二人きりの夕食の影響
「眠れない…」
夜の祈りが終わったあと、一眠りするのが最近の私のモーニングルーティンだったのだが、ルーカス王子との婚約のことを考えすぎて眠れずにいた。
第一印象は、やっぱり最低としか言いようがない。でも、私が代わりに毒を飲んで寝込んだ時からのルーカス王子の印象は、次期国王として立派なものだった。
「容姿も、女の子なら誰もが一度は惚れる顔だよね…」
「アオ様?何の話ですか?」
「っ!リーンさん!いつからいたんですか?」
「先程来たら、声がしたので…。何か悩み事ですか?」
これは…。どうしたら伝わるかな?そのまま言ってみようか。
「もし、第一印象が最低だった人に婚約しようと言われたら、リーンさんならどうしますか?」
「第一印象が最低…。で、現在の印象は?」
「次期国王って言われてもおかしくないぐらい、立派になったなって印象です」
「確かに、ルーカス王子はアオ様が毒で寝込まれてから変わりましたね」
「そうなんですよね~」
「……」
「……」
「悩みどころですねぇ」
私、ルーカス王子とは一度も言ってないよね?
「リーンさん?」
「なんでしょう?」
「嵌めましたね?」
「うふふっ、若いって素晴らしいですね」
リーンさん…。油断ならない。
「はぁ~…。もうそうですよ、ルーカス王子から婚約の件なんですけど、ルーカス王子は本当に婚約しても構わないって言われて…」
「最近のルーカス王子、アオ様をとても大切になさってるなと思っていたのですが…。まさか、そんなことになっていたとは、私としたことが読みが甘かったですわ」
「確かに、過保護だとは思ってましたけど…。私、大切にされてました?」
「それはもう!私達侍女はみんな、糖尿病になるかと思うくらい、ルーカス王子のアオ様を見守る目は甘かったですよ!」
妙に力強くリーンさんに説明されてしまった。
そうなのかな?全然分からなかった。
「私達侍女が、どれ程ルーカス王子とアオ様のことを応援してるか!」
「そ、そうなんですか…」
「で、最初の質問に戻りますが」
ここで戻るんですね。
「お相手が誰であれ、アオ様はルーカス王子の言葉で心が揺れているんですよね?」
「そう、ですね」
「なら、とことん考えてみるのもいいのではないですか?」
「……」
「恋愛は、悩む物です。悩まない人なんていませんよ、悩んで当然なんです。心が動いたのなら、心の赴くままに動いてみるのもありだと、私は思います」
「リーンさん…」
リーンさんも、悩んだことがあったのだろうか?リーンさん程の容姿なら、引く手あまただろうに。
「ありがとうございます、リーンさん。とりあえず、前向きに落ち着いて考えてみます」
「少しでもお役に立てたのなら、幸いです」
「はい!とても役に立ちましたよ。焦って答えを出さなくてもよかったんですよね」
「アオ様のペースで、しっかり考えて出した答えならルーカス王子もきっと納得してくれます」
私自身、気づかない内に焦ってたのかもしれない。リーンさんに言われて、肩の力がふっと抜けたみたいな感じがした。
ゆっくりとルーカス王子と向き合ってみよう、それから考えをまとめよう。
「なんだかスッキリしたら、眠くなってきました」
「それならよかったです。ゆっくりお休み下さい、また声をかけますね」
「ありがとうございます、お休みなさい」
リーンさんは綺麗な礼をして、部屋から出て行った。
私は、その後すぐに眠りについた。