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学校内、周知される


 翔が戻ってきたのは、午後の授業のチャイムが鳴り始めた瞬間だ。

 そうなっては席を立つわけにはいかず、柚希はじりじりと授業が終わるのを待った。


「これでホームルームを終わりにします」

「ありがとうございました」


 生徒たちの合唱で一日が終わった瞬間、柚希はばっと後ろを振り返った。

 結局午後も翔と話すチャンスはなく、学校が終わるまで待つ羽目になったのだが、柚希が振り返ったときにはすでに翔は教室のドアを抜けるところだった。


「早っ……」


 あまりの早業に思わず声を出したが、今日は柚希だって負けてはいない。

 ここ数日の敗戦を踏まえて、すでに帰る準備は放棄だ。


 荷物をまとめてから追いかけては到底追いつかない。ならば手ぶらで突撃すべし。


「負けるもんか!」

「頑張れー」

 知穂の気のない声援を追い風に、柚希は猛然と走り出した。

「相澤! 廊下を走るんじゃない!」

「ごめんなさい!」

 教室から飛んできた担任の叱責に謝りつつ、柚希は足を緩めなかった。


 授業が終わったら、翔が向かうのが下駄箱ではないというのは調査済みだ。

 柚希対策かは分からないが、彼はすぐに帰らず学校内のどこかで時間を潰しているらしい。

 分かれ道で下駄箱のある方とは逆に進む。帰る生徒たちの波を逆走して翔を捜した。

 彼の身長は平均より少し高い程度だ。もちろん柚希よりは大きいが、人波には簡単に紛れてしまう。

 だが何日も彼の姿を探し続けていた柚希の目は、人の隙間に見えた翔の背中を違わず見つけ出すことに成功した。


(見つけたっ。逃がさん!)


 逆方向へ急ぐ柚希を、すれ違う生徒たちが迷惑そうに見てくるが、このさい知ったことではない。

 一度見つけた背中を見失わないようにと、彼女は必死に目を懲らした。

 翔が角を曲がる。そこは階段のはずだ。

 上に行くのか、下に行くのか。柚希は慌てて追いかけた。

 だが柚希が階段にたどり着いたときには、すでにそこに翔の姿はなかった。


「ああああぁああっ!」

「高坂なら下に行ったよ」

 やってしまったと思わず奇声を上げた柚希に、通りかかった男子生徒が教えてくれる。

 柚希と翔の追いかけっこは学校の名物になりつつあるようで、こうして教えてくれる人もちらほらいた。

「ありがとう!」

 柚希は礼を言って階段を駆け下りた。

 下りた先の長い廊下には誰の姿もない。

 だが落胆した柚希の耳に、タンッという軽い音が聞こえてくる。

 音のした方を振り返ると、突き当たりの教室が目に入ってきた。


「図書室?」




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