンのついているシャツは全部諦めてね」


 ということらしい。

 

 

 思い返せば確かに陽菜だけでなく、涼ねえの私服も美佳ねえの私服も前にボタンのついているものはない。

 

 これは朝涼ねえに言われたんだが、胸が大きくなるほど衣類にはとにかく苦労するらしい。

 

 今までは上から頭を通すだけでよく、楽だったため割と好んで着ていたワンピースもこれからはほぼアウトだと宣告されている。

 

 涼ねえ達曰く「本当は胸の下に来るはずの意匠が胸の上に来たり、太って見えたり、シルエットが崩れるから着るとみっともなく見える」だそうだ。

 

 そうか着れないか、と残念に思った直後、いやいやそもそもワンピースが着れないことを悲しむとか男としてどうなんだと思ったり……

 

 そんな俺の心情はさておき――



 

「――というわけで胸が大きくなってもいいことなんてないよ」


 俺は朝、涼ねえと陽菜に言われたことを一通り佳代に説明する。なお、佳代には言っていないがお尻も順調に成長してしまっている。なのでGパン……っていうと陽菜が怒るな。確か、デニムのパンツって言うんだっけ?とにかく、あれも履けないらしい。曰く「腰回りで選ぶとお尻が入らないし、お尻が入るパンツだとウエストがものすごく余る」とのことだ。

 ……いままでなんで涼ねえ達の私服にズボンがものすごく少ないのか疑問だったが、そうかケツの問題だったのか……

 

 と、そんな巨乳のデメリットを伝えたんだが佳代は納得していないようだ。目には深い闇が見て取れる。

 

 

「優莉。仮に今言われたことが全部事実だとして、いままで陽菜に事あるごとにおっぱいハラスメント受けてた時にどう思ってた?」


「陽ねえなんて豆腐の角に頭をぶつけて死ね!って思った」

 

「そう。なら私の言いたいことはわかるわよね」

 

 マジか……

 

 俺の死因は豆腐か……




「でも私なんてまだDだし、全然大きく「優ちゃん。往生際が悪いよ。素直に認めなよ。Eだって」」


 俺の主張に陽菜がインターセプト。

 

 なぜこんな話になるのか。カップサイズとはトップとアンダーの差で決まる。10cmあればA、以降2.5cm差が広がるごとにB、C……となっていく。つまりDカップなら17.5cm、Eカップなら20cmトップとアンダーで違うわけだ。

 

 しかし人間のサイズが2.5cmごとに成長していくわけではないので当然その中間に値する場合もある。

 

 俺の場合、朝測ったら19cm程トップとアンダーで違いがあったりする。なお陽菜は23cmほど違うらしい。涼ねえは26cmも違う。余談だが、アンダーについても俺より陽菜の方が大きい。

 

 陽菜が大きいというより俺が華奢なだけだが……

 

 なぜアンダーについて言及したのか。それは世の男性はカップサイズだけで乳の大きさが決まると思っているようだが、そうではない。アンダーも重要なのだ。

 

 端的に言えばチビガリはカップサイズが大きくともそれほどではなく、反対にガタイの良い奴はカップサイズが小さくとも乳肉量は大きかったりする。

 

 具体的にはカップサイズでは勝っているユキだが、俺同様、本人の体の線がやたらめったら細いのでカップサイズを無視して純粋な大きさだと見た感じ陽菜どころか明日香の方が大きく見えるという人もいるだろう。

 反対に美佳ねえはアスリートらしく体の線ががっしりしてアンダーも大きいのでDカップとは思えない程、大きく見える。

 

 まあだからなんだ、って話だが。

 

 

 

「え~でもEって公言してDだったらかっこ悪いじゃん。それに涼ねえも私くらいだとDの方が体に合う場合が多いって言ってたよ?」


「またまた。恥ずかしがっちゃって。良いんだよ。Eだって公言して」


 俺としては虚乳申告はしたくないし、胸は場合によっては縮むと聞いているので公称はDとしたいが陽菜としてはなんとしてもEとさせたいようだ。

 

 

「ところで陽菜。なんで優ちゃんのカップサイズを大きくさせたいの?いままでずっと小さいことをからかってたのに」


 至極真っ当なツッコミを俺の背後から愛菜が入れる。その手が俺の胸部にあったり、時々すんすんさせながら「やっぱり優ちゃんっていい香り」なんて言っているが誤差だろう。


「そんなの簡単だよ。みんな知っていると思うけど、優ちゃん、これまでずっと人の事を大きくて羨ましいなんて心にもないことでずっとからかってきたからね!その仕返し!

 もうこれからはお姉ちゃんのことを胸やお尻が大きいって言うたびに優ちゃんもだよって言い返すからね!」




 ……

 

 衝撃の告白だ。

 

「えっ?陽ねえって大きいの嫌だったの???私、本心から羨ましかったんだけど?」


 世の中には小さい方がいい場合もあるが、女の胸と尻は形がいい限り大きい方がいいに決まっている。そして陽菜は間違いなく形よく大きい。どう考えても羨望の対象と決まっているはずなんだが……


「嘘ばっか。絶対に小さい方がいいに決まってるよ」


「え?なんで?」


 陽菜と見つめ合うこと数瞬。意思疎通が出来た。お互いにお互いの言っていることが理解できないが、嘘はついていない。

 

 すなわち、俺は(あたりまえだけど)大きい方がいいと主張するが、陽菜は小さい方がいいと主張している。解せぬ……

 

 

「だいたいさあ、なんで大きい方がいいわけ?彼氏が欲しいわけでもないんでしょ?」

 

 ここで陽菜が意外な……いやある意味では至極真っ当な質問を投げかけてきた。なぜ大きい方がいいのか。それはその方が見た目がいいからだ。

 

 ではなぜ見た目をよくしたいのか。

 

 一般的に見た目をよくしたいという願望は身も蓋もなくいってしまえば異性にモテたい、というのが理由であろう。だが俺の場合、身体的な意味で異性になる男性に対し、モテたいだとかよく見られたい、という気持ちは全くない。精神的な異性である女性に対してモテたいという欲求はゼロではないが……

 

 なんというか、女になって女の裏事情をあれこれ知ってしまうと別にいいやと思わなくもないし、中身はともかく身体だけは立派な陽菜の半裸、全裸を見ても特に興奮しないことを考えるとそこまでの強い願望でないのだろう。

 

 ではなぜ俺は大きい方がいいと思うんだ?

 

 すると答えはすぐに出てきた。

 

 

「そりゃぁ涼ねえみたいになりたいからね」


 同性の芸能人やスポーツ選手のようになりたいと思うのはよくある話だろう。俺の場合、理想の女性像と言ったら涼ねえなので涼ねえに近づきたいと思うのは至極当然だろう。



「……あぁ。うん。そうだね。優ちゃん涼ねえが大好きだもんね。ふ~ん。そっか」

 

 万人が納得する回答を出したというのになぜか唇を尖らせる陽菜。なんでだ?


「でも残念でした!優ちゃん、涼ねえを真似るにはおっぱいだけじゃなくて背もちょーーっと足りないんじゃないかな?」


「あ、陽ねえにも言ってなかったね。私、後10cmくらいなら伸びるみたいだよ」


 嘘ではない。これは山下さん情報だ。一ヶ月間の缶詰検査は伊達ではなく、よくわからん機械で体のあちこちを検査させられた。その中で骨の形状なんかも検査したそうだ。その結果、

 

『優莉君は前に背を伸ばしたいって言ったけど、適切な運動と食事、あとは睡眠をとればあと10cmくらいは伸びそうだよ。

 専門家は凄いね。僕はスポーツ医学を多少学んでいて、筋肉のことならわかるけど骨に関してはさっぱりでね。

 さっき、そっち方面の専門家の先生の話を聞くと君の身体は骨格にまだ余力があって、これからも多少は成長するみたいだよ。

 年齢を考えれば女性が16歳を過ぎて大きく成長するのはあまり聞かないけど、ない話じゃないしね。

 少なくとも君の性別と体格で100m走を9秒台で走れたり、走り幅跳びで10m跳びを達成するよりよっぽど人類の範疇さ』

 

 と診断されている。

 



「世の中不公平よ。なんで大きい子とそれほどでもない子が出るのよ……」


 巨乳議論についていけない佳代。けどな……


 

「佳代。おっきくしたいならまず生活を変えないとダメだよ」


 席につかず、そのまま俺達のおしゃべりに合流した佳代は鞄を持ちっぱなしだ。それを強奪して中身を確認。案の定、中にはお菓子の山。

 ちなみに2、3年生は今日は始業式に出てクラスで簡単なHRをやって、最後に教科書を買って午前中でお終い。そもそも始業時間自体、今日は10時からだというのにお菓子って……

 

 

「鞄の中にはチョコにポテチに飴ちゃん。佳代ってさあ、お昼ご飯はコンビニの小さいサラダだけとかなのに間食はたくさん取るよね?

 お菓子が全面的に悪いわけじゃないんだけど、身体を成長させる栄養素としてはお菓子『だけ』だと全然足りないよ。

 サラダもそれだけじゃダメ。もっと栄養のバランスを考えてお菓子も控えて、後は運動をすれば……」

 

「そんな『毎日勉強すればテストでいい点が取れる』みたいなことを出来る子は少ないのよ」


 俺のツッコミに対し、意訳『だってお菓子は美味しいんだもん。やめられない』と回答する佳代。それじゃ――

 

 

「は~い。皆さん席についてください。ホームルームを始めますよ」


 と、そんなところで2年1組の担任となる平原先生が入ってきた。今更だけど平原先生の担当授業は何だろう?

 平原先生の持ち授業は生物。2年にはなかったはずだが……



=============


「あ、あはは。み、みんなごめんね」


「ごめんで済んだら警察はいらないって日本の漫画に描いてあったよ」


 2年生初日の放課後。朝のショートホームルーム後、校長先生のありがたいお話を拝聴できる始業式というとても有意義で、有意義過ぎて恐れ多いので早く終われと内心思っているイベントをこなし、そのあとホームルームで自己紹介だとか今後の予定を伝えられて教科書を買って普通の生徒は解散。俺達のように部活のある連中は下校せず、部活に向かう。うまくすると今日から新1年生も部活が解禁となるので来てくれるかもしれない。が、来てくれないかもしれない……

 

 

 俺達からすれば今日は1学期の初日だが、新1年生達は昨日入学式、今日は午前中に学力テスト、午後に学校案内兼部活動紹介という昨年の俺達と同じ日程だったんだが……


 新1年生達への部活動紹介の時間は2、3年生から見れば放課後にあたり、丁度自転車通学者向けの安全講習が開かれていた。

 

 これを受けないと自転車通学が出来ないので当然俺と陽菜は受けることになる。

 

 さらに他のバレーボール部員、ユキと玲子も学校近くに住んでいるからか、自転車通学者なので一緒に受けることになっている。

 

 まあ部活紹介に大人数で行く必要もないし、主将の明日香は明朗快活で声の通りもよく、さらに顔もスタイルもいい。

 

 初対面の印象は良いだろうから明日香に任せておけば安心と何の心配もしてなかったんだが……




 結論を言おう。部活紹介の順番が悪かった。



 バスケ部、バレー部の順で紹介の時間があったんだが、バスケ部の主将である未来が『バレー部は確かに春高に行ったが、それは自分達が協力したからだ』とか『バレー部の主将はバカだぞ!バカが移る前にバスケ部に来よう』だとかを言ってしまったらしい。

 

 言ってるのは事実なんだから聞き流せばいいものをスルースキルがない明日香はバレー部の紹介もそっちのけでこれに応戦。

 

 結果、いつもの罵り合い(ガールズトーク)を新1年生達の前でやってしまい、しかもろくにバレー部の部活紹介も出来ずに退場させられたという。

 

 つまり部活動紹介は大失敗だったわけだ。

 

 

 

 


「ご、ごめんなさい。私が止めればよかったんだけど……」


 明日香について行った愛菜が申し訳なさそうに体を小さくして謝る。あ~うん。比較的おとなしい愛菜だと明日香と未来の間に入って止めるのは無理だよね。

 

 

 ちなみにバスケ部は歌織が途中で未来を羽交い締めにして強制退場させてかつ、その後のフォローを朝岡先輩がしたらしい。



「ま、過ぎたことを言ってもしかたない。お前達は知らないと思うが2月の入試面接の時にもバレー部を志望する子は多くいたんだ。全滅ということはないだろう」


 苦笑しながらなるようになるというのは佐伯先生。

 

 練習着に着替えて待っているのは何も俺達だけではない。佐伯先生もいつものジャージに着替えて待っている。

 

 そもそも新入生が去年と違い入学2日目から部活動に参加できるのは俺達が春高で活躍したことで「一緒にバレーをやりたい」という子が大勢松女に願書を出したことが原因だ。

 

 

「大丈夫。少なくとも翼は来るってさっきスマホに連絡が入った」

「私の体操時代の後輩も来ると連絡が来たぞ」


 有難い情報がユキと玲子から入る。翼とは今年の新1年生でユキの小学校、中学校の後輩。なんと彼女は3月に松女に合格した後、俺のいない春休み中にも練習に合流して一緒にバレーをやっていた子だ。

 

 陽菜曰く、「レシーブだけならもう優ちゃんより巧い」だそうだ。いや、そこは競技歴1年にようやくなろうとしている俺と比較しても……

 

 

 玲子の後輩は背が低い方が有利という体操という競技をやっていたにも拘らず、身長が170cm近くもあるそうだ。

 

 

 ……玲子が昔通っていた体操教室って実はあんまり体操を教えるのに向いてないところなんじゃあ?

 


 そうして話しながら準備体操をしつつ時間をつぶすも1年生達はまだ来ない。

 

 4月から新装オープンとなった第2体育館は設備は素晴らしいが、ちょっとだけ校舎や部室棟からは離れているのが難点だ。離れている分、1年生達が寄り付きにくいのかもしれない。

 

 


「「「「「お願いしまーす!」」」」」



 と、揃いの青いジャージ姿の女子高生達が体育館に現れた!

 

 

 ……どうでもいいと思うが、今年から青色は1年生の学年カラーだが、去年まで青色といえばエリ先輩達3年生の学年カラーだったわけであの青色ジャージが後輩のものだと心で納得するのはもうちょっと先の話だろうなあ……



「お、来たか」


 1年生達の声に真っ先に佐伯先生が反応する。なんとなく既視感を覚える。

 そう言えば去年もこうだった気がする。

 

 

 ぱっと見た限り、1年生達は20人くらいだろうか。

 別に部活動紹介直後に入部しなくてはいけないというルールはないからこれから増える可能性もあるが、まずは1年生だけでも2チーム作れそうなのは良いことだ。

 

 

 みんな期待でワクワクしている目をしてる。去年の俺達もエリ先輩達から見たらこうだったのかもしれない。

 

 というかもう女子高生になって1年経つのか。改めて考えると凄いな。元男がよく1年も女子高生を続けられたもんだ。んでこれからも続けなきゃならんわけだけど。

 

「優ちゃん。ぼーっとしない。これからは先輩なんだから今まで以上にみっともないことをしちゃダメなんだよ」

 

 俺がちょっと感傷に浸っていると陽菜に注意された。言い返してやろうと思ったが、新1年生達の前だからやめておく。

 

 なんせ向こうから見たらところかまわず罵り合い(ガールズトーク)をする奴が主将の部だと思われているのだ。正式入部前にこれ以上の醜態は避けたい。

 

 その醜態をさらした奴が新1年生達に向けていつか俺達を誘った時と同じセリフを言った。

 

 

「ようこそ。松原女子高校バレーボール部へ。最初に言います。私達は全国制覇を目指しています。だから練習はとっても大変です。

 でもみんな和気あいあいとした楽しい部活です。だからみんなも私達と一緒にバレーボールをやろう!」

 

 

 

 

次で最後の予定。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 後日談として、各協会の獲得争いとか気になります 陸上競技は勿論ですが、体操やウェイトリフティング等の競技でも欲しいでしょうから。各競技団体で獲得争いになると思うのですが 個人競技な…
2019/11/09 13:56 退会済み
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