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4話 ヤンキー女子高の壁新聞がヤバ過ぎる


美佳は公園で僕を待っていた。

今は土曜日の午後一時、7月の日差しはかなりきつい。

うっすらと汗をかいているようだ。


美佳の他に3人の女子高生がいる。

茶髪は居ないが全員が白女の制服を着ている。

美佳はスカートを短くしていないけど、他の4人はかなり短くしている。

どちらかと言えばヤンキー系だ。


「ヤッホー、慎介ぇ、久しぶり」


「美佳、久しぶりってたった4日じゃないか。それでその子達は友達かな」


3人の女の子たちはキャーキャー言って騒いでいる。


「うわっ、マジで呼び捨てなんだ」


「これはポイント高いね。あの上条さんに間違いないし」


「慎介、美佳だって、うわぁ」


「……イカス」


なんなんだ、この子たち。


「慎介ごめん、こいつらがどうしてもついて行くって聞かなくて。

部活の…バスケ部の仲間なんだ。みんな一年生だよ」


「わかった、とりあえず家に入りなよ。ここで騒いでると近所に迷惑だし」


「うわぁ、家に入れてくれるんですか」


「あの上条さんの家に……やったぁ」


「……ステキ」


本当になんなんだ、この子達。

それにさっきから『あの上条さん』ってどこの上条さんだよ。


「慎介、コンビニでお昼を買って来たんだ。中で食べていい。

あっ、もちろん慎介の分も買ってきたよ」


「そっか、ありがと、じゃあみんな中に入って」



家に入ると美佳はいそいそと冷蔵庫の製氷機から全員の分のコップに氷を入れて持ってきた。

みんなそれぞれ飲み物も買ってきていた。

美佳はさらにやかんでお湯を沸かしている。


「うわっ、慣れてる、美佳ってこの家の人見たい」


「勝手知ったる何とかってやつよね」


「……マジ?」


「えへへ、まあね」


美佳はドヤ顔で得意そうだ。

何を得意になってるんだか。


美佳の買って来たものはタラコおにぎりとカップヌードル謎肉だった。


「慎介の好物を買って来たんだよ。私はおにぎりとシーフードヌードル」


おい!僕が何時カップヌードル謎肉が好きだと言った。

これじゃ僕が何時もカップ麺ばかり食べてるみたいじゃないか。

だけど食べてみると結構おいしかった。

カップヌードル謎肉…恐るべし。


「慎介、昨日アパートに引っ越したよ。ここから歩いて10分くらいかな。

学校まで20分くらい。毎朝、慎介の家の前を通って学校に行くんだよ。

あとで案内するね」


「美佳、ちゃんと私達にも案内して教えなさいよ」


「そうそう、バスケ部全員に教えなきゃだめよ」


「……当然」


「絶対に嫌、たまり場になんかしたくないし、私は寝る時以外はアパートにはいないから」


「じゃあ、普段はどこにいるのよ」


「ここに決まってるでしょ。彼氏の家なんだから」


「「「……彼氏!!!」」」


それはいいんだが、部活の仲間に言っていいのか。

あとで困ることになるんじゃないのか。


「美佳、僕は…」


「分かってるって、みんな、私は慎介を彼氏と思ってるけど、慎介にはまだ私は彼女と認定されてないのよ。

これから頑張るんだから」


それを聞いた3人は慌てて姿勢を正し自己紹介を始めた。


「上条さん、私は美佳と同じ白鷺女子高のバスケ部一年で立花たちばな 愛理あいりといいます。

上条さんの事はよく…」


間髪を入れず二人目の子が分け入ってくる。


「上条さん、私もバスケ部で浜崎はまさき 由良ゆらといいます。あの……」


各務かがみ沙希さき……同じ」


えーっと、愛理さん、由良さん、沙希さんかあ。

3人ともそれぞれショートカットヘアでそれなりに可愛いが、乗り出して顔を近づけないで欲しいんだが。

とにかくヤンキー系女子は苦手なんだ。


「あ、ああ、あの…上条慎介です。その……あの」


「ああん、そのオドオドした感じといい、落ち着いた物腰といい、間違いなく上条さんですよね」


「会えて嬉しいです。みんなの憧れである上条さんに…」


「……イカス」


みんなの憧れ?なんだそれ。


「美佳、みんなの憧れってどういうこと?」


「ああ、うん、あのね、私たちが入学して三週間くらいした頃、新聞部が壁新聞を張り出したの。

それは慎介の特集だったんだけど」


なに?僕の特集?なんだそれ。


「私が慎介に助けて貰ったでしょ。その写真が大きく載ってたんだ」


「ああ、あの時か、それが新聞に?」


「うん、見出しが『上条慎介君 さりげなく白女の生徒の命を救う』だったの。

確かにあのまま落ちてたら私は怪我じゃすまなかったと思うし」


ここで立花さん達が話に入ってきた。

異様に興奮しているようだ。


「そうなんです上条さん、その時の記事は私もよく覚えています。大事件でしたから、たしか

『事件は○○日の朝の登校時に起きた。普段は私達の通行を妨げることの無いように駅の通路の右端を歩く上条君が、なぜかその時は事故を予見したように通路の中央で階段を上っていた。そこに当学園の生徒が階段を降り始めたところで足を踏み外した。とっさに上条君はその生徒を抱きとめ彼女を救ったのである。もし彼が受け止めてなかったら彼女は怪我では済まなかったであろう。まさに彼は彼女の命の恩人である。しかし彼は何事も無かったように『気をつけて』とだけ言いその場を立ち去った。この英雄的行為は彼があまりにも自然にさりげなく行われたため評判になることはなかったが、我々新聞部はそれを見逃さなかった』と書かれていました」


「そうなんです。上条さんが美佳を階段で抱き止めてる写真が大きく載ってました」


なんてことだ、そんなことが。

でも確かにあの時だけはは階段の真ん中にいたよな。

やはりあの時も”精霊さん”がやったんだろうな。


「しかし何で僕の名前が分かったんだろ」


「何言ってるんですか、白女の壁新聞の8割は上条さんのニュースですよ。

新聞部の壁には今まで発行した壁新聞が全部貼られています」


「ええっ、なんで」


「聞いた話では、新聞部の記者は上条さんと同じ中学の卒業生と聞いてます。

ですから上条さんの中学の時の武勇伝も全部書かれています」


武勇伝って。


「上条さんはすごいです。中一の時に生徒会長になり、荒れていた中学をたった一人で風紀を正したんだそうですね。

レイプされそうだった女生徒を救い、犯人である上級生3人を半殺しにして病院送りにしたとか、不良生徒を100人以上ぶちのめしたらしいですね。さらにやる気のない先生を何人も追放したとか」


「……イカス」


「いや、先生を追放したとかはないよ。PTAや県や市の教育委員会に訴えたことは確かだけど」


「でも結果、そういった先生は居なくなったんでしょ。さすか”独裁者”ですね」


懐かしい言葉だ”独裁者”か。


「他にどんな記事が載った新聞があるの」


「そうですね、後は上条さんが駅でうちの生徒をナンパしていた他校の不良生徒を追い払ったとか、恐喝していた不良達を全員ぶちのめしたとか、犬の糞を踏んだとか、牛丼屋で豚丼を注文したとか、まあ色々です。全部写真が載ってます」


いや、ナンパしてた不良達は僕を見たらすぐに逃げ出したんだ。

僕の通う高校の生徒を恐喝してた連中は確かに叩きのめして警察に突き出したけど。

だけど犬の糞を踏んだとか、牛丼屋で豚丼を注文したとか、そんなのがニュースになるわけないだろう。


「そんな新聞、誰も読まないだろ」


「いいえ、新聞が壁に貼られるたびに人だかりですよ。すごい人気なんです」


マジか。


「そ、それでね、私がここに泊めて貰ってたことも新聞部の人に知られちゃってインタビューされたんだけど……」


「まさか」


「うん、ごめんなさい、話しちゃった。囲まれて、しかも先輩達だし断れなかったの」


何やっちゃってんの。美佳は。

まさか夜の事は言ってないだろうな。


「変なこと言ってないよな。美佳」


「もちろんだよ。でもちょっとだけ脚色って言うのかな。少しだけ実際とは違うかなってとこもあるけど…

あっ、もちろん慎介の悪いことなんか言ってないよ。良いことしか言ってないし。

それから一応、原稿って言うか張り出される新聞のコピーを貰って来たから……見る?」


ちょっと待て、脚色とか、少しだけ実際とは違うとかなんだよ。

もちろん見るに決まってるだろ。

内容を見て変な事が書かれてたら、張り出しを差し止めることってできるのか。


「なにっ、もう新聞は出来てるの。美佳は新聞部からコピー貰って来たんだ。すごっ」


「見せて見せて。月曜日の朝、張り出されるんでしょ」


「……美佳は見せるべき」


「うん、じゃあ見せるね。これだよ」


美佳は誇らしげに、そして嬉しそうにカバンから四つ折りにされた新聞を出してきた。

それを開くと大きな見出しが目に飛び込んできた。


『上条慎介君、またも白女の生徒の命を救う。そして新たな真実が明らかに』


なんなんだ、いつ僕が白女の生徒の命を救ったんだ。そんな覚えはねえ

それに新たな真実っていったいなんだ。


新聞には僕と美佳が僕の家の玄関から一緒に出てきた時の写真が載っていた。

僕はそのままだが、美佳の顔には目を隠すように黒い目線が入っている。

そして記事を読むと


『当学園の生徒であるAさんは、先週の金曜日の朝、父親の倒産により家や家具などを差し押さえられ家を追い出されてしまった。

母親はとうに父親とは離婚していて居場所も分からず、父親は行方不明でAさんは途方に暮れてしまった。

Aさんは行くあてもなく、公園で不安に苛まれながらベンチに佇むしかなかったのである。

誰も声をかけてくれずAさんはその時、寂しさと将来の不安から「もう死ぬしかないかも」と思ったらしい。

無理もない。誰だってそういう立場になったら死にたくもなるだろう。

しかし、そこにたまたま上条君が通りかかり優しい言葉をかけてくれたのだ。


上条君「僕の家においでよ、困ってる君を放っておけるわけないだろ」


Aさん「でも、あなたに迷惑をかけるわけにはいきません」


上条君「大丈夫だよ。僕はこの家に一人暮らしをしてるんだ。

誰にも迷惑じゃないし遠慮すること無いから」


上条君の言葉や態度にはいやらしい感じは全くしなかったそうだ。

だからAさんも心を開いたのだろう。

そして彼は優しくAさんの荷物を持ち手を引いて家に招き入れてくれた』


Aさんと言うは美佳のことだ。

ここまで読んであまりの現実との違いに僕は呆れてしまった。


「なぁ美佳、これって」


「だ、だから少しだけ脚色が入ってるっていったでしょ。たいして違わないじゃない」


少しだけ?全然違うだろ、真逆だよ。


「まあまあ上条さん、続きを読みましょう」


「そうですよ。顔が赤いです。照れなくてもいいじゃないですか」


照れてねえよっ、怒ってるし恥ずかしいんだよ。

ドアを思いっきり叩かれて「開けろー」って叫ばれたんだ。

それで強引に家に入り込まれて、無理やり荷物を公園に取りに行かされたんだよ。

それがなんだよ、この記事。

だけどここでそれを言っても仕方がない。

僕は続きを読むことにした。

そこにはさらに恐るべき内容が書かれていた。


『上条君はAさんの話を詳しく聞くと、すぐにネットを使って調べ始めた。

そして貧困家庭の子女を支援するNPO法人の保護下に入る事を勧めてきたそうだ。

「明日、学校に相談してこのNPO法人の事務所に行ってきなよ。

たぶんそれで何とかなるはずだよ。だから心配しないで」と言ってくれた。

それから彼はAさんに食事と風呂を提供した後、客間を用意してくれた。

「きちんと住むところが決まるまで、自由にこの部屋を使っていいからね」

と言って二階の自分の部屋に引き上げたそうだ。

Aさんに気を使わせないよう一人にさせてくれたんだろう。

「彼は一切何も見返りは求めてきませんでした」とAさんは言う」


まあ、この辺はだいたい本当の事だ。

だが、なんとなくだが僕が美化されてるような気がする。

だがこれからが問題だった。


『上条君が一階に降りてきたのは夜中の12時過ぎだったそうだ。

おそらくもうAさんは寝ているだろうと思ったのだろう。

だがAさんは寝付けないまま不安と寂しさに泣いてしまっていた。

そのすすり泣きの声を聞いた上条君は客間にいるAさんの元に行き、

「僕だっているし、きっと何とかなる。だからもう泣かないで」

と言い優しくAさんを慰め手を握ってくれた。

そして朝までAさんの傍にいてくれて励ましてくれたそうだが、朝まではかなり時間があったはずだ。

何をしていたのかをAさんに聞くと、彼女は顔を赤らめ

「それは……ご想像にお任せします」

としか言ってくれなかった。

いったい何があったのだろうか……謎である』


「……」


もうどう言って良いのか分からん。

誰が考えったって…何があったかなんてわかるだろう。謎であるって。

だけど立花さんや浜崎さんたちは感動しているようだ。


「ああ、上条さんのような人はいません。私達のような女子にそんな……うう」


「神と呼んでいいですか……ああ」


神って家出少女たちが使う"神"なんだろうな。きっと。


「……マイガッ」


ああ、もう許してほしい。限界だ。

だけど目の前の4人の女子高生は目を輝かせている。


「あの夜、何があったんですか上条さん、美佳はどうしても教えてくれないんです」


「あとで必ず教えてくださいね。お願いします」


誰が言うか。言う訳ないだろ。恥ずかしすぎる。


「それは……ご想像にお任せします」


これしか言えない。ちょっとだけ美佳に気持ちも分かった気がする。

美佳はドヤ顔だ。なんかむかつく。

だけど僕は顔を赤くしてないぞ。


「真っ赤な顔して…美佳と同じってずるいです。話してください…他にも聞きたいことがいっぱいあるんです」


えっ、今の僕って顔が赤いの。そういえばちょっと暑いかな。冷房を入れよう。

立花さんと浜崎さんの突込みがきついので、ダイナミックな話題逸らしを考えていた。

なにしろ、さっきから美佳の様子が話したくてうずうずしている感じなのだ。

後で美佳にはきっちりと口止めしていかなければ。

しかし各務さんが完ぺきな無表情で助けてくれた。


「新聞……続きを読むべき」


「そうだね、その辺は後でしっかり聞くとして新聞を読もう」


ここは助かったが僕の前に座る立花さんたちが身を乗り出してくると全員のパンツが丸見えだ。

美佳は僕の隣に座っているが、彼女たちはソファーに浅く座っていてミニのスカートからのぞく白い太腿や下着が、どうしても目に入ってくる。彼女たちはわざとやってるとしか思えないほど不自然に足を開いてるんだ。

ここは見ないふりで新聞を読もう。


『その後、Aさんは三日連休の後、火曜日にNPO法人の保護下に入ることが決定し仮の住居に移った。

正式な住居は金曜日にも学校から徒歩で20分のアパートになるそうである。

学費や生活費の支援も受けられ、これからも学校に通えることになり本当に良かった。


「これも全部上条さんのおかげです。彼に会うことが出来て本当に幸運でした」


と幸せそうに頬を赤らめてAさんは言うが、確かにこんな幸運はめったにないだろう。

しかし三日連休の間二人はいったい何をしていたのだろうか。


「それは……彼の家で勉強を教えて貰ったり……して過ごしていました」


しかし連休中の三日間ずっと勉強していただけなのだろうか。

それを聞くとAさんは耳まで赤くしながら手で顔を覆い、


「それは……言えません。秘密です」と言うだけだった。


我々もそれ以上は聞けず、これで取材は終わりにした。

しかし今回の事で明らかになった事実がある。

それは上条君が他校の男子生徒とは違い、我々白女の生徒を見下したり卑下したりは一切せず、一人一人を普通の女子高生として見てくれているということである。

言うまでもなく上条君は県下一の進学校である西高の生徒であり、西高でも成績はとトップクラスと聞いている。

その彼は私達が困っていれば助けてくれるし、白女の生徒でも対等な人間として向き合ってくれるという事である。

またしても彼は女生徒一人の人生を救った。

自殺まで考えていたという彼女が今は本当に幸せそうな笑顔を見せている。

我々新聞部は今後も上条君から目を離さず、彼の行動に注視し報道していく所存である』



「……」


「「「……」」」


なんだこれ!

おいっ、美佳、これじゃ何してたかなんて誰でもわかるだろ。

先生方もこの新聞読んでるんじゃないのか。

どうすんだ。


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