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076 月刊誌Vボールの春高特集

 2学期の期末テストも終わった12月上旬。後は採点結果を待つばかりである。個人的に手ごたえのあるテストだったが、俺にとってテストとは絶対評価(点数が高ければ良い)ではなく相対評価(陽菜に勝ったかが重要)である。見れば陽菜も手ごたえありのよう。油断ならぬ。

 

 さてそんな中、普段なら校内で明日香しか定期購読してないであろうVボールというバレーボールの月刊誌の12月号が発売された。

 

 発売日当日の休み時間、いつものように通学中にコンビニで買ってきた(あらかじめコンビニに頼んで毎月発売日の朝に最新号を置いてもらっているらしい)のをクラスメイトでもある俺と陽菜が一緒になって読むという構図になった。

 

 ちなみに立花家ではVボールの12月号は近くの本屋で予約済みで計3冊購入することになっている。1冊は鑑賞用。もう1冊は記念に取っておく用、最後の1冊は海外にいる父さんに送る用だ。

 

 Vボール12月号の表紙には春高バレー特集の文字と各校のユニフォームを着た高校生、それに……

 

「外国人が写ってる?」


 赤髪の顔面偏差値が高い――具体的には明日香以上陽菜以下――女性が表紙に載っている。


「自分のことを棚に上げて何言っているの?」


 これは陽菜のセリフ。


「この赤髪の人の事?この人も日本人だよ。津金澤(つがねざわ) 杏奈(あんな)って名前でオランダ人とのハーフ。優ちゃんの知り合いの飛田さんと同じくU-19に選ばれたこともある選手だね」

 

 ほう。そうなのか。

 

 

 まあそんなわけで春高特集と銘打っている割には表紙には外国人の姿が2人分。俺とこの津金澤って人が載っている。というか主将の明日香じゃなくて俺なのか。普段なら1ページ目から順に読む明日香だが、今日は俺達にあわせてくれるようだ。

 

 先に載っていた春高に出場する男子の特集をすっ飛ばして続くページにある女子のページを開いてくれた。まず先に見開きで出てきたのは大阪第1代表の金豊山学園高校だ。

 

『女王金豊山 夏秋に続き春制覇も最有力。通年女王へ不安なし』


 そんなキャッチコピーと共に金豊山の選手の写真と記事が載っている。なになに……

 

 ――平均身長184cm(リベロを除く)は女子バレーボール界随一。高身長から繰り出される高く力強いバレーでインターハイ、国体を制した金豊山。国体では不調であったエース宮本も大阪予選では調子を取り戻し、通年女王、春連覇に向けて死角はないと思われる――

 

 夏も秋も制した女王らしく高さ、パワー、技術を兼ね備えた強者だと記事になっている。また、注目選手という欄では舞さんとエースだという宮本先輩の2人が載っていた。なんでもU-19で司令塔、エースとして活躍した2人を擁する金豊山が強いのは当然だ、みたいな記事だ。

 

 

 続けて出てきたのは東京第1代表の龍閃山という高校だ。こちらも見開き。


『春高の借りは春高で返す! 打倒金豊山!4度目の正直へ向けて!』

 

 キャッチコピーはこんな感じだった。なんでも前々回の春高の王者で去年のインターハイも龍閃山が制していたらしい。ところが去年の春高から金豊山にだけ負け続けて今年は無冠。選手層の厚さは全国随一で、以前明日香も言っていたようにU-19に選ばれた選手が5人、これとは別にU-16で呼ばれたこともある1年が2人もいるようだ。

 

 凄いな。

 

 これまた注目選手というところでは2人の選手が紹介されていた。1人は表紙も飾っていた外国人風の容貌をしている津金澤先輩。もう1人は俺達と同じく1年だがU-16ではエースだった金田一という選手だ。

 ちなみに津金澤選手は身長が全登録選手中最高の197cm、一方金田一選手は163cm。リベロを除けば春高出場校中最もチーム内で身長差のある凸凹コンビとして記載されていた。

 

 ……わざわざリベロを除く、って書いてあるのは松女(うち)のせいだろう。歌織とユキの身長差は35cmで1cm分うちの方が身長差があるしな。

 

 その次の見開きページに出てきたのが俺達だ。

 

『大会史上 最小最低 異色のダークホースが旋風を起こす!』


 キャッチコピーからして酷い。そもそも記事になるくらい有名な時点でダークホースではないと思うがまあいい。読んでみるか。なになに……

 

 ――県立松原女子高校はあまりにも異色な高校だ。部員数はリベロを含めてもわずかに8名。これは大会史上初の珍事だ。さらに平均身長は168cmと13年前に平成のチビッ子軍団として名をはせた杜若女学院の171cmを3cmも下回る。もちろん今大会でも平均身長は断トツの最下位だ。現行ルールでここまで背の低い出場校の例はなく、リベロ導入以前までさかのぼる必要がある。

 ただし、松原女子高校はリベロを含むとさらに平均身長が低くなり165cmまで下がる。ここまで低いのは昭和49年の脚山商業高校以来となる。他にも(中略)――

 

 ――とここまで不利な要素ばかり挙げてきたが、松原女子高校は弱い高校ではない。エース立花優莉(1年)の最高到達点はなんと378cm。その高さから打ち下ろされるスパイクは強烈の一言で、全日本女子バレーボール監督の田代監督も「サーブとスパイクだけなら現時点でもプロの世界で世界トップレベル」と太鼓判を押すほどだ。

 また、部員の身体能力の高さにも定評があり、平均身長は全国最下位ながらスパイク、ブロックの高さは共に全国平均値を上回る――

 

 

 ……女子バレーの世界は怖いな。168cmでチビ扱いか。つまり明日香ですらチビということだ。

 

 注目選手はこちらも2名紹介されており、俺となんとユキが個別に紹介されている。玲子じゃないのか?


 ――背の低い松原女子高校でも特に背が低いのがエースの立花優莉とリベロの有村雪子の2名だ。立花の身長155cmは出場選手中、リベロを除いて最小。リベロを含んでも出場選手中4番目の低さだ。有村の身長143cmは全出場登録選手の中で1番低く、そもそも140cm台の選手は彼女だけだ。しかし『山椒は小粒でもぴりりと辛い』という諺通り侮ることは出来ない。攻撃の要である立花と守備の要である有村の――

 

 な、なるほどね。そういうことか低身長の俺とユキをネタにするためにあえて玲子でなくユキを記事にしたのか。うん。わかるよわかる。でもな。怒りで肩が震えるのを俺は我慢が出来なかった。

 

 

「誰が155cmだ!私は156cmだ!」


 許せんのは俺の身長が155cmと記載されていることだ。先日の身体測定では計器の不具合によりなぜか2mm低く計測されたがそれでも155.9cmだった。むしろこれは156cmと言ってもいいはず。


 しかし俺の嘆きは陽菜にも明日香にも理解されなった。


「まあまあ落ち着きなよ155cmちゃん」

「いいじゃんどうせ150cm台の時点でチビ確定なんだし。ね。150cm」


 こ、このアマ!こっそりと6cmも縮小しやがった!


「150cmじゃないよ!156cmだよ!」

「背が低いって侮ってもらった方が勝ちやすくなるじゃん。だからもう155cmでいいじゃん」

「そもそも背も胸も小さい方がいいって」

「だ、誰が貧乳だ!」

「え?別に私優ちゃんが貧乳なんて言ってないよね?あぁでも小さい方が肩がこらなくていいよね」

「そうそう。陽菜の言うとおりだよ。いやあ優ちゃんが羨ましい」

「嫌味にしか聞こえないよ!」


 高校生離れした体躯を誇る2人を前に1人で立ち向かうには多勢に無勢。ここは貧乳仲間の佳代を呼ぶしかない。

 

「佳代~。おっぱい魔人が私をいじめる~」


 こう言えば彼女はきっと……

 

「いや、優莉はもう敵だから」

「え?なんで?」

「巨乳は敵よ!もげてしまえ!」


 ……なぜか知らんが佳代の中では俺もおっぱい魔人になっていたようだ。解せぬ……

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― 新着の感想 ―
[一言] そりゃあCカップなら貧乳とは言えないね、だから佳代の言うことは正しい
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