ep.010 pm8:46 北海道千歳市 新千歳空港
pm8:46 北海道千歳市 新千歳空港
皐月が到着ロビーを出ると、一人の黒スーツ姿の男が擦り寄ってきた。
歳の頃は、40過ぎだろうか。
身に纏っている空気が恐い。
サングラスを外すと、
「お待ちしておりました、皐月様」
「あら、氷室さんがわざわざ迎えに?」
皐月は氷室が迎えに来たのが、意外な様だ。
「ええ。理由は、車の中で・・・」
「そう?分かったわ」
皐月は、歩き出した氷室の後を追う。
空港の自動ドアを出て直ぐの所に、黒塗りフルスモークのボルボ・S80がハザードを着けて停まっていた。
氷室が後部座席のドアを開け、皐月を招き、
「申し訳ありません、こんな車ですが」
「いい車じゃない。私好きよ、ボルボ。北海道は寒いから」
そう言って乗り込む。
氷室は運転席に座り、ボルボを駆る。
ステアリングを操りながら、
「札幌クイーンホテルのプリンセス・スウィート押さえました。本当は1番上のクイーン・スウィート押さえたかったんですが、何でもヨーロッパの貴族が連泊で取られてたので・・・」
皐月は脚を組むと、夜景をチラリと見て、
「ありがとう。プリンセス・スウィートで結構よ」
赤信号で停まると、氷室は振り返り、皐月にアタッシュケースを渡した。
「中身は、警察の身分証に手錠、それから拳銃です。更にマガジンが三つ、勿論、弾丸は全装です」
皐月はアタッシュケースを開け、中身を確認する。
身分証を手に取ると、
「あら、警察庁の階級は警部ね。拳銃はコルト・ガバメントか」
全てを確認し、アタッシュケースを閉じた。
更に、氷室はポケットから車のキーを取り出し、皐月に手渡す。
「ご自由にお使い下さい。ポルシェをご用意しました。今から向かう札幌クイーンホテルの地下駐車場に停めてあります」
「あら、悪いわね」
氷室は頷くと、再びボルボを加速させた。
皐月は、セカンドバッグからアーク・ロイヤル・ワイルド・カードを取り出し、
「氷室さん、かまわない?禁煙車なら止めるけど・・・」
「いえ、どうぞ」
カルティエのライターで、煙草に火を着けた。
アーク・ロイヤル・ワイルド・カードのコーヒーの香りが車内に広がる。
皐月は少し身を乗り出すと、
「氷室さんが迎えに来てくれた理由を、教えてもらえないかしら」