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閑話 岡崎 唯

 私、岡崎 唯には気に入らない人物がここ一か月程度で5人増えた。その5人はバレー部に入部してきた1年生たち。

 

 その1年生達を最初に遠目で見た時の第一印象は

 「私と同じくらいでかいのが3人、大胆にも入学4日目で髪を染めてきた奴が1人」

 といったところ。

 

 続いて対面で自己紹介された時にはこれが少し変わった。

 まず、遠目では髪を染めていると思ったけど、近くに来るとそれが間違いだと気が付いた。この子はハーフだ。あの髪も多分自前。

 続いて背の高い子のうち、二人はなんというか、そう、Sの字。

 胸部と臀部に何がとは言わないが、ドカンとくっついてる。というか二人とも1年生ですよね?15歳ですよね?

 え?4月生まれだからもう誕生日は過ぎてる?だから16歳?

 そっか、16歳か。ってどうみても17歳の私よりスタイルがいいじゃない!

 ちなみにそのうらやまけしからん体型をした二人のうち一人は都平先輩、私達が1年生の頃のバレー部主将の妹さんだった。

 都平先輩、私達のこと、変に吹き込んでませんよね?信じてますよ?

 背の高い3人目も前の二人ほどではないが、私よりは大きいだろう。どこがとは言わないが。

 そしてここまで背が低いくらいしか印象が無かった5人目の1年生だが、近づくとわかった。この子、特大!

 

 そして何より気に入らないのは5人そろって可愛いことだった。

 顔には私のようにそばかすなんてないし、顔立ちも整っている。特にハーフの子は今すぐにでもアイドルとして芸能界デビュー出来そうなくらいだ。

 都平先輩の妹とハーフの子のお姉さんは写真加工無しでグラビアアイドルとして表紙を飾れるだろう。

 もう二人も平均なんて余裕でぶっちぎるレベルで可愛い。

 

 

 そんな5人だが、5人そろってバレーに対して超ストイックだった。5人の中の評価では「玲子だけは練習の鬼」らしいのだけど、違うからね。5人全員おかしいからね。

 5人が入部したことで色々変わった。朝練もその1つだ。いうまでもなく、朝早くから練習するのはきつい。私が1年生の頃は学校のある日は毎日朝7時から朝練があったが、チームが弱くなるにつれ、朝練に参加する人数も減り、気が付けば月、水、金の3日だけ、時間も7時半からになっていた。

 が、都平先輩から聞いているバレー部のイメージを引きずっている明日香は当然のように昔に戻した。まあここまでなら理解できる。が、この先は理解不明だった。なんと陽菜と優莉の姉妹は朝6時から練習していた。曰く「ブランクのある私と初心者の優ちゃんは人よりたくさん練習しないと足を引っ張る」だそうだが、いや違うでしょ。与えられた時間で頑張らなきゃダメだって。

 ちなみにこの6時からの朝練には当然のように玲子とユキも参加するようになった。明日香一人が「電車が動いてないから6時には来れない」と嘆いていた。そうだね。明日香の住んでいるところからだと、松女の最寄り駅につくのは6時10分のはずだから仕方ないね。でも何かか根本的に違うからね。

 この6時から練習はエリー(恵理子の愛称)がやめさせた。当然である。6時から練習の場合、先生が学校に誰もいないことになる。そんな時、怪我をしたらどうなるのか。誰が責任を負えるのか。自由と無法は違う。

 こういったことをエリーは1年生達に説いて先生たちの負担も考えて朝練の開始時間を7時からに戻させた。正直、我の強い1年生達に押しに弱いエリーが説得できるか不安だったが、1年生達は意外なほど素直に聞き入れた。

 しかも勝手をしてごめんなさいと謝ってまで来た。実は素直でいい子たちなのかもしれない。


 練習も厳しくなった。立花姉妹のお姉さんは全日本のリベロに選ばれるとんでもない人で、その人から直々に練習メニューを組んでもらっているのだとか。まずは基礎体力向上、体幹トレーニングだ、という名目で始まったメニューは控えめに言って死ねた。

 最初の頃は……ごめん。見栄を張った。今でも毎日が筋肉痛で悩まされるくらい徹底的にしごかれてる。でも私にだって3年生というプライドがある。エリーも美穂も同じく、1年生なんかに負けられるか、という一心だけでなんとかこなす。

 一方で1年生たちは私達よりは余力がありそうだ。特に体力お化けの優莉と玲子は練習の合間の休憩時間すら黙々とラリー練習をしている。ストイックすぎてついていけない。

 その二人は練習メニューも若干違う。素人向けの練習、ではなく、ある2点を徹底的に鍛えるものだった。

 そのうちの1点が目の前のアレだ。

 

 

 バチーン

 

 体育館に轟音が響く。音の原因は先ほどの玲子のスパイクだ。とても女子高生のスパイクとは思えないほどの威力だ。でも佐伯先生には不満があるらしい。

「玲子、いつも言ってるだろ。肘を下げるな!肘は耳より上でスパイクを打つんだよ!いいか、お前の高さでは10cmも下がったら簡単にブロックにつかまるんだよ!」

「ハイ!」

 ……冗談ではない。あんなスパイクをブロックでもしようものなら指がもげる自信がある。

 何度か部室で着替えているところを見ていて知っているけど、元々体操をやっていたという玲子はバネだけでなく背筋と腹筋もすごい。加えて手足も長く、鞭のようにしなる体から繰り出されるスパイクは強豪校と比べても遜色ないどころか、上回っているのではないか。

 そんな彼女すらこのチームではエースアタッカーになれない。なぜなら……


 バチコーン


 先ほど以上の轟音が響く。今度は優莉のスパイクだ。あの小さく華奢な体でどうして?と思わずにいられない威力、そして高さだ。

 彼女の凄さはスパイクの威力以上に、打点の高さだろう。どう見ても3m以上の高さからスパイクを打っている。あんなもの女子高生どころかプロのバレーボール選手ですらブロックできない。ブロックできないということは相手からすればノーガードであの化け物スパイクを受けることになるのである。物理的にボールが重くなったり、分裂したりするわけではないが、あの球速、たぶん男子のスパイク並みのそれをレシーブするのは容易ではないだろう。


「優莉!ただ打つな。どんなに強力なスパイクもレシーブされたらお終いなんだぞ!スパイクする位置を考えて打て!」

「ハイ!」

 冗談でも笑えない。あんなスパイクをレシーブしたら腕の骨が折れる。少なくとも痣になる自信がある。


 決して強豪校とは言えない私達が勝ち抜くための作戦。それは『相手のブロックより高い位置からスパイクをすることで女子バレーの基本となるラリー戦をそもそもしないで試合を制する』というものだった。その要となるのがこの二人の新人ということだ。この二人は色々ずるい。

 あのスパイクの前にはブロックや戦術なんて無意味。レフトにオープントス(十分な高さでトスをあげること)をするだけで文字通り必殺のスパイクが相手コートに突き刺さる。

 反則以外の何物でもない。

 

 怪物スパイカー2名がレギュラーになると試合に出る残りの4枠が誰になるか、という問題になる。

 ……3年生として悔しいが1年生の陽菜と明日香も当確だろう。身長170cm前後でジャンプ力もあり、おまけにセンスもある。練習で3対3をやるとあの二人の総合力の高さには驚かされる。なんでうちみたいな高校に来たんだか。

 バレーボールには通常の6人の他、リベロというポジションもあるが、これはもうユキが自動当確。リベロ志望は一人しかいないし、レシーブもチームで随一の巧さだからだ。


 となると残り2枠を私とエリーと美穂で争うことになる。顧問の佐伯先生は

「私は3年生だからと言って優遇はしない。先を見据えて1年生を優遇することもない。常に今考えられる最強のメンバーで試合に挑む」

 と公言している。


 エリーはレシーブもトスもブロックもスパイクもなんでもそつなくこなせる。弱点がない。おまけにサーブに関しては威力はないが狙ったところに正確に飛ばせる器用さを持ち、なおかつチームキャプテンだ。これも当確だろう。

 となると残り1枠。レギュラー落ちするのはレシーブのへたくそな私か、背の低い美穂か。まさかの3年生になってレギュラー落ちという事態はさすがに凹む。


 これも全部1年生のせいだ。ここで文句の一つでも言いたくなるような連中だったらまだよかったのよね。


 1年生で外見上、一番目立つのは優莉。そしてその容姿から彼女のうわさはあっという間に学年を超えて学校内に広がった。…しかも不快になる噂が、だ。

 曰く「実の父親がやり捨てた現地妻から生まれた子供で戸籍もなく、ずっとストリートで暮らし。内戦で餓死寸前のところを父親に拾われた」という経歴を聞いた。

 重い。重すぎる。こんなの本当に真実かどうか気軽に過去をきけるようなものじゃない!当の本人はどこか感覚がずれているのではと思うばかりの能天気ぶりを発揮してるけど。

 この前もなにやら悩んでいる様子だったので聞いてみると出自だとかではなく、自身が小さいことを悩んでいた。

 ……いや、背も胸も平均だから気にしないで、と優しく答えたがそれでも表情は晴れない。

 まあ気持ちはわからんでもない。優莉のシスコンぶりは3年生の間でも広まっている。どこに行くにしても姉の陽菜の後ろをついて歩いてるらしい。

 となると彼女が日頃比較されるのは姉の陽菜で、彼女は本当に高校1年生か、と聞かずにはいられない豊かな肢体の持ち主だ。

 それと比べちゃダメに決まってる。というか優莉も小さいわけじゃないのよ。え?カップサイズはアルファベット2文字目?ふざけんな!私なんて1文字目だぞ!色々あって、最後は巨乳もげろで意気投合した。あんな美少女でも容姿は気になるらしい。

 

 その姉、陽菜も困った奴だ。これまた悩んでいる風があったので聞いてみると、なんでも優莉と比較されるのがつらいらしい。

 曰く「あんな可愛い子が近くにいると私は引き立て役にすらなれない」と。

 私はこれを聞いて確信した。立花家には鏡がない。お前もまずは鏡を見てからそのセリフを言えと。これは言っても納得してくれそうもないので取り敢えず3年生の間で流布している、

「外国人ハーフで日本の文化に疎いはずの立花優莉がやってこれているのはいつも近くにいる面倒見のいいお姉ちゃんがいるからだ」

 というものを聞かせてみると、彼女は大喜びした。なんでも今まで末っ子でお姉ちゃん扱いはうれしいらしい。これからも頼りになるお姉ちゃんなんだから妹は近くで守ってあげないと、と言うと、

「そうですね。私はお姉ちゃんなんですから、妹は近くで守ってあげないといけませんね。引き立て役とかそういうのは考えちゃダメですね」

 と納得してた。……悩み、チョロすぎない?

 なお、陽菜は陽菜で重度のシスコンだというのが学校中に知れ渡っているが、これは言わないでおいた。


 明日香は最初、私達に対しどこか遠慮しているところがあった。なぜだろうと聞いてみると、2年前、私達3年生が1年生の頃、当時の主将だった都平先輩からしごかれたことを恨んでいるのでは、というものだった。

 これを聞いた時、さすがに私は明日香に対して怒った。バカにしないで欲しい。確かに都平先輩からはしごかれたが、同時に都平先輩は誰よりも自分に対し厳しかった。

 今の主将、エリーにはまねできない背中を見せてついてこさせるタイプの主将だった。他人に厳しく、自分にはもっと厳しいバレーの鬼。その厳しい練習で当初10名いた私達の代も都平先輩が卒業するまでの1年間で4名までに減っていた。

 でもそれだけバレーに熱く真剣に取り組んでいた偉大な先輩だった。だから明日香も先輩の名を汚さず、全力でバレーをやれ、と伝えた。

 伝えたら熱血乙女な彼女は全力で行動し、練習メニューもきつくなった。言わなきゃよかった。


 玲子はあまり女子高生らしくない性格の持ち主だった。ただひたすらバレーをやるようなバレー馬鹿だ。ちょっと前まで体操馬鹿だったらしい。

 そんな彼女はチーム随一の健啖家でもある。土曜日練習でお昼ご飯を挟む時に彼女の持ってきたお弁当の量には驚いた。そんな彼女から食べ過ぎですか?と謎の質問を受けたので、逆に体を作るためにもっとたくさん食べろ、それだけの量のお弁当を作ってくれた母親に感謝して全部食べろとアドバイスをした。

 よくわからないけど、この日を境になぜか私は彼女から尊敬のまなざしを受けることになった。


 ユキはチームどころか同年代の同性平均と比べても背が低い。が、チーム一のアンダーハンドレシーブ巧者だ。私もぜひ教えを請いたい。そもそも彼女は中学時代に県大会でベストリベロ賞を取るほどの選手だったらしい。

 だからなんでうちに来たんだよ!え?近いから?高校進学なめてんのか?

「唯先輩。背を大きくするにはどうしたらいいですか?」

 そんな天才リベロからなんとも微妙な質問を受けた。私は私自身の経験として牛乳に相談するのが一番だと答えた。

「牛乳を飲めば背が伸びるなんて迷信です。私は中学時代、1日1リットル飲んでも背が伸びませんでしたから」

 ……あぁ。うん。君の場合は背じゃなくてその分、全部胸に牛乳パワーがいったんだね。ちなみに飲んでいた銘柄は何?

「!!銘柄!そうか、私の過ちはそこにあったんですね。先輩が飲んでいた牛乳の銘柄は『自然の彩』ですね!さっそく今日から試します!」

 ちなみにユキが飲んでいた銘柄は『大地のしずく』という銘柄らしい。よし。さっそく帰りにスーパーに寄ろう。あそこまで大きくならなくてもいい。せめてアルファベット2文字目にはなりたい!


 と、今年の1年生は何が気に入らないって性格も非常に可愛らしいのだ。容姿端麗、バレーの才能あり、おまけに性格もいい。畜生。天は二物を与えずじゃなかったのか!

 しかもこいつらとバレー出来るのは長くても夏まで。あと3か月もない。なんでせめてあと1年早く生まれてこなかったんだよ!


 やっぱり今年の1年生は気にいらない。

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