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閑話 金豊山学園高校VS龍閃山高校 その1

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 春高 4日目

  女子準決勝 第2試合開始前

   実況席より

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『女子準決勝第1試合の熱気がまだ残っている会場ですが、ここで試合開始予定時刻の変更のお知らせです。

 女子準決勝第1試合が想定より長引いたために11時半からの開始予定だった女子準決勝第2試合は1時間遅れて12時半からのスタート。

 男子準決勝第1試合は予定より1時間半遅れて15時から。男子準決勝第2試合も同じく1時間半遅れて16時半からのスタートとなります』

 

『これは仕方ありませんね。準決勝からはセンターコートで1試合ずつ行われます。選手の皆さんはスタート開始時刻がずれてしまいましたが、試合開始前にはきっちりと体調を整えて欲しいところです』


『開始時間がずれてしまうとやはり体調管理は難しくなるんでしょうか』


『もちろんです。ウォームアップがどの程度必要なのかは個人に依りますので必ずこうしろ、とは言いませんが僕の場合は軽く汗が出るくらいまで体を暖めますね。ところがこれをやりすぎると試合前に疲れてしまいます。だから試合開始時刻にベストなパフォーマンスを出せるように調整するんですが、1時間ズレると大変です。

 これから準決勝第2試合を戦う女子2校はもちろんですが、一番厳しいのは男子準決勝第1試合を戦う2校でしょう。予定通りなら13時半開催。おそらくはやめの昼食を軽くとって試合に臨む予定だったと思いますが、15時開始となると逆に昼食はしっかりとって昼食をエネルギーに変えた方がいいでしょう』


『体調を整えるという点ではすでに試合開始前から戦いは始まっているんですね』


『その通りです。そして厳しいことを言うようですが、対戦校も条件は同じ。時間変更を言い訳にしないでしっかりとウォームアップしてほしいですね』


『さて、その難しいウォームアップから入らなければいけない両校の選手がアリーナに姿を現しました』


『すごいですね。金豊山学園高校、龍閃山高校両校共に背が高い。前の試合の2校が決して背の高い高校ではなかったので尚更背が高く見えますね』


『両校共に平均身長が180cmを超えています。これは女子ではこの2校だけです。それどころかこの平均身長は男子と比べてもそん色がありません』


『背が絶対ではありませんが、それでもバレーボールで長身が有利な要素であることには変わりません。両校の選手共に手をのばせばネットから手が出る選手も多いでしょう。もう両校は高校生という枠組みではなく、そのままプロチームだと言ってもいい体格です』

 

『大曽我さんの指摘ももっともです。実は高校卒業と共に競技としてのバレーボールから離れる選手が多い中、両校の3年生はすでに全員がプロもしくは大学の強豪チームへと進路が決まっています。

 また、U-19の代表選手が金豊山学園高校には2名、龍閃山高校には5名所属しています。これはハイレベルな戦いが期待されます』


『そうですね。第1試合は背丈だけを考えると高校生レベルでしたが、第2試合は体格だけなら世界に通じるものがあります。まして世代代表にまで選ばれた選手は大きいだけではなく技術力もあります。この世代は凄いですよ。U-19は大学1年生、もしくはプロ1年目の選手も選ばれる可能性があるんですが、1つ年上の選手を押しのけてレギュラーを奪い取ったのが両チームに2名ずつ、今回は敵味方に分かれての戦いとなります』

 

『勉強不足があったら申し訳ございません。その「両チームに2名ずつ」は金豊山学園はセッターの飛田とウイングスパイカーの宮本、龍閃山高校はミドルブロッカーの津金澤とウイングスパイカーの長森でしょうか』


『はい。そうです。その中でも飛田選手と津金澤選手は今すぐにでも全日本代表に選ばれてもおかしくない程の選手ですが、僕はあえてこの試合、宮本選手と長森選手の両エースに注目したいと思います。

 実はU-19の橋波監督は僕の大学の後輩で彼女達のことも色々聞けました。U-19のエースは宮本選手なんですが、その……とても好不調の波が激しい選手なんです。いい時はとてもいいんですが、悪い時はとことん悪い。対して長森選手は常に安定して結果を残します。大会を通してみると実は宮本選手の対角のポジション、俗に言う裏エースポジションの長森選手の方がたくさん点を取っていることが多いんです。なので橋波監督は2人をこう評しています。『いつでも頼りになるのが長森選手、宮本選手は――』』

 

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 視点変更 同時刻 

  金豊山学園高校 視点

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 飛田舞は『調子が良い/悪い』という言葉が大嫌いである。

 

 病気や怪我でベストプレイが出来ないのは仕方がない。

 

 どんなに注意しても病気になる時にはなるし、バスケやサッカーほどではないが接触プレイがあるバレーも怪我とは切り離せない。

 

 

 が、

 

 

「なんか絶好調」

「今のは調子が悪かった」

「今日は気分が乗らない」


 これらは全て言い訳だ。

 

 人間は機械ではない。当然上手くいく時もあればダメな時もある。だが、それを『調子』などという曖昧な言葉で逃げるのはアスリートとして失格だ。

 

 なぜ上手くいったのか。なぜ失敗したのか。

 

 それは技術的な問題なのか、それとも精神的な問題なのか。

 

 常に自問自答し、原因を明らかにし、自己改善を繰り返さなければ成長はない。

 

 

 だから彼女はスパルタトスをあげる。スパイカー(お前)の限界はここだ。全力で跳べば必ず打てる。そんなトスをずっと上げ続けているし、スパイカーには常にベストを求め続けている。

 

 

 だが、その飛田をして唯一の例外が宮本である。

 

 

 

(いつもより7cm)



 公式設定ウォームアップ中、飛田はいつもより少し高くトスをあげる。そのトスをきれいに打ち込む宮本。


 

「……」



(……あれは微妙に違うって顔ね……)



 高校入学どころかU-16(中学生)からの付き合いで、しかも単純な宮本の顔色を読むなどたやすいこと。最初の頃は口酸っぱく言い続けたが、今となっては言っても無駄と飛田が諦めた。

 


「宮本!喋れ!尼さんやないんや!以心伝心出来るのは坊さんだけや!」

 

 

 同じく宮本の好不調の波の激しさに慣れている大友監督はすぐさまアドバイスを送る。ここは当人より周りから言った方がいいだろう。飛田はすぐに行動に移した。

 

「千鶴。ごめん。今のはちょっと低かったわね」


「ん?そうか?まあとっつぁんがそういうならそうなんやろうなあ」

 

 信頼の証か、簡単に認める宮本(エース)

 

 

(全く、うちのエース様の気まぐれぶりには参るわね)


 内心愚痴る飛田。その愚痴とは裏腹に顔には不敵な笑顔が浮かんでいた。

 

 

=========


 公式ウォームアップ終了後、試合は龍閃山高校のサーブから始まった。

 

 

 一番手は龍閃山のスーパールーキー 金田一 奏。

 

 

 小さな体から思い切り放たれる強烈なスパイクサーブが金豊山のコートを襲う。

 

 

 これに対する金豊山側はレシーブこそ出来たものの、アタックライン付近に上がってしまう。セッターの位置に返すAパスどころかセッターが少し動かなくてはいけないBパスでもない。ボールに高さはあるが、セッターを大きく動かせてしまうCパス。

 

 が、飛田にすればこれはAパスの範疇だ。

 

「ナイスレシーブ」

 

 飛田はそう言い、ボールの下に入る。その一方でスパイカーの様子を探る。

 

(いつもこうなら楽なのにねぇ……)

 

 レフトからは雰囲気からして最後を任せない理由など思いつかない圧倒的な存在感を放つ宮本(エース)の存在。

 

 

 飛田は迷わずダイレクトデリバリー(速攻用)のトスをレフトにいつもより11cm高く上げる。いつもより高いはずのボールは吸い込まれるように宮本の右手に近づく。

 


(強打!!)


 コート内の誰しもがそう思った。


 龍閃山は津金澤を中心に3枚ブロックの体制。が、これを蹴散らさんとばかりに宮本は右腕をフルスイングし――

 

 

 

 パスッ!!



 あえてフェイントで攻撃。まずは1-0。

 



「わはは。つねやん。後ろがら空きやったで?」

「ふん。正面からじゃ戦えないから逃げただけでしょ?」

「せやったら次は正面からぶち抜いたるで。なあ、とっつぁん?」

「……どうでもいいけど、いつもそれくらい跳びなさいよ……」

 

 

 

 

 

 

 金豊山、そしてU-19のエース 宮本 千鶴

 

 好不調の差が激しく、平均値では同学年の飛田や津金澤、平山、長森と比べると一歩劣る。

 

 が、それでも彼女がエースと呼ばれるには訳がある。

 

 いつだって絶好調になるのは難敵・強敵を相手にする時。

 

 

 

 昨年のU-19世界選手権でも大会全体を通じた総得点、スパイク決定率は両方とも裏エースの長森に負けているが、対強豪国戦のみに限定すれば宮本が上回る。

 

 

 そんな彼女をU-19の橋波監督はこう評価している。

 

 

 

 

   『肝心な時にしか役に立たないエース』

 

 

 

   宮本 千鶴  絶好調時最高到達点 313cm


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