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096 VS金豊山学園高校 その1

 春高決勝戦当日。

 

 

 今日は試合開始予定時刻が14時から。その前に男子の試合があるが、男子の試合によってスタート時間が遅くなることはあっても早くなることはない。

 

 なので比較的のんびりとした朝……

 

 まあ7時半から朝食、10時にはチェックアウト、しかも今日は本当なら休日ということを考えるとのんびりとはしてないだろうがそんな朝を過ごし、決勝戦の会場へ向かう。

 

 

 そこで軽く体を動かし、早めの昼食。さらにはウォーミングアップをしているとあっという間に試合前の公式ウォームアップの時間だ。

 

 

 

「優ちゃん」


 陽菜が高いトスをあげる。それを高い打点で打ち込む。

 

 おぉぉ

 

 会場全体から感嘆の声が聞こえる。

 

 ……これが今までと、特に春高初日とは大きく異なる点だ。


 今までなら「あのヤバいチビはいったい何者だ!」的な悲鳴と驚愕の声が上がっていた。それは対戦相手も同じで本来なら不必要な緊張と圧を相手に与えることができた。それで有利になったことは事実だろう。

 だが、ここまでの4日間ですっかり有名人になってしまった。もう俺が高く跳べることは周知の事実でそれを凄いとは思ってもビビったりしない。俺達を必要以上に大きく見ることはない。ここまで俺達を助けてくれた無名特権(メッキ)は完全に剥がれ落ちたのだろう。

 

 

 

========


「さて、今日の相手は強敵だ。去年の……というより今年度のインターハイ、国体の女王で攻守にわたってスキがない。だが、全く点が取れないか、と言われればそうではない。

 だから戦う前から諦める必要はない。戦い方だが、昨日もミーティングで話したように恵蘭と同じようにこちらのサーブで崩れる様な高校ではない。かといって恵蘭程の堅守を誇るわけでもない。

 まず序盤優莉にボールを集める。そのためにもファーストタッチはとにかく高く上げることにしよう。無理に速攻に持ち込む必要はない。そして優莉のスパイクで点を取る。最初のうちはな。

 優莉のスパイクが何本も決まると必然的に相手はブロッカーを配置しないで6人全員をレシーバーにするはずだ。ここからが勝負。優莉以外にもトスをあげることで相手守備の攪乱を行う。

 それが相手の守備の乱れを呼び、結果として優莉のスパイクも決まりやすくなるはずだ。

 相手の攻撃はとにかく触ろう。確かにボールは速いし、怖いと思うかもしれないが、日頃見ている優莉のスパイクの方がよっぽど速くて痛い。あれを日頃からレシーブしているユキが怪我1つしてないんだ。当たり所が悪くない限り怪我はしない」


 試合開始前のミーティングは昨日のミーティングの内容をもう一度繰り返すものだった。

 

 要約すると「相手は強いけどビビんな」「最初は優莉にボールを集めるぞ」になる。

 

 幸か不幸かサーブ権は相手から。今回は俺を少しでも長く前衛に置くために普段とは違いローテーションを2つ分巻き戻してのスタートだ。具体的にはこうなる。

 

 

      ネット     

  ――――――――――

   FL FC FR 


   BL BC BR 

  ――――――――――

    エンドライン


 FL:立花 優莉

 FC:鍋川 歌織

 FR:立花 陽菜

 BR:村井 玲子 

 BC:前島 未来 (有村 雪子)

 BL:都平 明日香 

 

 ※未来と歌織は後衛時にユキと代わる


 さて、どうなるものやら……

 

 

=======

 視点変更

  同時刻

  女子決勝 開始前

   金豊山視点

=======

 

「いやぁ。間近で見ると一層高う見えるな、優莉ちゃん。あらかなわんわ」


 軽い口調で降参宣言をする大友監督。だからこれを言葉通りに受け取るものは誰もない。

 

「今日の相手は間違いなく、日本で一番高く跳べるスパイカーを擁するチームや。それに勝って気持ちよう日本一になろうや」

 

 ここで大友監督はおもむろに今朝発売されたスポーツ新聞を取り出し、視線を向ける。一面には松原女子高校の奮闘を称える記事が記載されていた。日本において高校女子バレーは無名ではないがスポーツ紙の一面になるようなものでない。

 だが、1月上旬で主だったメジャースポーツが開始前であることと、松原女子高校の話題性が重なり異例のことではあるが、スポーツ紙で特集が組まれることとなった。

 

「文武両道、勉強も一生懸命頑張ります。悪いことやないで。むしろえぇことや。けどなぁ……」


 ここで大友監督は視線を再び部員に戻し、断言する。


「一心不乱にバレーを頑張ったんかて凄い事なんや。あの子らに教えたろう。誰がこの1年間、一番一生懸命バレーをやってきたんかを!いくで!今日、勝って全国制覇や!」



=======

 視点変更

  同時刻

  実況席より

=======


『5日に渡る熱戦も今日で最後。全日本バレーボール高等学校選手権大会 最終日 女子決勝 松原女子高校 対 金豊山学園高校は間もなく開始です。

 実況は男子決勝に引き続き私、向島 隆、解説は元バレーボール男子日本代表 大曽我 修也さんで送ります。

 大曽我さん。実は女子決勝戦にあたり、会場に入場するための整理券が配られたそうです。これは例年にないことなんです。それだけこの一戦、注目を集めているということでよろしいでしょうか』

 

『そうですね。松原女子高校は公立校で決して恵まれた環境というわけではなく、さらに選手層も薄い。これだけ不利な要素があってもここまで勝ち抜いてきたまるで漫画の中の主人公の様なチームです。世間の注目を集めてしまうのも当然でしょう。そして応援したくなるのもわかります』

 

『その松原女子高校ですが、スポーツ評論家は皆さん今日は負けてしまう、と予想されていますがなぜでしょうか』

 

『今年の金豊山学園高校は攻守だけでなく高さについても非常にレベルが高く、おまけに選手層も厚い。一切スキが見られません。

 一方、松原女子高校は背も低いですし、選手のレベルも金豊山学園高校と比べるとどうしてもな面があります。さらに選手層も薄く、試合中に怪我をしてしまうと一気に流れを持っていかれる可能性があります。もし仮に松原女子高校が勝つとするならばエースの立花 優莉選手の奮闘が必要不可欠でしょう』

 

『その松原女子高校の立花 優莉ですが、実は金豊山学園高校の飛田 舞とは妙な縁があります。昨年の8月、偶然海水浴場で出会った二人が女子ビーチバレー日本代表の石間・坂倉コンビ相手にビーチバレーで勝ってしまうというとんでもない快挙をやり遂げてしまいます』

 

『僕も当時それを聞いた時にびっくりしまして、同時に石間と坂倉にカミナリを落としたんですよ。素人の女子高生相手に何をやってるんだ、ってね。今にして思うと負けてしまうのも致し方なし、と思ってしまいますね』

 

『両チームには――』

 

 

 

=======

 視点変更

  女子決勝 第1セット

   立花 優莉視点

=======

 

 普段、俺達は基本的にサーブは飛んできた奴がレシーブすることになっている。だが、相手はサーブが単純に速くて強い金豊山。まともにやればサーブレシーブなんぞ出来ないだろう。

 そこでサーブレシーブについてはレシーブの巧いユキ、ついで強打ならある程度さばける明日香と玲子の計3人でレシーブする作戦に出た。

 

 ……この時点でお察しであろう。ユキはともかく、明日香と玲子は『俺とか未来とか歌織がサーブレシーブするよりはマシ』というレシーブレベルでしかない(一応断っておく。陽菜はセッターだからサーブレシーブはしない)。

 

 なのでサーブレシーブが確実どころか高確率でも成功するなんて保証はない。さらに言えば玲子はジャンプフローターサーブを苦手としている。

 

 そのため、相手サーバーがジャンプフローターサーブの使い手であった場合は俺が玲子の代わりにサーブレシーブをすることになっている。

 

 さらに不安要素はある。玲子はU-19の合宿で舞さんと一緒だった。その時に一緒にサーブとサーブレシーブの練習をペアで自主練したそうなんだが、曰く

 

 「舞さんはコート上のどこであっても正確にサーブを飛ばすことができた。言い換えればそれはコントロールを重視した結果であって、多少狙いが甘くなるのを承知で腕を思い切り振ればもっと速くて凄いサーブを打てる」

 

 とありがたくない情報までもらっている。

 

 普段なら威力とコントロールを高レベルで両立させているが、俺達のへっぽこ守備を前にすれば多少コントロールが甘くなっても威力重視で来る可能性もある。そうなるとユキ以外がレシーブ出来るかと言われると……

 

 

 ピッーー!!



 サーブ開始の笛が鳴る。舞さんが助走をつけて跳ぶ。相変わらずのスパイクサーブが俺達のコートの……

 

 ??

 

 このコース微妙じゃね?

 

 

「アウト!」

 

 後衛にいたユキがアウトだと判断し、ボールを見送る。が……

 

 前衛の俺の位置からでは正確には見えないが、ボールはなんとエンドラインの丁度真ん中に落ちた、と思われる。なぜなら線審が今のボールは入ったと旗を降ろしているからだ。

 

 0-1

 

 いきなりの神業ボールコントロール。半端ないって……

 

 

「ドンマイドンマイ。今のは仕方ない。切り替えていこう」


 明日香が言う。そりゃそうだ。今のは仕方ない。が、あのレベルでサーブがコントロールできるとは……

 

 なおも続けて舞さんのサーブ。

 

 

 

 今度は――って嘘やろ?それは!!

 

 

=======

 視点変更

  実況席より

=======


『いきなりの強烈な先制パンチ。これで3本のサービスエースを含み、これで6本目のサーブも得点に結びつかせ6-0。第1セットの最初からサーブで突き放しにかかります』


『松原女子高校は混乱してますね。飛田選手がまさか松原女子高校が苦手としている『ジャンプフローターサーブ』を織り交ぜてサーブを打つとは思いませんでした』


『サーブの二刀流は松原女子高校の小さなエース、立花優莉の専売特許。と思われたところにまさかの飛田の二刀流。どうしてこれまで使ってこなかったんでしょうか?』


『単純に飛田選手から見てジャンプフローターサーブは試合に使えるレベルではなかったんだと思います。スパイクサーブがあれだけの威力とコントロールを誇りますし、それに比べるとジャンプフローターサーブはコントロールがいまいち怪しいところがあるんですよね。

 スパイクサーブだとズバリ四隅、ズバリ特定の選手狙いが出来ていますが、ジャンプフローターサーブではそこまでコントロール出来ていないように見えます。

 しかし、今までにないカードを見せる、しかも自分達が苦手としているジャンプフローターサーブが飛んでくるとあって松原女子高校は浮足立ってますね』


『サーブも笛が鳴ってからすぐに打つ場合と時間が経ってから打つ場合の2種類あるようですが?』


『それも平常心を奪う金豊山の作戦でしょう。サーブは笛が鳴ってから8秒以内に打てばいいんです。松原女子高校は経験が浅い選手が多いですから、こういった揺さぶりも効いてしまいます。女王の金豊山が一切の容赦・慢心なく全力で松原女子を叩き潰しに来てますね』

 

 

 

=======

 視点変更

  女子決勝 第1セット

   立花 優莉視点

=======

 

 バレーボールという競技はサーブ権を持っていない方が得点をした場合、サーブ権が移る。つまり連続得点(ブレイク)が発生せず、交互に点を取っていたら毎回サーブ権は移っていく。

 

 そのためか一般的なバレーの試合だと、1セットあたり1人の選手は3~4回サーブを打つことになる。

 

 一方で俺は、俺達はいつも俺の凶悪サーブに対し、何の準備も出来ていないチーム相手には俺のサーブだけで点を荒稼ぎし、ローテーションを殆ど回さないで勝ったこともあった。

 

 だが、今日、俺達はその逆をやられた……

 

 

 

 春高 女子決勝 


 松原女子高校 VS 金豊山学園高校

   第1セット

       9-25

 


 

 

 

 俺までサーブ権は1回しか回ってこなかった。

 


 単純にサーブが速くて強い。


 

 たったそれだけの単純な事なんだがその単純なことに対応しきれずいきなりの完敗である……

 

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