表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/208

099 VS金豊山学園高校 その4

=======

 全日本バレーボール高等学校選手権大会

  女子決勝 第3セット中盤

=======


 素人でない、バレーボールを知っている者が見れば、そのセッターの動きに思わず感嘆の声を上げられずにはいられないだろう。

 

 上がったボールに対し、まずは姿勢でフェイントを仕掛け、続いて目線でも違う方向へ誘導。それらはフェイントとは思えない程巧みで、思わず釣られてしまいそうになる。

 

 

 じーーーーーーー

 

 

 いざボールが近づき、トスをあげる瞬間までどこにボールが飛ぶのか知っているのはセッターのみ。走り込んでくる複数人のスパイカーはボールが来ないかもしれないことも承知の上、来たら打つ気で跳んでくる。

 

 

 じーーーーーーー

 


 だからこそ、その異常性が際立つ。

 

 通常、ブロッカーは相手コート全体を見るようにする。ボールの位置、セッターの視線、走り込んでくるスパイカー。これらの状況を総合的に判断しブロックを行うのが現代バレーボールの常識のはず。

 

 

 じーーーーーーー

 

 

 だが、そのブロッカーはバレーボールの常識を全て投げ捨てて相手セッターのみを注視していた。

 

 

 

 そしてボールとセッターの指が触れた瞬間、動きだす。まさに電光石火の動きでトスの上がったスパイカーの前へ跳ぶ。しかし所詮1枚ブロック。全てのコースは防ぎきれない。それはブロッカーも承知。

 

 

 

 

 バンッ!

 

 

 ボールはブロッカーの手にあたり、勢いを減じ軌道が変わっただけで、相手コートにボールを押し返したわけではない。だがブロックの目的は果たした。

 

 

「ワンチ!※」

(※ワンタッチの意味。ボールに触ったので自分達のボールであることを味方に示すために言っている)



 スパイクに対し、ブロッカーはスパイクを止めるの(キル・ブロック)ではなく、弱めるの(ソフト・ブロック)が目的だった。

 

 味方の守備力では相手の強打を拾えない。だが、スパイクをワンタッチすることで弱めたものなら?

 

 

「おらっ!!」


 ブロッカーによってはじかれたボールを別のチームメイトが猛ダッシュで追い、仕切りに激突しながらもフライングレシーブで何とか捕球する。さらにそのボールを――

 

「ラスト、優ちゃん」


 セッターがエースへのトスに変える。

 

 そのトスは丁寧なものではあるが、ただのオープントス。舞台(ここ)が全国大会の決勝戦であることを考えると凡百も凡百。相手セッターの神業とは比べ物にならない。


 しかし、その凡百のトスも唯一無二凶悪無比のスパイカーへのセットアップなら大舞台に相応しい必殺の一撃へと変わる。

 

=======

 視点変更

  実況席より

=======


『最後はエース立花優莉の強烈な一撃!これで16-15。この試合、松原女子高校が初めてリードを許した状態からの逆転に成功しました!』

『松原女子高校はレシーブ力でどうしても劣ってしまいますからね。一度リードを許してしまうと突き放される一方でした。現に第1セット、第2セットはそうでしたよね。

 ですからこの試合運びは予想外です。松原女子高校が互角以上の展開に持っていくには弱点のレシーブを何とかすることが前提だと思っていました。

 ところが、未だに……いきなり巧くはならないので当然ですが……レシーブの状態は良くありません。一度サーブ権を金豊山学園高校に渡してしまうと相手のサーブだけで何点も許してしまいます。

 変わったのは自分達にサーブ権が回ってきた時です。あ、これです!これ!松原女子高校からのサーブを金豊山学園高校がレシーブし、セッターの飛田選手が速攻をねじ込んでくる。

 この攻撃に対して、第3セットから松原女子高校は立花優莉選手が前衛時に限った話ですがブロック1枚体制にしているんです。これがなぜか上手くいってしまい、スパイクに対して確実にワンタッチで勢いを削ぐことで第2セットまではほとんど拾えなかった金豊山学園高校の攻撃を拾えるようになっています。これが非常に大きい。松原女子高校は守備面では金豊山学園高校に大きく劣っていますが、攻撃面だけなら互角以上です。守備さえ何とかすれば戦えるようになります』

 

『その『戦える』ようになった松原女子高校がこうしている間にも1点追加し、17-15。先ほど大曽我さんが仰ったように1度サーブ権を譲ってしまうとそこから連続失点の可能性がある松原女子高校は何とかここでリードを広げたいところですが……

 なぜ松原女子高校はブロック1枚体制で戦えているのでしょうか』

 

『それは僕にもわかりません。男子の世界なら2m級の選手がワンマンブロックをするのは学生レベルなら全国大会でも稀に見られたのですが、それは今から30年以上前(僕が現役時代)の話です。

 現代のバレーボールは攻守ともに巧みな戦術の上に成り立っていますし、女子の世界は男子と比べ膂力と高さでどうしても劣る代わりに男子よりずっと早くから組織立った戦術が練られています。ですから女子バレーの世界では1枚ブロック体制は成り立たないはずなんですが――』

 

=======

 視点変更

  女子決勝 第3セット終盤

   金豊山視点

=======

(なんや?なにが起きとるんや?)

 金豊山の大友監督は目の前の不思議現象に混乱していた。


(博は『あたりをつけて動いている』ゆうとったが……)

 

 だがそれはあり得ない。普通は気が付かないような『小さな癖を瞬時に見抜く』才があろうと、いくらなんでも3年間見てきた自分達が気が付かず、碌に面識もない相手選手だけが気が付くなどあり得ない。

 

 まして飛田は自らの手札を読ませないように常日頃からフォームの確認に余念がないような選手なのである。

 

(せやったらフォームやのうて飛田の戦術を読んどるんか?)

 

 セッターの得意なトスコースや戦法を分析し……

 

 いやそれもあり得ない。確かに一部の選手は特定の選手ばかりにトスをあげたり頼ったりするが、飛田はきちんとトスを散らしている。

 

(ただの勘、か?んなアホな……)


 1回、2回なら偶然勘でトスと同じ方向に跳んだ、というのもわかるがここまで予測成功率100%のゲスブロックを披露している以上、ただの勘というわけでない。

 

(なんや?ほんまに何が起きとるんや?)


 原因はわからない。

 

 が、このままでは不毛な点取り合戦を強いられることになる。

 

 

 

 

全日本バレーボール高等学校選手権大会 女子決勝


 松原女子高校 VS 金豊山学園高校

   第3セット

      25-22


   セットカウント

       1-2

 

 

 

 そしてそれはこの第3セットのように場合によっては良くない結果をもたらすことになる場合がある。

 

 

 

=======

 視点変更

  立花 優莉視点

=======


「はぁ……はぁ……」


 し、しんどい……

 

 第3セットは何とかものに出来た。

 

 これは俺のなんちゃって聴勁で相手のスパイカーではなくセッターの舞さんの思考を読むことで相手のスパイクをある程度抑えることが出来たからこそだ。

 

 そしてこの戦法は相手セッターが舞さんだからこそ可能な芸当だ。

 

 俺の聴勁はこの世界では精々『なんとなくこんなことを考えていそう』という雰囲気を感じ取れるというファジーなものだ。

 

 ところが舞さん相手になると明確に『ツーアタックと見せかけてAクイックを仕掛ける』『中央突破と見せかけて後衛速攻』等意思が読み取れる。

 

 

 これはなぜか。

 

 

 ほかならぬ舞さん自身が明確な意思をもってバレーボールをしているからである。

 

 

 これが他のセッター、例えば陽菜あたりだとぼやっとレフトに意識が向いているなぁというのがなんとなく感じ取れ、しかし実際にはセンターにボールが上がる、なんてことがある。

 

 これは仕方のないことである。

 

 バレーボールはサーブ以降は常に動きのあるスポーツでかつ、サッカーやバスケと違いボールをもって停止することが許されないスポーツである。

 

 陽菜というか普通のセッターの思考が揺れてしまうのもファーストタッチでボールが常に理想的なAパスでセッターに返るわけではないから返球次第では臨機応変に『本当はセンターからAクイックを仕掛けたいけど無理だからレフトからオープン攻撃』とか『中央突破したいけどセンターがファーストタッチで姿勢を崩して助走に入れていないからここはツーアタック』と変更していくものなのである。

 

 

 が、高校最強セッターと名高い舞さんはファーストタッチがちょっとやそっと乱れても強引に当初の思考通りにトスをあげられるし、それに応えられるだけの技術と戦術に長けたスパイカーが金豊山にはいるので舞さんの思考を感じ取るのが非常に有効なのである。

 

 

 

 しかし、このままでは勝ちきれないのも事実。

 


 舞さんは思考を読まれているのを感じているのかだんだんとギリギリまで考えないでトスをあげるようになってきている。


 

 そしてそれ以上にきついのが俺自身。



 運動量的にはまだまだ余裕のはずなのに全身に疲労感が漂い、頭がガンガンしてきている。これは異世界でちょっとだけ体験したことのある『魔力切れ』の症状に近しい。理論的な説明は元々が多分そうだろう、というものなので省くが、俺自身の単純な身体能力強化程度ならいくら使っても魔力は尽きないが、そこに舞さんの思考を完璧に読み取る、というのを加えるとこの世界の希薄な『気』では賄えないのだろう。

 

 『気』が足りないのに無理やり押し通しているので『魔力切れ』を起こしかけている。正直、今すぐにでも止めて大の字に寝っ転がりたい。

 

 が……

 

「優莉大丈夫か?汗とか凄いぞ?」


 第3セットと第4セットの間のわずかな休憩兼作戦時間。その時間で佐伯監督から心配の声を掛けられたが、俺の返答は決まっている。

 

「全然大丈夫です。第一、汗だけならみんな凄いですよ」

 

 少なくとも俺達のバレーボールは1点決まる、1点決められるごとに軽く円陣を組んで「いけるよ」とか「今のは取れたよ」とかの声掛けをする。

 

 その集まって円陣を組む際に隣にいる選手の背中に手を回す。まあ俺だけはこの時、隣の選手の腰に手を置いている。

 

 そうでもしないとユニフォーム越しとはいえ女子高生の上の下着を触るのは男としてどうかと思うわけで……

 

 ともかく、そうやって近くにいる陽菜だとか明日香だとか玲子だとかユキだとか歌織だとか未来だとかの腰に手を当てるとべったりと濡れている。

 多少は会場内が熱気に包まれているとはいえ今は1月。寒いはずにも拘らず誰しもがたくさん汗をかいているのである。これはみんながコートを駆け回ってボールを何とか拾ってつなげている証拠だ。なぜそこまで頑張れる?

 全員『優莉なら何とかしてくれる』、その1点だけで無茶なボールも追っているのだ。

 

 

 陽菜()と同い年の女子がそこまで一生懸命に頑張っているのに男の俺が先にギブアップするわけにはいかない。期待されているのに投げ出すのは男が廃る。

 

 

 あと2セット、あと50いや第5セットは15点取ればいいから40点取れば俺達の勝ちだ。そこまで頑張ればいいだけだ。



バレーボールのワールドカップ、昨年の世界選手権程奮闘できていないのが……

かといって男子は女子以上にちょっと……


時代はラグビーですかね(現実逃避)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ