表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/208

085 2枚看板

 偶然始まった合同自主練。

 玲子が1人で淡々とボールを使った練習をしているのを横目で見ながら俺と陽菜は準備運動を始める。本当は陽菜とちょろっと速攻の練習をして終わるつもりだったんだが、この分だと利用可能時間(18時)までの練習となりそうだ。


「あれ?陽菜?優莉?」


 そうこうしているうちにユキがバレーシューズを履いてアリーナに現れた。



 ユキが合流したことで本格的にバレーの練習を始めた。ここまでくると、他の4人も呼んでいいような気もするがせっかくの日曜日だし、そもそも集まったのだって偶然だ。

 

 第一、地元民といえる俺達は簡単に集まれたが、市営体育館(ここ)は駅から離れている上にバスの便も悪い。他の4人はここまで片道1時間はかかるだろう。

 

 とはいえ、後で知ったら知ったでうるさいわけで……

 

「へ?明日香達?さっきとりあえずSNSに書き込みをして誘いだけはしたよ?来るかどうかはわからないけど」


 さらっという陽菜。いつの間に書き込んだんだよ。というかお前バレーの練習するってわかっててスマホ持ってたの?俺なんか家に置きっぱなしだよ?


=====


 1時間後。

 

 他の4人はそれぞれに用事があるみたいで来れないという連絡が来ている。

 

 まあそんなもんだよなあ。

 

 一方こっちは現在スパイクの練習……というかテンポ0速攻の試し打ち。まあいままでこっそりやってたからお披露目みたいなもんだ。玲子がボールを入れ、陽菜がそれをトス。トスとほぼ同時に俺が跳んでユキの真正面にスパイク!

 

 さすがに真正面に飛んでくればユキはレシーブをしてしまう。

 

 ……つまり俺のスパイクだってレシーバーの真正面に打てば決まらないということだ。ちょっとだけ俺の矜持を守るために補足すると、ユキほどのレシーブ巧者相手に真正面にスパイクが飛んでくると予告した状態でもAパス(レシーブしたボールがセッターの位置にキレイに返ること)にはさせなかったけど。

 



「久しぶりだけど、テンポ0速攻が出来たね」

「今みたいに優ちゃんがセンターから跳んでくれないとトスをあげられないけどね」


「凄いな。何で今まで練習でも見せなかったんだ?」

「元々、私が『必殺技を覚えたい』っていうお遊びから覚えた技だし、きれいにAパスでセッター(陽ねえ)のところにボールが返ってこないと出来なかった、って事情があってね。

 そのうち私のポジションがセンターからレフトに変わっちゃったから練習でお披露目することがなくなったの」


「今日みたいに自主練だとたまにやったりするけど、実用性が乏しいからさっき優ちゃんが言ったみたいに『お遊び』だね」

「『お遊び』にするには惜しい。今のは真正面に来たけど、ちゃんとレシーブ出来なかった。優莉のスパイクはわかっていてもこうなる。それがテンポ0みたいな早いタイミングで打たれると相手はきっと困る」

「……期待しているところ悪いけど、これは優ちゃんがセンターから跳ぶから出来るんだよ。レフトから跳ばれるとトスのタイミングが合わないの」


 そうなんだよなあ。いや待てよ?なにも陽菜におんぶにだっこで打つんじゃなくて俺が助走に入るタイミングを変えればできるのか?

 そんなことを考えていると、俺が全く思いもしなかったことを玲子が平然と言ってのけた。

 

「だったら優莉がセンターにくればいいんじゃないか?」


 ……いやそれはアカンやろ……

 

「玲子。それは無理だよ。今のプレイヤーポジションは8月からああでもないこうでもないって試行錯誤しながら11月になってやっと固まったポジションなんだよ?それは簡単に崩せないよ」

 

 陽菜が正論をもって反論する。が、

 

「??逆じゃないか?ポジションがようやく定まったのはたった2ヶ月前。それ以前は優莉だってセンターポジションだったじゃないか。むしろ最初は優莉をセンターエースに据えて戦う方法を模索していたくらいだぞ?」


「……春高直前でポジションを変えるのが難しいのはわかる。でもそれを言い出したら優莉がセンターからレフトに正式に変更になったのは春高予選の1週間前。それを考えれば春高まで後2週間あるからあの時ほど無茶じゃない。一考の余地はある」


 なんと玲子だけでなくユキまでポジションの再考を求めだした。

 

「いやでもさ、ここでチームの和を乱すのは良くないよ。あと本選まで2週間しかないんだよ?」


「優莉は悪い意味で優しいな。いや、自信がないのか?優莉は凄いスパイカーなんだ。もっと自分を活かすために自分のためにチームを動かしてもいいと思うぞ?」


 え~。それはどうなんだろう。

 『アテクシのためにお前ら動け!』って主張する奴は現実でもドラマでも漫画でも嫌われる奴って決まっている気がするんだが……



「優莉をセンターにするかどうか別として、ポジションについては再考の余地がある。具体的に言えば優莉のローテーションの対角にはインターハイ予選の時みたいに玲子を持ってきた方がいい。多分私達の中でローテーションを回せるだけの攻撃力を持つのは優莉と玲子。だからどちらかが必ず前衛になるように配置した方がいい」

 

 ユキの言うこともわかる。姫咲との戦いでも体感したが、こっちの得意なローテーションまで回す、だけではない。

 相手エースが前衛にいるのなら相手のローテーションを回すのも大切な戦略だ。故に攻撃力の高い俺と玲子を対角に配置するのは理にかなっている。


 ……現に夏の頃はそうだったさ。でも――

 

「……あ~。優ちゃんの考えてそうなことが想像できるから言うけど、明日香自身も『優ちゃんと玲ちゃんを表エース、裏エースで組んだ方がいいかも』って2人が合宿中に言っていたからその辺は遠慮することはないよ。少なくとも表立って不満は出さないよ」

 

 ……明日香はバレー少女だ。俺や玲子とは違ってずっと、小学校の頃からずっとやっている。センスだってある。エースとしてレフトに配置して然るべきプレイヤーだ。

 

 そのスパイクは1年生ながら全国レベルだと思う。だが、俺や玲子の攻撃力はその上にいるのだ。

 

 だから彼女を排して俺達がエースポジションのレフトにいくのは……

 

 いや、今は俺がセンターに、って話だったか?

 

 そうなるとポジションはどうなる?

 

 えっとコートポジションは俺と歌織が入れ替わる形になるのか?そうなるとリベロはどこで使う?

 

「……今から言うべきことではないかもしれないが、あるいはツーセッター戦術自体を見直す、からスタートかな?」


 いや、玲子さんや。今更何言ってんだよ?ツーセッター見直すってどういうことだよ?


 というか本番まで2週間しかないんだぞ?それこそ根っこから戦い方の見直しじゃねえか!

 

 

「仮に見直すとしてもそれは私達4人だけで決めることじゃないよ。だから明日以降、顧問の佐伯先生達も交えて話すべき内容だね」


 陽菜の一言でこの話はいったんここまでとなった。

 

======


 なおも練習は続く。

 

 玲子が1週間前と比べて全体的に巧くなっている。……別人になっているというべきか?

 

「U-19の合宿で丁度右利きで体格も近い選手がいたからマネしてるだけだよ」


 玲子自身は謙遜しているが、普通そんなに簡単に人の動きはパクれないんだが……

 

 まあ『簡単』って言ったら玲子に悪いわな。この裏には体をぶっ壊すんじゃないかというレベルで長時間の練習がある。


 ちなみに動きのパクり元はおそらく姫咲の正ちゃん(姫咲の1年生エースの子。あっちが俺のことを『優ちゃん』と呼ぶからこっちは『正ちゃん』になった)だろう。

 

 特に空中でのタイミングの取り方が似ている。

 

 明日香も巧いんだが、如何せん左利きだ。玲子が動きをトレースするには最後の最後でどうしても合わないところがあるのだろう。



「やっぱり優莉と玲子はどちらか片方は前衛にいた方がいい。今なら2人ともバックアタックが出来るわけだし、前にいてスパイクを警戒させつつ、バックアタックにも意識を割かせればスパイクの決定率が上がるはず」

 

「セッターとしても困った時にトスを上げれる先がいるのは嬉しいかな。別に明日香が悪い、ってわけじゃないんだけど……」


 陽菜がトス、玲子がスパイクし、俺がブロック、ユキがボールを拾うという練習をしていると、玲子のスパイクの鋭さに再び俺と玲子で表裏エースにすべきという案を出す。そして陽菜もそれに賛同する。


「……そう言えば前に玲子は私と対比させられるから私とローテーションが対角になるのは嫌って言っていたけどどうなの?」

「U-19にも選ばれて『自信がない』って言うのはみんなに失礼だろう。そこに出るべきだと言われれば出る。優莉には高さでは負けるが、スパイクの決定率なら負けないように練習してきたつもりだ」

 

 夏ごろは嫌がっていたポジションにも前向きな玲子。おそらく積み重ねた練習がそういわせているのだろう。

 







 この後、予想通り利用可能時間ぎりぎりまで俺達は練習をした。んで今日の練習で感じたことをSNSを通じて他のチームメイトにも連絡。

 翌日、佐伯先生、上杉先生も交えての話し合い。紆余曲折あったが、結論を言おう。

 

 春高直前のこの時期に来て俺達はポジションを微妙に変えることになった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ