表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「迎えにきたよ」

作者: 七海あお

 不意に聞こえた電子音に意識が浮上した。付けっぱなしのテレビに単色のカラーバーが映っている。どうやら放送休止時刻になったようだ。

 3時を示す時計を一瞥して、僕は再びソファーに沈み込んだ。

 いつからこうしているのだろう。

 それが数時間なのか数日なのか。感覚の麻痺した脳では分からない。

 理解しているのはただ一つだけ。


 彼女が―――早苗がもういない。



「……早苗」



 物静かで、穏やかで。

 なのに時折驚くくらいに甘えたがりだった早苗。

 八重歯を見せるあの笑顔が僕を見る事は、もうない。


 あの夜。

 早苗が僕の家に来て、いつものように料理を作ってくれて。夜勤帰りでクタクタの僕は、彼女に感謝しながら温かいご飯を頬張っていた。

 いつも通りのはずだった。


 帰り道、通り魔に襲われた彼女が帰らぬ人間となるまでは。



「早苗……」



 ひとりにしないと言ったじゃないか。

 なのにどうして、いなくなってしまうんだ。

 結局君も、同じ言葉を吐いて消えていった人間達と同じだったのか。



「置いて、いかないでくれ」



 瞼を閉じると再び頭が霞がかっていく。

 どうやら酷く憔悴しているらしい。

 最近はいつもこうだ。気が付けばこうしてソファーに沈み込んでいる。

 そろそろ仕事にも顔を出さなければならないし、ちゃんと神経を休めないと。

 腰を上げて寝室に向かおうとするも、テーブルに足がぶつかった。

 カツンと落ちたものを拾おうと腰を屈めて、僕は首を傾げる。



「……何だこれ」



 白い小さな欠片だ。

 先が尖っている。それに、黒ずんだ赤いものが微かに付着している。

 触れようとして頭に鈍い痛みが走った。

 やっぱり疲れているのだ。

 もう良い、寝よう。

 得体の知れないものがあるのは気味が悪いが、今は休養が優先だ。

 もう、何も考えたくない。



 立ち上がるとインターホンが鳴った。

 ……誰だろう?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どうもこんばんは。 なんとなく、やりたいことは推測できましたが、私の解釈で合ってるか不安だったので、他の方のコメントを待ってました(笑) ああ、白い欠片ってそれだったんですね。なるほど。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ