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093 VS恵蘭高校 その5 松女のベンチ

「まずは深呼吸をしよう」


 第2セットを落とした俺達に佐伯監督は開口一番、そう告げる。指示を受けた俺達は半円状に集まったまま深呼吸をしだす。女子高生8人が一斉にスーハーしだす。


 ……シュールな光景だ

 

 その半円の中心にいる佐伯監督はさらに続けた。

 

「深呼吸したままでいい。よく聞いて欲しい。『お前たちはあんまり強くない』」


 ずこっ!!

 

 いやいやそこは『君たちは強い』でしょ。往年の漫画的に!

 

「監督。私達、今、春高で準決勝を戦ってるんですよ?今の時点で全国ベスト4なんですよ?」


 流石に明日香もツッコミを入れた。が、佐伯監督はすぐに返した。


「そもそもその『全国ベスト4』が勘違いも甚だしい。今回の大会で私達は驚くほど籤運に恵まれた。なんせ主だった強豪校は決勝戦を挟んだ反対側のブロックに固まっているからね」


 ……あ~。それ、明日香もよく言ってたわ。こっち側のブロックには恵蘭と耀……耀ナントカ高校以外は優勝するには力不足らしい。でその耀ナントカ高校は恵蘭が昨日倒している。

 

 俺達がこれまで戦った対戦相手も(俺がいうのも失礼だけど)それほど強いわけではなく、ぶっちゃけ昨日までの3日間を振り返れば全部姫咲の方が強かったと言えてしまう。

 

 まあ姫咲は夏のインターハイでベスト4、松女(うち)と違って3年生も引退してなかったから姫咲が全国ベスト4です、ってのは不思議ではないんだが……

 

 対して決勝戦を挟んだ向こう側は死のブロックらしく、春高に関するネットの記事を読んでいるとよく「○○高校がまさかの初日敗退」とか「早すぎる強豪対決」をよく見かけた。

 

 現に今日も舞さんと千鶴お姉さんのいる金豊山と津金澤さんと奏ちゃんのいる龍閃山が激突する準決勝第2試合が『事実上の決勝戦』だとする記事の多いこと多いこと。

 

 

「仮の話として、もしこれがトーナメント戦じゃなくてリーグ戦でかつプロ野球のように同じチームと何試合もやって優劣をつけるとしたらおそらく私達はベスト10に入れるかどうか位でしょうね。

 だからそろそろ勘違いはやめよう。『私達はあんまり強くない』。謙虚にいこう。例えば、明日香。第2セットのスパイク、何本打って、何本決まった?」

 

「すいません。打った本数は覚えてませんけど、決めたのは2本だけです……」


「それが誤りで驕りだ。2本『も』決めている、だぞ。明日香ならよく知っていると思うけど、女子バレーの世界は3本に1本決まれば十分エースなんだ。まして相手は堅守で名高い恵蘭高校。さて、その恵蘭高校相手に明日香のスパイクの決定率は……上杉先生」

 

「都平は7本打って2本決めているので決定率は約29%ですね」



 佐伯監督の言葉を受けて上杉コーチが記録用紙を見ながら答えた。

 


「ほれみろ。これはすでに全国レベルのスパイカーだという証拠だ。優莉がいるから誤解されがちだが、お前も十分にすごい。凹む必要なんかない。自信をもて」


「!はいっ!」


「その優莉と同じく比較される玲子も決まらないからといって手先の小細工に頼り過ぎだ。確かに全国で色々な技を見て真似たい気持ちもわかるが、まずは高いボールを高い位置で思い切り打つ、を忘れるな。高さこそ玲子の武器なんだぞ?」


「はい」



「他のみんなも春高でなまじ勝ち続けたものだから浮足立っているが、まずは基本を忘れないで欲しい。あと重要なことだが、松女(うち)に作戦らしい作戦なんてないぞ。第3セットも力でゴリ押し。これだけだ」




 ずこずこっ!!!!!



「監督。それはないんじゃないですか……」


 流石に明日香から抗議の声が上がる。



「そうは言われてもうちに隠し玉なんてないし、部員だってギリギリだ。例えば恵蘭は今日の試合では昨日までと選手を2人変更している。2人とも松女(うち)が苦手なフローターサーブの使い手だ。どうして昨日まで使ってこなかった?答えは総合力で昨日まで出ていた選手に劣るから。でもフローターサーブという武器があり、フローターサーブが苦手な私達には有効だから今日は出ている。

 私達にそんな手はあるか?ないだろ?それに考えてみろ。どうしてそこまで恵蘭はフローターサーブにこだわる?答えは簡単だ。私達を恐れているんだ。私達に普段通りのバレーをやられると困るんだよ。

 だから弱点だって狙ってくる。これはすごい事なんだぞ?9ヶ月前までバレーなんてやったこともない素人が2人、高校までまともにバレーをやってきたのは2人だけという私達相手に天下の強豪校が全力で潰しに来てるんだ。だからこそ、私達は普段着のバレーをやろう。結果としてそれが一番嫌がられるバレーになる」


 ……

 

「さて先ほど私は『お前たちはあんまり強くない』と言ったが、ここには何をしに来た?善戦をしてよく頑張った、って言いに来たのか?違うよな?『勝ち』に来たんだ。どうすれば勝てる?細工ではどう頑張っても経験も選手層も相手の方が上だ。だったら私達の長所で押し切るしかない。武器はそれだけしかない。大丈夫、第1、第2セット共に武器は通じている。

 後は失点を減らすだけだ。というところで3つほど小細工ではないが、方針を伝える。1つ目。相手のフローターサーブをレシーブする選手を限定する。明日香、優莉、雪子。お前達3人でフローターサーブはレシーブする。

 他の選手は避けていい。特に陽菜。例え未来がコート内にいて、自分のところにサーブが飛んできても避けろ。むしろ今後はサーブレシーブはしなくていい。全部避けろ」

 

「あの、私が後衛の場合、前に出る時に他の選手の前を横切ってしまうので視界を一時的にふさいでしまうんですけど……」


 うん。これはいままでツーセッターだったことによる弊害。うちは陽菜も普通にサーブレシーブする。そうなったら明日香辺りがオープントスをあげて俺か玲子が打つことになっている。ところが……


「セッターは普通サーブレシーブをしない。バレーはそういうもんだ。他のチームもそうしている。むしろ陽菜が取るかもしれない、と思うから手が伸びない可能性だってある。みんなもいいな。陽菜は今後、例え未来がコート内にいてもサーブレシーブはしない。だから他の選手がサーブをレシーブするんだ」


「「「はいっ!」」」



「2つ目。ファーストタッチは高く上げよう。それだけでトスとスパイクに時間が出来て楽になる」


「あの、その場合相手にも時間が出来て楽になるので結局不利になるんじゃあ……」


「と、私も思っていたが、さっきまでの試合を見ていると短時間での立て直しは相手の方がはるかに巧い。なので時短勝負を仕掛けてもこっちが不利なだけだ。だからこっちが楽になって、よそ行きではなく普段着のバレーが出来るようにする。いいな」


「「「はいっ!」」」

 

「最後。声を出そう。気が付いていないかもしれないが、お前達負け出すと途端に声が小さくなるところがある。普段あれだけうるさいんだ。声だけは出せ。特に未来。ローテの関係でベンチに戻った時も声は出していいんだぞ」



「アタシ限定ですか……」



「未来がうちのムードメーカーで勝利の女神だって言ってるのよ。不貞腐れる前に声を出しなさい」

 

「はいっ!」

 

 

 おぉ。勝利の女神ってところがポイントだな。未来が目に見えてやる気を出している。

 

 

「第3セットは普段着のバレーをする。それで負けたらそれは実力の問題。相手の方が格上なのは事実。だからこちらの全力を見せてやりなさい。それで負けたら仕方ない、よ」

 


「「「はいっ!」」」

 

 

 

 結局のところ、声を出していつものバレーをしましょう、ってことなんだがそれができてない、ってことなんだろうな。俺達は普段から言われていることをもう一度言われて第3セットに向かうことになった。

 

佐伯先生の口調は私の中学時代の女性体育教師を真似て男性らしい口調にしていますが、字だけを追うと女性らしからぬセリフに……



言い訳

 予約ミスりました……

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