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図書室ではお静かに

 ドアの横に張り出した標識には「図書室」と書いてある。


「そういえば高坂くんて、よく本読んでるよね」


 柚希が追いかけ始める前のことだが、休み時間などに文庫本を開いていた気がする。

 さすがに大騒ぎをしながら突撃をかけるのは躊躇して、柚希はそろりと図書室のドアを引いた。


「失礼しまーす」


 図書室に入るのは初めてだ。

 高い本棚が部屋中に並んでいるからか、普通の教室よりも薄暗い。

 独特の紙と糊の匂い。図書室は、外で遊んでいる方が好きなタイプの柚希には縁遠い場所だったが、意外にも彼女が想像していたような根暗な雰囲気はなかった。

 物珍しくきょろきょろしながら、翔の姿を捜す。

 まだ図書室内には人の姿が少ない。


「あ」


 棚を抜けたところに彼はいた。

 一番端の本棚からちょうど本を抜き出しているところだ。

 柚希は翔に走り寄った。


「高坂く、ぃだっ……」

 大声を出した柚希の頭を、いままさに手に取った本で叩かれる。

 突然の衝撃に頭を押さえる柚希を翔は冷ややかに見下ろしてきた。


「図書室では静かにしろ。常識だろう」

「……ごめんなさい」

 反論の言葉もない。


 翔は反省を示す柚希を一瞥して、本を片手に踵を返した。

 本を読むための六人は座れそうな大きなテーブルに翔の鞄やノートが置かれている。

 その前に座る彼に近づいて、手元を覗き込んだ。

「うわっ、勉強してる」

 思わず呟いた柚希を無視して、翔はシャーペンを手に取った。

 さらさらと書いていく文字は意外に達筆だ。どうしても丸っこい文字になる柚希とは違う。


「ねえ、ね。何してるの」

「……宿題」

「あ、今日のやつか」


 そういえば今日、英語の授業で宿題が出ていたかもしれない。

 その内容を思い浮かべようとして、いまいち出てこないので諦める。


「いつもここで宿題やっているの? そういえば高坂くんって、勉強できるし先生に差されてもいつもちゃんと答えられてるよね」

 これもまた、いつもしどろもどろになる柚希とは違う。

「相澤はもう少しちゃんと勉強した方がいい」

「あ、はは。バレてる?」

 冷や汗を掻きながら、柚希は誤魔化すように笑った。


 柚希は毎日どうにか宿題を終わらせる程度で、勉強などほとんどしていない。この間の中間テストでは胃の痛くなるような結果だった。

 クラスメイトになど興味のなさそうな彼だが、案外よく人を見ているようだ。

 いつもより声を抑えて話しかけているせいか、翔は柚希から逃げる様子はない。

 今まで以上に続く会話に嬉しくなった柚希は、翔の向かい側からテーブルに身を乗り出した。


「ねえ、ねえ、ねえ……」

「煩い。静かに出来ないなら出てけ」


 すっぱり切り捨てられた柚希は、ふてくされて向かいの椅子に座った。

勉強机の周りは他の場所よりも明るい。

 大きな窓から燦々と日が差し込み、どうにもぬくく、瞼が落ちてくるのに任せて柚希はテーブルに突っ伏する。

 図書室に面したグラウンドから、なにかの部活の準備体操の声が聞こえてきていた。



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