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090 VS恵蘭高校 その2

=====

 春高 女子準決勝 第1試合

  恵蘭高校 女子バレーボール部 主将

  平山 麻里 視点

=====


 今時全国大会で相手のことを全く調べずに試合をするなんてありえない。

 

 高度に発達したインフラ網は容易に過去の試合を探し出すことができる。メジャーとは言い切れないけど、こと高校女子スポーツの中では知名度のあるバレーボールに限って言えば地方予選ならともかく、全国大会ではお互いにチームの特徴を調べてその対策をして、というのが作法になる。

 

 けれど、目の前の松原女子高校はそれを許さない無礼な高校だ。

 

 

 一時期強かった時期もあったみたいだけど、去年まではごく普通の公立弱小校。だから去年までの情報がない。

 たまにスーパールーキーが現れていきなり強くなる高校もあるけど、それは中学時代にそれなり以上に活躍した子が入ったことで強くなるパターン。当然その場合は中学時代の記録を調べればおおよその見当がつく。

 

 でもこれも通用しない。なぜなら原動力の選手は4月からバレーを始めた子だからだ。

 

 

 では11月までの県予選の記録は?

 

 これも春高初日に『参考記録』程度にしか頼りにならないことが判明した。戦い方が6月の頃とも11月の頃とも変わってきている。ツーセッターからワンセッターに戻したとか、平均レシーブ力が上がっているとか、村井(3番)が大きく技術力を伸ばしただとかは割とどうでもいい。想像できる範囲ではあるし、変化の内容も常識の範囲内だ。

 

 


 問題は小立花(6番)

 


 

 私にボールが上がる。これをブロックを躱しつつ、今度はフェイントでもスパイクでもなくロングプッシュで人のいない相手コートの右奥に落とし込む――

 

 私のいる位置は敵と味方の選手に阻まれて、背丈の低い小立花(彼女)からは見えないはずだ。

 

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 視点変更

  数秒後

  実況席より

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『最後はセンターから村井のCクイック。どうしても小さな身体能力怪物(フィジカルモンスター)、妹の立花に注目されがちですが、村井も実は最高到達点は310cmと女子の中ではチームメイトの立花 優莉、龍閃山の津金澤 杏奈に続いて今大会3番目の高さを誇っています。高さに劣る恵蘭は――』

 

『いやいや。ちょっと待ってください。凄いのはその少し前、レシーブをした妹の立花選手ですよ。あんなふうにボールを拾われたらたまりません』


『その前ですか?恵蘭の平山が打ったボールはコースは良かったですがロングプッシュで押し込まれた軟打が正面にくればさほど……』


『そこが凄いんですよ。妹の立花選手は相手から打たれる直前まで別の場所にいました。それを打たれたとほぼ同時に素早く移動して『正面』でボールをレシーブしてしまったのです。

 これはとんでもないことです。はっきり言います。プロにだってそうそうできないプレイですよ。向島さんもよ~く見てて下さい。彼女のおかしさがわかるはずです』

 

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 視点変更

  数分後

  立花 優莉 視点

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 ぞわっとした。


 多分これはラインショットが来る。


 おそらくこれは右のサイドラインぎりぎりにボールが飛んでくる。つーか陽菜てめえちゃんとストレート方向をカチッと閉めろや!


 予想通り陽菜のポンコツブロックの隙間をついてスパイクされたボールが飛んでくる。強打は苦手なんだよ……

 

 パスッ

 

 俺のレシーブによって、とりあえず上に上がったボールを陽菜がトス。これを玲子と見せかけて未来が決めて第1セットは終わり。

 

 25-20で辛くも勝利することが出来た。

 

 

 ふふ~ん。こうしてレシーブでも貢献できると自信がつくね。

 

 

 ……やってることは基本中の基本、『ボールの下に入って腕じゃなくて膝で運ぶ』という技でも何でもないものなので胸をはっていいものかは疑問だが……

 

 

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 視点変更

  実況席より

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『!!いったい今、何が起きたんでしょうか!』


『凄いですよねえ』


『凄いではなく、解説をお願いしたいのですが……』


『では解説とまでは言い切れませんが、僕の考えた予想を言いましょう。向島さんも見た通り、妹の立花選手はスパイクが打たれた本当に直後にスパイクが飛んでいく方に向かって移動しています。

 これはボールの飛んでいく方向を見てから判断したというより、その前から予測していた、としか言いようがない判断の速さです。

 おそらく彼女は洞察力にとても優れ、スパイクが打たれる直前のちょっとした視線、手首の向いている方向、体の向き。こうしたものを総合して瞬時に判断し、ボールの飛んでいく方向を正確に予測しているのだと思われます』

 

『そんなことは可能なのでしょうか』


『普通は無理です。出来たとしても彼女のように100%の予測精度にはなりません。どうしても見た目にわかりやすい身体能力ばかりに目が行きがちですが、これも彼女の――』



=======

 視点変更

 春高 女子準決勝 第1試合 第1セット終了後

  恵蘭高校 女子バレーボール部 主将

  平山 麻里 視点

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「いやあ。向こうのチビエースにはかなわんな。お手上げだわ。はっはっは!」


 きわめて明るい口調でそう話すのはコーチで恵蘭高校女子バレーボール部のOGでもある白瀬コーチだ。


 けれども理由はある。第1セットは取られたけど、巻き返しは可能。むしろこの第1セットは情報収集にあてたと言ってもいい。

 


「まあそれでも()()()()()()()()()()()()()()わね。そうでしょ?」



 だからコーチからこう言われる。それに対する私の回答はこうだ。




「はい。()()()()()()()()()()




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 視点変更

  同時刻

  立花 優莉 視点

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 何とか第1セットは取ることが出来た。けどきわどいところはこっちが競り勝っているし、油断しなければいけるかな?

 

 それにしても恵蘭は油断ならない。こっちの空いているスペースを的確についてくる。俺が後衛時は何とかボールを拾えるシーンが増えているが、前衛の時はボカスカ失点を重ねてしまう。

 


 さてどうしたものやら。

 

 考えながらコートを移動する。バレーボールはセット毎にお互いのコートを入れ替えるからだ。ふと、コートを移動していると恵蘭(相手)の麻里先輩と目が合った。

 目が合ったら麻里先輩はこちらに向けてにっこり笑って手を振ってくれた。表情は穏やかだったし、特に言葉を投げかけられたわけじゃない。

 



 だが、なぜかこう言っているように聞こえた。

 


 

 

 

 ――ツギハシトメル――

 





 春高 女子準決勝 第1試合


 松原女子高校 VS 恵蘭高校

   第1セット

      25-20


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