ep.008 pm7:42 福島県上空 ANA1719便
pm7:42 福島県上空 ANA1719便
皐月は、左手首に着けた香水を匂い、
「いい香り。気に入ったわ、この香水。マイケル、これは何処で買えるのかしら?」
「今ハ、パリ、ミラノ、ニューヨーク、ソシテ、ローゼンヌノ本店デ、VIP客ニノミ販売シテマスネ。残念ナガラ、日本ニハマダ支店ハ有リマセンカラ」
「あら、残念・・・」
マイケルは、無邪気に笑い、
「デモ、皐月ナラ、私ノビジネスカードニ載ッテルメールアドレスニ、メール下サイ。オ安クオ分ケシマスヨ」
「だったら嬉しい。VIP客のみってのも、気に入ったわ。でも、本店がローゼンヌって余り聞かない都市ね」
皐月は、首を傾げ尋ねる。
「アァ、ローゼンヌデスカ。ローゼンヌハ、ソノ名ノ通リ“薔薇ノ都”ト呼バレ、EuropeノGermanyニ隣接スル“クインシア”トイウ小サナ国ノ首都デス。チナミニ、ソノパフュームニハ、ローゼンヌノ薔薇ガ使ワレテイマス」
マイケルは、何故か自慢気に話した。
皐月は脚を組み、
「なるほどね。そういえば、マイケルはこの香水のプロモーションで札幌へ?」
マイケルは首を横に振ると、
「イイエ、私ノビジネスハ、real estateデス。今回ハ、Buildingノ買イ付ケデスネ」
「まぁ、不動産を・・・」
皐月は、マイケルの仕事に感心した様だ。
「ハイ。皐月ハ、観光デスカ?」
「そうね、明日には帰るけど」
皐月は、残念そうに話す。
「Oh! 皐月モ、忙シイデスネ」
マイケルは時計をチラリと見て、
「ゴメンナサイ、皐月。私、席ニ戻ッテ、資料読マナイトイケマセン。短イ時間デシタガ、楽シカッタデス」
マイケルは右手を差し出す。
「私もよ、マイケル」
皐月も、同じく右手を出して握手に応じた。
席に戻るマイケルの背中を見ながら、
《世の中には、あんな紳士もいるのね。でもラッキーだったわ、こんな香水を貰えるなんて》
皐月は、再び香水瓶を手に取り眺めた。
満足したのか、香水瓶を箱に戻し、セカンドバッグに入れる。
腕時計で時間を確認し、
《後一時間ちょいか、仮眠を取るには丁度良いわね・・・》
皐月は、シートを少しリクライニングさせ、目を閉じた。