ep.003 pm4:55 大阪府河内長原市 メゾン・聖ガ丘
pm4:55 大阪府河内長原市 メゾン・聖ガ丘
皐月はオートバイを睦月の住むマンションの駐輪場に停めると、もう一台の愛車トヨタ・セリカGT-FourAの待つ駐車場に向かった。
途中、コンビニ袋を持った少女を思わせる顔立ちの男の子と、すれ違う。
男の子は頭を下げ、にっこり笑うと、
「こんにちわ、先輩。気をつけて行ってらっしゃい」
そう言う“謎の言葉”を残し、さっさとマンションの中に消えてしまった。
驚いたのは皐月で、
《え?今の男の子、聖クリのジャージ着てたから生徒よね?でも、何んで私が先輩だと?私服なのに?》
皐月が不思議がるのも尤もで、普段皐月は余り学校に行かない。
基本引きこもりで、どちらかといえば、生徒達にも面識は薄い方である。
万が一、有ってもボサボサ頭で黒縁メガネを掛け、野暮ったいイメージしかないはずなのに。
皐月は気を取り直し、セリカに滑り込んだ。
シートベルトを締め、エンジンキーを回そうとした時、ジャケットの内ポケットが震える。
皐月は、基本マナーモードなのだ。
携帯を取り出して、ウインドウを確認し、
「はい、皐月。あら、兄さん。うん、今車に乗った処。え?大丈夫かって?大丈夫よ。いくら北海道だからって、“ブラッディ・メイ”には戻らないわよ。安心して。じゃあ、行ってきます。うん、また連絡するわ」
皐月は携帯を切ると、内ポケットに直す。
クスクス笑い、
《本当に兄さんは、心配性なんだから・・・。あっ、しまった!さっきの男の子の事聞くの忘れた。兄さんなら知ってると思ったんだけど・・・。今回のミッションとは直接関係ないから、まっ、いっか》
皐月は改めてキーを回し、エンジンに火を入れた。
アクセルを数度踏み込み、セリカのエキゾースト・ノイズを確認すると、
《相変わらず、いい重低音ね》
セリカは咆哮し、関西国際空港へ向けて走り出した。
一路、国道170号線を南下して。
「睦月さん、これ頼まれてた雑誌とスナックです。皐月さんて化粧すると、目茶苦茶綺麗なんですね」
皐月がマンションの下ですれ違った男の子が、コンビニ袋を睦月の横に置いた。
睦月は、PCに向かったまま振り向かず、
「すまんな、京也。助かった。これ片付けたら、晩メシ食いに行こう。巧馬にも、そう言っておいてくれ」
「はい、睦月さん」
京也は、にっこり笑うと部屋を出て行った。
睦月は一人に戻ると、ため息を吐き、
《なかなかややこしい一件だな。念のためにスクランブル出来る準備はしておいた方がかもな・・・》