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閑話 金豊山学園高校VS龍閃山高校 その2


「……すぅ……すぅ……」

「……ん……」


 目の前で激戦が繰り広げられている。全国大会の準決勝となるとレベルが高い。どちらのコートにも知り合いがいるので応援はしにくい。

 

 

 ただ一つ言えるのは……

 

 

「玲子。マジック持ってない?出来れば油性のやつがいい」


「持ってないが、仮に持っていたらどうするんだ?」


「私の膝枕で寝ている奴の顔に落書きする」


 

 明日、目の前の試合の勝った方と決勝戦をするわけなんだが……

 

 確かに今日はそこそこ早かった。

 

 試合開始は10時から。

 

 だから2時間前の8時過ぎには会場入りをしていたし、それに合わせて宿を出たのは7時半。男だったら朝は顔を洗って歯を磨いて朝食を食べて着替えるくらいしかないが、女は違う。なんだかんだと今日も6時起床だ。

 

 

 試合ってのは短くても疲れる。

 

 普段の練習の方が肉体的にはしんどくてもずっと気を張ってなきゃいけない試合の方が精神もやられるのか疲れる。まして今日の試合はさっきも言ったが本当にまぐれ勝ち、10回やったら1回しか勝てないその1回が最初にきたような試合だ。デュースもあったし、そもそもフルセットの5セット目までもつれ込んだ。特にセッターは毎回ボールを触るし、疲れもするだろう。それは理解する。

 

 

 

 だがね、

 

 

「……すぅ……すぅ……」

 

 

 普段、俺に「他所でみっともない真似するな」とか「外だと誰に見られているかわからないからしっかりするように」とか「今の優ちゃんは女の子なんだから恥ずかしいことはしないで」とか偉そうに説教する本人が人の膝枕で爆睡するのはどうかと思うんだ。

 

 ここ春高の応援席だぞ?

 

 場合によっては不特定多数の人に寝顔が見られるんだぞ?

 

 そんな無防備に寝るなっつうの。

 

 

==========

 

 恵蘭との一戦をまぐれ勝ちで切り抜けた後、俺達は宿に戻ることなく次の試合を観戦することにした。丁度昼食時でもあったので弁当を受け取り、食べながらの観戦……はよくないということでアリーナ外の適当な場所で固まって昼食を取ってから試合観戦。これが良くなかった。

 

 

 激戦の後で身体は疲れている。試合は何とか勝ったことで心の緊張の糸が切れた状態。昼食を取ったことでお腹は満ちている。そして昼過ぎ。

 

 

 これだけ条件が重なっているのだ。睡魔に勝てる奴の方が少ない。

 

 

 左からは陽菜が倒れ込んで来て俺の膝の上に頭をのせて寝てるし、右からはユキがやっぱり俺に寄りかかって寝息を立てている。陽菜は割とどうでもいいが、ユキが倒れて頭でも打ったら大変なので下手に動けない。なので首だけちょっと動かして周りを見ると歌織がイスに座ったまま寝ている。

 

 明日香と未来は俺の後ろに座っているので姿は見えないが、あの2人が並んで黙ったまま、はあり得ないので2人とも寝ているのだろう。

 

 というわけでバレー部員で起きているのは俺と玲子、ピンチサーバと守備固めで出番の少なかった愛菜の3人だけだ。

 

 

「陽ねえ。明日勝った方と試合するんだよ?起きてよ」


 俺の太ももを枕にして寝ている陽菜のほほをつついてみる。陽菜のほほは柔らかく、そして弾力がある。スキンケアだってやっているからすべすべの赤ちゃん肌って奴だ。

 

「……すぅ……すぅ……」


 が、陽菜はつついた程度では起きなかった。

 

 そもそも細いだけで肉付きが悪い俺の膝枕で寝れる時点でよほど眠いのだろう。少なくとも俺は俺の膝枕では寝れない自信がある。涼ねえの膝枕だったらいくらでも寝れる自信があるけどな!

 

 まあ陽菜いじりはこれくらいにしておいて……

 

「玲子。仮にさ、あの2チームのどっちかと試合して勝てると思う?」


「……勝つ以前に多分私達だと試合にならない」


 だよなぁ。

 

 案外陽菜達が寝ているのは現実逃避をしているだけかもしれない。

 

 

「私達が普段、相手チームにしていることなんだけど、全員隙無しになると厳しいな」

「野球でもピッチャーの投げるボールが10キロ速かったら打てないから仕方ない面もあるが……」


 近くにいる佐伯先生も上杉先生も頭をかかえている。

 

 両校とも単純にサーブが速い。ただそれだけなんだが、それが俺達にはきつい。いままでもサーブの強いところとあたったことはあった。

 

 が、その強さとはコースが良いとか、レシーブの苦手な奴を狙ってくるという意味でサーブが強かった。もちろん、中には速いサーブを打ち込んでくる高校もあったが、あそこまでではなかった。

 

 対して、金豊山と龍閃山は巨躯を活かして単純にボールが速くて強いサーブをぶち込んでくる。それも1人2人じゃない。6人全員が強烈なサーブの使い手だ。

 

 これだけならこっちもサーブには自信がある。なのでお互いに強烈サーブの打ち合いになるだけなんだが……


=======

 視点変更

  実況席より

=======

『女子準決勝第2試合第1セットは25-22でまずは金豊山学園高校が取りました』


『いやちょっとこの展開は予想外ですね。あ、金豊山が取ったことではなく試合内容です。

 一般的な話をします。サーブを打って、相手チームがレシーブをしスパイクを打つまでは10秒かからないくらいなんです。この10秒で決着がつくのが男子の場合は70%以上、女子の場合は50%以下とされています。ですが恵まれた長身を活かして両チームはここまで女子の世界ではありえない程、ラリーをしないで勝ちあがってきてるんです。

 ところがこの第1セット、両チームともサーブもスパイクも拾うも拾う。試合の途中から個人的に計測していたのですが1点取るまでに30秒以上かかっているケースが6割を超えています。サービスエースはあれだけの攻防があったにもかかわらず、たったの1本です。

 これはすごい事ですよ。実は今回の仕事を受けるにあたって、昨年夏のインターハイの試合も確認してきたのですが、あの時はラリーはほとんど成立しないで点の取り合いでした。この半年で両チームともみっちり守備を鍛え上げてきたのでしょう』

 

『お互いに他の試合と違って中々決定打を放てない試合。勝敗のカギはどこになるのでしょうか』


『金豊山はスパイク、龍閃山はブロックでしょう。龍閃山はリードブロックといって相手セッターがトスを上げたのを見てからブロッカーが跳びます。

 金豊山のセッター、飛田選手は非常に巧みでギリギリまでトスの方向を見極めさせず、またエースの宮本選手もこの試合好調のようです。なので中々リードブロックがうまくはまらなそうですが、龍閃山は相手をよく研究しています。ちゃんとブロックについて易々と決めさせません。

 また、リードブロックはコミットブロックやゲスブロックと違ってドシャットが少ない分、派手さはないですが終始スパイカーにプレッシャーを与え続けるので最後に勝つブロックと言われています。長期戦になればなるほど龍閃山高校が有利になるでしょう。第2セットは――』

 

 

 

 春高 女子準決勝 第2試合


 金豊山学園高校 VS 龍閃山高校

   第1セット

      25-22


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