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097 VS金豊山学園高校 その2

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 実況席より

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『女子決勝 松原女子高校 対 金豊山学園高校の第1セットは金豊山学園高校が前回、そしてインターハイ、国体の女王としての貫禄を見せつける圧勝でものにしました』


『金豊山学園に隙がないかと言われればそうではないんですが、それを試合中に修正して相手に付け込ませません。反対に松原女子高校は魔法が解けてしまったというか、決勝まで来て「優勝」の文字がちらついてしまったのか、地に足をつけていないようなあまりらしくないプレイが目立ちましたね』

 

『「優勝」というのが見えてくると違ってくるものなのでしょうか』


『良い意味で変わる選手と悪い意味で変わる選手がいますね。「優勝」が見えてることで奮起をしたり、モチベーションをあげる選手もいれば、緊張してしまっていつも通りのプレイが出来なくなってしまったり。

 特に松原女子高校の選手は申し訳ないのですが、バレーボールの世界では無名の選手ばかりです。おそらく、他の競技も含めて何らかの全国大会で優勝までたどり着く様なアスリートではなかったのでしょう。そこが第1セットのらしくないプレイにつながってしまったのかな、と思います』

 

『対する金豊山はそう言った意味では小学生、中学生の頃から全国大会の常連選手ばかりですからね。場数が違うのでしょう。決勝はこのまま金豊山が押し切ってしまうのでしょうか』


『実力差からするとセットカウント3-0でも不思議ではないんですが、内容は僕個人の予想からするともう少し点差を縮められると思います。松原女子高校の佐伯監督は選手の気持ちを切り替えさせるのが上手いですからね。

 第2セットを迎えるにあたって気持ちをきちっと切り替えて戦えばひょっとすると、はあると思います』

 

『その佐伯監督ですが、松原女子高校のOGで教師暦も監督歴も1年未満。とても若い監督です』


『もしかしたらそこが上手くやっている秘訣なのかもしれません。もうスパルタ教育なんて時代に合いませんし、ただガムシャラに練習をしても巧くならないとみんな気が付き始めてますからね。

 上から一方的に言うのではなく、同じ目線で練習することを今の子は望んでますから。年齢的には教師と生徒、監督と選手と言うよりは先輩と後輩のような関係なのかもしれませんね』

 

 

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 視点変更

  同時刻

   金豊山視点

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「小平。最後のサーブはなんやねん」


 第1セットを大差でものにしたにもかかわらず、大友監督は顔と言わず全身から不機嫌さを漂わせていた。

 

「す、すいませんでした」


 監督からの言葉に対し、頭を下げる金豊山の2年生ミドルブロッカー、小平(こだいら) 那奈(なな)

 

「誰も謝れ言うとるんやない。なんであないなサーブを打ってしもたんや。」


 あんなサーブと言っているのは彼女が試合中に打った所謂「いれてくだけのサーブ」のことだ。

 

 金豊山も松原女子高校のようにサーブを重視している。むしろサーブこそ最初の攻撃だと位置づけている。

 ところが、その直前で些細なミスをした彼女はサーブまで失敗できないと考え、確実に入れていくサーブを打ったのだ。

 

「えぇか?積極的な失敗は仕方ないんや。むしろチャンスやで?こんな大きな舞台で、大勝ちしてるんやから1点2点の小さなミスなんか気にせんと、バシッとやらんかい」


「……」


 大友監督からの檄に応えることもなく、委縮する小平。

 

(ホンマ、これさえなかったらなあ……)


 小平の身長は金豊山の中でも長身の192cm。長躯だけでなく、単純な身体能力は全ての分野で部内トップ3を誇る。地道な練習も逃げ出さずに、加えてハードな練習にも耐えられるだけの頑強さも併せ持つ。

 龍閃山の津金澤(どっかの2m)と違って基礎を疎かにしておらず、技能面でも高校レベルではもはやないのだが……

 

 これだけの逸材だが、U-16(ユース)でもU-19(ジュニア)でも呼ばれたのは1度だけ。2回目以降は呼ばれていない。

 

 

 なぜか。理由は明快。

 

 

 小心者(チキンハート)なのだ。

 

 

 大舞台にめっぽう弱い。今日の試合もポテンシャルを十分に発揮しているかと言えば否だろう。ただ、その不十分な状態でも他の選手を押しのけるだけの実力を発揮している。殻さえ破れば大化けすると大友監督は予想している。

 

 

「小平。少しは國本を見習ってええんやで?」


「そこでなんで私の名前が出てくるんですか!」


「そらぁ。國本は器用やし、要領もえぇからな。サーブで言えば、あのサーブ、取られはしたがえぇサーブやったで。狙いはえぇ」



 第1セット、松原女子高校はサーブレシーバーを限定してきた。そこを突き、「チャンスボールだけど作戦ではサーブレシーブをしない選手」に狙いを定めてあえて強打にせずネットギリギリに山なりにサーブを打った。

 

 ネットにかすってコートに落ちようとしたそのボールを慌てふためきながら対処した松原女子高校の面々。結果としてはボールは拾われてしまったが、動揺は誘えた。あれは価値のある挑戦だと大友監督は評価している。

 

 そのサーブを打った國本(くにもと) 美沙希(みさき)は、金豊山の選手としては小柄な179cmで2年生のウイングスパイカー。

 

 才能と言う面では超一流には及ばないが、とにかく要領がいい。力を入れるべきところと抜いてよいところをよくわかっている。わかっているからこそ、練習でも適度に手を抜いてしまうが……

 

 

 

小平と國本(こいつら2人)の性格、足して2で割られへんかな……)



 内心愚痴りつつ、言葉を続ける。

 

「えぇか。第1セットは取れたが、最後まで油断は厳禁や。相手の実力はこんなもんやないで」

 

 5点取る間に3点取られる。5対3。それが試合前に予想した得点比だ。これに照らし合わせ、順当にいけば1セットあたり25-15になると踏んでいる。第1セットは上手くいったが、最後まで上手くいく保証はない。

 

 バレーボールという競技自体、ローテ次第で「スパイクが強力なローテ」、「レシーブが手堅いローテ」といった風に強さが変わる競技だが、松原女子高校は特にその傾向が強い。


「えぇか。優莉ちゃんのスパイクとサーブは強烈や。でも取れへんわけやないで。今なら勝てる。あの子は将来絶対に世界の舞台でメダルを取ってくる選手になる。そしたら自分ら婆さんになっても自慢できるで!自分はあの立花優莉に勝ったことがある、てな」

 

 発破をかけるが、手札の少ない、弱点の多い松原女子高校でもやりようによってはこちらに勝つことが出来ると大友監督は読んでいる。

 

 むこうは勝利を諦めているわけではないだろう。普段はエースに最大限サーブが回ってくるようローテーションを組むが、第1セットは最大限「前衛」に留まれるローテーションを組んできた。

 

 おそらくこちらのスパイクをあのお化けブロックで遮断、もしくは軽減し、攻撃につなげる作戦だったのだろう。その前のサーブレシーブで失敗したので瓦解したが、次はどう出るか?

 

(若い姉ちゃんや思うて油断はせえへん。百戦錬磨の名将や思うて全力でへこます)


 選手はおおよそ見切れても、未だ底知れぬのは相手の監督。出来れば底が水たまり位に浅いことを願っているが、深い場合を想定し、第2セットへ挑む大友監督。


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 視点変更

  同時刻

   立花 優莉視点

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 第1セットを完敗の完敗で終えてしまった。そんな俺達を前に佐伯監督はなんとトンデモナイことを言ってのけた。



 

「よし。私が悪かった。この試合、勝利を諦めよう」






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