ep.001 pm4:29 大阪府河内長原市 聖マリア寮
pm4:29 大阪府河内長原市 聖マリア寮
聖クリストファー学園国際高校・聖マリア寮201号室。
生徒会会長・鷲尾桜子を中心に、鷹見こころ、そして、隼人藍が暮らす部屋である。
部屋の中はレースのカーテンによって、柔らかい光が満たされていた。
桜子を中心として円を描くように、右側にこころ、鳩村瑠奈、烏丸皐月、ローズ・ピーコックマン、エリザベス・スノウィオウロード、そして、藍の順で座っており、表情は全員一様に硬い。
背後で、静かにショパンのピアノ・ソナタ第三番が流れている。
皐月は目を伏せながら、曲に聴き入り、
《このピアノ、ヴラジーミル・ホロヴィッツの演奏だわ。何故か、少し悲しげなのよね・・・》
暫しの後、桜子は時を待っていたのか、静かに目を開くと仲間達を見回し、
「全員揃ったわね。皆んな、今日は調査とフォローお疲れさま。まず、アタシから報告させてもらうわ」
桜子が淡々と状況を説明し始めた。
報告内容は、聖クリ1年・稲見雪江と彼女を取り巻く家庭環境と問題事項について。
数分後。
皐月は、桜子に目を合わせ、
「桜子、報告の通り、私は今から北海道に飛びます。明日の朝一の便では、帰って来るわ」
「ええ、お願いね、皐月。気をつけて」
北海道へ旅立つ皐月の姿は、革のタイトミニに、蜘蛛の巣柄の網タイツ、DOLCE&GABBANAの黒のビスチェ、そして、漆黒の“はねくみ”のライダージャケット姿である。
胸元と左中指には、ベスことエリザベスからもらったアクセサリーが妖しい光を放っていた。
「しかし、皐月。北海道に行くには、少しセクシーすぎじゃなくて?」
桜子が皐月の姿をまじまじと見て、漏らす。
皐月はクスっと笑い、
「札幌の男達を虜にして、情報を聞き出すにはこれくらい着ておかないと、ね」
刹那、藍が椅子から降りると、皐月にひょこひょこ近付く。
「皐月ちゃん、耳貸しておくれやす」
皐月が、左耳を差し出す。
藍が告げた。
「あのな、皐月ちゃん。西から来た男に注意をしておくれやす。と、晴明ちゃんが言うてるよし」
皐月は頷き、
「了解った。ありがとう、藍」
藍は安心したのか、にぱぁと皐月に笑いかけ、
「ほな、気ーつけて行きよし、皐月ちゃん」
皐月は部屋のドアノブに手を掛けたまま、振り返り、
「桜子、私は闘るから」
桜子は振り返る事もなく、当然といった面持ちで軽く右手を上げ、
「皐月なら、そう言うと思ってた。何かあったら連絡を・・・」
「了解、リーダー」
軽くウインクすると、皐月は出て行った。
甘く危険な香りを残して・・・。