1話 上条(かみじょう)慎介(しんすけ)と言う男
前作、精霊の力を持つ男の続編です。
今回の主人公は男子高校生です。
さらにハーレムメンバーはヤンキー系女子高生です。
この話は僕と僕の中にいる不思議な何かと、僕に関わってしまった女の子達の話だ。
僕は時々、僕自身の体が自分では無い何かによって動かされる時がある。
その時は僕自身は体をコントロールすることは出来ないけど、僕や僕が大切に思っている人たちに危険が迫った時に起こる。
その超人的な力を発揮する僕の中にいる何かを僕は”精霊さん”と呼んでいる。
僕は普通の人間じゃない。
僕の中に何かがいるんだ。
僕が小学校5年生の夏休みに両親と北海道に旅行に行った時だった。
温泉に泊まった次の日に黒岳と言う山に登ろうと言う事になった。
黒岳はハイキングコースがあって、登山者も多く子供でも2~3時間で頂上まで行けるという山だった。
7合目付近まで行った時、沢山のエゾリスがいたんだ。
観光客が餌をくれるので、すごく人懐っこい。
僕もクッキーを細かく砕いてリスにあげていた。
リスにクッキーをあげながら歩き回っているうちに、急に体が浮いたような感覚になった。
僕は崖を転がり落ちてしまったんだ。
大きな木の幹に体がぶつかって止まったけど、僕は体中が痛くて意識が朦朧としていた。
その時、頭の中で聞こえたんだ。
【私でもまだ足りない。この子は助けないと、時の精霊、貴方もこの子に入って】
【わかった……入る、でもこの子はいつか必ず……】
【今はこの子の命を助けるのが先決、後の事は……】
【……この子は精霊界の……】
何かが僕の体の中に入ってきたのが分かったけど、僕は痛みが引いていくのをを感じながら気を失った。
気が付いたときは母さんの顔が目の前にあった。
母さんは泣きながら僕を見ていたんだ。
「奇跡です、そうとしか言えません」
「あの高さから落ちてかすり傷しかないとは驚きました。
確かにマンションの3階から落ちて怪我も無かったという事例もありますが」
あの後、両親は半狂乱で僕を探したらしい。
周りにいた大勢の観光客の人たちも協力して探してくれたそうだ。
そして、僕は病院にいて精密検査も終わっていた。
僕は今でもあの時の事をはっきりと覚えている。
頭の中で聞こえた声も、何かが僕に入ってきたこともちゃんと覚えている。
それを両親に話したけど、信じて貰えたかは分からない。
でも誰にも言わないようにって言われたんだ。
それから僕には不思議なことが多く起こるようになった。
学校の授業では先生が教えてくれる内容がすんなり頭に入ってくるようになり、ぼーっとしてることがなくなった。
一番不思議なのが聞き逃した先生の話も家に帰って宿題をしてると、聞き逃したはずの先生の授業がリプレイしたように頭に浮かぶんだ。
球技大会では、野球でホームランも打った。だって球がゆっくりに見えるんだ。これなら誰だって打てると思う。
僕はクラスでヒーローになっていった。
小学校の卒業式では卒業生代表として挨拶もさせられた。
僕が入学した公立の中学校は荒れているので市内でも有名だった。
入学式で先生がいくら注意しても私語をやめない生徒や、どう見ても校則違反としか見えない制服を着てる生徒も多かった。
でも僕は自分に関係なければ学校をどうにかしようなどとは思わなかったんだ。
だけど入学して二か月くらい経ったころ事件が起きた。
小学校の時同じクラスにいた加藤さんと言う女の子が放課後校門近くで僕を待っていた。
「あ、あの、ちょっとだけ、良いかな」
「なに、部活の勧誘かな、まだ決めてないんだけど」
加藤さんは顔を真っ赤にしながら上目使いで話してくる。
「ううん、そうじゃなくて……あの、ちょっと人がいないところで話したいんだけど」
と言うので二人で運動部の部室の裏あたりに向かって歩いていく。
加藤さんの様子を見て、これはひょっとして告白されるのかなと思った。
だけどその時、かすかに声が聞こえた。
―――誰かーっ、助けてぇ―――
なんだ今の声。
「加藤さん、今、声が聞こえなかった?」
「ううん、私には何も聞こえなかったけど何か聞こえたの」
「うん、僕には聞こえた。たぶん、こっちだ」
僕は野球部の部室の中から声がしたのを確信していた。
部室のドアを開けると4人の男女がいた。
床にマットが敷かれ女生徒が二人の男に組み敷かれている。
泣き叫んでいる女生徒はスカートは取られたのか着ていない。
一人が女生徒の両手を抑え、一人が圧し掛かっている。
二人ともズボンと下着を履いて無くて下半身を露出していた。
そしてもう一人はスマホで写メを撮っているようだった。
「なんだ、おい、どうやってカギを開けて入ってきた」
と怒鳴り声がした、でもドアは普通に開けられたんだけど。
「とにかく、口封じするんだ、男はぶちのめせ、おい、そこの女動くなよ」
僕も加藤さんもあまりの状況に固まってしまっていた。
そして写メを撮っていた男が僕に殴りかかってきた。
僕は固まっていたけど、僕の体が勝手に反応して左足を一歩下げて体をひねり相手のパンチをかわした。
目の前を相手のパンチが過ぎると同時に僕の体は右足を踏み出し、相手のガラ空きの腹部に僕の左の拳を突き上げるように打ち込んだ。
ものすごい手ごたえを感じて、衝撃が相手の体を貫いたのが分かった。
男は蹲るでもなく後ろに吹き飛んでコンクリートの床に尻もちをつき背中を打ち付けた。
そして僕は瞬時に女子生徒にのしかかっている男に近づくと、男の横っ腹を思いっきり蹴り上げた。
男は弾き飛ばされるように女生徒の体の上から横に飛んで動かなくなった。
今の僕自身は体のコントロールを失っていて、体が勝手に動いてるのだ。
こんなことはあの日以来、体育の授業で何度もあったけど、喧嘩したのは初めてだった。
だがまだ三人目の男が残っている。
男は近くにあった金属バットを持って振り回してきた。
横なぎに振られた金属バットをかわすと、左足を踏み出し相手の顔に右肘を叩き込んだ。
これも絶妙なタイミングと確かな手ごたえ。
相手ははじかれたように後ろの壁に後頭部をぶつけ膝から崩れ落ちた。
これで男は三人とも気絶させた。
女生徒は剥ぎ取られたスカートと下着を抱え泣きじゃくっていた。
「加藤さん、先生を呼んできてくれる」
「う、うん、わかった」
震えていた加藤さんは小走りで職員室に向かっていった。
その間に僕は写メを撮っていた男のポケットからスマホを取り出し110番通報をした。
その後、女の子に気づいて話しかけてあげた。
「あの、僕は後ろを向いてるから服を着たほうが良いよ」
泣きじゃくっている女の子に近づくことも出来ずこう言うしかなかったんだ。
男たちは当分目を覚まさないだろう。
いや待てよ、一生目を覚まさないかもしれない。
急に心配になった僕はどうしようと思ったが、頭の中でメッセージが聞こえた。
―――だいじょうぶ、死にはしない―――
これも過去に何度もあった。
いったいこれはなんなのだろう。
体も急に勝手に動くいたし、自分だけの体じゃなかったみたいだ。
「助けてくれてありがとう。私は3年2組の坂下いずみっていうの」
泣いてた女の子が礼を言ってきた。目が真っ赤だ。
「うん、いや、たまたま通りかかったから。僕は1年1組の上条慎介です。
ああ、警察が来るまでここにいてくれますか」
「うん、こいつらは許せない。警察が来たら全部話すから。
ところで君はすごく強いね。どうなることかと思ったけど一瞬で3人とも倒すなんてすごいよ。
君は何か武道をやってるの」
「いや、別になにも、それでこの男たちは誰なんですか」
「野球部の野島たちだよ。知らなかったの」
「ええっ」
これはまずいことをしたかな。110番しちゃったよ。
まさかここの生徒だったなんて、体が大きいから外部の人間だとばっかり思っていた。
まあいいや、女の子をレイプしようとしてたんだし。
やっと加藤さんが先生を連れてこっちに向かってきている。
しかも先生方は2人しか来なくて少しも急いでる様子がない。
なんだか嫌々来ているような感じだ。
女の子一人の人生が狂ったかもしれないのに、なんてやる気がないんだろう。
パトカーが3台来て慌てて校長先生や教頭先生と他の先生も大勢出てきた。
警察官は7人来ていた。
ここで大勢の生徒が校庭に出てきた。
現場には3人の男児生徒がいたけど、全員が気絶している。
しかも2人は下半身に裸である。
それでも、警察官は彼らの状態を見て救急隊を呼んだ。
「ちょっと危険な状態のようだ。救急隊を呼ぶます。このままでは命の危険もあるかもしれません」
確かに彼らは血が多く混じった泡を口から吐いていたり、鼻血と口から出た血でシャツが真っ赤になっていた。
帰宅していた生徒もいたけど大騒ぎになった。
何しろ彼らは下半身裸なのだ。
救急車が来た頃には全校生徒の半数以上がそれを見ていた。
事情聴取が始まったけど先生方がいちいち口出しするので、結局、警察署に僕と加藤さんと被害者の坂下先輩が行くことになった。
警察官が校長や、教頭の口出しに閉口した結果だ。
確かに加害者である生徒の未来も重要だが、罪は罪なのだ。
彼らの状態は重症であり、僕は正当防衛だが過剰防衛ではないかと言う意見もあった。
だけど現場の状況をみて警察は問題ないとしてくれた。
新聞にも大きく載ってしまい、PTAをはじめ学校では大騒ぎになった。
学校側はなぜ勝手に警察に通報したのかと僕を責めたが、それもマスコミの格好の非難の的になった。
僕は○○警察署の市民生活部の少年課の刑事さんや婦警さんに好意的に受け入れられた。
異常なまでに好意的だったように思う。
これも僕の中にいる何かのおかげだろうという事は良く分かった。
のちに警察署長から感謝状が贈られることが決まり、学校の全体集会で警察署長から直々に送られた。
ちなみに加害者である野球部員たちは、一か月以上の入院を経て2か月間少年鑑別所に送られることになった。
彼らは二度と学校には来なかった。もちろん卒業式にも。
こんなことが明るみになり、結局、校長を初め多くの教諭が更迭されることになった。
あまりにも学校側の対応がお粗末すぎた。
マスコミの取材による生徒たちの証言と学校側の説明が違い過ぎていた。
さらに今までの対応がひどすぎると新聞や雑誌に掲載され市の教育委員会も役員が更迭された。
学校には抗議の電話が殺到したし、ネットでも炎上してしまう。
あまりにも世間の注目浴びてしまったために生徒たちも姿勢を正すしかなかった。
僕は生徒会に勧誘され一年生なのに生徒会長にさせられ卒業するまで続けた。
僕はいじめや他人に迷惑をかける生徒、やる気のない先生を許さなかった。
生徒総会を頻繁に行い徹底的に追求し風紀を正していった。
最初は上級生からの反発も日常茶飯事と言っていいくらいあったがすべて叩き潰した。
まじめな生徒達からの支持は圧倒的で不良生徒たちからは喧嘩を売られた。
学校帰りに高校生を含む数人に待ち伏せされた事も何度もあった。
その都度、全員を叩きのめして警察を呼んでいたので、刑事さんや婦警さんとすっかり顔なじみになってしまった。
毎日のように喧嘩していたので、僕の中にいる何かも手加減を覚えたようだ。
入院するほどのケガを負わせることは少なくなった。
結果、一年の三学期に入るころには、僕に逆らえる生徒は居なくなった。
不良上級生たちも僕に会うと目を合わせず軽く挨拶するようになった。
そして生徒や先生から独裁者と異名をとるほどの生徒会長になってしまった
僕の名は上条 慎介普通の中学生だ。
ただ僕は普通の人間じゃない。
僕の中には僕も知らない何かがいる。
その何かを僕は”精霊さん”と呼ぶようになった。
やっと小説を書く気になりました。
よろしくお願いします。