お忍び2
町はとても賑わっていて、さすが大国の王都なだけはあるなと思った。それに…。
「美味しい!」
「そうだろう!この町の名物だからな!」
ルーカス王子が得意げに言って、私達が食べているものはパンなんだけど、中身は角煮みたいなもので、まぁカレーパンの中身が角煮バージョンみたいなものだね。
これがまぁ、美味しくて。あ、護衛で来てるルディさん達も食べてるよ。お昼だからね!
午前中は町の美術館と、この町で一番大きく美しいと有名な教会へ行った。
美術館は主に彫刻の作品が多かった。ルーカス王子によれば、このジョイール王国には彫刻を得意な人が多いらしく、その作品が多く飾ってあるのだとか。
スクリプト王国の彫刻の作品も観たことがあったけど、それよりも細部がよく彫られていてとても綺麗だった。作品を観ていて、この国の人達は派手な美ではなく自然な美を好きな人が多いこと。
そういえば、最近女性に人気の髪飾りも控えめだけど、綺麗な色の宝石が付いてたしね。
「午後からはどうするんですか?」
「市場に行ってみるか、スクリプト王国ではあまり見ないものがあるかもしれないぞ」
「それはいいですね!これを食べたら行きましょう!」
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「さぁ!見てってよー。新鮮な魚だよー!」
「お姉さん綺麗だからおまけしとくよ!」
「あら、嬉しい」
やっぱり市場はどこもこんな感じだよね。
どれもこれも新鮮で美味しそう。お店の人も自信を持って、宣伝してるし。買い物してる人は、どれもいい物だから迷ってるみたい。
こういう雰囲気って、なにもしなくてもウキウキしてくるよね。
「ここはこの国で一番様々な物を売ってる。それに、他の国から仕入れた物も一番に入るのはここだ」
「確かに色々な物がありますね」
私はゆっくりと歩きながら、知らないものがあればルーカス王子に聞いたり、お店の人に聞いたりして市場を見て回った。
そしてふっと市場から路地裏に出る道の方を見た…。
マーリン侯爵?
一瞬だったが、確かにマーリン侯爵だ。
私は咄嗟に走って追いかけた。
「おい!どこ行くんだ!」
ルーカス王子が声をかけたが、私はそれには応えず路地裏に出た。
「あれ?確かにこっちにきたと思ったのに、はぁ…」
私が息を整えていると、ルーカス王子とルディさん達も走ってきた。
「おい!どうしたんだ、急に」
「何かありましたか?」
「いえ…。マーリン侯爵がいたように思ったんですけど」
そう言うと、ルディさんはリオンさんとジミーくんに辺りを見てくるように言った。
しばらくして、戻ってきた二人に聞くとどちらもいなかったと答えた。
「見間違いじゃないのか?マーリン侯爵の屋敷はもう少し、城の近くだ」
「もう日が暮れてきます。今日はひとまず帰りましょう」
ルディさんに言われ、私達はルディさんの自宅に向かう。
見間違いだったのかな?あれはマーリン侯爵だったとおもったんだけどなぁ。
私は釈然としないまま、帰路についた。