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077 校内マラソン大会

連続更新はこれでお終い

 12月も中旬。期末テストも終わった。色々な意味で終わった。ちくしょう……

 

 答案用紙が全部返ってきてからの陽菜のウザさは半端ではない。

 

 なにが「私はお姉ちゃんだから勝って当たり前」だ。ちょっと前の実力テストは俺の勝ちだっただろうが!

 

 そんな屈辱のイベントも終わり、後は冬休みを待つばかり……の前に、1学期の終わり間際と同じくイベントラッシュだ。

 

 その1つがマラソン大会。学校近く、と言っても1キロ以上は離れているが、まあその公園とその周囲で人通りの少ないところをぐるっと1周周るのがうちの高校のマラソン大会となる。その距離なんと15キロ。これは1年から3年まで変わらない。変わるのはスタートする時間がずれることぐらいか?

 

 ともかく、俺はこのマラソン大会が憂鬱で仕方なかった。別に走るのは嫌いではない。

 

「だったら何が憂鬱なんだ?」


 マラソン大会前の体育の授業中に体育教師の田島先生からそう聞かれた。

 

「マラソン大会って約半日もあるんですよね?」


「?まあ3年が10時スタートで2年が10時半、1年が11時スタート。1年で一番遅い奴だと4時間くらいかかる奴もいて終わるのが15時くらいだから、確かに半日かかるな」


「つまり、最後の1人がゴールするまで待ってなきゃいけないんですよね?12月の寒空の下、野外で!」


 そう。これが憂鬱の理由。俺は寒いのが大嫌いだ。普段野外にいる時は風上に俺よりも(身長的な意味で)縦にも(胸囲的な意味で)横にも大きい陽菜を立たせてかつ密着することで寒さをしのいでいるくらいなのだ。それがマラソン大会となると長時間野外に出続けることになる。これが憂鬱でなくて何なのか。

 

「はぁ……。私、15キロくらい1時間もあれば走れるんです。なのに最後の人がゴールするまで寒い外で待つなんて……」

 

 薄情と言わないで欲しい。寒いのは嫌なのだ。

 

「もう。優ちゃんはわがままなんだから」


 すぐ隣で陽菜に言われるがこれは無視。でも反論もしない。下手なことを言って風よけを断られたらシャレにならん。

 

「……何か誤解しているようだが、俺達教師はともかく、お前たち生徒は走り終わったら個々に帰っていいんだぞ?」


「へ?」


「1年にはまだ通達が流れてないのか?当日は走る前に点呼はするが、走り終わったら記録を申請して個々に帰っていい」

「じゃ、じゃあ仮の話ですけど、例えば30分くらいで走り終わったら30分で帰っていいんですか?」

「ははは。30分で走れるもんならな」


 うおっしゃ。俄然気合が入ってきた。さっきも言ったが俺は走ることは嫌いじゃない。寒いのが嫌いなのだ。その嫌いな時間を努力次第で削れるのならば努力して見せよう。しかし、俺がやる気を見せたことでなぜか田島先生が焦りだした。

 

「ちょ、ちょっと待て。立花。いくら何でも30分は無理だぞ?冷静になって考えてみろ。15キロだぞ?いいか、男子の世界記録だって15キロは41分だからな?1キロの世界記録だって男子ですら2分11秒くらいだぞ。つまり1キロ2分という世界記録ペースを延々と維持し続けてようやく30分なんだ。絶対に無理だからな」

 

「あはは。当たり前じゃないですか。いくら何でも30分じゃ走り切れませんよ。1キロのベストだって2分30秒をきるのがやっとなんですから」


「だ、だよな。……あれ?女子で1キロ2分30秒って……」


「最低目標は45分以下。出来れば43分以下ですね」


「ちょ、ちょっとまて。それ多分世界記録!」


 田島先生がなにやら言うがすでに俺の耳には届いていなかった。

 

 

========


 そうして迎えたマラソン大会当日。走る格好は体操服だけは学校指定のものと決められているが、靴やそのほかには指定がない。俺はいつぞやに山下さん達から貰った5万円もするランニングウォッチ(GPS搭載で1キロごとのラップタイムが測れるうえに、とんでもなく軽い)とランニングシューズ(こちらも軽い)を装備してちょっと変わった準備運動をする。

 

 さて、俺の超人的身体能力は魔力というか気功というかうまくは説明できんがそういう不思議パワーによって成り立っている。この不思議パワーは俺自身の中でも生成できるが、外部からも取り入れることが出来る。あれだ。中国拳法風に言うなら外気功って奴だ。そこで外気功を取り入れるべく少し離れたところで呼吸を整え、深く深呼吸。


 これで本当に取り入れることが出来たかどうか知らん。信じる者は救われる。信じるのだ。

 

 

 そうして準備運動を終えた俺はスタートラインに立つ。すでに30分前には2年生が、1時間前には3年生がスタートしている。3年生はともかく2年生はどこかで抜き去る場面が出てくるであろう。

 

 後で陽菜から聞いた話だが、スタート前の俺はあまりにも鬼気迫った様子だったので声を掛けられなかったそうだ。

 

「1年。スタートするぞ。よーい」

 

 パンッ!

 

 電子ピストルの軽い音と共に俺は駆け出す。上手くいったかどうかは知らんが気をうまく取り入れたのか体が軽い。ぐんぐん加速出来る。


 最初の1キロは2分40秒。良し!計画通り。

 

 5キロ目前というところで緑色(2年生用)の体操服を着た一団を見かけるようになった。おそらくこれが2年の最後尾集団だろう。

 

 

 5キロの通過は13分22秒。まあ予定通り。

 

 

 俺はタイプ的にラストスパートで爆発的に速度を上げることが出来ないからひたすら同じ速度で走り続けるしかない。この調子だ。

 

 

 と、ここまではおおよそ1キロ2分40秒で走り続けられたのだが、このあと徐々に速度が落ちていく。

 

 10キロ通過が27分11秒。

 

 この辺までくると緑色(2年生用)の体操服ではなく青色(3年生用)の体操服姿をよく見かける。

 

 そして最後は――

 

 スタート地点においてある大きなデジタル記録計には1時間43分16秒の文字。これは1~3年生共通で使っているから仕方がない。3年に比べ1時間遅れでスタートした俺の記録は43分16秒か。

 

 う~ん。43分以下が目標だったんだがなあ。

 

 1キロ2分40秒で走り続けられたら40分なわけだし、もう少し頑張れたような気もするが……

 

「えっ?優莉?ひょっとしてもうゴールしたの?」

 

 誰かからか声を掛けられる。はて?俺に話しかけるような連中は1年だろうが、まだその1年は走ってる途中だと思うが……

 

 そちらを振り返ると良く知った3年生の顔が3人分。エリ先輩達だ。

 

「あ、お久しぶりです。先輩」


 久しぶりと言っても春高進出を決めた翌日の月曜日にはわざわざお祝いをいうために練習中の体育館まで来てくれたから3週間ぶりくらいではある。

 

 

「このマラソン大会ってゴールしたら帰っていいんですよね?だから頑張りました」


「そりゃ走り終わったら帰っていいんだけど、それだけで普通頑張れないよ」


「え~でもこの寒空の下、延々と外にいるなんて私には無理なんですけど……」


「優莉は相変わらずズレてるわねえ」


 俺の当然の主張はなぜか苦笑された。

 

「ところで優莉。豚汁はもらわないの?」


「豚汁?」


 見ればエリ先輩達はプラスチック製の容器と割箸を持っている。


「さては説明聞いてないわね。教えてあげる。ゴールしたら豚汁が1杯貰えるの。温かいわよ」


 ほうほう。そうなのか。見れば青色のジャージを着た集団が並んでいるところがある。そこに緑色のジャージ姿がまばらにある程度。

 


「……すいません。あの中に並ぶ勇気はないです」


 想像してほしい。3年生の中で1人だけ1年生が交じって並ぶことがどれだけ大変か。

 

「ま、そうでしょうね。私達も並んであげるわ」



 まあ並ぶと言っても精々5分くらいだ。これくらいだべってるとあっという間に過ぎる。


「――ということは先輩達、2次予選の時も3次予選の時もいたんですか?声位かけてくれればいいのに……」


 なんとエリ先輩達は春高予選の2次の時も3次の時も応援に来てくれていた。ただし、3次の決勝戦だけは模試と重なったことでいけなかったと言っている。

 

「ごめんなさい。でもなんかもう私達のいた頃とは別チームみたいになっていたし……」

「バスケ部の子達とテストで勝負して勝ったから吸収した、って聞いてたけど実際に見るとね」

「後、会場に入ったら本当に県予選かってくらい人がいて、その殆どが優莉がお目当てみたいで声をかけにくかったのよ」


 あぁ。言われてみれば春高予選は結構観客席が埋まってたな。確か明日香が他校からの偵察部隊が来てるとか言ってたっけ?

 

「えぇ!他校からの偵察が来てたの?」

「優莉すごいわね……」

「ま、優莉が6月頃と比べて大きく成長しているのは一目瞭然だしね」


 あ、流石にわかるか。そうなんですよ。俺は6月頃と比べて大きく成長してるんですよ!

 

「やっぱりわかっちゃいますか!聞いてください!私、この前測ったらCカップになってたんです!」

 

 いや~照れるね。そうかそうか。やっぱり他人から見ても……

 

「優莉、そういうところはちっとも変わらないね」

「まるで成長していない……」


 なぜかエリ先輩と美穂先輩に呆れられた。さらに

 

「優莉!裏切ったの!?言いなさい!どうやって大きくしたのか教えろ下さい!」

 

 唯先輩からは裏切り者扱いされてしまった……

 

「どうやってってまずはユキに教えてもらった『大地のしずく』って銘柄の牛乳を毎日飲んで――」

 

 他には涼ねえと陽菜から聞いている育乳方法を伝えてみる。唯先輩だけでなく、エリ先輩と美穂先輩も途中からマジになって聞いていた。ちなみに俺のきいた育乳方法については涼ねえ達は小中学生時代に通過したらしい。

 

 と、こんなバカ話をしていると俺の番になった。貰った豚汁は結構具沢山でしかも――

 

「おいちい……」


 走って疲れているのもあるかもしれないが、温かく、程よい汁気、でも具沢山な豚汁は普通に美味しい。

 

「15キロ走るのは大変ですけど、最後に美味しい豚汁が出るのは良いですね」


 思わず出た感想だが、エリ先輩達は微妙って顔をしてた。

 

「まあ優莉は1年生だから知らなくて当然なんだけどね」

「この豚汁ね、毎年分配方法が出鱈目で先にゴールしたら具沢山だけど、最後の方にゴールすると具なんてないわよ」

「私、3年生なって初めてこんな具沢山の豚汁を見たわ。このマラソン大会で出る豚汁が具沢山、なんていうのは今の今まで都市伝説だと思っていたくらいよ」


 そんなバカな、それだと3年生より1時間も遅くスタートする1年に不利すぎる。いくら何でも大げさな……と思ったが、後で聞いた話だと1年生で俺に続く2位争いを陸上部長距離走の羽村さんと行い、僅差で敗れた玲子の記録が61分程度(3年生がスタートしてから121分後)。


 その玲子に配布された豚汁は曰く「まあ、無料だし、このくらいじゃないか」という程度。

 

 1年では速い方になる陽菜や明日香、未来達あたりだと「豚肉一切れに野菜がひとかけらだった」という。

 

 バレー部の中では長距離走が苦手なユキ(背が低いから歩幅も小さい。なので長距離走がものすごく不利。ただし順位は平均よりは上)になると「豚汁じゃなくてミソスープだった」になっていたそうだ。

 

 さらに悲惨だったのが1年でも平均から下の層。そのあたりになると温かいではなくぬるい液体が配布されたという。


 ……こんなところで学年格差を出さんでも……

 

 

 

 

==========

 さらなる後日談

==========


「立花ぁあ!俺と一緒に陸上をやろう!な!走るのは嫌いじゃないんだろ?どうだ?春高も終わった3月とかどうだ?ちゃんと公式記録が取れるマラソン大会があるんだ。な、先生も走るから一緒にやろう!」

 

 先日のマラソン大会以来田島先生からの熱烈な『陸上やろうぜ』勧誘が正直ウザい。なんでも先日の校内マラソン大会の記録は女子の世界記録を超えているのだという。そのおかげもあって今まで以上に勧誘がしつこい。

 

 さてどうしてくれよう……

 

 


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