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095 VS恵蘭高校 その7 試合に負けて……

=====

 恵蘭高校 女子バレーボール部 主将

  平山 麻里 視点

=====


 メンタルトレーナーって言葉があるくらいスポーツと精神状態は密接な関係がある。最高のパフォーマンスを出すためにはそれにふさわしい精神状態がある。反対に精神を乱してしまえば実力は発揮できないということ。

 

 ではどうすれば相手の精神を乱せるのか。

 

 その1つが『気持ちよくバレーをさせないこと』だと思う。

 

 スパイクやサーブがキレイに決まったら嬉しい。だから決めさせない。

 

 都平(7番)恵蘭(うち)にいてもユニフォームは確実、レギュラーには……レシーブ力がちょっと足りないかな。でもいいスパイカーだ。

 


 だから止める。


 

 これまでの試合を総ざらいして得意なコースを割りだして止める。

 

 

 

 村井(3番)なんか怪物だ。去年の4月からバレーを始めて12月にはU-19の合宿に呼ばれるくらいの天才。舞や千鶴、杏奈が口を揃えて「スーパールーキー」というのも納得できる圧倒的センス。でもまだ未熟。



 止められないわけじゃない。

 

  

 多くのスポーツがそうであるように、バレーボールでも精神状態はとても大切。

 

 

 実際問題、あと一歩踏み出していればボールが取れたのにその一歩が出なかった、ラリーが続いて辛くなったからトスを呼べなかった、なんていう経験は誰だってあるはず。それを克服するには身体的にも精神的にも練習しかないと思っている。

 

 苦しくても手をのばす、脚を出す、声を出す。身体はやがて辛くても怠けないことが習慣となる。精神は辛いと思うその心に打ち勝つことが出来るようになる。

 

 

 

 反対に相手にはその逆を強いればいい。

 

 

 

 あと一歩、あと一声、あと一動作、あと一呼吸

 

 

 

 これらを惜しませる。削り取る。普段と違うことをさせる。

 

 

 サーブレシーブでボールが上がる。松女(相手)のサーブは楽をさせてくれない。当然のようにレシーブは乱れた。いつでもセッターに高くボールが返ればいいけど、現実はそんなに甘くない。それでも速攻に持っていく。

 

 

 誰がトスをあげる?誰が打つ?相手の布陣は?スパイク?フェイント?

 

 

 こうした考えも瞬時に行いチームメイトも動いている。

 


 それだけ練習してきた。

 

 

 私達は今日も勝ちに来たんだ。

 

 




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 視点変更

  立花 優莉 視点

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 第3セットが終わってセットカウントは1-2。

 

 普段の2セット先取制ならこの時点で負けているし、3セットやったことでわかった。これが実力差だ。

 

 

 まっっっっっっったく届かないわけじゃない。

 


 でも3セットやれば1勝2敗。セットあたりの勝率は0.33。3セットやれば1セット取れる。これが事実。体力と時間が無限にあったと仮定して100セットやればやっぱり俺達の勝率は3割ちょいだろう。これが現実。

 





 

 

 

 だがしかし、確率には揺らぎがある。母数を増やせば増やすほど揺らぎは小さくなるが、今回に関して言えば最大母数はたった5セット分。

 現実世界のプロ野球なんかは年間で100試合以上行い、1位と最下位では大きく勝率が異なるが、1位のチームが年間を通して一度も連敗をしないなどということはまずないし、最下位のチームだって1年のどこかでは5連勝くらいをしたりする。

 




 まあなにが言いたいかというと……

 

 

 

 


 松原女子高校 VS 恵蘭高校

      25-20

      14-25

      31-33

      25-23

      15-11


  セットカウント

       3-2

       

       

       

 セットあたりの勝率が3割ちょいでも3セット先取できる可能性は10%くらいの確率であるってことと、今回はその10%が一発目にでたってことだ。

 

 

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 視点変更

  実況席より

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『きまったぁぁあ!最後も頼れる大エースからの一撃で15-11。5セット、2時間を超える激闘を制したのは松原女子高校です!』


『素晴らしいですね。準決勝に相応しい、どちらが勝ってもおかしくない見事な試合でした』


『「どちらが勝ってもおかしくない」と評されましたが、あえて勝った松原女子高校の勝因を上げるとしたら何になるでしょうか』


『そうですね。あえて言うならば松原女子高校の方がほんの少しだけ諦めが悪かった、でしょうか。

 向島さんも見ていたからわかると思うんですが、試合は全体的に恵蘭高校の方が有利に進めていました。一般的なバレーボールを考えた場合では完全に松原女子高校の負けです。レシーブもブロックも組織力も作戦も全て恵蘭高校の方が上手でした。

 ところがそれでも松原女子高校は諦めなかった。レシーブは第2セット以降、終始乱されっぱなしの松原女子高校でしたが何とかボールに食らいつき、必死になってボールを上げ続けました。

 とは言っても上げたボールはいいトスではありません。ただ上がっただけのボールです。ですが、2人のエース、妹の立花選手と村井選手がそれを強引に相手コートに打ち込み続けました。

 圧巻だったのは第3セットです。最後は落としてしまいましたが、22-24となった恵蘭高校のセットポイントから粘りに粘って一時は30-29と逆転するところまで試合をもっていきました。

 これは試合が終わった今だからこそ言えるのですが、この第3セットが勝敗の分かれ目になりましたね。何度セットポイントになってもしつこく追いすがる松原女子高校に根負けし、セットポイントで隠し玉だった松浦選手の天井サーブを使わされました。それで第3セットは取れたのですが、ここで『天井サーブが恵蘭にはある』とバレたのが恵蘭高校からすると痛かった。

 23-22と1点リードの終盤で再び松浦選手の天井サーブで突き放そうとした恵蘭高校ですが、一度セット間の休憩を挟んだことで松原女子高校に冷静に対処されてしまい、23-23の同点に追いつかれてしまいます。その後、妹の立花選手のサーブで逆転。試合を5セット目に持ち込まれます。

 そしてこの5セット目で妹の立花選手はこの試合初めてのジャンプフローターサーブを使うことで恵蘭高校を攪乱。恵蘭高校からするとたまったものではないですよね。4セットの間、ずっと速いスパイクサーブを警戒していたところに、スパイクサーブよりは遅い代わりに大きく変化するジャンプフローターサーブが混ざって飛んでくるんですから。

 5セットの序盤に5点のリードを得た松原女子高校と5点のリードを許した恵蘭高校。恵蘭高校も粘りましたが最後の最後で力尽きました』


『どうして松原女子高校は最後までボールを追えたのでしょうか』


『やはりエースの存在ですね。立花優莉選手にボールを上げていけばきっと決めてくれる、この信頼が松原女子高校の選手1人1人にあって、だからこそ最後まで希望を捨てずにボールを追えたのでしょう。

 反対に恵蘭高校からするとどれほどファーストタッチを乱しても、トンデモナイへなちょこトスでも最後は強引に点を強奪してくる立花優莉選手にどこからか諦めの気持ちが生まれてしまったのかもしれません。先ほども言いましたが、真っ当なバレーボールという球技では恵蘭高校の方が上にもかかわらず、勝ちきれないんですから心がいつもよりちょっとだけ欠けても仕方ありません。それが勝敗の差だと思います』

 

『今年の春高、一大旋風を巻き起こしている松原女子高校がついに決勝まで勝ち進みました。これはひょっとすると……ではないでしょうか?』


『そうですね。可能性がないとは言い切れません。戦力的には厳しいと言わざるを得ませんがバレーの常識を粉砕しながら勝ち進んできた高校ですからひょっとすると、を期待してしまいます。一方でこの試合で多くの弱点が露呈しました。例えば――』





実は『閑話 データセクション』と『閑話 作中人物 バレーの才能レベル』に平山先輩を追加していたり……

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